第284話 赤化汚染進む病める大国と、狙撃兵小金持ちになる(えっ?)




 さて、少し信じがたい話をしよう。

 史実の1941年モロッコとアルジェリアへの上陸作戦である”トーチ作戦”……

 ノルマンディー上陸作戦として知られる”ネプチューン作戦”……

 

 この二つの作戦は、「ドイツ相手に行った作戦」である以上に、ある共通点がある。

 それは、「スターリンから・・・・・・・第二戦線を展開することを要求されて実行された作戦である」ということだ。

 繰り返すが、”スターリンからの要請”をルーズベルトやチャーチルが受け、立案された作戦だ。

 

 ”バルバロッサ作戦”発動時、当然ながらドイツは東部戦線に戦力を集中させていた。

 その圧力を緩和する為に、「欧州方面にドイツ軍を誘引する”第二戦線”を形成する」ことを要請された。

 いや、要請ではない。はっきり言えば、米英に巣食うコミンテルンネットワークに命令が飛び、米英は”まるで子分・・のように”その通りに動いたのだ。

 ただし、当時のコミンテルンも米国を欧州直接上陸に向けさせたり、ダイナモ作戦や各地の敗北で疲弊していた英国を即座に欧州へ押し戻させることはできなかった。

 そこで行われたのが”トーチ作戦”であり、そしてアフリカではドイツ軍の誘引は不十分として、再度、”要請”が飛び今度こそ欧州直接上陸が叶ったのが”ネプチューン作戦”だ。

 

 つまり、この二つだけではないが、確実にこの二つの大規模上陸作戦は「ソ連の都合・・・・・が優先されて行われた作戦」であり、「ソ連の命令・・・・・で米英兵士の血が流れた作戦」でもある。

 つまり、米英は自国の兵士の命より、”ソ連を優先した”のだ。

 当時の米英が如何に赤色汚染が深刻だったかをよく表すエピソードである。

 

 

 

 だが、この世界線では転生者といくつかの幸運が重なり、英国は国家の中枢にまで入り込んでいた共産主義者、ソ連の手先コミンテルンを辛くも排除・駆逐することができた。

 だが、何度も出てきたようにアメリカは相変わらず、”史実通りに”腹の中(あるいは頭の中)まで赤色汚染が進んだままだ。

 そして、そんな赤化末期症状を起こしているアメリカならばこそ、当然のように「ソ連支援のための作戦」が立案された。

 

 内容も作戦名も、まんま”トーチ作戦”だ。

 ただし、発動は来年……1943年を目途に予定にされていた。

 遅延の理由はいくつかある。主だった理由は二つで、

  ・英国の協力が得られないこと

  ・真珠湾攻撃がなく、議会工作に手間取っていること

 などだ。

 英国の協力が得られないことはどうしようもないが、それはアイルランドを取り込んだ事で補填と解決が付く。

 むしろ、問題なのは議会工作だ。

 

 実際、最近は”World War Ⅱ”と表記されることの多いこの戦争への参戦自体は、最悪”大統領令”でどうとでもなる。

 だが、参戦反対派議員に連名で集団訴訟を起こされ、連邦最高裁判所による違憲判決で上書き(無効化)されたらコトだ。

 いや、赤色汚染が進んだ米国司法界なら、ソ連の思い通りになる可能性は高いが、それとて絶対というわけでは無い。

 それ以前に裁判が長引けば、参戦のチャンスを逃すかもしれない。

 何より、

 

(軍自体が参戦に消極的というのがまずい……)


 無論、軍部全体が消極的という訳ではない。

 例えば、新世代の兵器と戦略である”戦略爆撃機”を実戦投入したがってるルメーやその一派などが良い例だ。

 ミッチェルやドゥーエが思い描いた”未来の戦場”を具現化するのは自分しかいないと息まいている。

 

(あれなら、大義名分さえ整えば、どこの街だろうと民間人ごと爆撃するだろう。条約違反など気にもかけずに……)


 それが”この男”が忠誠を誓う国を救うのに、今まさに必要な力だと確信していた。

 

(まずはドイツの街全てを焼き払わねばならん……)


 米国に張った”赤い根”は誰が考えるよりも深く広く、それはモスクワへと繋がっていた。

 

(コミンテルンやマスコミだけでは足りん。チャイナロビーとユダヤロビーに動いてもらうしかないな。福音派(エバンジェリカルズ)も全米ライフル協会も、各労働団体も……総力戦だ)

 

 この大統領のアドバイザーを自称する男の名はあえて語らぬ。

 だがアメリカは今、全力で戦争に傾注する為の胎動を始めるのだった……

 

 

 

 

 

 

 








************************************















 ああ、まだリビアに帰れてない下総兵四郎だ。

 どうも帰省は年明けになりそうだな。

 

 えっ? 普通は帰省する故郷は、日本皇国じゃないのかって?

