第54話 厄災は具現化す
〜翔太·シュビィVSマガツ〜
「邪神ねぇ…そんな大層なお方がこの世界になんの不満があるというのかしら」
シュビィは臆することなく、マガツに語り掛ける。
(翔太ちゃんが回復するまで、少しで時間を稼ぎたい)
(ただ、稼いだとしても……)
そう考えるシュビィに対して、悠然とした態度でマガツは答える。
「さっきも言っただろう。理から外れたこの世界をただしに来たのだ」
「憎悪から離れようとしているこの世界をもう一度憎悪に染める為に」
そういうマガツにシュビィは未だ混乱状態である翔太の時間を稼ぐ為、そして自分の傷の再生の時間を稼ぐために、さらに情報を聞き出そうと軽口を叩く。
「生存をかけた戦争をしているような世界が憎悪から離れようとしてるですって?充分な憎しみで満ちていると思うのだけども」
軽口を叩きながらも警戒を忘れることの無いが、冷や汗は止まらない。それを見透かしているのか、それともそれさえも些細な問題にもならないというように、マガツは話を続ける。
「ふん、そんな短慮な話ではない。もっと先の話だ」
「本来この世界はあやかしを恐れ憎む人間の感情、人間を餌としか思っていない醜いあやかしの感情、そういった感情が世界を埋めつくしていた」
「この世界はあやかしと人間が互いを憎しみ合うことが当然という作りになっていた。あの男が産まれるまでは」
マガツは忌々しそうに顔をしかめた。
「人間にしてはあまりにも不釣り合いなあの力のせいで、人と妖の均衡が崩れた」
「そして、その均衡の崩れはやがて大きな歪みとなり、いまやこの世界で最高峰の位置にいる妖は人を愛してしまった」
「なんと忌々しいことよ。それはこの世界の本来の形ではない」
「このまま憎しみが消えてしまえば、私の存在が消えてしまう。それを阻止するべく暗躍していた」
「貴様の存在も、その貴様の元主もこの歪みが原因でこの世界に存在してしまっている。本来このような力は人が持つにはあまりにも不相応な代物だ」
「だから、私はこの世界を元の姿に戻す。貴様ら異端の強さを持つものを全て殺し、もう一度あやかしと人間が憎しみ合う世界へと」
そう言うマガツは言葉に表せぬほどのプレッシャーを放つ。そのマガツを前にしてシュビィはまだ時間を稼ごうとする。
「さっきから気になってるけど、そのあの男ってのは誰のことなの?」
「お前らもよく知る、雷を扱う男だ」
(キツネちゃん達の師匠の事ね…)
シュビィはなんとなく気づいていた事実を再確認した。なぜなら彼であれば全ての辻褄が合うからだ。この恐ろしい老人の言う「歪み」というものは、この世界の変化というのは、あの男から始まったのも頷ける。
シュビィ自身話で聞いた程度の人物であるが、人の身でありながら、最上位の妖2体の師匠であり、その2人と肩を並べて呼ばれていた妖をたった一人で圧倒した人間であるから。
「……あなたの世界と言うけれども、この世界にあの人が生まれたのが偶然であれ必然であれ、この世界が今の形に変わることを望んだ結果なのではないのかしら?」
「この世界の神様である貴方は、それを拒んで自分の思い通りに世界を作ろうなんて傲慢じゃない?」
そういうシュビィをマガツは鼻で笑う。
「ふん、そんなものはどうでも良い」
「この世界から憎しみが消えれば私は消えてしまう」
「ただ、それを受け入れることが出来ないだけのこと」
「さぁ、話は終わりだ。貴様は回復したであろう?そこにいる小僧は…まだ無理そうだな」
マガツはチラリと翔太に目を向ける。肩を震わせその場にうずくまり動かない翔太を。
シュビィもそれを見て、肩に手を置いた。
「大丈夫。落ち着いて」
「あなたがいなくとも私は戦える。だけど、あなたがいなければ救えないものもある」
「私は…私達はあなた達の世代にこんな想いをさせないために戦っていたのに、まだ世界は変われなかった」
「こんな酷な事をお願いしてごめんなさい。もう一度だけ顔を上げて?待ってるから」
「そして、もう一度私と一緒に戦って欲しい」
