転生しても戦争だった ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~
第272話 ”地中海安全保障会議(のプレ会議)”と”日本皇国遣地中海方面軍統合司令部”、そして(皇国に縁のある)地中海沿岸諸国の思惑
第272話 ”地中海安全保障会議(のプレ会議)”と”日本皇国遣地中海方面軍統合司令部”、そして(皇国に縁のある)地中海沿岸諸国の思惑
先に書いておけば、今回のエピソードは全くの余談、エクストラシナリオなのかもしれない。
あるいは蛇足。
下記に記すは、”オペレーション・イオス”の戦後処理を巡り行われた、当事国と日本皇国とゆかりのある地中海各国による”とある代表者会議”での一幕である……
「これはこれは、戦争の最後にしゃしゃり出てきて、どさくさに紛れてアルバニアを傀儡にして、オスマン帝国時代の領土をかすめ取ったトルコ代表ではないですか。日本に恩の押し売りとはまったく大したものですな。ところで、アルメニア人やアッシリア人の”操縦”はもうよろしいので?」
”バチッ!”
「そういう貴方は、自分の国の国土奪還だというのに日本軍に全て丸投げし、挙句に国内に日本が敵視する共産主義武装組織を大量発生させ、その尻拭いまでさせたギリシャ代表」
”バチッバチッ!!”
「はぁ~、これだからバルカン半島方面は野蛮で仕方ない。実に嘆かわしい。もう少し穏便に話し合えないのかね?」
「「色仕掛けで取り入って、コネ作った奴は黙ってろっ!!」」
”バチッバチッバチッ!!”
「何とも品のない言い合いをしているな」
「同じアラブ諸国として恥ずかしくなりますな」
「「「日本の手を借りているのに、未だに完全な独立国になり切れてない奴は、およびじゃないっ!!」」」
”バチッバチッバチッバチッバチッ!!!”
「幣原さん、出会い頭にこれって……なんとかしないとヤバいんじゃあ」
「う、うむ、そうだな。東郷君。流石に出会い頭にこれとは……」
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ギリシャとアルバニアの国土奪還はなされ、地中海の状況は新たな段階に入った。
つまり既に日英同盟の明確な敵対勢力と言えるのは、既に地中海ではイタリアしか無くなっていた。
日本皇国は、一度地中海配備兵力を整理するために、皇国と馴染み深い地中海やそこに連なる海の沿岸諸国、特に皇国と関係や馴染みの深い国家の代表を集めた会議、
《b》”地中海安全保障会議”《/b》
の開催を各国大使を通じて提案した。正確には今回はその前段階、お試しの
議題は、当然「イタリア本土攻略に関する意見交換会」だ。
まあ、”地中海安全保障会議”は、本質的には安定を取り戻した(不安要素を強制削除した)地中海とその沿岸諸国の”戦後体制の構築と安定”こそがその本懐なので、議題としては間違ってはいないだろう。
ところでギリシャのペロポネソス半島には”パトラ”という港町がある。
歴史に詳しい方なら、”レパントの海戦”が行われた場所だと言えば、ピンとくるのではないだろうか?
ギリシャ王国はイタリア攻略戦を見越して、会議の席上でこの地を拠点として皇国軍に「戦時中は無償で租借する」と言い出したのだ。
もう明らかに、安全保障目当てで皇国軍を常駐させようという魂胆が見え見えだった。
そして、他のギリシャの都市と同じくイタリアの支配下にあったパトラは、基地として使うにはインフラの整備が必須であり、それも勘定に入っているようだ。
そこに待ったをかけたのがトルコだった。
曰く、パトラは「イタリアに近すぎる」というのだ。
実際、史実でも今生でもイタリア軍のギリシャ侵攻の際、イタリア本土より空爆が行なわれていた。というのもギリシャのパトラからイタリアの空軍基地があったクロトネまで400㎞ちょっとしかない。
ギリシャにもしまともな空軍力があれば、カウンター爆撃を入れられた程度の距離しかないのだ。
そして、ギリシャの狙いを正確に見抜いていたトルコは、
「日本皇国空軍の標準的な戦闘機・爆撃機の航続距離は2,000㎞を超える。それを生かして、アウトレンジ攻撃を行うなら最低でもカラマタ、いやむしろクレタ島からでも攻撃可能だ」
するとリビアの代表はその意見に乗り、
「ですな。イタリア本土攻撃ならマルタ島がありますし、それで面積的拡張限界があるというのなら、日本皇国軍機の性能を考えれば、我が国のアルバイダ(アルベイダ)からでも事足りる」
