第266話 龍虎は相打たず、共闘せん。なお、相対するのは赤色の走狗とする。
「まさか、ギリシャまで来て”ゲリコマ狩り”をやる羽目になるとは思わなかったぜよ」
と俺は最近お気に入りの狙撃銃、制式化された”二式長距離狙撃銃”、通称”ヘカテーたん”を構える。
いや、ボーイズ対戦車ライフルと同じ弾使う試製二式改特殊長距離狙撃銃(真・ヘカテーたん)”も良い超長距離銃なんだが、砂漠みたいな何にも障害物がないところならともかく、ギリシャみたいに人工物とか森林やらオリーブ畑があちこちあるような場所だと、ぶっちゃけ2㎞スーパーロングレンジ・スナイピングとかやる機会がねーんだわ。
それに装甲車両対策も(イタリア軍が次々と降伏したため)必要ないから余計に無用になり兼ねない。
というか、共産ゲリコマがイタリア軍の車両奪っても、目立つうえに見つかり次第、優先的に潰されるから俺にまで始末命令が回ってこないんだよ。
なら、九九式狙撃銃でも良さそうなもんだが、相手がゲリコマだと「狙撃してはカウンターが来る前に移動する」真っ当な狙撃戦術よりも、多少重くて機動力が落ちても”完全なアウトレンジ”、銃声が聞こえてもどこから撃たれたかわからないで右往左往してる間に次弾叩きこめる、ついでに頭は言うに及ばず胴体に当たれば確実に殺せる”うぽって”の方が都合良いって結論づけられた。
(なんせ連中、根がテロリストなだけあって平気で人質とったりするしなぁ~)
例えば、村の住民とかを人質にして肉壁作った場合とか、人質の安全を確保しながら犯人ブッコロせる長距離狙撃ってのが最善手になりやすいんだ。
ちょうど今みたいに。
ELASだったか?
共産ゲリコマの部隊が、ギリシャのとある村に立てこもり、住人を人質にしている……最近、よく聞くシチュエーションだ。
そこの隊長だかリーダーだかの”先制排除”が俺に与えられたミッションだったんだが、
「俺にそんな物を見せんじゃねーよ。胸糞悪い」
”ドウッ!”
よくある話だが、ちょうど”ナーディア”くらいの年頃の少女を納屋に連れ込んでナニをしようとしたので、その連れ込む途中、俺にとって丁度いい位置に来たから引き金引いて50口径弾で頭を吹き飛ばす。
頭にした理由は、位置関係的に胴体に当てると、女の子に二次被害が出そうだったから。
正義のミカタを気取るつもりはないが、民間人の被害は少ない方がいいだろう?
二式長距離狙撃銃は精度の良いライフルで、これに12倍なんて固定倍率の窒素ガス封入・無反射コーティングレンズのスコープ付けてるんだ。
1㎞そこそこの距離なら、頭を射貫くなんざ余裕だぜ? これでもそのくらいの腕前はある。
「命中です。次目標、右奥30m」
あんがとよ、小鳥遊君。
ああ、なんだか久しぶりだな?
皇国陸軍大尉、下総兵四郎だ。
もうわかってもらえてると思うが……今、リビアからギリシャに遠征しに来ている。
正確に言えば、原隊を離れて50口径(あるいはそれ以上の)狙撃銃を使う”オーバーキロメーター・スナイパー”達で特別編成されたゲリコマ対策の”ロングレンジ・スナイピング・クラブ(長距離狙撃特殊部隊)”の一員として、バディの小鳥遊君共々ギリシャ入りしたってわけ。
ナーディアは居ないのかって?
ここはイスラム圏じゃないし、あいつは何人かの妹(実際には血は繋がってないらしいが)共々身重でね。
現在は、キレナイカの王宮でお留守番だ。
いやさ、言っておくが……ナーディアがキレナイカ王国のイドリース国王陛下の末娘だって知ったのは、妊娠が発覚してから。というかボテ腹を撫でまわしてる時に聞いたんだからな?
気持ち良さそうに放尿するナーディア(俺の周りの娘たちは全員、お漏らし癖を付けたが)になんで今まで黙ってたん?と聞くと、
『だって、”既成事実”で繋ぎとめたかったんですもの♡』
だってさ。
いや、ちっこくても平べったくても女は女。おっかないね~。
ちなみに同じく孕ませた妹たちも、聞けばそれなりの家の次女以下だとか。
心配だったのはナーディアはともかく、いくら
『ブルーグを迎えたという事は、子を持つ準備を終えたということですよ? それに”サヌーシーの秘伝と秘術”がありますから心配無用です♪』
魔術的なものではなく、何でもサヌーシー教団秘伝の安産に関するノウハウがあるらしく、「女の秘密です♡」と詳細は教えてもらえなかったが、幼い子でも普通の成人女性並みの安全度で出産ができるらしい。
いや、この時代のお産って命がけじゃなかったっけ?
