第257話 状況開始!!の筈なんだけどなぁ……




「なんなんだよぉ!? コイツらっ!!」


 駐ギリシャ・イタリア軍の戦闘機パイロット、マリオ・ヴィスコンテーニ少尉は愛機MC.202のコックピットで半泣きになっていた。

 

「ふ、振り切れねぇ!!」


 敵は、ミートボールのトマト煮みたいなマークを付けた敵の戦闘機は、性能があまりに隔絶していた。

 運動性、上昇速度と急降下速度、旋回性能、加速度、火力のいずれのパラメータもMC.202を上回っていたのだ。

 カタログスペック上は、MC202の方が僅かに上回っているはずだが……だが、これは計測方法の違いによるものだった。

 日本皇国の機体は、陸海空問わずに戦闘重量、増槽などの機外オプションは付けないが、機銃弾や燃料を機内に満載した「実戦を想定した”戦闘重量”」で計測する。

 対してイタリアは大多数の国がそうであるように、機銃弾を搭載せずに燃料も少なめの「テストコンディション」で速度を計測するのだ。

 どっちが良い悪いではないが、実戦の空では零戦三三型の方が優速だったのだ。

 

 だから、振り切れない。

 どんな機動をしようと、どんな高度だろうと。

 しかも……

 

「なんかパッとしない飛び方をする奴だな」


 そう零戦三三型のコックピットで呟くのは、翔鶴型空母3番艦に乗り、愛機と共に本国から地中海に着任したばかりの海軍中尉、”笹井純一”だった。

 

(初陣だってのに、こんなんで良いのかねー)


 そう呟きながら二機編隊ロッテを組む僚機の位置を確認しつつ引き金を引き、左右主翼合計6丁のホ103で一連射。

 吐き出された12.7㎜のマ弾は吸い込まれるようにヴィスコンテーニ少尉操るMC.202に命中し、いともあっさりと空中で爆散させた。

 

 このマ弾、実は新型であり炸薬をより高性能な物に空気信管を僅かな遅延式とした「機体内部、特に燃料タンクに当たればタンク内部で爆発するように調整」された代物だった。

 セルフシーリングタンクなどの防爆タンク採用機ががちらほらと敵味方問わず出てきたが故の対抗処置である。

 無論、1発当たりの爆発力は手榴弾どころか焚火に投げ込んだ100円ライター程度だが、何十発も当たれば話は別だ。

 塵も積もれば山となり、見事に敵機の空中爆発を引き起こしたという顛末だった。。

 初の実戦参加、人生初撃墜だというのに笹井に興奮した様子も喜んだ様子もない。

 

「こんなもんか……」


 と機首を旋回させて、新たな獲物を探す笹井。

 

(前世のエース、笹井醇一・・が戦死した日の後に初の実戦参加とは……)

 

「これも因果か?」


『中尉、どうかいたしましたか?』


 僚機のベテランから入った通信に、


「なんでもないよ、上飛曹(上等飛行兵曹の略)。ただ、敵が少ないなと思ってね」


『それも敵さんの事情ですから仕方ありませんなぁ。獲物の奪い合いになっております。その中で1機食えて初陣飾れただけでも、中尉はツキがあると思いますが?』


「そういうもんか? まあいい。横取りは趣味じゃない。上飛曹、我々は燃料が持つ限り滞空、上空警戒といこう」


『了解。ところで中尉、敵機が爆散するまで撃ち込む必要はありません。墜ちれば良いのですから。当たり出してから2秒も引き金を引けば十分です』


『そういうものなのか?』


『そういう物です。搭載できる弾には限りがあるのですから、節約できるならするに越したことはありません』




 何とも戦闘中だというのに暢気な会話をしてる物だが、それも無理もない。

 アテネ上空は、いつの間にか日の丸を描いた機体だけになっていたのだから。

 あまりにあっさりした制空権の確保……現在ギリシャに配備されているイタリアン軍機の数、燃料不足と部品供給不良により”共食い整備”が始まっている現状を考えれば、笹井がエースと呼ばれる日は存外遠いのかもしれない。
















************************************















 初手の空爆と制空権の確保。

 未帰還機の数は、想定していたよりはるかに少なかった。

 これは事実上、空襲が奇襲となった事、アテネ上空に発進できたイタリア迎撃機の数が想定よりずっと少なかったこと、更には高射砲や対空機関砲の”稼働・発砲できた門数”が少なかったことが要因として挙げられる。

 武器弾薬、燃料、保守部品の不足は予想以上に深刻なようだ。

 

 

 

 空襲に成功した皇国軍は、戦艦4隻をアテネ沖合南25kmに配置し、上陸地点のグリファダ海岸に揚陸準備の一斉艦砲射撃を開始した。

 事前砲撃、揚陸に障害となる海岸部の敵隠蔽陣地や揚陸地点に砲撃可能な敵砲兵陣地予想地点を艦砲射撃で潰して回る”地ならし”のための砲撃を開始する。

 二式艦上偵察機などの空襲と同時に行われた直前偵察で、かなり広範囲に探ったのにどういう訳か敵陣地は発見できなかったが、短時間の航空偵察では発見できないほど巧妙に隠蔽されている可能性もあったために、グリファダ海岸を射程に収められ、地形的に砲兵陣地が構築できそうな”臭い場所”に取り敢えず砲撃を叩きこむ。

 別に全てを破壊しなくても良いのだ。

 陸戦隊が揚陸し、橋頭堡を確保するまでの間、頭を上げられないようにする……砲撃の妨害さえできれば良い。

 敵味方が混淆し合うような間合いになれば、彼我共に味方を巻き込むような支援砲撃はできないのだから。

 

 

 

 そして艦砲射撃の弾幕の下、煙幕を張りつつ先陣を切るのは、あきつ丸型強襲揚陸艦から真っ先に飛び出た皇国海軍陸戦隊自慢の水陸両用戦闘車両、特式内火艇シリーズだ。

 九八式装甲軽戦闘車準拠の性能を持ちある程度の対装甲戦闘能力を持つ特2式内火艇、九七式軽戦車と同じコンポーネントで、一部を除くイタリア戦車との対戦車戦が可能な特3式内火艇、そして陸を走れる揚陸艇こと特4式内火艇……

 最もハイリスク故に装甲を持つ彼ら水陸両用戦闘車両群に続き、水陸両用の装甲トラックであるスキ車が後に続く。

 

 煙幕に銃弾を防ぐ力はないが、それでも敵の照準を妨げる。

 特に海岸線からの直射照準には有効なのだが……これまたどういう訳か、機銃弾の1発も飛んでこない。

 誰にも妨害されないまま第1陣の揚陸が粛々と行われる中、

 

「なんでまたしても永久陣地の一つも無ェんじゃあぁーーーーーーっ!!?」


 砂浜に降り立った舩坂弘之は、見事に”フラグ”の回収に成功したのだった。

 リビアに続く、二度目の空振りである。

 イタリア軍は緒戦にて日本艦隊に艦砲に無駄弾を撃たせ、船坂を絶叫させるという戦果を挙げたのだった!

 

 

 

 









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