第209話 ”エアバトル・オブ・スモレンスク(二回目)” ~ドイツ中央軍集団は、そろそろ本気を出すみたいですよ?~




 スモレンスクに最も近かった前線臼砲/榴弾砲部隊が早期壊滅……

 しかも、クルップK5の巨弾は、残る赤色重砲隊にも降り注ぎ始めたのだ。

 これに、スモレンスクに配備されているドイツの重砲も加わるのだから溜まった物じゃない。

 

 Br-5やM-10が壊滅したといっても、数の優位は未だに揺らいではいない……筈だった。

 現状でも火力で押し切れる筈だった。

 

 だが、ソ連の計算外はまだ続く。

 

 

 

『オラオラオラァ! 往生せいやっ!』

 

「マルセイユ大尉、突っ込み過ぎですっ!」

 

『うるせぇハルトマン! 喋ってる暇があったらちゃっちゃと敵を落とせっ!』

 

『一理あるな。ここは格好にして絶好の”狩場”だ♪』

 

「ああっ、クルピンスキー中尉まで」


『ハルトマン、諦めろ。あの二人が言葉で止まるようなら誰も苦労しない。俺はとっくに諦めている』

 

「シュミット少尉まで……」

 

 何を考えているのか、ドイツ人は重砲隊を守る赤色戦闘機隊を摺り潰しにかかったのだ。

 それもスモレンスク基地だけでなく、レーダー管制を受けたビテプスク・モギリョフに展開するKLK1(第1統合航空戦闘団)の戦闘機隊を総動員してだ。

 つまり、空の上ではソ連の”数の優位”は徐々に、だが確実に失われつつあったのだ。

 

 

 

***




 そこで、ソ連のスモレンスク攻略軍首脳部は考える。

 ドイツ人の士気を挫く、最も効果的な作戦は何かと。

 今、ソ連軍に最も深刻なダメージを与えているのは、「アウトレンジから一方的に砲撃してくる巨大砲弾」だと判断された。

 種類は簡単に特定できた。

 これだけの長射程で砲撃できるのは、列車砲しかないと。

 場所の特定も容易かった。

 列車砲を展開できる場所は限られている。

 クラスナヤ・ゴルカ付近にドイツは大規模な操車場を設営していた。

 スモレンスクを射程に納めるにはそこしかない、いやむしろ最初から操車場ではなく、スモレンスクを援護するための列車砲陣地として設営されたのではないかと判断された。

 

 そこで指導部は急遽、攻略支援の為にスモレンスク爆撃の為に準備していた襲撃機、爆撃機隊をクラスナヤ・ゴルカへ向かわせる事を決定した。

 戦闘機隊の護衛が(砲兵防空のため)圧倒的に不足していたが、

 

「ドイツにも余力はありますまい。我ら800機の戦闘機隊と正面から殴り合っていますので」


 ただし、状況は明らかにソ連空軍が劣勢であることを彼らは知らない。

 スモレンスク防衛こそが主任務な戦闘機隊は、まさに空の狩人の集合体であり、数だけそろえたソ連戦闘機隊にはやや荷が重すぎる相手だった。


「そうですな。むしろ、戦闘機同士が乱戦を繰り広げているスモレンスク近辺より安全かもしれませんな」


「ええ。基地に残っているのは、基地防空の直掩機くらいでしょうし」


 こうして、200機の襲撃機と爆撃機が、残っていた18機の戦闘機に守られてモスクワ南部のボドリスク近郊の基地群から飛び立った




 だが、彼らは失念していた。

 いや、思考的視野狭窄にかかっていたと言い換えても良い。

 確かにスモレンスクを含む三か所に配備された”KLK1の戦闘機隊”は、飽和状態だったかもしれない。

 だが、果して”ベラルーシもしくはドイツ中央軍集団に本来・・、配備されていた”航空隊は何処へいったのだろう?

 煙のようにかき消えたのか?