シュビィは優しく言葉をかけた。
翔太もまたその声に応じて顔を上げた。だけど、まだ震えは止まらない。
「僕は…僕は…」
シュビィは震える翔太の頭にそっと手をおいて笑いかけた。
「大丈夫。主に降りかかる粉を払うのが配下の役目…いえ、祖母の役目ね」
そう言ってマガツに向き直った。
「遺言は終わったか?」
そう言って不敵に笑うマガツに、シュビィもまた微笑み返した。
「あら、戦う前から死ぬことを考えるなんて魔王の名が廃るわ?」
「今から始まるのはただの時間稼ぎ。次世代の魔王様がより強くなるまでの時間を稼ぐだけ」
シュビィは大きく伸びをして、ゆっくりと魔力を練り込んでいく。
「とは言っても夜は使えないし、血は使えないし結構制限あるのよね〜」
「ま、やりようはあるかしら」
「制限のある中で私と戦えると?」
「守るべきものがいる女は強いのよ。それ以外の質問の答えを私は持ち合わせていないわ?」
「ふん、異界のゴミにしては洒落た返しだ褒めてやろう」
「邪神とはいえ神様に褒められるのは悪い気はしないわ…ね!!!!!」
シュビィは瞬時に飛びかかり、その一瞬で赤黒い魔法陣から黒炎の大剣を取り出して真正面から切り掛る。
それをマガツは片手で抑える。正確には、当たる前に止まっている。
「…随分と器用に使うのね?」
「ふん」
マガツはそのまま腕を振ると、多数の斬撃音が鳴り響く。一撃は頬を掠めたが、それ以外の全てをシュビィは大剣で受け切る。そのすきに既に後ろに瞬時に動いてたマガツは手のひらでシュビィの頭を掴む。
「これで終わりだ」
空気を圧縮するようにシュビィの頭を潰したが、その瞬間シュビィの身体が黒くドロリとしたものに変わり、マガツの身体に纏わりつく。
「動きが読みやすくて助かるわ?おじいちゃん?」
「
大剣であった黒炎が万を越える無数の蝙蝠に変わりマガツにむかって突撃する。
「小細工を」
その全てをマガツは空間を切り取ることで消しさり、その場から離脱するために瞬間移動をした。
だが、その瞬間移動先には既にシュビィが張り巡らさせた罠である魔法陣が存在した。
「なっ…」
「その移動はもう見えてるっていったでしょ」
「
またもや瞬間移動をしようとしたが、先程読まれたのを思い出したマガツは雷を空間から消すことを優先した。その一瞬の隙をシュビィは見逃さなかった。
「同時に使えないのはさっきので理解してるのよ?」
「《冥府の川に溺れろ》」
「
川のように5つの水流にマガツは飲み込まれ、そのまま小さな玉の中に閉じ込められる。
「止まることのない運河を使った永遠の牢獄よ。このまま時間を稼げればいいのだけども」
そう考えたシュビィだったが、その願いは簡単に打ち砕かれた。
その玉には既に小さなヒビが入り、徐々に大きくなる。パキッという音の後に玉は完全に破壊され、マガツが出てきた。奇妙なことに全ての水が沸騰したかのように蒸発し、水蒸気が生まれていた。
「これで閉じ込められるとは思わなかったけども…こうも一瞬で破られると少し凹んじゃうわね」
「しかもおかしなことに水が蒸発している」
「何をしたの?」
破られることは想定していたシュビィだったが、想定外の破られ方にさらに警戒心を強める。
「私は厄災を司るといっただろう」
「厄災とはなにか。それは…」
マガツがそう言って少し腕を前に伸ばすと、地面が揺れる。
そして、シュビィの足元で地割れを起こす。咄嗟の判断で空へと逃げたが、次は上空に大きな雲が表れ、大量の雷と雨が降り注ぐ。それらも全て避けたものの次は雲が晴れたはずの空に影が生まれた。
「それは地殻変動、それは自然災害」
「そして……」
「星の衝突だ」
空には無数の隕石がシュビィに向けて放たれていた。その様子にシュビィは少し身震いをしたが、空に向かって手をかざす。
「全く、神というのはどこの世界でも馬鹿げた力を持ってるものね!!!!」
「《黒は破壊》」「《赤は衝動》」
「《混じりて放つは無に帰す権化》」
「
「