 いやいや、嫁さんと子供がいる場所が故郷だろ?

 

 さて、そろそろクリスマスへのカウントダウンが始まりそうなこの時期、俺に来客があった。

 リビアからではなく皇国からだ。

 差し出された名刺を見ると、

 

「”豊和銃器”?」


 陸軍から銃器の委託生産依頼を受けている指定企業(国策企業)の一つであり、確か梨園三式改から九九式狙撃銃への改修も請け負ってたはずだ。

 

「鉄砲屋さんが俺に何の用だ? 確かに貴社製品のヘビーユーザーではあるが……」


 いや皇国狙撃兵の大半はそうだろうけどさ。

 

「いえ、実はリビア、キレナイカ王国より正式なオーダーがありまして……端的に申し上げますと、下総大尉の”シグネイチャーモデル”の狙撃銃を制作し、量産してほしいと」

 

「はぁ……?」


 なんだそりゃ?

 ああ、シグネイチャーモデルってのは、要するに”ある人物が使ってる道具のレプリカ”のことで、当然、大量生産を前提にしている。

 スポーツ用品に例えるとわかりやすいが、テニスラケットやゴルフクラブの”○○選手モデル”とか銘打ってあるのがそれだ。

 だが……

 

「困ったな。生憎、俺専用の狙撃銃とかないぜ?」


 なんせ基本的に官給品だし、特に改造とかしてない。

 さっきの例えを出すと、”○○選手愛用のモデル”としては成り立つかもしれんが、俺専用にカスタムされた狙撃銃ってのは無い。

 

「それは存じ上げております。ですから、ここは発想を変えて、いっそこの機に”下総大尉専用モデル”を製作しようという運びになりまして」


 いや、どうしてそうなった?

 

「陸軍とも相談しましたところ、陸軍に試験納入するなら許可とのことでした」


 軽いな陸軍装備担当部署の上層部。

 

「そしてせっかくですので”北アフリカの和製ヘイヘ”、下総大尉に理想の狙撃銃についてお伺いしたく馳せ参じました」


 そういや、史実のヘイヘも銃器メーカーから専用の銃を戦後に贈られたとかなんとか。

 

「それって”名義貸し・・・・”じゃなくて、俺の意見を反映した銃、俺にも回ってくるの?」


 理想を語るのは構わんけど、スナイパーとしてはできた製品を使ってみたいじゃん?


「無論です。むしろ、試作品の監修をしていただければと。もちろん、シグネイチャー使用料のインセンティブとは別に監修費用はお支払いします」


 いや、銭金にそこまでこだわんねーけどさ。

 まあ、商魂たくましく結構なことだ。

 

(史実をなぞるならリー・エンフィールド系の小銃ならL42A1狙撃銃をなぞるのが鉄板だろうが……)


 でも、それじゃあ面白くない。


「そういうことなら、簡単な図解入りの概略図でも書いておくかね~」


 俺は小鳥遊君に紙とペンを持って来てもらい、


「機関部とかはクロームメッキ処理を含めて九九式狙撃銃のままで良い。7.7㎜/Mk8実包を安心して撃てる小銃は、肉厚薬室でクロームメッキ処理された九九式くらいだろうし。けど、銃身は鍛造の冷間鍛造のブルバレルに変更しフルフローティング・マウントにして欲しいな。着剣ラグとかいらんけど、バックアップのメタルサイトは残すのは必須。スコープが故障したから狙撃できませんじゃ、戦場では話にならんし」


 前世の21世紀とかならともかく、この時代の光学照準器スコープってのは望遠鏡やカメラの望遠レンズと同じ光学精密機器の範疇で、タフさはなくむしろ軍用機器としては繊細で脆弱な部類に入る。

 技術的、素材工学的な限界って奴だな。実際、高価な割には壊れやすいスコープを嫌って、軍用狙撃銃には使わない方針の国が大半だ。

 というか積極的に狙撃銃にスコープ採用してるのって、日本とドイツぐらいじゃないか?


