第263話 ”Red Fraction” ~舩坂弘之、リミッター解除~




 鼓動がビートを刻み、血流がリズムを作る、脳内にイントロが流れ出す。

 ああ、ノってきたな……


(こいつは”Red Fraction”か)


 直訳すると”赤い部分”。前世で見たアニメ版の”黒い珊瑚礁”のOPだ。

 ギリシャの”共産主義者あかいぶぶん”を、鮮血で真っ赤に染め上げろってか?

 良いだろう。上等だ。選曲もこの状況にマッチしてる。

 何より俺好みだ。

 

 俺は駆け出す。

 PPSh-41バラライカのセレクターは、セミオート。

 人間殺すには2発が基本、フルオートはまとまってるときに使えばいい。もっとも2発で確実に死ぬとは言えないのが玉に瑕。

 弾の数だけ人は殺せる。弾が無くても殺せるがな。

 だから、バラライカを基本、拳銃と同じ扱いで使う。

 ”二丁拳銃トゥーハンド”、俺は左右の銃で別々の人間マトに当てられるほど器用にはできていない。

 だから、2丁で同じマトを狙い、引き金を引く。

 スピードは、筒先を向ける速度と照準の手早さで補う。

 要するに可能な限り、早く銃口を向け狙い撃つというルーチンの回転数を上げていくだけだ。

 

 ”バキッ!”

 

 人間は、一定以上の間合いに入られると銃を持っていても撃つより鈍器として殴ろうとする。

 人間が道具を初めて持った古代の名残り、本能なのかもしれない。

 だから、小銃で殴り掛かってきた相手を上半身を反らして避け、すれ違いざまに膝を横から斜め下に踏み抜き砕く。

 知ってるか? 人間の構造上、膝は前からでも横からでも、土踏まずを軽く押し当てるようにしてから、斜め下に向けて踏み抜くと簡単に折れるんだぜ?


”タンッ!”


 倒れこむ相手の後頭部に銃口を押し当てるようにして引き金を引く。

 距離にかかわらずヘッドショットは良い。致死率も即死性も高い。まあ、その分的が小さいんだが、狙えるなら確実に仕留めていこう。

 

 こらこら。年端も行かぬ少女、それとも幼女か?の服をびりびりに破ってどうするつもりだ?

 まあ、こういうのはアカに限った話じゃないけどな。

 だが、戦場に慰安所を置く風習のない米ソは、婦女暴行の事例が多いとか聞いたことあるな。

 生への執着は結構だが、性交渉は合意の上でな?

 

 というわけで弾丸を叩きこむ。とりあえず大人しく死んどけ。

 ほら、市民の保護も任務の内だし。

 だからそこのお前、正規軍人を民兵が殺そうとすんじゃないよ。条約違反だぜ?

 だから撃つ。

 おっ、イタ公。助けた俺に銃口を向けたな? それは降伏の意思なしって事で良いんだな?

 だから撃つ。

 

 

 

 ああっ、面倒な戦場だ。

 まるで俺達は、ごみ溜めの中でうごめくドブネズミのよう。

 だが、それでいい。それがいい。

 こうして死臭漂う硝煙臭い戦場を這いずり回り、ドブネズミ同士で殺し合う方が俺の性分に合っている。

 こういう場だからこそ、俺は俺でいられる。生きてる実感を堪能できる。

 だから撃つ。

 

 ああっ、丁度敵がかたまってるじゃないか。

 右手のバラライカのセレクターをフルオートにして一連射。

 まだ立ってるのが居たので左手のバラライカで追加のもう一連射。

 あっ、丁度弾切れだ。

 

 おおっ、民兵の後続が来たか。

 元気なことで結構結構。

 ご褒美に40㎜擲弾をくれてやろう。

 炸裂する対人榴弾に、綺麗に吹っ飛ぶ民兵が何だか様式美。

 中折れ式の擲弾銃をガンスピンさせるようにして排莢と再装填。

 ああ、ほらヒロインの方のトゥーハンドが、魚雷艇の上で武装モーターボート相手にやってたあれだ。

 流石に八艘飛びはやらんが、パルクールもどきの動きで牽制する。それとも張のアニキのようなステップの方が良かったか?

 

 撃つ。

 まずは殺す。

 撃つ。

 とりあえず殺す。

 撃つ。

 とにかく殺す。

 BANG! BANG! BANG!


 転ばす。踏みつける。頭蓋を割る。次に生まれ変わるなら戦場でメットくらい被っておけ。民兵には無理か? 俺は被らんけど。

 銃弾を1発。倒れただけで死んでないので延髄に踵を落とす。アフターケアは大事だな。

 まあ、いずれにしろ死ぬなら問題ないか。

 

 単調だが、飽きのこないリズムだ。人間が奏でる音楽は、そうでなくてはいけない。

 ヲイヲイ、死人は死んでなきゃダメだろう? それが秩序ってもんだ。

 殺し殺されまた殺して、そうして命は循環するんだ。

 世界大戦ってのはそういう素晴らしい時代だろ?

 

 ほれほれ、さっさと逃げるか抵抗しないと、ブギーマンが食っちまうぞ?

 ハリー、ハリー、ハリー!

 嗚呼、実に愉快な気分だ。

 


 革命勢力ってんなら、ふらっと街角からドラッグブーストをキメたアンドロメイドとか出てこないもんかね?

 アレも確かメイドになる前は革命ゴッコで遊んでたクチだろ?

 どうせ殺し合うのなら、美人で腕が立つ奴の方が楽しそうだ。

 ははっ、これも性癖ってやつかね?

 

 

 

 











************************************















「ただいま。軍曹」


「お楽しみのようでなによりですな」


 最終的に俺、舩坂弘之は片手に1丁ずつ、腰の後ろ、背中合わせに仕込んでいた武35式軍用自動拳銃ブローニング・ハイパワーを握っていた。

 スライドがオープンホールドではないので、ぎりぎり弾は持ったらしい。

 思ったよりマトは少なかったが、確かに、

 

「久しぶりに愉快な気分にはなったな。ああ、少なくとも機関銃の弾が届く範囲での掃討スイープは終わった。割と市民が残っている。これより、小隊で救助作業を行うが……」


 確かに楽しいことは楽しいんだが、いつもこんなワンマンアーミーみたいなことはできんしな。

 仮にも職業軍人で、小隊指揮官なわけだし。

 ところで、


「軍曹、なんで一部の隊員は固まってるんだ?」


「小隊長の”舞い”を初めて見た奴は、大半はこうなりますなあ。自然な反応です」


 舞いって……んな大袈裟な。

 

「た、隊長は、ど、どうして弾に当たらないんですか……?」


 恐る恐るといった感じで聞いてくる、最近入ったばかりの部下に、

 

「銃口の位置と向き、引き金絞るタイミングを見切れば、先読みでかわせるぞ?」


 発射された弾丸を見るのは俺も無理だが、事前動作なら見れるし。

 要するに銃口の先に居なけりゃ弾は当たらないってこったな。

 明治の剣客漫画で、主人公も似たようなことやってたろ?

 

「……若いの、間違ってもマネするなよ? 小隊長だから簡単にできるだけだ」


「大丈夫です。絶対にマネしませんから」


 いや、軍曹だってやろうと思えばできるだろ?

 時折、銃型ガンカタみたいな動きするし。

 

「住民はかなり怯えてる。救助の際は、細心の注意を払え」


「……それって子供みたいな無邪気な満面の笑みを浮かべながら、凄いスピードで淡々と殺す小隊長に怯えてるだけなんじゃ……」


 さあ? なんのことだかさっぱり全く見当がつかんな。















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