赤と黒の魔法陣は交互に並びながら空を埋め尽くすほどの大きな魔法陣となり、大爆発を引き起こす。そして、上空に存在する全ての隕石を爆散させた後、その爆発と残った破片事全てが吸い込まれていく。
まるで空には何も無かったかのように、全てが消え去った。
「ほう、あれを無傷で防ぐか。さすがは異界の女王だ」
そう感心するマガツに間髪入れずに、黒炎の大剣を片手にシュビィは突っ込むが、マガツはその剣を燃え盛る手で掴む。
「ただの炎でこの黒炎が防げるとでも……」
「ただの炎?違うなこれは…」
「世界を滅ぼす炎だ」
「なっ…!」
黒炎の大剣が燃やされ溶かされていく様子にシュビィは驚愕した。本来、黒炎は地獄の炎とも言われる程の強大な炎出たり、燃やし尽くすことはあってもこちら側が燃やされることはないからだ。
大剣を手放し、即座に後ろに下がって牽制のように黒炎で作った矢を何千本も飛ばす。
だが、それをマガツは手から水流を作り出して受け止める。消えることの無いはずの黒炎がその水の盾を通り過ぎる頃には跡形もなく鎮火していた。
「これが私の本来の能力 《厄災》 だ」
「ありとあらゆる自然災害、世界が滅することが出来るレベルの物を扱う」
「私が作る自然の事象は、全て世界を滅する災害級の力を持つ」
そういうマガツは今までにないほどのプレッシャーを放っていた。
「はー、なにそのチート能力」
「神様ってほんとに嫌い。いつでもどこでもそんなズルい程に強い力を持っちゃって」
「不公平だわ?」
シュビィはそのプレッシャーを感じながらも少し項垂れたような表情で文句をたれる。
「絶望したか?」
マガツは鼻で笑うようにシュビィに問いかける。その問いかけにシュビィはイタズラをする前の子供のように笑った。
「絶望?この程度で?」
「私は不可能を可能にする女よ」
「魔を統べる王であり、夜を統べる王なの」
「魔ってのは魔物ってのも含まれてるけど、本来は違う」
「私は魔導を統べる女王」
「その女王の本気がこの程度だと本気で思っているならまだまだ思慮が浅いわね邪神様」
「何…?」
その言動にマガツはピクリと眉をひそめる。その間にシュビィは自分を中心とし7つの赤黒い魔法陣を形成する。
「私の世界では2つの魔導書が存在するの」
「その魔導書には現在の世界では存在事消された魔法が記されている」
「いわゆる
「その魔法たちには意志がある。持ち主を選ぶのよ」
「これが私が魔王と呼ばれる所以の魔法よ」
「《紐解け》」
「《禁忌 大罪の書》」
─────────────────────
「……っん」
オロチは顔に落ちる何かによって目が覚める。
遠くの方で衝撃音が響いている。どうやらあの場からかなり離れた場所にいるようだ。
「傷が治っている…?」
見ると徐々に身体の傷が塞がっていた。それはまるで自らの身体が早巻きされているように。
そしてその顔に落ちる何かとは涙だった。
見ると、いつの間にか起きていた花凜が自分の膝にオロチの頭を置いてきた。
「どうしてそんなに泣いている」
オロチが問いかけると、泣きながら答える。泣きながらも視線はずっと先。なにも見えないはずだが、何かを凝視しているようにオロチには見えていた。
「わっかんない…けど、悲しくて、悲しくてしょうがなくて……!」
「泣けば泣くほど身体が疲れていくのに…涙は止まんなくて…翔太も腕を抑えて…痛そうで…怖くて仕方なくて…あんなところに座り込んじゃって……!」
「何が…見えているんだ…」
オロチはどこまで目を凝らしても何も見えない。微かだが翔太自身が弱っている気配だけは読み取れる程度の距離だ。
「翔太が…あんなにもボロボロで…悲しいのに…悲しくて仕方ないはずなのに…」
「愛おしいくて堪らない……!」
花凜のその目には傷つく翔太が映っていた。それと同時にその光景は花凜の中に眠る妖力を徐々に解放していく。
残夏は君を連れて 玖音 @kuon22
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