第254話 この世界線で艦娘化すると名家のお嬢様と下町のアイドル娘になりそうな戦艦&駆逐艦2種の話




 今回は、ちょっと皇国海軍の軍艦メカメカしい話に付き合って欲しい。

 実は、この世界線におけるポスト・ユトランド時代の日本皇国戦艦は、史実と大差ない……とは言わないが、大体設計自体は史実と似たり寄ったりの英国戦艦と対比すると分かりやすいかもしれない。。

 

 

 

 加賀型戦艦(加賀、土佐)

 「排水量制限を設けず三連装砲塔、前甲板に2基、後甲板1基とまともな主砲配置にし、機関強化で30ノット近く出るようにした”史実の英国が作りたかったネルソン級”」というイメージ。

 この世界線では、実際にネルソン級(史実より小変更くらい。ただし、史実よりワシントン軍縮条約の排水量制限が緩かったために主砲配置は変わらないが、船体が延長しその分、強力な主機が搭載でき28ノット級の高速戦艦となり副次的効果として史実のそれより運動性が改善されている)を参照に20年代中期に設計、20年代末期に就役している。

 

 ・ネルソン級を参照した技術:傾斜装甲の概念を取り入れたヴァイタルパート、高強度D鋼の採用、重要区画は徹底的に守る反面、損傷しても致命傷にならないような部位には最小限の装甲処理とする”構造的軽量化”

 ・加賀のその他の特徴:非ヴァイタルパート部位の分散防御構造、シフト配置機関、最新のマリナー型舵、バルバスバウなど

 砲自体は長門型のそれと共通だが、三連砲塔の設計はネルソン級を参考にしている事が良くわかるほど共通点が多い。また、上記から分かるように将来型戦艦(後の大和型)に盛り込む新機軸の技術実証艦という側面もあった。

 例えば、主砲の従来の連装から三連装への変更はヴァイタルパート部分の短縮を試みた結果だという。

 建造当初のスペックは、

 

  全長:265m

  基準排水量:39,980t

  主砲:16in45口径長砲・三連装3基9門

  副砲:なし

  高角砲:十年式12㎝45口径長砲・連装8基16門

  機関出力:110,000㎰

  最高速力:28ノット

  

 また、開戦に前後して大規模な近代化改修を受けており以下のような仕様変更となった。

 ・主砲の16in砲を45口径長から天城型と同じ50口径長の長16in砲に換装(射程40㎞)。

 ・高角砲を射撃統制装置付きの九八式長10㎝高角砲に変更

 ・対空・対水上レーダーの搭載

 ・光学照準器・レーダー連動型パラメトロン弾道計算機の搭載

 ・機関を新型の高圧缶型蒸気タービン(150,000ps)に変更

 ・対空機関砲の変更(戊式40㎜機関砲:四連装12基、連装16基など)

 ・船内消火設備の増強

 ・一部、装甲部位の強化

 

 基準排水量は43,000t近くまで上がったが、機関強化の恩恵もあり、最高速力は逆に31ノットに上昇していた。

 大和型戦艦の”大和”が就役するまで”加賀”が皇国海軍艦隊総旗艦を務めていたが、”大和”就役に伴いお役御免となり、この度晴れて激戦地の地中海へ派遣される事になった。

 アイルランド問題(北部アイルランドの売却と米軍の基地化)により、ドイツとの停戦が成ったが英国近海の緊張は継続(むしろ増大か?)しているため、英国本国から離れられない天城型巡洋戦艦2隻の乗組員からは羨ましがられているらしい。


 ちなみにその天城型は、イメ-ジ的には”16in砲に換装し、それに相応しい防御にした史実の最後の英戦艦『ヴァンガード』”という感じだ。

 但し、高角砲や対空機関砲の副武装の種類数、機関は近代化改修後の加賀型と同じ、というか長砲身の主砲や高圧缶など、むしろ天城級を参照した近代化改修プランを受けたのが加賀型戦艦だったと言うべきか?