 だから、スコープはなるべく壊れにくいシンプルなタイプを選び、またスコープが故障した場合を考え、スコープはマウントごと取り外せる構造にして、バックアップの従来型メタルサイトは欠かせないって訳だ。

 

「スコープは10倍の固定倍率で、曇り止めの窒素ガス封入、ガス漏れ防止に加えて防水・防塵・防砂を兼ねたOリングなんかのシールをかませて、レンズ自体は無反射コーティングでなるべく径が大きく明るい物がいい。ただし、野外……戦場で使うことが前提だから、ある程度の耐衝撃性を考慮してくれると助かる」


「倍率は変更出来なくて良いんですか?」


「いいよ。砂漠の砂ってのはきめ細かくてね、ズーム式にするとどうしたってテレスコピック構造の伸縮で可動部分が増えるだろ? そこに容赦なく入ってきて故障の原因になる。それにスコープに限らず光学機器ってのは倍率変更可能にすっと必然的にレンズの構成枚数が増える。レンズの枚数が増えると重くなるし、画像が暗くなる……そうだろ?」


 ズーム式の可変倍率スコープってのは便利なんだが、戦場で使うとなるとただでさえ繊細なスコープが、構成レンズ枚数の増加やズーム機構の組み込みで更に重くなり、機構の複雑化は故障の原因になり、レンズの枚数が増えるだけ光の減衰で像が暗くなる。

 正直、デメリットの方が多くなるのさ。戦場では基本、シンプルイズベストなんだよ。

 あと、温度変化や湿度変化によるレンズ曇りや、雨や砂にも強いことが望ましい。

 

「ストックは、素材は合板のままで良いけど、バットプレート(肩に当たる部分)とチークピース(照準器を覗くときに頬が当たる部分)は別体にして調整できるようにしてくれると助かる。あとバイポットは二段階くらいで長さが調整できる頑丈な奴を標準搭載してくれると良いな」

 

 現在の技術で再現可能な「戦後の・・・ボルトアクション式狙撃銃の標準メソッド」としちゃあこんなもんか?

 イメージ的には木製ストックが主流だった時代の最後の方の狙撃銃、米軍のM40とかかな?

 

 

「あと、これらの要求を満たしたうえで、ある程度の頑丈さを保ちつつ弾丸とスコープ込みで重量6kg以下に抑えるのを目標にしてくれ。相手が狙撃手まで届く武器を持ってる事を想定しなければならんし」


 使える素材を考えると、結構厳しめな要求の自覚はある。

 

(だが、スナイパーってのは存外に動き回るからな)

 

 意外に聞こえるかもしれないが基本、ガチの正規軍相手への狙撃の場合、カウンタースナイピング対策で「こっちの射点がバレる前に動く」のが鉄則だ。

 敵狙撃手のカウンターもだが、正規軍なら狙撃地点まで余裕で射程に納める重機関銃やら迫撃砲やらに事欠かないはずだ。

 ぶっちゃけいつまでも未練がましく狙撃地点に残っていたら、「狙撃兵が大体居そうな場所に火力の集中投射」してくるぞ?

 

「”撃ったらバレる前に動く”のが戦場狙撃の基本だしな」

 

(まあ、そういう意味ではギリシャやアルバニアの共産ゲリコマは楽できたんだけどな)


 連中はそもそも長射程の重火器不足で、狙撃手も居るにはいたんだが俺に言わせれば「素人以上、狙撃手未満」だな。

 自分が攻勢側に居て当てるのは上手いが、いざ自分が狙われた時の対応がなっちゃいない。

 特に着弾地点から弾道予測して狙撃点を割り出すのが致命的に下手糞だ。これって狙撃兵の必須技能なんだが……

 

(狙撃兵としての訓練受けてない猟師とかなんだろうな……多分)


 狩りの獲物、動物は鉄砲撃ち返してこないから。

 

「これは思ったより大掛かりな開発になりそうですね……」


 かもな。

 アイデアは出すし、テストもしてやるが、作るのはお前さんたちだ。

 狙撃で戦場や戦況を変えるって事はないが、1発の銃弾が歴史を変えるってのはままあるからな。

 第一次世界大戦がそうだったろ?

 とりあえず、期待して待つとしよう。

 



***




 まあ、この時の俺は、後にこれが”デザート・スナイパー・ライフル(The DSR)”シリーズとして各国の軍や法的機関(例えば、皇国では各県警に設置が義務付けられているSATとか)に採用され、おまけに様々な実包対応のバリエーションも産み豊和の看板商品になるとは思いもしなかったんだよな~。

 いや、まあデザート・スナイパーってだけで俺の個人名が製品名に入らなかっただけマシだったけど。














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