第241話 三式戦車、その概要とコンセプト




 さて、長らく紙面が紅茶色英国面に染まったり、スパイシーでホットな感じのサンクトペテルブルグに流れたが……

 久しぶりに機械油臭い話をしようと思う。

 

 そう、先行量産型が実戦テストも兼ねてシリアやレバノンに投入されようとしている”三式(中)戦車”だ。

 特に技術畑が歴代の転生者だらけの今生日本、日本皇国で開発された戦車は、中々にユニークな特性を持っていた。

 

 まず、主砲はスウェーデン・ボフォース社の”luftvärnskanon m/29 75㎜高射砲”のライセンス生産品、”九九式七糎半野戦高射砲”を戦車砲に改設計した”二式75㎜53口径長戦車砲”だ。

 どうやら戦争に本格参戦するようになってから、日本皇国でもアラビア数字やローマ数字を用いた”簡易表記”されるケースが増えているらしい。

 ちなみに英国式の表記にすると”75㎜14ポンド砲”という事になり一式戦車などの九〇式野砲由来の75㎜45口径長戦車砲が同じ表記だと”75㎜11ポンド砲”、三式の後継の四式ないし五式戦車(仮称)が英国由来の76.2㎜58.4口径長砲、いわゆる”17ポンド砲”を採用する予定なので、このポンドが砲弾(弾頭)重量をさしている事を考えると、日本皇国の戦車はバージョンアップする度に砲口径は大差ないのに3ポンドずつ増えているのが、興味深い。

 

 性能は、皇国軍が標準的な徹甲榴弾と位置付けている”APCBC-HE”を用いた場合、「1,000mで傾斜30度の100㎜の標準的な装甲板を貫通できる」くらいだ。

 まあ、史実の四式七糎半高射砲や試製七糎半戦車砲(長)に比べてかなり高い貫通力を示しているが、これは大日本帝国よりも潤沢にタングステン・クロム鋼やニッケル・クロム鋼などの高硬度高比重金属を潤沢に使える環境(特甲、特乙などと同じ金属が標準徹甲弾でも使える)と、砲弾や主砲自体の加工精度や強度に強く影響が出る工業力が、史実の日本に比べて日本皇国が高水準であることも理由としてあげられる。

 

 そもそも、原型からして薬莢長だけなら米軍のパーシングなどに採用された90㎜戦車砲と同等の約600㎜なので、火薬がまともならこのくらいの威力は出せるという事だろう。

 ちなみに純粋徹甲弾であるタングステン弾芯コアの高速徹甲弾(APCR)を用いた場合の貫通力は、その約4割増しとされた。

 別の言い方をすれば、当時の同格の75㎜戦車砲の世界水準を上回っているが、かといって圧倒的というほどでもない。

 原型からして優秀な砲であることは間違いないのだが。

 だが、それより高威力の17ポンド砲のライセンス生産が早く見積もっても43年まで待たないとならないと判明した皇国戦車開発チームは、別の方向性でサヴァイヴァビリティを底上げする事にした。

 

 

 

 参考にしたのは、史実のM4A3E2突撃戦車、通称”シャーマン・ジャンボ”。つまりは、重装甲化だ。

 三式戦車は溶接構造の車体に鋳造砲塔を組み合わせるというこの時代のオーソドックスな構成だが、装甲板自体を強度が同等の浸炭軽量装甲板(ニセコ鋼板)を採用したりそこまで厚くする必要のない部分の装甲を性能に影響が出ない範囲で薄くするなどの軽量化の努力の甲斐あり、砲塔正面127㎜、砲塔側面105㎜、車体前面120㎜、ザウコップ・スタイルの防盾部分に至っては155㎜という装甲厚があるのに、どうにかこうにか空虚重量35t以内(つまり、戦闘重量や全備重量は40t近くいくという意味でもあるのだが)にギリギリ収まるように設計できた。

 無論、車体正面も砲塔も避弾経始を考慮された丸みを帯びたデザインで、ショット・トラップ対策もしっかり行われている。

 とはいえ、35t級というのは従来の日本皇国戦車よりもずっと重い数字であり、鈍重であれば価値も意味も薄れるのでそこそこの火力と重防御に機動力を不足させないため、エンジンや駆動伝達系、足回りなどがかなり念入りに、あるいは執念深く設計されている。

