第219話 誰かさんはとてもサンクトペテルブルグの空気が肌に馴染んだようですよ?




 ああ、最近は政務よりも軍務がおかしなことになってる元来栖のフォン・クルスだ。

 果たして、このネタはあと何回使えるか?

 

 戦闘機のお披露目とちょっとした悶着

 戦車の量産前最終テストに乱入してきたドイツの戦車道最高師範(機甲総監)と”魁! スオミ軍!!”の塾長じゃなかった総長。

 いや、あの後大変だったんだぜ?

 

 なんか、自分でも運転したり主砲撃ったりしてたグデーリアンがT-34とは比べ物にならないKSP-34/42の使い勝手の良さに感激したのか、「スオミ軍ばっかずっこい! ドイツ軍にも回せ!」とか言いだすし。

 流石に、

 

「「アンタの国、今年の年末か来年の頭にこれ以上の戦車V号戦車 パンター出すじゃんっ!!」」


 なぜかこの件に関しては気が合ってしまったマンネルハイム爺様と反論し、生産に余裕が出来たら”V号戦車との性能比較用に”という名目で、50両ほどドイツ軍にも送ることになってしまった。

 というより、KSP-34/42を欲しがったのは、グデーリアンの趣味の様な気がして仕方がない今日この頃だ。

 いや、あの後にもなんか成り行きで、

 

「203㎜自走砲、なぜかウチで作ることになったんだよな~」


 いや、調査した結果、203㎜榴弾砲自体はサンクトペテルブルグでも作れそうなんだけどさ。

 

「総督閣下って結構、考えなしというか……アホですよね?」


 オノデラ大佐、いや小野寺君。正論で顔面パンチはやめるんだ。


「小野寺君、君、馴染みすぎじゃね?」


 さて、日本皇国在サンクトペテルブルグ駐在武官領事というややこしい役職のオノデラ大佐こと、小野寺誠君。

 赴任してから1ヶ月と少しが経った今では、環境にも慣れたのか、割と遠慮なく誰もいない時間帯を見計らっては”転生者同士のお話”をしに来るようになっていた。

 まあ、どうせNSRは隠しマイクとかで常時録音してるんだろうけど、ハイドリヒや総統閣下に聞かれる分には別に構わん。

 また、非転生者が聞いても会話の意味わからんだろうし。

 

「いや、馴染むも何も、総督の面白おかしい愉快な日常を見てるとつい、良い空気吸ってんなぁ~と」


「ヲイコラ。人をイロモノ芸人みたいに言うなし」


 あっ、なんか軽くゼスチャーで流された。


「ところで自走砲の製作を引き受けたのは良いですが、どんな感じにするんです?」


「基本は、戦後米国の”M110A2”にするさ。アレなら割と詳細な概略が頭の中にある。しかも、今回は空輸できるようにしろとかってオーダーもないし、無理に軽く作る必要もねーから、KV-1の車体シャーシの前後をひっくり返して小改良して使おうと思う。まあ、203㎜なんて大物乗っけて撃つって言うんなら、台座は常識の範疇内で重さがあった方が安定する」


「なるほどなるほど。オープントップ・マウントの非旋回砲塔。フロントエンジン仕様の自走砲ですね?」


 コイツ、こういう時は話が速いんだよな。


「まあな。流石に203㎜45口径長砲なんて大物を旋回式にして車両に搭載すんのは容積的に無理だ。あとT-34のシャーシ使った砲弾補給・装填車でも作るかね?」


 実は、KSP-34/42ってのは、既存のT-34やKV-1をベーシックに開発された戦車じゃないんだよ。

 占領直後の”宝探しゲーム”で発見された未完成の試作車両(おそらく史実のT-43戦車の原型の一つ)だ。

 つまり、コンポーネントはその発展型を使っちゃいるが上記二種の戦車直系の車両ではない。

 一時期は、T-34やKV-1を生き残ってた製造ラインを錆びつかせないためにパーツ単位で製造し、ウクライナなんかに送っていたが、ウクライナでも自前の製造設備が本格再稼働し始めたから、今となっては需要はそんなに多くない。

 

 フィンランド軍の鹵獲戦車の需要もそこまであるわけじゃないし、フィンランドだけでなくバルト三国もウクライナも最終的にはKSP-34/42に主力戦車は統一される予定だ。

 

(まあ、最終的には3000両近く生産する羽目になりそうだが……)


 既存のコンポーネントを大幅に使ってるから、まあ、生産自体は可能だ。

 だが、遠からずT-34やKV-1の製造ラインは遊ばせる事になる。

 戦後はともかく、戦時中はちょっとな。

 というわけで、前々から活用方法を考えていたわけだ。

 

「T-34やKV-1はエンジンはイマイチだし、トランスミッションは最低以下のクソだが、逆を言えばそこら辺を何とかすれば使い道はある」


 ハンマーで殴らないと変速できないトランスミッションってなんだよ?

