第262話 共産パルチザンへの対応、その一例(ただし、模範解答に非ず)




「こ、降伏する! 助けてくれ! パルチザンに殺されるっ!!」


「はいはい。わかったから武器をここにおいて、さっさと後方の救護所に行け。この道をまっすぐいけば1㎞くらい先にあっから」


 と縋りつくような右手に小銃、左手に白いハンカチをもったイタリア兵に俺は告げる。

 

「わ、わかった! Grazie!! 日本の友人よ!」


 誰が友人だよ。誰が。

 それと嬉しそうに小銃を投げ捨てて、ハンカチを右手に走り出すんじゃないっての。

 あと拳銃と手榴弾放り出すのがやけに手馴れてる感じなのは、なんでだ?

 

「偽装降伏とかないんかーい」


 俺、舩坂弘之のボヤキが戦場に虚しく消える。

 現在、夕暮れまでには少しばかり時間がある。

 端的に言って、アテネ市内は混乱の坩堝だった。

 あちこちに火の手が上がり、散発的に聞こえる銃撃戦の音。

 両方とも武器弾薬が不足気味のせいか、皇国軍以外に過剰な火力の投入や爆発音は起きて無い様だ。

 まあ、そんな重火器が投入されたら、真っ先に潰されるだろうが。

 

 


「おい、日本人! どうしてイタリア人を逃がしたっ!?」


 そして、程なくお出ましなのはジモティーらしい武装民兵の皆さん。


「ELAS(ギリシャ人民解放軍)か?」


 とりあえず身分を確認しておく。


「そうだ! 我々は栄えあるギリシャ共産党(KKE)の軍事部門、ギリシャを導く革命闘士”ギリシャ人民解放軍”だ!!」


 はい、言質とったー。

 ねえ、知ってる?

 ギリシャ王国・・において、共産党は非合法なんだぜ?

 そして、そこの軍事部門と明言した以上、非合法軍事組織テロリストの者ですって自己紹介したに等しいんだぜ?


「逃がしたんじゃなくて、降伏に応じて武装解除したから捕虜にしたんよ」


 俺は口語的というか、庶民的なギリシャ語で返す。

 あんまり勉強する時間無かったから、古語に近いポライトな言い回しとかよー解らんし。


「では、今すぐイタリア人を引き渡せ!!」


「できるわきゃねーだろ? ハーグ陸戦条約やジュネーブ条約を知らんのか? 正規兵が降伏したら、捕虜として扱い保護義務が発生するんだ」


 どうせ知ってるわきゃないだろうから、説明しておく。

 いや、こういうのって後々響いてくんだぜ? 説明責任がどーのこーのって。

 

「日本人はイタリア人の味方をするのかっ!?」


「だから、そういう問題じゃないっつーの。俺達は、”ギリシャ国王陛下・・・・”の要請で、イタリア人から”ギリシャ王国・・”本土を奪還しに来たのは間違いない。間違いないが、これはそういう次元の問題じゃねぇんだよ」


 なんか面倒臭くなってきたな……だから、少し煽るとしようか。

 アカってのは総じて煽り耐性ないし。

 

「ましてや、捕虜が嬲り殺しにされるのわかりきってるのに、赤色テロリスト・・・・・・・風情に渡せるか。馬鹿が」


「貴様っ! 我らが偉大なる革命思想を愚弄するかっ!!」


 銃口を俺に向けようとするリーダー格。

 阿呆め。かかったな?

 

”タァーン!”


 ほれ。出番を今か今かと待っていた分隊狙撃手マークスマンの晴れ舞台。

 共産主義者の胸に空く穴と飛び散る鮮血、斃れ逝く体に啞然とする共産パルチザン諸君。

 

 いや、そこで啞然とすんなよ。

 こっちはブレン機関銃肩から下げた状態で、引き金に指もかけずに誘ってんのに。

 そういう隙だらけだと……

 

(遠慮なく狩らせてもらうぜ!)


 俺はスライディングするように体を倒れこませながら、ブレン機関銃を一連射。

 来てたのは10名足らずだったので、まずはそれで決着ケリがついた。

 

 不意に戻る静寂だが、

 

「軍曹、よい絵は撮れたか?」


「ばっちりですよ」


 別に俺の小隊に限った話じゃないが、市内で”治安活動”に勤しむ部隊には、「証拠集めとアリバイ作りを兼ねた撮影班」を同行させている。

 まあ、十中八九、アカ共はシンパばかりのクソマスゴミを使って世界的に「日本人は市民を虐殺してる」ってネガキャンを世界規模でやるだろうから、その対抗策ってとこだな。まあ、アカの常套手段、いつもの手口、前世に例えるなら「上海南駅の赤ん坊」対策ってとこだな。

 どうやら我が国の上層部には、相応の数の転生者が混ざりこんでいるらしく、市街戦、ELASとの交戦が避けられないと判断されたから発布された”証拠集めの指示”はかなり徹底されている。

 まあ、それは良いんだが……


「軍曹、少し周辺の”掃除スイープ”がしたい。少し機関銃ブレンと小隊を任せていいか?」


 部隊を投げるなんざ無責任に聞こえるかもしれないが、

 

「今の時点で、あんま小隊を披露させたくないんだよ。おそらくこの戦いは、ちょっとは長引く」


 俺は死体になった共産パルチザンから、71連ドラムマガジン付きのPPSh-41バラライカ短機関銃を取り上げる。

 どうやらソ連本国がボロ負けする前、バルバロッサ作戦発動前に作られギリシャに流れた初期型らしく、割と作りが良い。

 片手に1丁ずつ持ってみると、どうやら重さ的にほとんど弾は使ってないらしいな。


「了解しました。ご存分に」


 出来る部下はありがたいね。

 

「ああ、あと予備の擲弾銃と弾帯をよこせ」


 と背中に擲弾銃を回し、弾帯を襷がけにする。

 

「小隊は治安活動を維持。逃げてくるイタ公は、武装解除と降伏を。ゲリコマは、銃口向けてくるなら躊躇も遠慮もなく”始末”しろ」

 

「Let's Pray (さあ、祈れ)」




***




 まさに弾丸の様な勢いで飛び出して行く背中を”軍曹”は見送った。

 

副隊長・・・、小隊長は何をしに……?」


 すると軍曹は、

 

「ああ、お前新入りだったな」


「ええ。この小隊での実戦参加は、今回が初めてです」


 すると軍曹はどう伝えるべきか少し考え、

 

「小隊長は、軽い武器より重い武器を好む。きっと筋力も体力も余ってるんだろうな。だから英国人から”ブレン機関銃の怪力男ブレン・パワード”だなんて呼ばれるんだが……」


 ニヤリと笑い、

 

「だが、あの人のおっかなさは”そこじゃない・・・・・・”。機関銃の火力に任せた戦い方よりも」


 銃声が響く。フルオートではなくセミオートでの連射音。


「”軽い武器での近接戦”の方が、よっぽどおっかないのさ」


 そしてどこか複雑な表情で、

 

「そして本来は、部隊率いるよりもワンマン・アーミーの方がずっと強い・・・・・んだよ。あの人はな」
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る