第15章:ギリシャ奪還作戦 ”Operation EOS”

第253話 1942年度日本皇国海軍陸戦隊、装備と編成の概要(ロケラン、グレラン、分隊とか)




1942年9月某日、エーゲ海、クレタ島

日本皇国海軍陸戦隊駐屯地




「こりゃあ、見事にパクったもんだな」


(いや、こういうのも再現というんかねぇ~)


 俺は今回の作戦で海軍陸戦隊に制式採用され実戦配備された新装備、”二式九糎対戦車噴進砲(簡易表記だと二式ロタ砲)”と”二式四十粍擲弾銃(二式グレラン)”を見やる。

 前者はまんまかつて自衛隊でも使われていた”M20A1スーパー・バズーカ(自衛隊名称:89mmロケット発射筒M20改4型)”、前後で分割できるアルミニウム合金製の本体までまんま再現。

 後者は、”M79グレネードランチャー”だな。正直、前世のM79の二式グレラン並べられても見分けが付かない自信があるぞ。

 

 ついでに訓練場には、同じく”一式七糎半無反動砲”と”二式十糎半無反動砲”が並べられていた。

 こっちは、前世米軍の”M20/75mm無反動砲”、”M40/106mm無反動砲”だな。

 どうやら異常な速度で進化する戦車の装甲に直ぐに対抗できなくなると踏んだのか”M18/57mm無反動砲”は開発されなかったようだ。

 戦車殴るなら、確かに中途半端に軽い57㎜無反動砲より90㎜ロケランの方が効果的だわな。対装甲用には、どうせHEAT(成形炸薬)弾しか使わんし。

 その分、来年あたりには個人携行できる”M67/90mm無反動砲”とか出てきそうだが……

 

「何というか……すっごく朝鮮というか、ベトナムというか」


 ぶっちゃけ前世の大戦末期からベトナム戦争初期の兵器の見本市って感じだ。


(疑いようもなく、転生技術者が悪ノリだろうなぁ……)


 まあ、意図は分かる。

 最近、急速に機甲化、自動車化が進んでいる陸軍さんとは違い、俺たち海兵や陸軍の中でも空挺は、あんまり大きく重い装備は持てない。

 俺達は上陸用舟艇て砂浜に乗り上げたら直ぐドンパチして橋頭堡確保せにゃならんし、空挺はパラシュートで空から飛び降りたら即ドンパチだ。

 バズーカは射程は短いが、軽くてその割には大口径で高威力。

 擲弾銃は例えば、八十九式なんかの擲弾筒と違い1発の威力は落ちても肩付けでしっかりホールドして照準できるから命中精度が高く射程も長い。

 無反動砲も通常の同口径の野砲なんかに比べると射程も初速も無いが、反動極小で何よりとにかく軽い。

 105㎜無反動砲は軽車両でも運用できるし、75㎜に至っては頑張れば人力で運べなくもないし、ちゃんとした砲架ではなく機関銃の三脚とかに据え付けても発砲できる。

 海軍陸戦隊としちゃあ、間違いなく火力増強に直結するありがたい装備なんだが……

 

(すんげー、微妙な気分だ)


「小隊長殿、朝鮮やベトナムがどうかしましたか?」


「いや、そういえばどっちもギリシャと同じ半島国家だなと思ってな」


「まあ、そうですな」




***




 ああ、そういや言うの忘れていたな。

 なんか久しぶりだが……日本皇国海軍陸戦隊中尉、”舩坂弘之”だ。

 階級は上がったが、率いる部隊の規模は変わらず小隊長だ。

 まあ、補充兵はあれど陸戦隊自体が別に拡大して師団編成できるようになったわけでもないので当然か。

 いや、少しは以前より増強されているかねぇ。正式には、俺が率いる小隊は、”火力増強小隊”。

 普通、通常編成の3個分隊くらいで小隊を組むんだが、俺の小隊は通常編成の3個分隊に火力支援分隊が1個くっついてるって感じだ。

 まあ、師団は無理でも海軍陸戦隊自体が旅団規模にはなっているから、微増ってところか?

 

 武器の話が出たついでに、興味があるなら海軍陸戦隊の最新の編成の話でもしておくか?

 戦闘単位で最少となる通常分隊編成は、14名が陸戦隊の基本だ。

 大雑把だが、こんな感じかな?

 

 ・分隊長:説明の必要はないかもしれんが、経験豊富な古参の下士官が務める事が多いな。

 ・通信兵:通信機背負った分隊長付きの兵隊。自衛用に”海兵・・28式短機関銃”を装備。

 ・分隊機関銃手:ライセンス生産版のブレン軽機関銃手とその弾倉/予備銃身運搬・装填係のツーマンセル

 ・分隊擲弾銃手:前出の二式擲弾銃の使い手と擲弾の運搬係のツーマンセル。擲弾銃手は40㎜擲弾を6発、運搬係は12発を携行。コイツらは自衛用で海兵28式短機関銃を持っている。

 ・分隊狙撃手;いわゆるマークスマンとスポッター。マークスマンは光学照準器スコープ付きの梨園改三式歩兵銃、スポッターは高倍率双眼鏡と自衛用の海兵28式短機関銃の組み合わせだ。


 残る6名枠がいわゆる一般兵で、梨園改三式歩兵銃と手榴弾で武装している。

 言うまでもなく全員、武35式軍用自動拳銃(ブローニングHPのライセンス生産番)は携行してるぞ?

