第218話 どうやら、いよいよ”あの戦車”のお出ましみたいですよ? ~濃いお方の再登場も添えて~




 サンクトペテルブルグでは、占領された直後から、「ドイツに友好的なソ連系装備を持つ国家に供与する」ことをコンセプトとした戦車の開発が行なわれていた。

 具体的に言えば、最優先供与予定先はフィンランド、次点でウクライナだ。

 フィンランドは冬戦争から急速に親密化した「同じソ連を不俱戴天の仇とする」ドイツの最友好国で、現在進行形で互いに相互支援・全面協力しながらロシアへと攻め込んでいる。

 ”銀狐作戦”、ムルマンスクやコラ半島の制圧はフィンランド軍の協力が不可欠であるし、カレリア地峡やカレリア地方(旧ソ連邦カレリア共和国)、、ラドガ湖やオネガ湖の奪還と占領は、彼らの尽力がなければ成功しなかったろう。

 そして、今年のドイツ北方軍集団最大の作戦、夏頃に決行予定の”アルハンゲリスク攻略戦”も、フィンランド軍のバックアップがなければ、成功は覚束ないとされていた。

 故に、その戦車……

 

 ”Kampfpanzer Sankt Petersburg-34/42(サンクトペテルブルグ戦車34t/42年式)”


 は開発され、量産前の最終テストに漕ぎつけていた。

 

 

 

***




「うむっ! 見事なものであるっ!!」


 相変わらず濃いな。この爺様……

 ああ、失礼。元来栖の現フォン・クルスだ。

 一応、サンクトペテルブルグで総督などをやっている。

 

「ふむ……確かに良さそうな戦車だな」


 ところでなんで貴方がここに居るんですか?

 グデーリアン上級大将閣下?

 

 

 

 状況を説明するな?

 つい先日、ハルトマン達に新型のMC.205AとBf109Gのお披露目やったじゃん?

 実は、あの後ひと悶着あったのさ。

 いや、旧メッサーシュミットのレシプロ戦闘機開発チームと合流して意気投合したマッキ社出向組(なんか転生技術者が混じってた……)が、MG151/20㎜機関砲×3のBf109Gの高火力にいたく感動して、エンジン的にプロペラ軸機関砲モーターカノンは無理でも機首機銃を13㎜から20㎜に変更したいって言いだしたのよ。

 実際、MG151って電気着火式でプロペラ同調はBf109Gみて分かるように技術的には完成してる訳よ。

 つまり、スペースがあればできるって訳。

 そして、MC205ってのは、元々胴体がBf109シリーズより太くて内容積に余裕があり、イタリアにいた頃に火力増強プランとして機首機銃を12.7㎜×4にした、空力特性の改善とかを兼ねて70㎝延長したストレッチ・ボディも存在したってわけ。

 つまり、試作自体はしていたので、図面と睨めっこしてる内にBf109G同様に機首機銃にMG151/20㎜を搭載できることが判明したんだ。

 実際、搭載機銃を高威力化するのは頑丈な米ソの機体を相手にするには重要だし、また弾道特性が同じ機銃で揃えることは、照準などにも大きなメリットがある。

 そこで、シュペーア君を通してトート博士はミルヒ局長に聞いてみたら、可能なら直ぐにやるべしとGoサインが出たので、現在は表記をドイツ式に改めた”Mc205B”として追加開発が勧められている。

 と言っても元々試作まで終わってたプランを参照にした小変更なので、そこまでスケジュールに影響でないのが幸いだ。

 

 

 

***




 とまあ、戦闘機日和びよりも終わったし、今度は形になった試作戦車”KSP-34/42”のテストプレイでもしようや……と、あくまで内々にサンクトペテルブルグ郊外の野戦試験場でやろうとしたら、どこで聞きつけたのかグデーリアン機甲総監殿がなぜかマンネルハイム元帥連れ立ってやって来た。

 

 いや、あんたら……これ、ドイツ陸軍やフィンランド軍に提出するためのデータ取りの為のテストなんですけどね?

 書面化されたデータを見ながらどうこう言うのがあんたらの仕事であって、データ取りの段階で来てどうするんですか?