流産率も新生児死亡率も高かったような……
『サヌーシーの女は、ヤワにはできていません。長い月日、砂漠の渇きと為政者の弾圧に耐えてきた私達を信じてくださいね?』
と押し切られてしまった。
***
まあ、そんなこんなで今は戦時下で除隊できないせいもあり、今は婚約という形で戦争が終わり次第、除隊&結婚という流れになるらしい。
他人事のようだって?
いや、実際に俺はこの一件のスケジュールとかに関わってないんだわ。
なぜならイイ笑顔で訪ねてきた武者小路特使(なんか、イドリース国王の宰相っぽい人)から、
「貴君の家族への説明、結婚にまつわる様々な事柄は外務省に任せておきたまえ。安心したまえ。悪いようにしない」
だとさ。どうでもよいけど、ちょっと胡散臭いんだよな、あの人。
回想はこれくらいにして1
「
「いや、俺に王位継承権とかないからな」
ナーディアに何人、兄が居ると思ってんの?
いや、農家の四男防が一国の姫様の入り婿になるってだけで、大事なのは理解してるけどさ。
まあ、孕ませた以上は責任はとるぞ?
それはともかく、
いや、始まったと思ったらもう終わってた。流石、対ゲリコマ掃討訓練受けた最精鋭部隊、実に仕事が早い。
(というか、なんか動きが人外っぽいのが居たような? ああ、なんだ舩坂サンか……)
なら納得だ。
俺達、”ロングレンジ・スナイパー”は、専門のキロメーター越え対応の長距離狙撃手が居ない海軍陸戦隊の支援をすることが多い。
というか、むしろその為に編成された臭い。
まあ、今回は作戦規模も小さく、治安活動を行わなければならない場所は数多あるため俺と小鳥遊君だけの参加になったが。
既に制圧隊が入った以上、俺達の仕事はフォローとバックアップ。
交戦距離が近くなるため、狙撃の主役も小回りの利く
俺や小鳥遊君の出番があるとしたら、「通常狙撃では対処できないイレギュラーな事態」になった場合だ。
「んじゃあ、作戦終了を見届けたら撤収しようか」
スナイパーってのは基本、仕事を終えたら姿見せずに消えるもんだしな。
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「こりゃ凄い……有り得ない距離からパカパカと、よくも動いている人間相手にああも簡単に連続で当てられるものだ」
珍しく他人に感心する軍曹に、
「あれが噂の”北アフリカの和製シモン・ヘイヘ”、シモヘイこと下総兵四郎大尉の狙撃術ってことだろうな」
ああ、舩坂弘之だ。
ELASが住民人質にとって立てこもったって村に、隙を突いて突入戦仕掛けるべく周辺に潜んでたんだが……
(あれが北アフリカで、
その隙を作るのが割と力業、遠距離からの不意打ち奇襲狙撃なんだが……
1㎞越えの狙撃ってのは、かなり神経使う繊細な作業の筈なんだが、最初の銃声が”命中の後に響いた”ことを皮切りに、次々に体を強制的に50口径に引きちぎられた民兵が崩れ落ちていく。
というか、銃声が聞こえる前に更にもう一人、肉片に変わったんだが?
(50口径クラスの長距離狙撃って連射でやるもんじゃねーだろ……)
あれじゃあ、共産パルチザンも、どこから撃たれたか簡単には判別できんだろうな。
まさに一方的な戦いだ。一発必中、一撃必殺を地で行ってやがる。
「ミスなし7人連続射殺かよ」
そりゃ50口径の威力考えたら、胴体の何処に当たっても死ぬだろうが。
確か前世のパナマ辺りの話だと思ったが、米軍の50口径の狙撃で4人射殺したら標的がばらばらになって、三つの箱に遺体を押し込めたとかなんとか。
(おまけにアフリカじゃあ装甲車両も二桁仕留めてるって話だしな)
いわゆる、人外枠ってやつか? 俺も人のことは言えんが。
「軍曹、いくぞ。放っておいたら全部シモヘイに食われる。せめて給料分の仕事はしようや」
いや、ホント狙撃だけで全滅させそうな勢いなんだが?
「了解です」
今回の敵、そこそこの規模だったが……
(上層部がシモヘイと相方のスポッターだけで十分と判断するのも当然か……)
確かにあれ以上の支援狙撃は不要だ。
仕事がはかどるのは結構だが、気がついたら標的が居なかったというのも少し困る。
「状況開始だ」
先制の長距離狙撃で敵の陣形は崩れるどころか大混乱。
ぶっちゃけ難易度はだだ下がりだ。
(いっちょ暴れるとしますか)
流石にいつまでも
民間人との距離が近いから、貫通力の高いブレン機関銃だとテロ屋をブチ貫いた弾で二次被害を出しかねない。
(「いのちをだいじに」だな。俺達じゃなくて民間人の)
ゲリコマ対策の極意の一つを教えよう。腐らず根気よく、機会があることにチマチマ確実に”削ぎ落して”征くことだ。
さて、お仕事開始だな。
「Let's Pray」
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