第295話 ジングルベル(ロシア語)と車(旧チェコ)と銃(サンクトペテルブルグ製)と




Бубенцыジングルベル♪ Бубенцыジングルベル♪”


 日本人の耳には”ぶーげんちー♪”と聞こえるロシア語版の”ジングルベル”を歌う子供たちの声がそこかしこから聞こえる、あちこちが電飾で飾られたサンクトペテルブルグの街……

 

 その華やかな街を抜けて、俺ことフォン・クルスは郊外の射撃試験場に来ていた。

 まあ、クリスマス・イベント前の最後の仕事って奴だ。

 いやはや、囮で庁舎(冬宮殿)から運転手・これ見よがしなサイドカー座乗護衛付きのベンツのリムジンを走らせて、俺自身はアインザッツ君たち三人と一緒に愛車の一つ、シルバーのタトラT77aで出発だ。

 今が冬じゃなければ、”オペル・アドミラル”のコンパーチブルで走りたいとこだ。

 好みの問題だが、何となくだがベンツって公用車とか権威主義とかって感じがして、私有する気が起きないんだよな~。BMWはオサレ過ぎてハイドリヒみたいな伊達男なら様になるが、どうも俺っぽくないというか……どっちもいい車ではあるんだけど。

 なんで、俺の愛車はタトラのT77aとT87、オペル・アドミラルのコンパチと、シュコダ・スペルブ4000とかな。

 あと変わった所ではフランス車のシトロエン・トラクシオン15-Sixも所有してるぞ。

 まあ、複数所有してるのも、まあ旧チェコ企業とフランスからのは「サンクトペテルブルグに進出するにあたっての贈答(宣伝)」って感じだが、アドミラルのコンパチは趣味。条件はアインザッツ君たち三人乗っけて移動することもあるから四人乗れることかな?

 まあ、複数持ってる車をとっかえひっかえ乗ってるってのは一応、理由がある。

 

 そんな面倒臭いことしてるのは、シェレンベルクによれば「サンクトペテルブルグの警戒レベルを引き上げてるから、そのために必要な処置」であるらしい。

 何でも、クリスマス・イベントのバルト海周辺王国の代表が来るし、しかも来年に赤軍のサンクトペテルブルグ(正確にはノブゴロドだが)に対する大攻勢もあるから、不穏分子やら潜り込んだ工作員やらが活性化してるらしい。

 んでもって治安担当の憲兵やら自警団だけでなく、防諜のNSRも年末商戦真っ青の大忙しらしくてな。

 

 そこで囮のベンツを走らせた上で、俺はその日の気分で選んだ車で移動してるってわけ。

 しかもこの車たち、仕掛け爆弾のチェックもかねてNSRの息のかかった整備士たちにメンテしてもらってる。まったく頭が下がるよ。

 

 ついでと言ってはなんだけど、これらの俺の私有車には外からわからないようにMP40短機関銃サブマシンガンやらウィンチェスターM12銃身切り詰めた散弾銃ソウドオフ・ショットガンやらを積んでいる。

 俺も一応、銃は使えるし、アインザッツ君たち三人も、銃を使える……というか、護衛としての訓練も受けているらしい。

 一応、腕前を見させてもらったが、中々の物だった。

 偶に血の匂いをさせているような気がしていたが、まあ、そう言う事なんだろう。ベッドの中では可愛くくだけなんだが……差し詰め愛玩用にもなる小さな猛獣ってとこか? ネコ科かイヌ科かは知らんが。

 

 

 

***




「何とか量産が間に合いそうで良かった」


 俺は安堵の息を漏らす。

 同じく安堵した表情のサンクトペテルブルグ市民軍ミリシャの総司令官のウラソフ、ノブゴロド防衛司令官のヴァトゥーチン、トルーヒンにブニャチェンコの将軍格の重鎮をはじめとする今回の”先行量産モデル”の試射会に参加したサンクトペテルブルグの防衛を担う面々……

 

 彼らの前には、いくつかの武装が並んでいた。

 一つは、ソ連のDP28軽機関銃を元に開発された”ZM42(Zug Maschinengewehr 42:42年式小隊用機関銃)”だ。

 イメージ的には前世の戦後すぐに生まれた”RP46軽機関銃”だ。

 とはいえ、中身は割と違うかもしれない。

 動作方式はRP46と同じくガス圧作動のロッキングブロック式、給弾装置回りもだが、使用弾は当然のように7.92㎜×57(8㎜マウザー弾)+ドイツ軍標準の非分離式ベルトリンク給弾だ。