まず、誰もが知る日英の拠点であるマルタ島を出してから、次に既に日本皇国軍の基地があるアルベイダを出すあたり、実に意図を感じる。
「あえてギリシャにこだわる必要はないのでは?」
そしてしっかり「抜け駆けしようすんじゃねーよ」と釘を刺した。
「いや、まちたまえ。長距離飛行をするパイロットの負担や機体の摩耗を考えれば、ある程度は近いに越したことはないであろう? パトラは近すぎるとしても、我が国には航空基地に手頃な立地が多くある。先ほどのトルコ代表が言っていたカラマタはその一つだ」
流石にイタリアの爆撃圏内にあるパトラ推しは諦めたようだが、ギリシャも自国推し自体を諦めるつもりはないようだ。
実際、イタリア人に踏み荒らされた街の回復を自力でやろうとすれば、膨大な予算と時間がかかる。
ギリシャにとっては戦後復興の死活問題だ。
ちなみに空軍基地の誘致に終始している理由は、皇国海軍地中海艦隊は強力で強大だが、その分、母港にできるだけの設備が整った港が限られているのだ。
また、揚陸戦からの侵攻となれば、陸軍も船で運ばねばならぬ為に必然的に陸軍の集積地も港の近くになる。
既に日本皇国により拠点化が進められていたクレタ島は港湾設備が整備されていて補給拠点としての機能は十分に備えていたが、他の港は母港として考えると能力が少々心許ない。
いずれにせよ10年後ならともかく、今のギリシャの手に余るのだ。
拡張するにしても、とても来年に予定されているイタリア本土侵攻には間に合わないだろう。
この点、真っ先に日本皇国軍の手が入り、港や飛行場、集積地などが急ピッチで整備されているリビアの独り勝ちではあるのだが、
「リビア代表、あまり何でも自国で担当しようとするのは、いかがなものかね?」
と今度はトルコが釘を刺しに来た。
イタリアとの戦争ともなれば、トルコは少々位置が悪い。逆に言えば地理的に近いからこそ、ギリシャやリビアは侵攻を受けたのだ。
つまりトルコにはアピールできる部分がないのだ。
だったら、後ろ盾になっているアルバニアをアピールできれば良いのだが……元々ギリシャより貧しく、ギリシャより先にイタリア人の侵攻を受け、そしてイタリア人に加えてギリシャ人と現地人の共産パルチザン同士の内ゲバで更に国土が荒廃したアルバニアを推すことは、かえって日本皇国の反感を招く事をトルコは分かっていた。
「ふむ。私はただ、高性能兵器を揃えた精鋭揃いの日本皇国軍であれば、既存の施設だけでイタリア攻略は可能だと思っただけだよ」
リビア代表は日本を持ちあげる発言をするが、これ以上リビア以外への誘致を抑制したいという意思が透けて見えていた。
アルバニアは国土復興以前に治安回復に全力を投入してる段階なので、会議参加はトルコに全権委任という形になっている。
そして、シリアとレバノンは傍観……まるで”オブザーバー参加”のような態度を崩していなかった。
当然である。
両国は、直接的にイタリア人との戦争に関わるつもりはなかった。
自分達が真価を発揮するのは日本と共同開発している石油事業と、特に何かするわけでは無いイランのレンドリース品搬入ルートの監視だとわきまえた上での態度だった。
実際、イタリア攻略にこの二国ができることはほとんどなかったわけだし。
とはいえ、
”地中海における日本の友好国の序列決め”
と目される会議なら、参加しないわけにはいかなかったのも事実だ。
それに今後の周辺国情勢、地中海全体の安全保障に関わる……つまり、自国の安全保障に関わるなら、尚更に。
***
どんな形であれ、利益誘導は国益に直結するのだ。
遊びではない、自国の未来の一端がかかっている。
ヤンデレ女同士の男の取り合いとは訳が違う。これは国家の生存戦略の問題だ。
将来、食わせられる国民の数に直結しかねないのが、この会議だった。
序列にしたってそうだ。おそらくは日本が兵器をはじめ物資を供与する順番に確実に影響してくる。
例えば、
トルコは昔日の栄光の復権だろう。シリアやレバノンにだって狙いはある。
独立する、独立を維持するというのは、金や石油以上に「攻められないだけの武力」が必要であることを改めて実感していたのだから。
そして、シリアとレバノンはそれにアドヴァンテージを持っているのだ。
日本皇国軍が常駐してる上に、兵器は石油で買える。
オイルマネーではなくオイルで直接、しかも採掘した石油の中で、日本の配当分を料金の分だけ一時的に増やすだけで全く手間をかけずに!