 

 というか、乗りつけてきたのが派手な塗装で定評あるNSRのチャーター機だったから、ハイドリヒの野郎も一枚嚙んでるに違いない。

 

「今日はテストなので、別に派手な演出はないし、見てて楽しいものじゃないですが?」


 むしろ退屈まである。

 

「こらこら。総督元帥閣下は何を言っておる? 儂らとて素人ではないのだ」


 マンネルハイム元帥、俺はそんなややこしい役職ではないのですが?


「これでも戦車の目利きには自信がある」


 そりゃそうでしょうよ。機甲戦の生みの親。

 

 


 自慢になってしまうが、確かにKSP-34/42は時代を考えれば良い戦車だと思う。

 主砲は、ほぼほぼ52-K/85mm高射砲の設計を小変更して、余計な部品を外して転用した物。

 ソ連式で後に登場するだろうD-5TやZIS-S-53との外観上の大きな相違点は、マズルブレーキがついてることだ。

 あと高性能なベンチレーター(排煙機)とセットで、乗員にも戦車にも優しい設計になっている。

 

 そういえば、ソ連製のD-5TやZIS-S-53って原型の52-Kに比べると威力が劣っていたって資料があった気がするけど、何を設計でしくじったんだろうな?

 砲自体には1軸ガンスタビライザー、照準器はステレオ式ではなく合致式(現行のIV号後期型と同じTZF5f/1)だが2軸ジャイロ安定化をしてある。

 流石に弾道計算機は積んでないが、合致式照準器の実質的な有効射程距離考えたら、まあいらんだろ。

 

 売りは何より創意工夫を重ねたエンジンだな。

 基礎設計は変えずに加工精度を上昇させ鋳鉄クランクケース+アルミシリンダーヘッド+鋳鉄スリーブ+鍛造アルミピストンという素材の組み合わせに変更。

 燃料直噴ではなく予備燃焼室付にし、特に寒冷地での始動性と燃焼安定性を大きく引き上げている。

 ちなみにこいつを採用すると多少燃費は悪くなるが、ディーゼル特有の振動を抑制したり、排ガスがクリーンになったりとメリットが大きい。

 また、欠点だった冷却性もアルミ製の大型空冷ラジエター、バッテリーなどの見直しから始まった電装系の大幅な強化と防水・耐水処理、キャタライザー付の排気装置など多くいじったが……実は、水冷V型12気筒SOHCディーゼルって基本構成は全く変わっていない。

 実際、見ためも原型より綺麗ってくらいなんだが……試作したエンジンが、いきなりベンチテストで原型から出力3割増し以上の680馬力を計測したのは笑った。

 いや、要するに基礎設計は優れていたし、元々ポテンシャルはあったんだけど、ソ連の加工精度と素材工学の限界、何より粗雑乱造の気風からその素性の良さを出し切ってなかっただけだ。

 実際、このサンクトペテルブルグ産V2エンジン、通称”SPDV12(サンクトペテルブルグ・ディーゼル・V型12気筒の略)”も機械的熟成は全然済んでいない。

 なので量産型は安全マージンを考え出力を650馬力へ落とすデチューン仕様とした。-30馬力は、余力を作る事でエンジンへの負荷を減らし、結果として耐久性を上げるやり方だ。例えば、史実のパンター戦車のエンジンでも似たようなエピソードがある。

 限界まで回せば人間も機械も長持ちしない。短距離走には短距離走の長距離走には長距離走の鍛え方セッティングがある。これはそう言う話だ。

 これを防振ラバーマウントを介してサブフレームに装着、車体にはめ込む構造に改めた。

 振動のデカいディーゼルをシャーシに直付けとか駄目だからな?

 振動ってのは思いのほか人を消耗させるんだ。

 

 これと組み合わせられる操向装置・変速機トランスミッションは、元々はV号戦車用に開発されたIV号戦車の発展型を小改良(ファイナルを平歯車ではなくヘリカルギアに変更したり)したものを採用。