 

 んで火力支援分隊ってのは読んで字のごとく、さっきのバズーカやら軽迫撃砲やら無反動砲やらを運用する火力特化の支援分隊って感じだ。

 ちょっと面白い……かどうかはわからんが、基本的な歩兵装備が”チ38式半自動歩兵銃”の陸軍サンと違って、海軍陸戦隊は短機関銃のヘビーユーザーだ。

 さっきからちらちら出てきてる”海兵28式短機関銃”ってのは、従来の28式短機関銃の木製ストックを独立したピストルグリップと折り畳み式のアルミ合金製ストレートストックに変更したものだ。照準器もより簡易的なL字サイトになっている。

 イメージ的には、史実では戦後に出てくるスターリング短機関銃の原型みたいな感じだ。

 こいつはいいぞ~。オリジナルより軽いうえにストック折りたたんでおけばコンパクトで携行しやすい。

 陸戦隊が短機関銃のヘビーユーザーになった原因の一つは、俺達は狭い上陸用舟艇や特4式内火艇(水陸両用兵員輸送車。LVTP7のご先祖様みたいなもんだ)、あるいは”スキ車”って水陸両用装甲トラックに乗らなくてはならんから、小銃より軽くて短い、射程はないけど取り敢えず弾幕張ったり面制圧できる短機関銃は重宝するってのがある。これまんま海兵28式の開発経緯でもあるんだな。

 

 もう一つは、英国の海軍や海兵隊が使用する”ランチェスター短機関銃”ってのが、海兵28式短機と同じくドイツ・ハーネル社のMP28短機関銃を原型とする短機関銃で、おかげでマガジンは共用できるんだわ。

 

 海兵隊、海軍陸戦隊ってのは揚陸戦の尖兵だ。揚陸戦の規模によっちゃあ日英共同戦線は普通にあり得るから、その配慮って奴だな。

 実際、歩兵装備から戦車に至るまで、海軍陸戦隊は英国軍と繋がる装備が陸軍よりも多いんだよ。

 

 

 

 話を戻すと、その複数分隊を統括するのが小隊長である俺だが、俺には小隊長付先任下士官ってのが就く。言ってしまえば、小隊の参謀役、それがいつも話してる軍曹だ。

 ちなみに分隊であれ小隊であれ、隊長ってのはある程度の装備の自由裁量権がある。

 隊長ってのは本当なら直接戦闘ではなく、部隊を指揮するのが仕事だから普通は短機関銃程度の自衛用の軽武装、拳銃しか持たないってのも珍しくない。

 だけど俺の場合、自分から鉄火場に飛び込んで最前線指揮ってのが当り前だから、軽い銃ってのはどうにも頼りなくていかん。

 どうせ筋力も体力も余ってんだから、ブレン軽機を愛銃にしてるって訳だ。

 実は二式擲弾銃も手榴弾の代わりに携行装備に加えようと思ってる。

 世界一有名なサイボーグ映画の2作目とか、”黒いサンゴ礁”とか好きなんだよ。

 どうでも良いが、俺は後ろ腰に背向かいで2丁指している。張の旦那いいよな~。あれは出来る男のダンディズムを感じる。

 

 

 

「なあ軍曹、今度こそ厳しい戦い、いや”まともな戦い”になると思うか?」


 リビアでは何というか……不完全燃焼だったからな。

 

「どうでしょうねぇ。場所が変わったとはいえ、相手は同じイタ公だ。むしろ、イタ公とバチバチやってる共産パルチザンの方が、骨があるかもしれませんぜ?」


「……軍曹は、ELAS(ギリシャ人民解放軍)やKKE(ギリシャ共産党)と戦闘になると?」


「俺達はギリシャの王様に味方する軍隊で、共産主義者がイタ公と一緒に王様も駆逐するって息巻いてんなら、戦うのは必定。それが戦争ってもんでしょう?」


「まあ、それもそうだな」


 軍曹のこういうリアリストな部分は酷く好感が持てる。

 

「精々、歯ごたえがある相手が居ることを期待しよう」


 舐めプをする気は無いが、退屈なのも正直、勘弁だな
















************************************















 ギリシャ奪還作戦……日本皇国主体の作戦であるため、作戦名は日本語で”《b》暁の女神作戦/b(英語表記:Operation EOS)”とされた。

 ギリシャ神話に因んだ名前にしよう、それもできれば女神の名にしようという路線は早くに決まったが、”アテナ”は露骨すぎるし、”勝利の女神(=ニケ)”の名を冠するのもやはり露骨だという意見……何とも日本人らしい意見が続出した。

