第208話 リアル浪漫兵器と飛行機とか飛行場に撃つ奴




 さて、ロシア人たちは先のサンクトペテルブルグの戦いできちんと学習していた。

 一点集中砲撃で火線を集中させ、その部分だけを火力で突き崩し、一気呵成にデサント兵を乗せた戦車部隊を突っ込ませる……これこそが、数と火力に勝るソ連の必勝パターンだと。


 確かにスモレンスクからカティン、ドニエプル川にかけての防衛線は分厚く守りも硬いが、ドイツ人の気質なのか几帳面なまでに均質な厚さになっていることが判明したのだ。

 

 実は先の攻略戦で得た貴重な戦訓だった。

 3月の終わりのあの日、ソ連は防御の穴を探ろうと精々スモレンスク防衛兵力の倍程度の戦力で「全方位から」攻め込んでしまったのだ。

 そして、失敗の理由も

 

 ・スモレンスクを攻略するには戦力が少なすぎた

 ・また、優勢な数を活かして一点集中させて防御を食い破るべきだった

 

 という結論に至った。

 的外れという訳ではない。

 ”ソ連の想定通り・・・・・・・”なら、むしろ最適解とさえ言えた。

 確かにスモレンスクの防衛網で、一点で100万の兵力を受け止めることは難しいだろう。

 いや、世界中のどんな要塞でも難しいかもしれない。

 その前提が正しければ、だが……

 

 

 

***




 ソ連が2回目となるスモレンスク攻略に用意した単体火力最強は、間違いなく”Br-5/280mm臼砲”だ。

 だが、この巨大履帯式機動砲は、射程は11㎞と短く、スモレンスクにかなり近づかないと発砲する意味が無い。

 ソ連軍にとり幸いなことに、ドイツ軍はスモレンスクに籠るだけで、討って出るようなまねはしない。

 ソ連はそれを兵力の少なさゆえの「余剰兵力の無さ」と分析しており、それは”ある意味において正しい”のだ。

 確かにスモレンスクに配備されてる兵力だけでは、100万のソ連軍にカウンター・アタックを仕掛けるのは確かに難しいだろう。

 戦力を小出しにすれば数の暴力で瞬く間に摺り潰され、かといって大軍を出せば防御不能になる。

 ソ連は、数と火力の差こそが勝利の鍵と信じて疑わなかった。

 

 だからこそ、Br-5臼砲の射程と引き換えにした大口径砲の火力活かし切る方法を考えたのだ。

 まず、各個撃破されないようにBr-5だけで砲兵陣地を組ませない。

 その周辺に射程距離が近い”M-10/152mm榴弾砲”を砲兵隊を小分けにした隣接砲兵陣地に配置し、的を絞らせないようにする。

 そして、その他の最低でも射程17㎞以上の砲を持つ赤色重砲隊は、後方から「射程内にあるBr-5を叩けそうなドイツの重砲を片っ端から対砲兵砲撃戦カウンターバッテリーで沈めてゆく」方針だった。

 

 具体的に言えば、標的はドイツの”21cm/Mrs18重臼砲(射程:約16.7㎞)”、”15cm/sFH18榴弾砲(射程:約15.7㎞)だ。

 これらの砲は、Br-5やM-10をアウトレンジでき、尚且つ他のソ連重砲より射程が短いため、優先的に潰すよう命令が出ていた。

 正確には直撃で潰せなくとも、砲撃できない状態にできれば良いとされていた。

 

 

 

 ソ連が事前に得た情報だと、ドイツの自軍をアウトレンジできる長射程砲の数は少なく、固定砲に至っては十数門しかない(スモレンスクに潜伏させているスパイからもそう報告があった)という事だったので、長射程砲の命中率と発射速度から考えて、ある程度の犠牲を我慢すれば、撃ち合いに勝利できると踏んでいたのだ。

 

 警戒すべきは、トラックに搭載でき、重砲より軽快に移動できる何故かドイツ軍も持っていたカチューシャロケットだが、ドイツ式地対地ロケット弾の”ネーベルヴェルファー”を含めて射程は10㎞未満だと判明しているので、その対抗手段として重砲隊の直接護衛戦車隊だけでなく突入戦車隊を前方に展開することにより、射程に入られる事を防ぐという寸法だ。

 

 無論、前衛位置にいる戦車隊もドイツの重砲の脅威にさらされるが、ソ連重砲隊の射程にある砲は、数の差で押し切り沈黙させられるとソ連は結論していた。

 3倍に届こうかという兵力と倍以上の門数は、それだけの事ができるという自信をソ連に与えていたのだった。

 

 いや、正確にはそう思い込むしかなかった。

 履帯式大型重砲、言うなればソ連自慢でスターリンお気に入りの”超重砲”の生産数は、実は合計して現状1000門ほどしかない……

 これは史実の製造数だが、

 

 ・B-4/203mm榴弾砲:製造数900門程度

 ・Br-2M/152mmカノン砲:40門弱

 ・Br-5/280mm臼砲:47門

 

 無論、史実よりも増産されてる可能性はあるが、それもそこまで大きな誤差では無いだろう。

 つまり、ソ連は”使える全ての超重砲”を全てこの戦いに投入したのだ。

 許可を出したスターリンの覚悟と憤怒がわかるという物だ。

 だからこそ、何としてでもスモレンスクを攻め落とさなければならなかった。

 





 だが、現実はソ連の思い通りに進まなかったのだ。

 

 

 

 

 

 












************************************















「ぐわぁぁぁぁーーーっ!!」


”ズヴォォォォォム!!”