 

 まずはエンジンから見ていこう。

 名称こそ”統制型一〇〇式発動機”シリーズ、その最大排気量モデルである”三菱AL”型と同じであるが、これまた中身は随分とパワーアップしている。

 概要から言えば、”空冷式V型12気筒SOHC渦流室式ディーゼルエンジン”で、排気量は37.7l、出力は安定して550馬力を発生する。

 同時期のソ連のT-34戦車などに採用された”V-2-34”に比べると、排気量1.2lほど小さく、冷却に不利な空冷式を採用しているにも関わらず、出力で50馬力ほど勝ってる計算になる。

 それだけ熱効率が良いという事だが……これも何もチートや魔法の様な特別なことではなく、単純な技術的な努力の積み重ねだ。

 例えば、耐熱性・耐久性の高い鋳鉄製のシリンダーケースとスリーブに、4000番系耐熱アルミ合金のシリンダーヘッドや鍛造ピストンを組み合わせ、予備燃焼室方式より燃焼効率が良い過流室式を採用。

 ディーゼルエンジンには必須の燃料噴射装置の制御に、電子制御式一歩手前の”パラメトロン式電気演算制御燃料噴射装置”を耐久性が高く故障時にはユニットごと交換できるユニットボックス式演算装置として採用。

 また、冷却効率で劣るのをわかっていながら水冷式(液冷式)ではなく、シロッコファンを用いた(強制)空冷式にしたのも理由がある。

 まず、水冷式は長い冷却水ラインをエンジンに巡らせねばならず、また戦場の蛮用を考えると、パイプに亀裂が入って冷却水が漏れ出したり、冷却水ポンプが故障しただけでオーバーヒートを起こす危険性がある水冷式はリスキーだと考えられたからだ。

 つまり、電動のシロッコファンで冷却する方がまだ故障率や破損リスクが少なく、修理や交換も簡単だと考えられた。

 熱処理能力の低さは、エンジンブロック自体の耐熱性をあげること、熱伝導率が高い(放熱しやすい)アルミ合金を上記のように熱が貯まりやすいシリンダーヘッドに採用すること、また潤滑油の一部を冷却に用いる(そういう意味では、初歩的な油冷エンジンとも言える)こと、放熱フィンを念入りに設けることなどで対処可能だと考えられ、事実、そうなった。

 また、空冷式のメリットは(本来は)絶対性能こそ水冷式や液冷式に譲るが、それらの方式に比べて日本人が大好きな小型軽量コンパクトにエンジンが設計できるというメリットもある。つまり、エンジンも軽量化に一役買ってるのだ。

 

 そして、比較的安定して高出力を出せるエンジンの出力を動力輪に伝える変速機・操向システムは英国由来のメリット・ブラウン式変速装置が新たに採用されている。

 つまりは、三式戦車もまた「この時代では珍しく”超信地旋回”ができる戦車」の一角だという事だ。

 


***




 そして、足回りなのだが……車体の前後の動力輪を含む二対四基の大型転輪は負荷が大きいので頑丈なダブル・トーションバーで支持(史実のV号戦車と似た構造)されているが、上部のガイドローラーはともかく下面の小型支持転輪は、前後二対のホルストマン方式のサスペンション付タンデムローラー・ボギーユニットを、更にオイルダンパーを介して連結し、ある程度の自由運動を可能とした”発展型・・・シーソー式連動懸架”が採用された。

 多少構造が複雑になってしまうが、サスペンションを全て車外に取り付けられ、車内容積を多くとれるし、相応に地面に対する追従性が高く、サスペンション・ストロークもそれなりにとれるというメリットがあった。

 また、もう一つのメリットは車体の乗員座乗スペースに邪魔なトーションバーが横断しないために底面にいざという時の脱出ハッチが設置できるのも大きかったようだ。

 実際、この足回りの設計はかなり秀逸だったらしく、計算上は荷重があと10t、45t級になっても耐えられる事が調査で判明している。

 なので、後継の17ポンド砲搭載戦車にもダンパーなどを大容量化した、基本構造が同じの小改良型が採用されている。

 

