第59話 勇者と魔王がふたりきり その5

「なんか、ごめんね」


 ユウは苦笑いしながら改めてマオを見て、ぎょっとしてしまった。声は出さないまでも、マオは目から大粒の涙を流していたのだ。


「あっ、ご……ごめんなさい……これは……違うの」


 ユウは私の目の前でハンナと裸でイチャイチャしたいんだ、そんな勘違いから生まれた涙だった。「あれ……私ったらどうしたんだろう」マオ自身も驚いて指で涙を拭うも、それは溢れ出てきて止まらない。


 ユウは慌てて、自室のタンスからタオルを持ってきてマオに渡した。マオは素直にそれを受け取ると、顔に押し当てた。涙をタオルが優しく吸い込んでいく。同時に少しずつ、彼女も落ち着きを取り戻していく。


――そうだよね、ちゃんと好きだという気持ちも伝えないまま、突然キスするなんて……マオを驚かしちゃったよね。私ったら、だめだな。


 ユウは泣きじゃくるマオを見て反省した。と思ったら、驚きの言葉がマオから発せられたのだ。


「はあぁ、この間のユウちゃんの匂いだ……」

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