「ひぎぃ!!」


「ぐはぁっ!?」


 特大の着弾音が響くたびに広がる阿鼻叫喚の地獄絵図……

 結論から先に言おう。

 

 ”Br-5重砲隊同志諸君は、スモレンスクに近づき過ぎた・・・・・・

 

 のだ。

 確かにスモレンスクからの重砲は、数に勝るソ連の連合重砲隊に抑え込まれ、Br-5やその取り巻きの重砲隊に、効果的な阻止砲撃は加えられていない。

 だが、スモレンスク以外・・ならどうだろう?

 そう、皆さんは覚えているだろうか?

 来栖が外務省と日本人をクビになる最後のきっかけ、バルト三国義勇兵団リガ・ミリティアを何処に送って何を作らせたのか?

 

 ベラルーシとの国境付近のクラスナヤ・ゴルカよりやや東側、そこに引き込み線が敷設され、その先にいくつもの”頑丈な巨大回転ターレット”を持つ操車場が建設された。

 

 そして、そこに並んでいたのだ。

 先の戦いでは出番のなかった列車砲、”クルップK5レオポルド”が合計10門以上も……

 そう、先の防衛戦では出番のなかった列車砲が、遂にその火力を十全に発揮する時が来たのだっ!!

 

 

 

***

 

 

 

 確かに重砲隊を守る防空火網はJu97やHs129のような対地攻撃機の接近を容易に許さないし、また重砲隊上空の制空権を維持するためにソ連の戦闘機隊同志諸君が踏ん張っていたのだ。

 

 実に感動的献身であった。

 だが、無意味で無力であった。

 60㎞以遠という砲撃の常識を覆す彼方より飛来する巨弾をどうにかする事など、彼らにできるはずはなかった。

 一般に列車砲の発射速度は遅く、レオポルドもその例にもれず最良な状態で3分に1発、持続射撃しようと思ったら5分に1発程度だ。

 

 だが、前例のない”二桁以上の列車砲の斉射”となれば、話が変わってくる。

 計算上、毎分1~2門のレオポルドが発砲していることになる。

 撃たれるソ連の方としては釣瓶撃ちを食らってるようなものだ。

 

 更にこのクルップK5には、史実と異なるとある仕掛けがしてあった。

 スモレンスクの大口径要塞砲にも標準搭載されていた

 そう”Zuseツーゼ”式電気弾道計算機だ。

 

 そして、ソ連は「重砲隊上空の制空権」は維持していても、「スモレンスク上空の制空権」を奪えたわけではなかったのだ。

 つまり、濃密な防空網を持つ”ヤマアラシ要塞都市スモレンスク”の上空を悠々と弾着観測機が遊弋していたのだ。

 

 ある意味、一番の悲劇は砲弾その物かもしれない。

 ドイツ人は、弾道計算機や弾着観測機を用いても、超長距離砲撃の命中精度には限界がある事を知っていた。

 そこで。28㎝砲弾をピンポイント兵器では無く、”確率兵器・・・・”に変更した。

 装甲やベトンに守られた重防御のハードターゲット相手には悪手だが、国を問わず装甲がないに等しい重砲相手には有効な砲弾が生産・導入・使用されていたのだ。

 その砲弾は、”拡散榴弾”。

 いや、日本人ならばこう表現した方が伝わるだろう。

 

 ”28サンチ三式弾・・・

 

 アイデアの出元が直ぐに確定しそうである。

 

『そういや、ヘンダーソン基地を対空用の三式弾で砲撃して効果があったなんて話があったな……』

 

 このドイツ製の拡散榴弾は、対空用ではなく対地用として当初から設計された代物で、時限信管により空中で炸裂し、直径100m円錐状に1500個以上の徹甲弾子と焼夷弾子をばら撒くように調整されていた。

 また、接触信管で着弾と同時に水平方向へ同種の弾子と弾殻を破片としてばら撒くタイプも試験的に導入されている。

 

 ちなみに焼夷弾子の燃焼温度と時間は、”摂氏3000度で放出されてから5秒”。

 砲弾や装薬を誘爆させるには、十分な時間だった。

 

 

 

***

 

 

 

 防衛網突破の要であるBr-5/280㎜重砲隊が壊滅したのは、クルップK5の最初の発砲から2時間もかからなかった。

 1点集中砲撃/突破の為に過度に密集していたこと、そして、超重量級の大砲であるが故に迅速な配置転換ができなかったことが大きな要因だった。

 

 端的に言えば、ソ連が頼みにしていた数と火力が仇となったのだ。

 

 

















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