 その時、ある軍の高官が、

 

「ふむ……イタリアの支配という”闇の時代”を抜けて、本国解放という”暁の時”を迎える……確か”イオス”という暁の女神が居なかったか?」


 それは良いと賛成の声多数。一部、「あれ? そんな名前のカメラなかったっけ?」と呟いたのは転生者で間違いないだろう。

 その作戦計画をクレタ島のイラクリオンに遷都を宣言し、日本皇国軍に守られながら今も踏ん張るギリシャ国王”グレゴリウスⅡ世”に奏上したところ満面の笑みでそれを了承したという。

 

 

 

 王の了承を得た段階で、ついに下準備を重ねていた所に最終調整へと入った。

 当初、戦艦6隻と空母6隻、そしてあきつ丸型強襲揚陸艦4隻を中核とする日本皇国海軍が、現状で機動的に運用できる戦力のほとんどを投入するという大規模な物だったが、ギリシャで展開しているイタリア軍の規模と、ギリシャ地元共産パルチザンとの戦闘での疲弊具合から、揚陸部隊はともかく海上兵力が些か過剰と見積もられた。

 

 実際、揚陸作戦を妨害できるようなイタリア海上兵力は残ってないのだ。

 タラント港強襲作戦で、大半がスクラップになったが残存イタリア艦艇はナポリまで引いてしまって久しい。

 メッシーナ海峡は膨大な機雷で封鎖され、もし皇国艦隊をエーゲ海で迎え撃とうとするなら、シチリア島を大きく回って出撃するしかない。

 しかし、そうなれば確実にマルタ島の哨戒網に引っかかるし、そうなればアレクサンドリアからマルタに分派されている英国機動部隊が「ボーナスステージ!」とばかりに嬉々として殴りかかるだろう。

 いや、それはおそらく日本の陸攻隊も同じだ。

 護衛機のいない艦隊など、両者にとって良いカモでしかないのだから。

 

 そして、比較的被害が少ないと思われる潜水艦も、船首バウ艦底ハルにアクティブ・パッシブソナーを備え、対潜兵装ガン積みの”島風型”対潜・・駆逐艦やKMX(MAD)搭載の二式大艇に追い回され、日々、同族を減らしていた。

 

 逆にイタリアのバルカン半島に対する海路は、地中海・エーゲ海・イオニア海は言うまでもなく東岸のお膝元、アドリア海にまで日本潜水艦は進出し、通商破壊作戦で好き放題やっているので、駐ギリシャイタリア軍は補給も満足に受け入れられていないようだ。


 


***




 こんな状況下では、投入戦力はオーバーキルも良いところで非効率。

 しかし、ただ投入戦力削減では芸がない。

 そこで考えられたのは”欺瞞工作・・・・”。

 

 大戦劈頭から地中海で奮闘してきた長門や陸奥、翔鶴に瑞鶴がオーバーホールの時期を迎えたこともあり、本国への回航をスケジュールに組み込み、新たに皇国本土から分派されてきた加賀型戦艦×2、翔鶴型空母の3・4番艦、あきつ丸型強襲揚陸艦の追加2隻は、増援ではなく「あくまで交代要員・・・・」として表向きは扱うという事になった。

 

 まあ、”誤認してくれれば(引っ掛かってくれれば)儲けもの”程度の欺瞞工作だったが……


 楽団に”軍艦”行進曲で送り出され、本国に戻る日本艦隊の記事を見たイタリア軍は涙を流したという。

 何しろタラント港で、リビアで、クレタ島で、地中海全域で散々痛めつけられたのだ。

 長門を頂点とする艦隊は、まさに恐怖と怨嗟の対象だった。

 

 そして……

 日本本土からやって来る2隻の戦艦は長門より強力であり、2隻の空母は地中海を去る空母の”妹たち”で、より凶悪スペックな艦上機を搭載している事には目を向けなかったようだ。

 というか、目を反らしたのかもしれない。

 

 他にも、「英国生まれの金剛デース!」なノリで英国で建造された”長女”の流れをくむ金剛型2隻は、アレクサンドリアやジブラルタルでもフルメンテでもオーバーホールでも可能だったので本国に戻る必要がなく地中海に残っていること、また強襲揚陸艦が倍加していることなどは、都合よく忘れ去られていた。

 

 言い方を変えよう。

 後詰めの陸軍やクレタ島からの空軍機の支援はともかく、日本皇国は海上兵力に関してはギリシャ王国奪還を戦艦×4、正規空母×4、揚陸艦×4で可能だと判断していたのだ。

 

 ”いや、それでも十分にオーバーキルじゃね?”

 

 とか言ってはいけない。

 加賀や土佐だって、実戦経験や戦訓を積みたいのだ。

 この世界線における零式艦上戦闘機の最終進化型であり、完成形でもある”零戦三三・・型”だって艦上戦闘機としての活躍の場を欲してるのだ。

 

 

 

 

 

 









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