 当初はMG34用のサドルマガジンを流用する予定だったが、あれを使おうとすると設計が面倒になるので、結局は100連ないし200連発メタルベルトリンクが納められる給弾ボックスを製造し、本体下部に取り付けられるようにした。

 また、7.92㎜用の銃身をわざわざ開発するのも阿保らしいので、銃身交換システムごとZB30軽機関銃のバレルのパテントを買い、それをライセンス生産することにした。

 つまり、ZM43軽機関銃は、ドイツ軍でも分隊支援火器(分隊用機関銃)として採用されているZB30と銃身互換性があるのだ。


 まあ、使用弾の変更やら何やらあったから、少々開発に時間がかかってしまったが、実は業務提携している今は民営化している元国営工廠、旧チェコのブルーノ社の技術協力もあり、何とか完成に漕ぎつけることができたってわけだ。

 別に彼らも善意の協力ってわけではなく、ベルト給弾機構なんかのデータをとってたし、現物も持って帰ったから、そのうち製品に反映させるだろう。

 お次は、

 

「並行開発してて良かったぜ……」


 手に取るのは”TM43(Truppen Maschinengewehr 43:43年式分隊用機関銃)”、ぶっちゃけ前世の”RPK”の7.92㎜×33(8㎜クルツ弾)仕様だな。

 前に触れたAG43の対になる機関銃……ってより、AG43の銃身をバイポット付きのヘヴィロングバレルに交換して、ショルダーストックを両手保持できるようにした軽機関銃仕様って奴だ。

 分隊ごとにZM43軽機関銃を配備するのは無理だから、その穴埋めだな。元々、AG43はオリジナルRPKと同じ肉厚のプレス材を使ってレシーバーを使ってるから、レシーバーもそのままAG43のを流用できるので生産性が高い。

 まあ元ネタのRPKならロングマガジンやらドラムマガジンでも用意するとこだが、ぶっちゃけそれを作る手間考えるなら、StG42/AG43共用の弾倉を多く生産して余分に持たせた方がいい。

 どうせ1㎜の鉄板プレス加工して大量生産できるわけだし。

 

「狙撃銃も、まあ必要数は揃いそうだな」

 

 グリップを、旧チェコ製のZH29半自動小銃を改造した半自動狙撃銃”SG43(Scharfschützen Gewehr 43:43年式狙撃銃)”だ。

 とは言っても、ZH29のバイポット付きヘヴィロングバレル仕様のストック無しスコープマウント装着用の溝有りモデルをチェスカー・ズブロヨフカ社より購入して、ドラグノフ狙撃銃タイプのストックとZF39規格の4倍スコープを装着したモデルだ。

 ちょっと面白いのは、今生の場合、確かにツァイス社が軍に納品した”ZF39”という4倍の光学照準器はあるのだが、必要数からツァイス社の生産だけでは要求数に足りないので、軍はこのZF39を規格化、倍率・サイズ・スコープマウントまで含めて”ZF39規格”とし、各光学機器メーカーに発注したって経緯がある。

 そのおかげで42年現在は多少、ZF39規格のスコープは生産に余裕があり、こうしてサンクトペテルブルグでも納品できたという訳だ。

 

 他に新型装備としては、”PAG43(Panzer Abwehr Granatwerfer 43:43年式対戦車擲弾発射機)”なんてのもある。

 こいつは前世のRPG-7ではなく、その前身のRPG-2に近い個人携行型の対戦車兵装だ。

 実は対戦車擲弾部分自体はドイツ軍で急速に配備が進んでいるパンツァーファウストと同じで、弾頭部分の後方に発射薬が詰め込まれたカートリッジが装着される。

 パンツァーファウストは基本的に使い捨てだったパイプ部分は、保持グリップ、発射薬への点火装置、照準器、弾頭ストッパーがついたちゃんとした発射筒として作られている。

 要するにパンツァーファウストの使い捨て部分を繰り返し使えるようにした武器ってイメージしてもらえればいい。

 

 とまあ、”俺の知ってる歴史”の「ちょっと未来の赤軍兵装」で今回再現できたのは、ここまでだ。



 対装甲/長距離狙撃に使えるってんなら他にも14.5㎜×114弾を使う”デグチャレフPTRD1941”や”シモノフPTRS1941”とかもあるが、現在、サンクトペテルブルグで現在量産してるのは前者の”デグチャレフPTRD1941”だけだ。

