第258話 強襲→奇襲へ強制変更された理由と真相 ~見解の相違とか、解釈違いとかそういう感じの~




 ああ、舩坂弘之だ。

 グリファダ海岸の海岸線、砂浜に地雷原が敷設されてないのはまあわかる。

 やわらかい砂地に地雷を埋設したところで踏んでも沈むだけで不発の可能性が高いし、また波打ち際に埋設すれば波を被り浸水して地雷その物がぶっ壊れる可能性がある。

 

 だが……


「なんもねぇ……永久陣地も機関銃座も、それどころか張り巡らされた有刺鉄線さえも……」


 なんか昨日まで海水浴客が来てましたって雰囲気の平和なビーチなんだが?

 というか肩透かし食らうの、リビアに続いて二度目なんだがっ!?

 

「小隊長、目が死んでおりますよ?」


 軍曹、そりゃ死ぬさ。

 気合入れて、特4式に乗り込んだのにこれじゃあ拍子抜けもいいとこだ。

 言っておくが、艦砲射撃で根こそぎ吹き飛ばされたとかじゃないぞ?

 それだったら、残骸だの死体だの肉片だのが転がってるはずだ。

 だが、そんなものは何もない。

 目に入る人工物といやぁ、ひしゃげた看板とかだ。

 軍の匂いがするモンがなにもねえ。

 

「取り敢えず、海岸線の道路を確保しちまいましょうや。敵が一番進撃しやすいのはそこだ」


「そうだな……」


 まあ、今は細かいことを考えるのは止そう。

 後から後から大発だの小発だのと揚陸艇がやってきて、戦車やら兵員やらを降ろすんだし。


「今は自分に与えられた仕事を全うするか」


「それが一番かと。精神衛生的にも」


 あーあ、こうなってくるとエリニコン国際空港とか制圧しにいくチームとかマジに羨ましいな。














************************************















 さて、ではこちらも別のフラグ……いや、ネタ晴らしをしてしまおう。

 実は、こんな強襲→奇襲に結果になってしまったのは、まっとう(?)な理由がある。

 端的に言えば、”日伊軍部の見解の相違・・・・・、あるいは解釈違い・・・・”についてだ。

 

 皇国海軍に言わせれば、グリファダ海岸は”絶好の揚陸地点”だった。

 奪還最優先目標であるギリシャ首都アテネのすぐ南にあるに隣接している海岸で、拠点としているクレタ島から北へ300㎞ほどしか離れておらず、空軍の航空支援も十全に受けられる。

 加えて砂浜には旅団規模を運搬できる十分な広さがあり、エーゲ海の内湾(サロニカ湾)なので揚陸艇の天敵である波も穏やか。

 まさに”理想的な上陸ポイント”であり、だからこそイタリア軍は厳重な守りを固めてると考えていた。

 

 だが、イタリア軍の見解は違った。

 

 ”慎重な日本人が、イタリア軍じぶんたちでもしないような『こんなハイリスクな場所』へ上陸する投機的、冒険的行動をするわけはない”


 という認識、あるいは思い込みによる先入観があった。

 まあ、リビアといいいギリシャといい、イタリア軍の作戦は投機的というか、ギャンブル的というか、補給とか考えなしの行き当たりばったりな感じはするが……

 とにかく如何に地元共産パルチザンに戦力を割かれているとはいえ、首都アテネとその周辺には遣ギリシャ兵力の40%にあたる10万人近い規模の軍勢が展開しているのだ。

 そんな虎口に飛び込むのは愚か者の判断…… だからこそ、リスクを回避する意味も含めてもっとクレタ島に近いエキナ島や対岸のペロポネソス半島のいずこかへ上陸すると考えていた。

 確かに皇国陸軍・・は守りに固く、攻めさせるだけ攻めさせて相手が疲弊したところでカウンターで仕留める印象はあるが……どうやら、イタリア軍はそれが軍種を問わず、皇国軍全体・・にそれが適応されると考えたらしい。つまり、海洋国家における海軍の性質を、今一つ理解してなかったようだ。


 無理もないと言えば、無理もない。

 イタリア人にとり、タラントの敗北は「英国人が相手」だったせいであり、リビア敗北の戦況詳報など回ってきていない・・・

 つまり、ギリシャに展開しているイタリア軍の日本皇国軍に対する印象は、開戦前……第一次世界大戦終結時のそれと、大差なかったのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 無論、皇国海軍もアテネの配備兵力を知らなかったわけでは無い。

 いや、むしろ詳細を知った上で、最初から”根こそぎ叩き潰す”予定だったのだ。

 例えば、イタリア軍にまともな海上兵力が残っていたらハイリスクと考えたかもしれない。

 あるいは有力な航空兵力、重装備の機甲師団が居てもそうだ。

 

 だが、様々な方面の情報収集から、日本皇国はギリシャのイタリア軍が”枯渇状態”なのを知っていたのだ。

 ある作戦参謀系転生者によれば、

 

『うわぁ……仕掛けておいてなんだが、食料を現地調達できるだけ飢島ガトー(ガダルカナル島)よりはマシってレベルじゃん』


 以前も触れたが、陸海空の補給路は既に滅茶苦茶である。

 今回は特に海に話を絞って詳細を見てみよう。

 イタリア海軍は既にタラント港強襲により壊滅状態で残存の水上艦はメッシーナ海峡を機雷封鎖され、マルタ島の日英空海兵力にも睨まれ、そのために事実上はナポリに封じ込められた。

