第50話 魔王襲来 その10

「あらあら、僧侶ちゃんが眠っちゃったわね。朝早かったのかしら」

 わざとらしくティファニーが言う。あ、本当だ、とユウもマオも言われて初めて、ハンナが椅子にもたれて上を向いて寝息を立てていることに気づいた。


「勇者ちゃん、ベッド借りるわね。僧侶ちゃんこのままじゃ風邪ひくでしょうから」

 ティファニーは席を立ち、ハンナを抱き抱える。そして(ふふふ、あとはがんばるのよ、マオちゃん!)とマオに向けてウインクをすると、そのまま奥の部屋へと消えていった。


「……あ」

 ユウとマオは二人きりになってしまった。


 突然訪れた二人きりの空間に、思わず二人とも顔を赤くして下を向いてしまう。


 ドキドキドキドキ。

 マオは自分の心臓の鼓動がユウに聞こえているのではないかと心配だった。

 ドキドキドキドキ。それはユウも同じだった。


(何か、何か言わなきゃ)


 面白いくらい、二人とも考えていることは同じで、

「あの――」

 声を出すタイミングも、顔を上げるタイミングも、二人の目が合うのも同時だった。

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