 ただ、サスペンションが外付けで剝き出しのままだとソ連が大好きな対戦車ライフルの格好の的になり兼ねないので、きっちりとスカートアーマー(ドイツで言う”シュルツェン”)を外側に装着している。

 また履帯は、580㎜幅のダブルピン・ダブルブロック構造の耐久性の高い割と贅沢な物を使っているようだ。




 駆け足ではあったが、主要コンポーネントの解説はこのくらいにして、今度は少し”地味に戦闘力を底上げする装備”を見てゆきたい。

 照準器は最新のステレオ式ではなく、合致式のオーソドックスでコンパクトなタイプだが、照準器自体を二軸ジャイロ安定化させ、主砲自体にも1軸(上下動)ガンスタビライザーを搭載、振れ幅を小さくしてある。

 そして、より強く安定した照準器の射撃軸線に砲身が合致した際に撃発する”オートスレイブ式撃発装置”を標準搭載していた。

 実はオートスレイブ・システム、電子回路ではなく電気回路でも普通にシステムが構築できる。

 何しろ、射撃軸線が一致した時に発砲するだけだから、様々なパラメータが必要な弾道計算機や射撃統制装置の様な高度で複雑な演算装置は必要としないのだ。

 なので、照準器自体は単純な構造でそこまで高精度な物でない(IV号戦車後期型のTZF5f/1と同水準)にも関わらず、命中精度・命中率は明らかに他国の戦車に比べて高くなっているようだ。

 ついでにいえば、この戦車、もう一つ照準装置が付いている。

 主砲の砲身を挟んで同軸機銃の反対側に付いている装備だが、それは”スポッティング・ライフル”、もしくは”レンジガン”と呼ばれる。

 具体的には一部の転生者から”ヘカテーたん”の愛称で呼ばれる”試製二式長距離狙撃銃”のコンポーネントを利用して作られた50口径の殺傷目的ではなく、「戦車砲の照準目的の銃器」だ。

 原理は単純で、主に戦車砲の徹甲弾の弾道をトレースするように調整された曳光弾トレーサーを主砲発砲に先駆けて発射し、曳光弾は派手に発光しながら(燃えながら)飛ぶのでその軌跡をみれば弾道の目安になるし、また、理論上は曳光弾が命中した付近に主砲弾も命中することになる。

 原始的な方法に聞こえるかもしれないが、乱戦で咄嗟に素早く照準しなければならない場合などでは、かなり実戦的な装備だったらしく、史実でもレーザー・レンジフィンダーが登場するまでは繫盛に使われていた。

 ただし、欠点もあり、事前にこちらの砲撃を察知されてしまうので、待ち伏せや奇襲には使い勝手が悪いこと、そして、曳光弾が燃え尽きてしまう以遠の距離では照準装置として意味をなさない事だ。

 例えば、史実の英国の戦後戦車で使われていたレンジガンは大体2,300m付近で燃え尽きてしまうらしい。

 だが、三式の戦車砲の性能や有効射程、想定される交戦距離を考えれば、有益な装備と言えるだろう。

 

 

 

 また、砲塔バスケットは標準設定されているが、着目したいのは砲塔旋回装置にこの時代では最先端のパワフルな”電気油圧式”が採用されている事だろう。

 重装甲にし大型の砲を搭載すれば、当然、砲塔は重くなる。

 そうなれば、必然的に旋回させるのに大きな力が必要になってくるのだが……実はこの時代、重装甲化が優先されるあまり、割と砲塔旋回速度は後回しにされている部分がある。だが、考えてみて欲しいのだが、「どんな強力な大砲も、敵に向けられなければ無意味」なのだ。

 実際、三式戦車の砲塔旋回速度は、同格の他国の戦車に比べて遥かに早い。

 この優位性は、他国がこぞって電気油圧式砲旋回装置を採用する戦後しばらくまで続く事になる。

 

 また、ドイツに倣って無線機も中々に良いものを積んでいる。

 流石にトランジスタタイプではないが、真空管の中でも頑丈なメタル管を採用し、マウントやケースを工夫し無線機自体を防塵・防振としタフネスさと高い信頼性を維持できるようにしていた。

 

