第30話 魔王の憂鬱 その2

 何も言わずに、逃げるように帰ってきちゃったな。今度お礼を言わないと……それにしても、いい匂いだったなぁ。


 マオは玉座に座りながら、一人真剣な顔をしたり、ニヤニヤしたり……側から見れば情緒不安定と思われても仕方のない挙動をしていた。


 魔王といっても、基本的にはマオの父、大魔王が魔族を率いているので、実質的な仕事はほとんどない。人間の世界で言う「王女様」的な立ち位置にあたる。

 

 しかも現在は人間と魔族は衝突も起こっておらず、平和なのである。人間たちは魔族の領域に足を踏み入れることはないし、魔族も同様に人間たちに手を出すことはない。

 ときどき、人間に興味のある魔族たちが魔法で変装して、人間界に遊びに行くこともあるのだが……大魔王から人間に迷惑をかけないよう、きつく言われているし、みんなそれを忠実に守っている。


「マオ様……先日からやはり様子がおかしい」


 魔王の側近、巨人族のマクベスが、マオのコロコロ変わる表情を見て怪しむ。もしかして勇者に混乱魔法を使われてしまったか? ……っていうか、そもそも、そもそもだ。今の時代にどうして勇者が魔王に戦いを挑んでくるんだ? 


 マクベスがまた違う方向に悩み始めた。

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