 ”シモノフPTRS1941”は5連発弾倉のセミオートって手の込んだ設計のせいか、重く命中精度があまり良くない。それに機械的熟成がイマイチなので、作動がやや不安定だ。

 それだったら手動単発でも5kgも軽く、動作確実で命中精度もマシな”デグチャレフPTRD1941”に生産を絞った方が良い。現在、コイツにドイツ本国から持ってきた8倍のスコープを頑丈なマウントを介して取り付けている。

 実際、元は対装甲ライフルと言ってもソ連の戦車相手じゃ14.5㎜弾程度の威力で壊せる部分は限られてるから、基本的には精密狙撃になるんだよ。

 正直、”シモノフPTRS1941”の設計を洗練させたセミオートの長距離狙撃銃(バレットみたいのとか)とかも作ってみたいが……まあ、時間はかかるだろうな。

 

 他に従来型の歩兵用の兵器、DShK38/12.7㎜重機関銃は戦車用だけでなく地上設置型もそこそこ数は揃っている。PM-38/120㎜重迫撃砲、GVPM-38/107㎜迫撃砲、BM-37/82㎜迫撃砲、RM-38&RM-41/50㎜軽迫撃砲なんかもドイツ軍やその他の納品分を抜いても必要数は揃うはずだ。

 少々火力バカの傾向があるが、寡兵で大軍を討つには、それなりの手順を踏む必要がある。

 

(まあ、他にも色々仕込みはする必要はあるが……)


 

 

***




 無論、これをそれなりにまとまった数を作ったからといって戦況が有利になるなんて思っちゃいない。

 戦場において、武器の優劣は「わかりやすい指標」ではあっても「絶対的な指標」ではない。

 正直に言えば、数の差を質や性能の差だけで覆すのは難しいんだ。

 

 だが、最初から数的劣勢がわかっているのなら、それを承知に対処してみせるのが、トップとしての腕の見せ所だ。

 

(ある意味、ソチからの亡命組は僥倖だったな……)


 ありがたいのは、軍人や新規志願兵が少なく見積もって3万、最大で5万人ほど増えそうなことだ。

 このタイミングでそれは助かる。

 ソチ組をいきなり前線に出すことはできないが、訓練や再編を行いながらのサンクトペテルブルグ駐留部隊として考えれば、来年の春……おそらく赤軍が攻め寄せてくる頃には計算上、最低でもノブゴロド防衛に15万人以上のサンクトペテルブルグ市民軍ミリシャを貼り付けておくことができる。

 これもただの15万ではない。”純粋な戦闘部隊としての15万”だ。

 兵站、補給線の維持や後方支援をバルト三国義勇兵団リガ・ミリティアに丸投げできるのがサンクトペテルブルグの強みだ。

 サンクトペテルブルグ・ミリシャとリガ・ミリティアを合計すれば、その戦力は倍加すると言っていい。

 

 また、リガ・ミリティアはトート機関との共同土木ミッションで工兵隊としての腕前をめきめきと上げているから、ノブゴロドの要塞としての機能強化や改良・改造にも現在進行形で大活躍してくれている。

 加えて、イリメニ湖やヴォルホフ川の”治水工事・・・・”も担ってもらってるしな。

 

(本来なら、ダムと水力発電所でも作りたいところだが……)

 

 今は戦時だ仕方あるまい。

 

「それに何も我々だけで迎え撃つわけでは無いからな」


「猊下、何かおっしゃいましたでしょうか?」


「大したことじゃないさ、ウラソフ。ただ、我らが街を守る為に打てる手はまだまだあると思い返していただけさ」


 まあ、今日の試射会もその一環、ミリシャの首脳陣に配下がどんな新兵器を使うのかを確認してもらうってのが本来の意図なわけだし。


「御意に。正義と勝利は蒼き聖なる花十字の御旗の元。全ては枢機卿猊下の御心のままに」


 いや~、ウラソフ君や。満面の笑みで返してくれる所申し訳ないが、海外ではウチは”蒼き聖なる花十字軍ミントブルー・クルセイダース”とかふざけた名前が広がってるけど、あくまで十字軍じゃなくてその本質は市民軍だからね?



















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