第237話 キング・ジョージV世陛下の憂鬱(史実とは違う方向性のお悩み)
さて、リチャード王子(後のリチャードⅣ世)を語る前に、史実のジョージV世の長男、エドワードⅧ世の人物評をおさらいしておこう。
・プレイボーイで女好き
・洒落者
・多趣味(刺繍やキツネ狩り、乗馬、バグパイプの演奏、ゴルフ、ガーデニング)
・ナチスと昵懇
・神経性胃炎と双極性障害
・お召列車を病的に嫌悪
……今更だが、何から何までリチャードⅣ世と正反対っぽい。
二人の共通項と言えば、
”英国王室で初めて飛行機の操縦桿を握った”
”パイロットライセンスの習得”
”空軍の設立に尽力”
くらいか? いっそ見事なまでに空関係ばかりだ。
ちなみにリチャードは馬なら乗馬より競馬だし、乗るなら馬よりも自動車。ちなみに列車も好んでいる。
刺繡やガーデニングなど生まれてこの方やったこともない(樹木は鍛錬で使う物)し、バグパイプはおろか楽器全般に興味なし。
スポーツならゴルフよりラグビーの方がまだ好みだ。
史実では実の父親であるジョージV世との関係は険悪であり、ジョージV世はエドワードⅧ世をこう評している。
「自分が死ねば、1年以内にエドワードは破滅するだろう」
「長男には結婚も跡継ぎをもうけることも望まないし、バーティー(ジョージ6世)とリリベット(エリザベス2世)と王冠の間に何の邪魔も入らないことを祈っている」
いや、預言者かよ。
まあ、エドワードⅧ世の破滅(?)は父親から見てもあからさまだったのかもしれない。
だが、今生のキング・ジョージV世、フルネームが”ジョージ・ファーディナンド・ホーネスト・アルバート”な今上英国国王は全く別のベクトルで長男について頭を抱えていた。
「
質実剛健なのは大いに結構だ。
武辺者という在り方も嫌いではない。
やや武力と筋力に偏ってはいるが、頭も悪くない。
体格は立派
父親の贔屓目が入っているのは認めるが、かといっていくら何でも女っ気が無さすぎだった。
無論、(史実のように)女で身を持ち崩すのは論外だが、過ぎたるは猶及ばざるが如しだ。
そこでキングジョージは、この時の心境から言えばパパ・ジョージは凱旋式典から帰ってきた息子を私室に招き、
「息子よ。我はお前に惚れたはれたの話が一つもない事を危惧しておる。男色の
ド直球だった。
「いや、単純に心動かされる女性に巡り合ったことが無いだけだ。特にこちらからの注文や要望はないのだがな」
……掛け値なしに大問題だった。
この
「しかし息子よ。このまま行くと王位継承にも問題が出るぞ? 議会も教会も、既婚者の王の即位を望む」
「まあ、そのあたりの事情は察しているが」
「それにアルフレッド(弟)は、”兄上が結婚しないうちに、私が妻を娶るなど烏滸がましいにも程がある”と息まいててな……」
弟のアルフレッド・ホーネスト・アーサー・ジョージは現在、父親よりデューク・オブ・ヨーク(ヨーク公)を引き継いでいるが、
「それは大問題だな」
このレスポンスの良さが「弟に娘が生まれないと困る」という転生者目線のそれなのか、単純に弟を思っての発言なのかは歴史の謎である。
まあ、確かに王家出自の公爵がいつまでも独身というのも体裁が悪い。
「だが、親父殿。
どうもリチャードが”俺”という一人称を使うのは、身近な相手だけらしい。
「わかっておるわ。誰も人食いライオンに愛嬌など求めん」
「わかっているなら良い。先も言ったが俺に特に条件はない。強いて言うなら、俺が感心を持てるかどうかだ」
実は割と難しい条件なのだが、
「委細承知だ。儂からの条件は、次期王妃としての条件を持つことだ。そこまで厳格ではない。最低限、英国貴族の子女であれば、煩い輩も面と向かっては文句を言わん」
こうして、英国史に残る事になる、
”世紀の嫁とりプロジェクト”
がスタートするのであった。
「アル(弟、ヨーク公の愛称)の婚姻は俺が説得するとして……婚姻云々の話は、せめて陸軍大学卒業、いや軍役が満了するまで保留にしておいてくれ」
ただし、リチャードは少し日和った。一応、陸軍大学卒業生は一定期間の服役義務があるのだ。
戦場では無双できたとしても、どうにも恋愛面では及び腰なところがあるようだ。
「まあ、そのぐらいの猶予はくれてやろう」
しかしまさか、この時のジョージV世も彼の結婚が、リチャードの事情というより主に相手の年齢的な事情で、20年近く先延ばしになるとは思っていなかっただろう。
************************************
終戦の翌年、1919年にリチャードは改めて終戦まで保留していた陸軍大学に入学し、輝かしい……というか、かなり”
そのタイミングに合わせて、英国中の貴族に
”リチャード王子が嫁選びを始めた”
旨を記す親書が届いたのだった。
ただし、期限などは定められておらず、仮に立候補したとしても先着順でも何でもない事が示されていた。
年頃の娘を持った貴族たちが色めき立ったが、困ったことに肝心の王子の女性の好みが全く聞こえてこない。
一応、童貞でないことは確認が取れている。
そもそも王室には専門の教育係がいるし、「戦争中に王子と夜遊びに出かけた」同僚達の話も伝わってきている。
だが、誰に聞いても
『さあ? 特に好みとかないんじゃないかな?』
という、決して誤魔化しでも、箝口令が敷かれてるわけでもない素の返事が返って来るだけだ。
本人に聞いても、
「余が感心や興味を持てるかどうかだ」
と答えるだけだ。
貴族子女としての教育が無駄なわけでは無いが、かといって決定的な有効打にもならないという状況で、”王子篭絡戦”は先行き不透明だった。
いざチャンスと飛びついてみれば、脳筋王子は実は”難攻不落の要塞王子”だったという訳だ。
だが、いつの世にも例外という物はある。
***
翌1925年、英国、ノーサンバーランド
「ふっふっふっ……にょほほほっほほほ~♪ ついに好機が訪れたわぁ~♡」
そう父親の書斎に「まあ、うちみたいな下級貴族には無関係か」と無造作に置かれていた手紙を”拝借”した書状を読み高笑いをあげているのは、この地を治める下級貴族、ミットフォード男爵(第2代リーズデイル男爵)の六女、史実では”デボラ”という名だったが……
「この、”ドロシー・ミットフォード”にも立身出世、栄達の時がっ!!」
”ドロシー・ミットフォード”、御年5歳(1925年当時)。
さて、”中身”を含めた合算の年齢は、果たして何歳だろうか?
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