 まあ、KSP-34/42のコンポーネントがシャーシを改良すれば移植可能って調査結果も出てるしな。

 

「辛辣ですね~。でも、そういうことならKV系フロントエンジン・シャーシを使ってアレ作りませんか?」


「アレ?」


「全周囲装甲旋回砲塔に152㎜榴弾砲を搭載した近代的自走砲って奴です♪ ぶっちゃけ2S3、あるいはSO152”アカーツィヤアカシア”のことですよ。サンクトペテルブルグでもML-20/152mm榴弾砲作ってるんですからいけるんじゃないですか? 203㎜用のT-34改給弾車作るなら、152㎜用もその応用で作れそうだし」

 

 ヲイヲイ。

 

「それ60年代だか70年代に実戦配備された自走砲じゃなかったか?」


「開発自体は50年代から行われていますので、飛び抜けて先進的って訳じゃないですよ。それに、それを言うならM110だって戦後の自走砲じゃないですか? 同じ50年代開発スタートの」


 そりゃそうだが、

 

「お前、いいのか? 確かに使い勝手の良さそうなウエポンシステムだが、ドイツ軍への幇助だぜ?」


「何をおっしゃるウサギさんチーム」


「誰がウサギだ」


「私こと小野寺誠大佐は、サンクトペテルブルグの非ドイツ国向けの兵器開発に助言してるだけですし、その情報を日本に送るのも立派な仕事です」


 こ、コイツはいけしゃあしゃあと。

 

「俺みたいに日本に帰れなくなっても知らんぞ?」


「そうなったらなったで、こっちで嫁さんでも見つけて婿入りして永住権でも取りますよ」


 お前なぁ~。これ、NSR……というか、ハイドリヒとかに聞かれたら、確実に後々面倒臭いことになるぞ?

 経験者の俺が言うんだから間違いねぇ。

 

「T-34改シャーシ作るなら、一緒に自走砲繋がりで対空自走砲とか作りましょうよ♪ 確か史実のドイツがそんな感じの作ってたし、120㎜クラスの自走重迫撃砲とかもいいな~。旋回装甲砲塔式で」

 

 いや、全部作れそうだけどさ。割と中身は堅実だし、必要とされるシチュエーションも分かりやすい。

 

「T-34系列のシャーシなら、先ずは”SU-122突撃砲”じゃないのか? 一応、M-30/122mm榴弾砲なら作ってるし」


「あっ、それ良いですね! 総督、ソ連への嫌がらせも兼ねて、”ちょっと戦後の入ったソ連系兵器の完成形”みたいな装備一式作ってみません?」


「別に構わんが、航空機はイタリア系がメインだぞ?」


「それは同じ水冷戦闘機ってことでお茶を濁す方向で」


 まあ、ならば


「小野寺君、協力してもらうぜ?」


「小官にできる叛意範囲でしたら」


 コイツ、今妙な事言わなかったか? まあ、良いけど。

 とりあえずは、”二式四〇粍擲弾銃”あたりの輸入かな?

 あれ、どう見ても”M79擲弾銃”だし。

 

(1944年あたりが楽しみなことだ)


 きっと色々出来上がってる事だろうさ。


「まあ、その前に終わらすべき”宿題”はあるがな……」


 リミットは7月17日……それまで精々準備するさ。

 

 

 

***



 

 そんなことを考えると、シュペーア君がノックと共に入室してくる。あっ、アインザッツ君も一緒だったか?

 こらこら、「あっ、コイツまた来てる」みたいな顔しない。

 小野寺君、結構、君たちの事気に入ってるみたいだし。理由は知らんが。


「あっ、シュペーア殿、ちょうどいいところに! 確かドイツって”X-4”って有線誘導式の空対空誘導弾作ってましたよね?」


 いや、シュペーア君、そんな目で俺を見るなって。

 

「俺は何も話してないぞ?」


 むしろ”ルールシュタールX-4”の存在なんて、今の今まで忘れてたわい。


「あれ、互いに烈しく動き回る空中戦では、敵機をずっと誘導照準器に入れてられないインサイトできないし、誘導ワイヤー切れたりろくなことになりませんから、陸上用の対戦車誘導弾に改設計しません? 成形炸薬弾頭乗っけて」


 あーそういえば、そんなペーパープランもあったなぁ。”X-7”だっけ?


「”ゴリアテ”とかよりも、同じ有線誘導式でもよっぽど実用的ですよ? なんだったら、サンクトペテルブルグで試作しますよ。総督閣下が」


 ヲイコラ。

 

「……フォン・クルス総督?」


 いや、「コイツ、早く何とかしろよ」的な目で見られても……


「まあ、出来る出来ないで言えば……できるぞ?」


 機材さえそろえばな。

 同じ”MCLOS(マクロス:Manual Command to Line Of Sight=手動指令照準線一致誘導方式)”の有線誘導対戦車ミサイル、64式対戦車誘導弾(通称”MAT”)とかAT-3”サガー”(9M14”マリュートカ”。超時空要塞でない事に注意)のデータなら頭の中あるし。

 というか、何なら使ったことあるし。前世で。




 こうして俺とサンクトペテルブルグは、ドイツが極秘裏に開発を進めていた”ルールシュタールX-4”、通称”ペケヨン”から分派した”対戦車誘導弾X-7ペケナナ”開発チームを受け入れる事が決まった。

 

 何も考えてないように見えて、小野寺君、やっぱ食わせ者だわ。

 実際、この話の流れもしっかり俺やシュペーア君の反応見ながら”探り”を入れてやってるし、史実のドイツが”X-7”を試作したのを知ってる上で、あえて「完成度を高めつつ時計の針を加速させ、試作ではなく量産にこぎつける」つもりなのだろう。

 

(おそらく警戒してるのは、ソ連大反攻……)


 戦争の流れ自体が変わってるから時期は明確には言えないが、レンドリース品を一定以上貯めこめば、史実の”バグラチオン作戦”みたいな事をやりかねん。

 正直、数の暴力ってのは厄介だ。

 

(RPG-7のパチモンも作ってるし)


 いっそ、”第四次中東戦争のゴラン高原”の再現でも狙ってみるか?

 

「となると、歩兵分隊乗っけられるBMP(随伴歩兵戦闘車)とかも欲しくなるな……装輪式でも構わんから」


 低圧砲は開発がメンドイからそこはMG151/20㎜機銃あたりでお茶を濁して。
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る