第2話
宮本の細い手首を優しく引っ張って階段を昇る。
「えっ、ここ立ち入り禁止じゃ...。」
不安そうな声が背中から響く。
屋上のドアの前で振り返って少し困惑した宮本の顔を見た。
...やっべ、可愛い。
「大丈夫、行こう。」
ドアノブをひねって屋上へ出たら少し熱っぽい風が頬を撫でた。
「あれ見える?」
「えっ...?あっ!虹!!わぁ、綺麗。」
おれが指差す方向へ宮本のおっきい目が虹をとらえて、笑う。
[一緒に見たかったんだ。]
なんて、言えなくて宮本の横顔を見つめる。
「でもどうして虹が出たってわかったの?」
振り向いたおっきな目に慌てて視線を逸らす。
「そりゃ雨が止んだからだろ。」
「え?雨降ったっけ?」
「通り雨だっただろ、宮本って案外鈍いんだな。」
「そんなことないもん!古典の授業だったからつい...。」
「居眠りか」
「もー!笑わないでよー。」
案外鈍いんだ、なんてずっと前から知ってる。
泣き虫なことも、おっとりしてるけど負けず嫌いなとこも。
だって
入学式の時から宮本しか見てないから。
「屋上の鍵壊れてたの知らなかったよ。」
「去年の3年生が壊したらしいぜ。」
「それをなんで笹木が知ってるの?」
「兄貴から聞いたから。」
「笹木ってお兄さん居たんだ!似てる?」
「あまり。」
「ふぅん。」
何となく会話が途切れた。
…言わなきゃ!
「あのさっ!」
「あのね。」
2人同時に切り出した。
え?なにこれ?ちょっと心臓に悪いんだけど。
「あ、なに?」
「いやっ、そっちこそ...、おれから言っていい?」
「...うん。」
「もうすぐ夏休みだな、学校来なくていいから最高だよなー。」
「...そうだね。」
[宮本と会えなくなるからほんとは嫌なんだけどな。]
「でさ、夏休みってことで海行こうって思っててさ。宮本もどう?」
[頼む!OKしてくれ!]
「あっ、...うん、行きたいな。」
「じゃ、詳しいことはメールするわ、スマホ出して?」
「...はい。」
「...よし、番号も送ったから。」
「笹木ラインやってないんだ?」
「まぁな。」
[ほんとはやってるけど宮本のアド欲しかったから。]
「あとでメール送っといて。」
「分かった。でもこれを機に笹木もラインやろうよ。ね?」
首を傾げて見上げる宮本が眩しくて目を少し逸らしながら分かった、と素っ気なく返事するのが精一杯だ。
恥ずかしくて宮本の顔が見れないから後ろを向いてドアへと歩き出す。
「笹木っ!」
心臓を、掴まれたみたいに苦しくなる。
できるだけ平静を装って首だけで振り向く。
「虹、見せてくれてありがとう!また明日ね!」
「.......あぁ、また明日。」
右手を上げてドアへと歩く、ちょっと早足で。
階段を一気に駆け下りて近くの男子トイレの個室へ籠もった。
顔を両手で覆って宮本の笑顔を思い出す。
CMに出てくる芸能人みたいに爽やかな笑顔、長い髪が風に靡いて。
思わず抱きしめたくなるくらいに可愛かった。
高校最後の夏休み、後悔したくない。
残りわずかな高校生活を、宮本と過ごしたい。
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