 あるいは再編の為にドイツへ帰国したのか?

 そんな訳はない。

 

 ソ連のスモレンスク再侵攻まで約3週間。

 部隊の再編と、一部のパイロットは機種転換も終えた一団……ドイツ空軍”第2航空艦隊”が再び前線へと戻ってきていたのだ。

 史実ではこの第2航空艦隊、地中海方面へ展開していた大部隊だが、今生のドイツがアフリカより全面撤退し、実質的にイタリアを切り捨てた現状において、この精鋭大規模航空部隊は現在、中央軍集団の管轄となっていた。

 しかも、十分な補充がある状態で。

 

 忘れてはならない。

 ベラルーシの空で、あるいはロシア西部の空でソ連空軍を叩きのめしたのは、第2航空艦隊かれらなのだ。

 付け加えると、ドイツは野戦飛行場の設営が上手く、またこの世界の未だに数的主力戦闘機のBf109は初期型から、野戦飛行場での運用を考慮しトレッドの広い”内開き”の頑丈な主脚を持っている為に、事故は少ない。

 さらに言えば、車載型の野戦レーダーシステムなんてものまで既に戦場にお目見えしていたのだ。

 

 第2航空艦隊の内、クラスナヤ・ゴルカを防空圏に入れられるドイツ側の戦闘機は、優に400機を超えていた……

 さて、護衛機が極小の爆撃機隊が、数的にも質的にも技量的にも性能的にも優位なレーダー管制を受けた戦闘機隊にタコ殴りにされればどうなるか……敢えて書かなくても結果は想像がつくだろう。

 第一波で飛び立った240機のBf109とFw190の混成軍だけで十分すぎた。

 

 ソ連側の逃げおおせた帰還機は1桁前半で、損傷がない機体は皆無だった。

 そして、警戒していたソ連爆撃隊を文字通り殲滅したことで、余剰戦力となった”第二波要撃戦闘機隊”は、当初のサブプラン通りそのまま基地を飛び立ちスモレンスク上空への航空支援へと向かった。

 

 それが全てを物語る。摺り潰されたのは、ソ連空軍の方だった。

 そして、ベラルーシ東部のドイツ空軍の基地からスモレンスク上空へ届くのは、何も戦闘機だけではない。

 第2航空艦隊所属のJu87スツーカ隊もまた、十分な整備を受け爆装し、エンジンを轟々と響かせながら出撃の時を待っていた……


















************************************















 結果から言えば、「スモレンスクを攻略する」には、ソ連軍の力はまたしても足りなかったのだ。

 先のスモレンスク防衛戦では、実はドイツ側も「持てる兵力を全て使った全力戦」ではなかった。

 つまり、基本的には「スモレンスクの配備兵力だけで事足りた・・・・」のだ。

 ドイツ人は戦争資源、いや資源リソースが有限なのを知っている。故に無駄、あるいは過剰な戦力投入を好まない。

 それが結果として、幻惑効果としてソ連に作用し、判断を誤らせた。

 スモレンスク攻略軍司令官が想定すべきは、「スモレンスクの配備兵力」ではなく、「スモレンスク防衛線に投入可能な、ドイツ中央軍集団の総兵力」だったのだ。

 しかし、これも結果を知ったからこそ言える、所詮は後知恵だ。

 

 そして、現在進行形でこの惨状……「自分達が用意した手段を全て先手を打たれて封じられる」を経験した赤軍首脳部は何一つ諦めていなかった。

 

 まさに見上げた敢闘精神の発露だった。

 何とか粛清を免れようとするその根性が、いじらしかった。

 

 そう、彼らは作戦当初の目的に立ち返り……撤退を許さず、残存するあらん限り全ての火力を投入してデサント兵を満載した戦車隊の”カティンの森”突入を命じたのだ。

 

 

 

 こうして、”第二次大戦有数の惨劇(ソ連談)”が幕開ける……










 

 

 

 

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