 実際、天城型は海軍軍縮条約失効後の1935年以降に設計された、大和型が登場するまでは皇国海軍最新の戦艦だった。




***




 そして、同時に無視してはならない存在が、駆逐艦だろう。

 実は開戦後、本格的な大量生産に踏み切られた駆逐艦は、日本皇国海軍では大きく分けて三種類しか存在しない。

 基本的には、

 

 ・松型戦時量産汎用駆逐艦

 ・島風型対潜駆逐艦

 ・秋月型防空駆逐艦

 

 戦時中、他の駆逐艦型が出てきたとしても、上記三種いずれかのバリエーションでしかない。

 実はこの三種、技術的バックボーンには共通項がある。

 

 ・高圧缶をシフト配置する事によりコンパクト高出力と被弾による機関ダメージの分散を両立させている

 ・ブロック工法、電気溶接を大々的に取り入れることにより、量産性を引き上げている

 ・レーダーやソナーなどの対空・対水上・対水中探知機材の標準搭載を前提とされた設計

 ・省力化の一環としてパラメトロン型火器管制装置が導入されている(ダメコン要員などが減らせないため)

 ・自動消火装置の導入や中空装甲の概念など、間接的防御力・生存性の強化(紙装甲なのは変わらないが)

 ・居住性は、英国駆逐艦準拠(史実より大分マシ)で改善されており、長期航海に対応している

 ・ディープV型船底構造を採用、排水量の割には高い波浪耐性・航洋性を持つ


 などだ。

 実は、大和型戦艦や大鳳型装甲空母と並び、皇国海軍の中でも最も新しい設計の船なので、このような新機軸が積極的に導入されていた。

 松型は以前少し触れたので、今回は島風型を上げてゆきたい。

 

 

 

 島風型対潜・・駆逐艦

 全長:135m

 基準排水量:3,050t

 機関出力:75,000ps

 最高速力:40ノット

 武装

 ・九八式長10㎝高角砲 連装4基8門(レーダー統制高射装置×2)

 ・零式61㎝五連装酸素魚雷 2基

 ・戊式40㎜対空機関砲 連装4基

 ・戊式25㎜対空機関砲 単装8基

 ・24連装前方対潜爆雷投射器”ヘッジホッグ” 4基

 ・3連装対潜迫撃砲”スキッド” 4基

 ・九四式”単装型”対潜爆雷投射機 2基(実質的に史実の三式爆雷投射機。両舷装備)

 特記装備

 対空・対水上レーダー

 艦首バウ底部ハルにアクティブ・パッシブソナーを搭載

 戦闘指揮所(CICルーム)の設置とそこからの統制戦闘指示

 建造数:計画艦まで含めて50隻以上

 

 スペック的にはなんとなく面影はあるが、中身は別物。

 そもそも開発コンセプトが異なっていて史実が「仮想敵である米国艦の高速化に対応し、高い速力で優位な雷撃ポジショニングを行う」だったのに対し、今生の島風型は

 

 ”速力を生かして、敵潜水艦が雷撃ポジションを取る前に速やかに攻撃ポイントに到達し、ありったけの対潜火器で沈める”

 

 をコンセプトとした”潜水艦絶コロ艦”となっている。

 武装からしても、史実では主兵装だった魚雷が2/3まで減らされ、500t近く増大した排水量は対潜装備と対空装備にリソースが割かれている。

 ちなみに長10㎝高射砲は、半自動装填式で1門あたり毎分20発以上の安定した発射速度を誇り、また連装2基4門が1組でレーダー統制のパラメトロン型高射装置(火器管制装置)に連結される、初期の”半自動対空迎撃システム”を構築している。

 島風型はこれを2セット前甲板と後甲板に背負式で装備しており、同時に敵機2機に対応可能となっていた。

 余談ながら松型は1セット、驚くべきは秋月型で魚雷装備を廃することを代償に、これを3セット搭載し、駆逐艦の枠組みを越えた防空能力を持っているようだ。

 対潜特化のようだが、雷装・砲撃兵器を加味すると割とバランス型だったりする。

 以前なら”艦隊型駆逐艦”と呼ばれていたが、1942年4月1日付けで艦種名称の改定が行われ、

 

