第232話 金持ちらしい外連味のあるやり方(英国王夫妻の二つ名入り)
「はあっ!? ヤンキーが”
1942年7月10日、日本皇国首都東京の永田町、その首相官邸において近衛公麿の素っ頓狂な声が響き渡った。
「ああ」
徐に頷く官房長官の広田剛毅に、
「バカなのっ!? いや、バカなんだろうな……んで、英国は受けるってか?」
広田は再び頷き、
「是非もなしだ」
近衛はため息を突き、
「だろうなぁ。あの”
「見た目は、愛らしいのだがな」
「見た目
(見た目は、どこぞの木組みの街の貧乏バニー娘っぽいが、中身は美神〇子と大差ない気配がすんだよなぁ~)
何やら英国王室に関して、聞き捨てならないというか……史実では有り得ない風評、あるいは”二つ名”が出てきたような気もするが……
それはさておき、状況を説明しよう。
と言っても、話自体は極めてシンプルだ。
要するに第一次世界大戦後のほんの一時期、20年代初頭から大恐慌前までほんの数年間あったとされる日米の蜜月期に行われた遼東半島&山東半島売却の話と基本的には同じである。
つまり、英国への貸し付けをチャラにする代わりに北アイルランドをよこせという内容だった。
実際はもう少し細かい。
当初、米国は日英同盟の切り崩しも兼ねて、
だが、英国はその要求に対して一笑に付し、『エイプリルフールは来年まで待て』とにべもなく突っぱねた。
無論、米国とて最初から要求が飲まれるとは思っていない。
絶対に相手が飲めない要求を突き付け、難癖付けるのが米国流交渉術だが、今回は訳が違った。
実は、誰もが考えている以上にルーズベルト政権は切羽詰まっていたのだ。
当然であろう。
もっとも有益かつ最短のレンドリース船団航行ルートであるバレンツ海ルートが丸っと潰されたのだ。
そうなれば、残るのは太平洋横断とユーラシア大陸横断セットの太平洋・渤海・シベ鉄ルートと、未成熟な上にアフリカ大陸を回り込まねばならない常に日英の監視に晒されるペルシャ湾・イラン縦断・カスピ海ルートしかない。
どっちも日英の勢力圏を通り抜けるリスクがある上に距離がアホみたいに遠く、おまけにそれが可能な輸送船も限られてくる。
特にペルシャ湾ルートは、南米からペルシャ湾まで無寄港で航行しなければならないのだから、船も船員も護衛艦艇も吟味が必要だ。
となれば、必然的にレンドリース計画自体の見直しが必要になってくる。
それどころか、主に共和党の政敵からは連日連夜「計画見直しのために一時、計画の中断を」という要求が上がってきているのだ。
無論、ルーズベルトと赤いの含む取り巻き一派は、それを飲めばなし崩し的にレンドリース計画の凍結→廃止となる流れが読めていた。
そして、なお悪いことに米国民の中でさえも「レンドリース計画見直し論」の声が上がり始めていたのだ。
アメリカメディアの最大多数派であるコミンテルン汚染マスゴミや、その他の赤色汚染勢力の皆様が必死にレンドリース計画のポジティブ・キャンペーンをルーズベルトの政敵に対するネガティブ・キャンペーンと並行して行っていたが、その効果は日に日に鈍くなってきているようだった。
要するに移り気な大衆から飽きられてきつつあった。
そもそも、元来アメリカの大衆は、ソ連に対するレンドリースにさほど関心があるわけではなかった。
「悪いドイツと戦うソ連を支援する正義のアメリカ」程度の認識しかないのが実情だったのだ。
別にバカにしているわけでは無い。
米国とは本来、自国大事の保守層が主流であり、海外に関しての関心は薄いのだ。
これは現代でも変わらず、ウクライナ戦争より遥かに国内の中絶論争の方が関心が高いお国柄であり、また、他国からどう思われているかなども総じて関心低めだ。
つまり、下手に完成度の高い自己完結型社会という訳である。だからこそ、共産主義者に付きこまれたのであるが……
しかし、ここ最近は大分、風向きが変わってきてしまった。
別段、米国民の国際意識が高くなった訳ではない。
ただ、ソ連の悪行が次々と暴かれる中、政府やマスゴミが如何に否定しようと、
なので、アメリカ市民の中からも、
『ソ連の悪行が本当かどうかはわからないけど、本当だとしたら、虐殺の片棒担ぎは嫌だなぁ』
という声が出てきてるのも確かなのだ。
もう、このムーブメント自体が、ルーズベルトと赤色汚染一派にとって由々しき事態なのだ。
事実、ルーズベルトの当初は圧倒的だった支持率は、日に日に少しづつだが落ちてきているのだ。
じわじわとした支持率低下は、政治家にとり遅効性の猛毒の様な物だ。
「このままいけば、次の選挙(1944年の選挙)の勝利も覚束ない……」
まさに焦燥であった。
現状の戦況から考えて、44年までに「ソ連が自力でドイツに勝利する」可能性は極めて低い。
良くて硬直……その時、ルーズベルトが選挙で惨敗したらどうなるか?