 また、上記の装備を有効的に使うには、相応に高い電力、発電量が必要だが……

 バッテリー自体は、一般的な鉛蓄電池だが、搭載量が多く、何よりもディーゼルエンジンに接続される発電装置がこの時代では標準的なダイナモではなく、”オルタネーター”が採用されているのが目新しい。

 三式戦車は、発電能力も蓄電能力も、他国の戦車に比べてかなり高い。

 その潤沢な電力量の為に夜間哨戒能力で役立つサーチライトも標準搭載できるようになった。

 

 副武装は、主砲同軸に英国でも標準化しつつある8㎜マウザー小銃弾を使う”ベサ機関銃”、砲塔上には50口径のヴィッカース機関銃がシールド付き旋回式で対空機銃も兼ねて搭載されているが、実際には地上掃射で使われるケースの方が多かったようだ。

 

 車体正面装甲に大きな穴をあけることでの防御力低下を嫌い、車体正面機銃は未搭載となった。

 そして、発煙筒投射器は三連装で砲塔後部左右に搭載……これは何やら、設計思想というより設計者の思想を感じる。

 

 設計思想の話が出たついでに、地味に効果ありそうなのは戦車自体の構造もそうだ。

 例えば、先にあげた燃料噴射装置の制御システムや無線機、照準器など可能な限りユニット構造が採用されていて「故障したら、その場の修理ではなくユニットごと交換して継戦能力を維持」という発想で設計され、例えば、メリットブラウン式の変速・操向装置は、特にエンジンから軸出力を減速させるために一番負荷がかかる変速機部分をカセット構造にしており、相応の機材があれば野戦整備でも簡単に交換できるようになっている。

 この時代の戦車は、トランスミッション系が文字通りの”アキレス腱”になることも多い為、地味にこの意味は大きい。

 少なくとも「ミッションが逝かれて戦場で放置される戦車」は、大幅に少なくなるはずだ。

 また、メンテナンスフリーのパーツも可能な限り使われていて、整備の手間を大きく減少しているようだ。

 

 また、史実のバトルプルーフされたM4シャーマン後期型と同等かそれ以上に人間工学に基づいて操縦系・操作系は配されており、感覚的に分かりやすく、またあちこちに油圧アシストが入ったりもするので、実際にかなり扱いやすい戦車に仕上がっているらしい。

 当然、萌えイラストで彩られた「馬鹿でもわかる操縦マニュアル・整備マニュアル」も同梱されている。

 ちなみにこのマニュアル、日本語版と英語版があり、描かれてる女の子が違うキャラらしい……やはり、どれほど世界線が変わろうと日本人は日本人ということだろうか?

 

 

 

***




 長々と書いてきたが、結局のところ……

 

 ・高い装甲防御

 ・圧倒的ではないが、そこそこ高い火力

 ・必要にして十分な機動力


 とまあ、前モデルである”一式戦車”の正常進化版といえる特徴を持っていた。

 言ってしまえば、”機動防御”戦にきわめて使い勝手の良い”高機動移動トーチカ”というコンセプトだろうか?

 日本皇国らしいといえば、らしいコンセプトだが……

 

 しかし、隠しコンセプトと呼べるものがある。

 それは、”防御力の高さと、機動力で敵の利点や長所を潰す”という物だ。


 例えば、防御力が高ければ、”敵の相対的有効射程=三式戦車の装甲を貫通できる距離”は短くなる。

 つまり、敵は接近するしかなく、その間に高い砲塔旋回速度と照準精度で先んじて敵を撃破できる、つまり結果として”アウトレンジで敵を撃破できる”のだ。

 無論、㎸-1のように防御力が高い、同じような戦車もあるが……設計思想の違いもあるが、三式の方が機動力、もっと言えば出力やトランスミッションなどの差から、より運動性が高く小回りが利く、つまり簡単に側面などに回り込めるのだ。

 

 と、ここまで書けば薄々感づいた方もいると思うが、一式戦車は「ドイツ戦車」を明確な仮想敵としていたが、三式ははっきりとそうだと明言されているわけでは無いが……

 

 ”ここ数年で登場すると思われる米ソ戦車・・・・

 

 に十分対抗できる性能を目的として開発されたようだ。

 

 


 そして、この戦車が中東や地中海方面に配備されようとしていた。

 つまり、その真価が問われるのは、そう遠い話ではないのかもしれない。

 

 














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