 この世界線ではV号戦車とVI号戦車計画は統合され、V号戦車は重量負荷と操作性の観点から史実のVI号戦車のメリットブラウン型が導入となったらしい。

 そして無論、全車ドイツ製のテレフケン製汎用車載無線機を標準装備だ。

 溶接車体に鋳造砲塔、トーションビーム式サスペンション。砲塔バスケットの採用もした。

 履帯は照準器や無線機と同じくIV号の520㎜幅を採用(実は、オリジナルのT-34って500㎜幅と550㎜幅があるんだよなぁ)。

 装甲は比較的厚く、傾斜した砲塔正面で105㎜、ザウコップ式の防楯で120㎜・砲塔側面75㎜、車体前面88㎜とドイツらしい数字でまとめてみた。

 

 副武装は砲塔上面に対空射撃も一応は考慮しているが殆ど対地掃射で使われるだろうサンクトペテルブルグ製DShK1938/12.7㎜機関銃(シールド付)×1に、主砲同軸にVz37/7.92㎜車載機銃。

 車体前面の機銃は、元々射界が広くない上に装甲版に穴開ける為に防御力落ちそうなので廃止した。

 後は発煙筒投射器を左右に三連1基ずつ。要は74式戦車のアレだ。これは元日本人のこだわりという物。

  

 んで、後に登場するだろう本家ソ連のT-34/85と誤認されない自信があるのは、主砲にマズルブレーキって目立つ物がくっついてるのと、砲塔の上に重機関銃が鎮座していること、加えて車体横にソ連の対装甲ライフルから転輪やサスペンションを守るシュルツェンスカートアーマーを装着していること。

 まあ、同じ丸みを帯びた鋳造砲塔と言っても、そもそも形状がかなり違うし、全体の印象はかなり異なりもはやT-34/85とは別戦車だ。


 他にこだわりと言ったら乗り心地の良さ(=乗員の疲労度軽減)、整備のしやすさ(改良ついでにパワーパックまで言ってないが、トランスミッションを一体型のカセット構造にしたり、可能な限りメンテフリーの部品使ったり)、生産のしやすさ(できる限りユニット構造にしたり)、使い勝手の良さ(人間工学に配慮した内部レイアウトやスイッチ/レバー/シート形状)とかも拘った。


 要するに無駄にこらず、操作も構造も可能な限りシンプルに、だが必要なものは盛り込んで、だ。

 動かすだけで乗員を無駄に疲れさす兵器など害悪だ。むしろ、可能な限り作る側や整備する側の手間暇を抑え、乗員を疲労させないことが戦力アップに繋がる。

 シンプルな構造は壊れにくくするし、壊れても簡単に直せるようになる。

 また、可能な限り既存の部品を使うようにしたのは、調達しやすくするためだ。

 修理がやりやすくても肝心の部品がなければ話にならない。


 本気で稼働率を上げようとすれば、「使いたいときにすぐ使える兵器」を作ろうとするなら、このぐらいまでやらないと話にならない。

 俺が作るべきだと考えてるのは、”圧倒的な超兵器”なんかじゃない。

 それはそれで浪漫があるが、浪漫で戦争は勝てない。

 兵器生産者としての正解は、”誰でも簡単に扱える兵器”だ。

 だから、前世のシャーマンとティーガーのマニュアルを思い出し、「可愛い女の子のイラストが入った馬鹿でもわかる多言語マニュアル」を暇を見つけて俺自身が作成した。

 いや、なんとなくイラストの女の子が、前世の某”GuP”っぽくなったのは見逃してくれ。

 大洗って実は、超タレント集団だよな?

 

 


***




「フォン・クルス総督、乗ってみても……いや、動かしてみても構わないか?」


「どうぞ。お好きなように。説明はテスターから受けてください」


 自ら動かしたいとか、俺並みに物好きだなグデーリアン総監。

 いや、俺も自分が酔狂者だって自覚はあるぞ?

 ただ、作るまでは熱意があるが、いざ量産が始まろうとすれば人任せにするタイプなんだよ、俺は。

 

「これが我がフィンランド軍に配備されると思うと、年甲斐もなく胸が熱くなるな」


 いや、爺様、確かにそうなんだけどさ。

 

「ドイツ・フィンランドの協定で約束された初期生産分200両はお渡しします。テストで重大な問題が発見されなければ、先ずは先行量産型の50両を一括でお渡ししますので精々、派手に使ってやってください」


「良いだろう。誓って”ボログダ”を奪取してみせようではないか」


 なんか爺様がやけに自信満々なんだが、これってフラグじゃないよな?


















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