 好き放題、地中海とそれにつながる海で暴れる潜水艦をはじめ、日英海軍の通商破壊作戦で大きく同族を減らした民間船舶は、ムッソリーニが何を言おうが死地と化したギリシャ・アルバニア近海へは航行拒否状態。

 だって護衛艦隊出してくれないし。出したところで結果は一緒とか言ってはいけない。

 

 では水中艦、つまり潜水艦はどうかと言えば……前述の通り、まだ数が揃っていたころは、ドイツ人由来の”群狼作戦(複数の潜水艦で輸送船を狙う通商破壊作戦の戦術)”で日本の地中海海上交通網を狙うも、

 

『島風ちゃんは、とっても速い上に潜水艦に強いんだぞぉ~♪』


 と艦娘化したら言いだしそうな勢いで返り討ち。むしろ、輸送船を餌におびき出された潜水艦を狩るハンターキラー作戦を行う始末。

 もはやこれまでと寂しくなった潜水艦を今度はギリシャやアルバニアへの輸送任務に使おうとするも……

 

『だから、島風は速くて強いんだってば♪』


 とギリシャ周辺海域で網(対潜哨戒網)を張られ、持ち構えられていた。

 これには駆逐艦などの水上艦だけでなく、クレタ島を根城にするKMX(対潜磁気探知機)搭載の二式大艇や、そのバックアップとしていつの間にか実戦テストもかねて地中海に配備されてきた水上機母艦(作戦支援艦)の”秋津洲”なんて特殊艦まで動員され、ギリシャ近海の大捕り物に発展。

 ちなみにこの時代の潜水艦、国を問わず一部の例外を除き大半が”潜水可能艦”というべきスペックだったのを付記しておく。

 当然、イタリア潜水艦は一部の例外には入っていない。

 

 かくて、イタリア海軍潜水艦部隊は水上艦同様に壊滅したのだ。

 唯一、輸送を海上輸送を成功させたのは魚雷を全て外して荷物を満載し、輸送モーターボートに成り果てた魚雷艇だったという。

 まさにイタリア版”鼠輸送”である。あるいは”アドリア海急行”か? まあこれでも成功率は決して高くなかったが。

 運悪く哨戒行動中の日本皇国海軍艦、特に速度性能に大差ない島風型に見つかったり、高性能レーダーと高射砲(速射砲)と機関砲ガン積みで暴風雨のような弾幕張ってくる秋月型とエンカウントしたらまず助からない。

 航空機とエンカウントしても結果は同じ……まあ、確率論的というか運頼みの要素が強い、何というか密輸めいた状況だった。


 前に触れたように陸路はチトー覚醒により”山賊街道”と化し、元々イタリアは空輸能力は高くない(というかロジスティクス全体が弱い)が、制海権取られてそこに常時対空レーダーを備えた皇国海軍の艦艇が居る状況で空輸作戦をやろうものなら、増槽を付ければ航続距離2,000㎞以上がデフォの皇国海空軍戦闘機のカモにしかならない。

 そもそも、イタリア戦闘機の航続距離とイタリアの航空燃料事情を考えたら満足な護衛機をつけるのも難しいのが現状だ。


 無論、こんな状況は長続きするはずもなく、ましてやそんな細い補給線、微々たる補給量では合計25万人とされる駐ギリシャのイタリア軍を賄える訳はない。

 

 ・武器・弾薬・燃料は節約しても常に不足気味。全力出撃などあと1回出来れば良い方。

 ・食料? 現地から徴発(略奪)してますが、何か?

 

 

 

***




 以上のような悲惨というべきギリシャのイタリア軍の状況を、日本皇国は概ね把握していたのだ。

 海はどこぞの名作アニメ映画ではないが、”アドリア海の空賊”以上に荒らしまわったが、ギリシャ国民感情を逆なでしないために、これまではいつでも可能だった都市部も含むギリシャ本土への爆撃を自重してきた。

 まあ、これはイタリア軍の防空意識を高めないための仕込みでもあったのだが……だが、ついに時はきた。

 海式らしく言えば、”潮時”だ。

 

 あらゆるものが不足したギリシャのイタリア軍は25万の正規軍ではなく、ソフトな言い方をしても「25万人いる軽装部隊」だ。

 戦車や飛行機がいくらあっても燃料が無ければ動かないことを、日本人は(特に大日本帝国の末路を知る転生者)はよく知っていた。

 皮肉なことに日本皇国の「陸海空の大規模兵糧攻め」の効果でギリシャのイタリア軍は弱体化し、装備貧弱(ソ連があの状態なので、こちらも最近は補給がほとんどない)共産パルチザンにも押され気味で、あちこちに派遣軍の六割を分散配置しなければまともに治安維持すら出来なかった。

 つまり日々、非対称の消耗戦を強いられ、地味に戦力を目減りさせていたのだ。

 

 故にアテネ近郊に10万の兵力がいようと殲滅できると皇国海軍は判断したのだ。

 間違いなく果断だった。

 だが、まさかここまで日伊の見解の相違、あるいは解釈の不一致があるとは、軍首脳部どころか日本皇国国家上層部込みで流石に誰も考えていなかったようだが……

 

 

 

 











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