どうせ日本人、”アラブ石油開発機構”の手を借りねば、大部分が埋蔵……いや、”死蔵”のままになる石油だ。
シリアやレバノンにしてみれば、「無料で兵器が手に入る」感覚に近い。
それを使わない手はないだろう。
故にイタリアとの戦争に直結するリビアやギリシャの「イタリア被害者の会」と同じ土俵には上がらない。
石油は持たぬが、未だに老舗大国の残り香が鼻につくトルコとも正面からやり合わない。
シリアとレバノンは表裏一体、一枚のコインの裏表、言うなれば「フランス被害者の会」で、上記の三国とは系譜が違う。
だから自ずと方針も違ってくる。
そして今は、弁舌的焦土戦じみてきた三国のやり取りを聞き逃さなようにするのが肝要だった。
生存戦略は一つだけの道筋ではないし、相対しなくてはならない国によっても変わってくる。
***
別テーブルに居たこの会議、繰り返すが正確には”地中海安全保障(本)会議”ではなく、
”地中海安全保障会議”の発足に向けた
である。
「これはこれは……想定以上の”酷さ”だねぇ」
年功序列のため議長役を務めることになったギリシャ特使の幣原がそう呟いた。
「いや、まあ、皇国と関り深い、あるいは深くなってしまった地中海関係各国の立ち位置や力関係を改めて把握するための会議でしたから、その目的には合致していますが」
とはリビア特使の武者小路で、
「まあ、想定以上の仲の悪さか……元は同じオスマン帝国だというのに」
と鼻を鳴らすのがシリア・レバノン双方を担当する石射で、
「もしかしたら、いえ、もしかしなくても”元が同じ国”であればこそ、譲れない部分もまたあるのでしょう」
そして、トルコ担当の東郷だ。
戦争が所詮は政治の一形態である以上、このような裏方的な調整作業は必須であり、正しく外交官の仕事であった。
だが、だからといって望んでやりたい仕事でもない。
救いがあるとすれば、ギリシャやリビアは、直接的な意味でイタリアから侵略を受けた国ではあるが、感情的な側面から「イタリアへの報復」を叫ぶ訳ではなく、「今後の国益」が論点になってる点だ。
鬱屈した感情を拗らせているなら宥めるところから始めなければならないが、今回の雰囲気であれば利益調整とやるべきことの道筋がつけられる。
これは朗報と言ってよいだろう。
実際、イタリアとの戦争が終われば、そう長く日本は大軍を……陸海空合計75万人まで膨れ上がった兵力を地中海周辺に貼り付けておくことはできない。
拡大し続ける戦域は、それだけの戦力投入を日本皇国に要求しているのだ。
ちなみに75万という数字は、史実の関東軍の最大動員時に匹敵するかそれ以上だ。
戦争の拡大により、志願枠の拡張は広げられて久しく、既に予備役の動員も始まっているが……それでも42年4月に兵力180万人を越えたばかりだ。
つまり、皇国の総兵力の半分近くが地中海とその周辺に展開していることになる。
おかげでかつては英領エジプトのアレキサンドリアにあった”日本皇国統合遣中東軍司令本部”とされていた部署も、今やリビアのトブルクに新たに開設された
《b》”日本皇国遣地中海方面軍統合司令部”《/b》
となり、トップである今村仁陸軍大将は、43年4月1日付で”元帥”に昇格する事が内定している。
まあ、麾下の兵力を考えれば当然ではあるが……何というか、心情を考えると実にご愁傷様である。
この状態をいつまでも続けられる訳もなく、最低でも半分の撤兵は、そう遠い未来の話ではないのだ。
だが、北アフリカ、中東、バルカン半島は、史実であれば戦後も世界有数の紛争地帯、産油国が密集していればこそ争いの絶えない地であった。
また、米ソもしくは米露が積極的に介入し、不安定化工作を行う地でもある。
冗談ではなかった。
日本皇国の望みは、米ソとは真逆の「地中海友好国の安定した統治と、それに基づく地中海の秩序と平穏」だ。それが一番、国益に叶っている。
今は樺太油田を持つ産油国の一角だが、それが永遠に続くなどと誰も楽観視していない。
だからこそ、打てる布石は打っておく。
その為のイタリア攻略にかこつけた”地中海安全保障
とはいえ、
「前途多難だな」
「ええ」
日本皇国は、決して万能な国家でもリアルチート国家でもない。
”オペレーション・イオス”が本来の目的は達成した物の、どうにも締まらない……二転三転、戦争目的がぶれたせいで座りの悪い形で集結したことからもそれが伺える。
普通に生き残る為に藻掻きながら最善手を探る、転生者がいようがいまいが試行錯誤を繰り返すだけの”普通の先進国”だ。
だが、それでも努力は続けるしかない。
生き残るためには。
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