考えるまでもない。アメリカ大統領に限った話ではないが、現政権を倒して政権に付いたという事は、前政権の”誤った”政策の否定を期待されるという事だ。
つまり、レンドリースの終焉である。
実際、その陰りは42年の現在でも既に表面化しつつあるのだ。
例えば、この世界線においてもルーズベルトは、
「アメリカは”自由主義(ソ連に配慮してか民主主義という言葉ではない)の兵器廠”とならねばならん」
という趣旨の発言をしたが、今や……
「貴方は当初、レンドリースの為に”自由主義の武器庫”がどうとか言っておりましたが、アメリカが虐殺者揃いの共産主義者の武器庫となった気分は如何です? そういえば、そのフレーズを考えたのは、ソ連と昵懇なホプキンス氏だとか」
と共和党議員に議会で公然と煽れる始末だ。
ちなみにルーズベルトは、この議員を”虚偽の発言”を理由に議会侮辱罪で告発した。
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とまあこんな状態なので、だからこそ政治的な会心の一手、逆転を狙えるインパクトのある政策が必要だった。
だからこそ、今回の英国人の持ち物である二つの海峡と運河の使用権はブラッフ、ディベート材料に過ぎない。
飲ませるべき本命は、最初からアイルランドの売却に他ならない。
要するに最初に飲めない条件を出しておいて、米国側が要求を引き下げたように思わせるアレだ。
だが、英国人はそんなものはお見通しだが……だが、今回はあえて乗ったようだ。
もはやドイツとの戦争を継続する気がない為、アメリカの軍需物資支援などはいらないが、だが拡大した英連邦の再構築の為に金はいくらあっても困ることはない。
というより米国への返済が無くなるだけでも随分と財政健全化の足しになるのだ。
無論、米国だってこの展開は読んでいた。
米国にとって都合が良いのは、「現在の財政から北アイルランド購入金」を予算編成しなくても良いことだ。
アメリカ国民にとって「過去の出来事」となっている英国への貸し付けの無効化など、世論を大きく動かす材料にはならない。
そもそも、第一次世界大戦後の好景気や大恐慌などの時代の荒波を超えた現在のアメリカ人にとり、英国への貸し付けなど「大した金額ではない(実際、史実の対英レンドリース総額より安い)」のだ。
また、国内メジャー勢力であるアイルランド系移民(古参の移民でビッグナンバー。実は合衆国大統領はアイルランド系が多い)の悲願を果たすのだから、次の選挙に対しても盤石な姿勢で望める。
つまり、アメリカが北アイルランドを買い取り、それをアイルランド政府に”移譲”する。
無論、善意だとかではないし、政治的パフォーマンスオンリーでもない。
米国は、その移譲した北アイルランドに基地を置き、尚且つそれは永久(無期限)租借地となる
アメリカ、いやルーズベルトはアイルランド系住民の絶対の信頼という後ろ盾、友好国と欧州への橋頭堡を手に入れられ万々歳という訳だ。
おまけに、ソ連との話では無いから、共和党議員も反対しづらいのが実に好都合だ。
まさにルーズベルトが、「革新的で完璧な計画」と自画自賛するの仕方がないのだろう。
だが、それは同時にある疑惑を他国に持たせる事になる。
「広田サン、バレンツ海ルートが潰れたのにアイルランドの基地能力を強化するってことは……」
近衛は深く思慮し、
「ヤンキーはどうやら、ドイツと直接対決する準備に入ったと考えていいんじゃねぇか?」
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