 ”機能分与を明確化する”

 

 を理由に、対潜装備が最も充実している島風型は”対潜駆逐艦”という新たなカテゴライズがなされた(混乱を避けるため、従来の雷装重視型の駆逐艦は、艦隊型駆逐艦という名称に留め置かれた)

 特筆すべきは、史実との真逆のその生産数で、随分と姉妹の多い駆逐艦シリーズとなった。

 

 次に紹介するのは、当然のように”秋月型防空駆逐艦”だ。




 秋月型防空・・駆逐艦

 全長:140m

 基準排水量:3,300t

 機関出力:75,000ps

 最高速力:37ノット

 武装

 ・九八式長10㎝高角砲 連装6基12門(レーダー統制高射装置×3)

 ・戊式40㎜対空機関砲 4連装4基、連装4基

 ・戊式25㎜対空機関砲 単装8基

 ・24連装前方対潜爆雷投射器”ヘッジホッグ” 2基

 ・3連装対潜迫撃砲”スキッド” 2基

 ・九四式”単装型”対潜爆雷投射機 2基(実質的に史実の三式爆雷投射機。両舷装備)

 特記装備

 対空・対水上レーダー

 艦首バウ底部ハルにアクティブ・パッシブソナーを搭載

 戦闘指揮所(CICルーム)の設置とそこからの統制戦闘指示


 主機は島風型と共有してるので、史実の計画艦”改秋月型”のそれだが、雷装を全廃してその代わり背負式で連装6基12門の長10㎝高角砲を搭載し、それを3基のレーダー統制高射装置に繋げる、つまりパラメトロン型の火器管制装置の半自動迎撃システム3基を搭載し、同時に3機の敵機まで対応可能という、防空駆逐艦というカテゴライズに名前負けしないスペックを誇る。

 あるいは「雷装を失くし、島風型の対空能力を倍加(連装砲1.5倍+対空機銃の大幅強化)させ対潜装備を半減させた駆逐艦」と考えて良い。

 雷装が無い為、対艦戦闘は高射砲を両用砲として使うほかないが、装甲の厚い重巡洋艦以上の船なら効果は薄くとも軽巡洋艦以下、特に同種の駆逐艦以下の船には長砲身高初速による直射照準での命中率と貫通力の高さ、対空砲である故の砲塔旋回速度の速さ=目標に対する追従性の良さ、高い発射速度による時間当たりの破壊力の大きさは凶悪過ぎる脅威だった。

 言ってしまえば、

 

 『高射砲で徹甲弾撃ち出せば重戦車の正面装甲貫けるんだから、紙装甲の軍艦相手でもいけんだろ』

 『戦艦をKOできるパンチ力はないけど、ジャブの連打で同じ位の相手なら瞬殺する』

 

 という感じだ。

 特に地中海で顕著だったのは、イタリア海軍名物のMAS魚雷艇との戦闘で、いくら魚雷艇が小さいとは言っても航空機よりは大きいし遅く、なおかつ相手は水面上を二次元運動しかしない。

 速度は43ノットでる魚雷艇の方が優速だが、攻撃範囲に入ってしまえば高射砲の射程と発射速度で速度差を埋める事ができ、命中さえしてしまえば榴弾一発で相手は木っ端微塵だ。

 航空燃料不足が響いてるのかもしれないが、エーゲ海やアドリア海、イオニア海近辺では実際に航空機より魚雷艇のような小型船舶と相対することが多かったようだ。





 本国では総旗艦を務めていたが地中海では新顔の加賀型戦艦と、既に地中海でマカロニイタリア潜水艦や魚雷艇を沈めまくっている信頼のスタープレイヤーである島風型駆逐艦と秋月型防空駆逐艦……何もかも対照的だが、共に皇国海軍を代表する戦力であり、同時にイタリア軍にとっての”最悪であり災厄”であった。

 

 そして今、その膨大な火力がギリシャ王国に巣食うイタリア軍に向けられようとしていた……

 

 

 
















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