第206話 とりあえず日本人が二人そろうとメシの話で盛り上がれるという風潮 ~小野寺君は意外と環境適応力あるみたいですよ?~





 うっす! オラ、小野寺!

 現在、サンクトペテルブルグの冬宮殿魔王城で執務中だ。

 まあ、現実逃避はこのぐらいにしておこう。

 

「ふむ。よくまとまっている」


 吉田欧州統括に提出するチェックを終えた来栖、じゃなかったフォン・クルス総督は、

 

「現在、軍装品全般の総合輸出品カタログを用意してもらってる」


「軍装品全般ですか? 兵器ではなくて?」


 てっきり、ドイツ軍強化の方向性だと思ったんだけど。

 

「興味が無いと言えばウソになるが、先年まで敵国だった相手に最新鋭兵器の現物は輸出できないだろ? とりあえず、ミリメシ辺りから輸入交渉しようかと思ってる」


「ああ、なるほど。皇国以外どこの国のコンバット・レーションも、アレな出来ですからね。遠征してない以上、米国もまだCレーションを開発してないでしょうし」


 我が愛すべき祖国、日本皇国の戦闘糧食レーションだけはマジに世界水準を大きく凌駕し、最先端を一人で突っ走ってると思う。

 史実でも、1937年に”九七式炊事自動車”ってフィールドキッチンカーが登場しているが、今生でも同種の装備が出てきているけど、性能的には戦後の野外炊具1号を73式トラックに合体させた航空自衛隊の炊事車に匹敵する。

 実際名前も、”九七式炊事車”ってちょっと名前も自衛隊よりになってるし。

 ついでに、牽引式の”九七式野戦炊事具(こっちはまんま野外炊具1号)”も制式化されている。

 

 いや、どこの転生者が頑張ったのか知らないが、皇国陸軍の食に傾ける情熱は凄い。

 一説には、「クソ麻薬ヒロポンなんてもんに金をかけるぐらいなら、飯に金かけろやっ!!」と怒鳴りこんだ高官がいたとかいないとか。

 蛇足だけど、ヒロポン……要するに覚醒剤、ケミカル系麻薬の”メタンフェタミン”の危険性、毒性や副作用に依存性は既に世界中で知れ渡っている。

 ……というか、実は史実同様にメタンフェタミンの合成や結晶化に成功させたのは19世紀末の日本人薬学者で、学会に発表する前に動物実験で副作用やら何やらが色々と確認されていたらしい。つまり、デメリットを加えての発表だった。

 うん。ここにも転生者の影が見え隠れしてるな。

 無論、軍で全く使われないという事はない。

 正直、状況に応じてこの手の薬物を使わざるえないシチュエーションも確かに軍には存在する。

 だけど、危険性を誰も認識してなかった前世のように”駄菓子屋で買ったラムネ菓子の様な気軽さ”でヒロポン錠剤を兵隊がかじるという事はなく、非常に慎重に処方されていると言い訳したい。


 話がずれた。

 温めを必要とする食事も、既に真空パック(ハンバーグ)やレトルトパウチ(カレー)が既に実用化されていて、しかも試験的に導入が始まっているのが皇国軍だ。

 加えて、「火を使わず缶詰の蓋を開けただけで食べられる」史実の米国Cレーション準拠の物も缶詰の種類が豊富で、主菜と副菜が1缶ずつで1食分となるのはCレーションと同じだが、その組み合わせは実に多彩だったりする。

 野戦用缶詰に限っても肉だけでも牛肉のしぐれ煮に豚の角煮、鶏の焼き鳥風、ビーフシチューにポークジンジャーにチキンカレー。魚は魚で大人気のサバの味噌煮に始まり、クジラの大和煮、カツオの生姜煮、イワシの甘露煮、サンマの蒲焼風なんて種類がある。

 しかも、これらはベーシックメニューでさらにバリエーションがあるというのだから……率直に言って、アホじゃないだろうか?

 誰が呼んだか「缶詰ガチャ」、「レーションガチャ」なんて呼び方まであるくらいだ。

 いや、「何が出てくるかわからない」という意味の”ガチャ”という呼び名を広めたのは、確実に転生者だろうけども。

 

 ついでに言えば、フリーズドライ食品も既に試験導入されている。

 聞いた話だと、野戦食の大本命たる即席麵やカップ麵ももうすぐ登場するって話だったし。

 

「サンクトペテルブルグでレーション作るんですか?」


「できればな。古今東西を問わず、戦地において食事は娯楽だ。美味い物を食わせた方が士気向上させやすい」


 ごもっとも。

 

「真空パックとかレトルト食品とかは試験的に導入されてるだけなので、無理でしょうが缶詰と粉末の奴とかくらいなら大丈夫だと思いますよ? あれ、遠隔地に船で大量に運べるようにって作られた物だし」


 フリーズドライじゃなくてスプレードライ方式だけど、インスタントコーヒーとか粉末スープとかもうあるしな。

 ちょっと楽しみになってきたな。サンクトペテルブルグのレーション。

 

「そういえば、日本のキッチンカーは輸入できるのか?」


「輸入するなら、炊事ユニットだけをお勧めしますよ。日本車の部品も手に入りにくいでしょうし、そもそも故障した場合、修理できるのか?って問題もありますし」


「なるほど。流石は専門家。詳しいな?」


「どうも」


 ところで……

 

「あの、今日は”側近三羽烏”はいないんですか? あと美少年トリオも」


 そう、実は俺とフォン・クルス総督は総督執務室で二人きりだ。

 いやさ、今は敵国じゃないと言っても、他国の人間と二人だけなんて、いささか不用心じゃないのかね?

 

「ああ。彼らには少々、色々と動いてもらってる」


「お聞きしても?」


 軍事機密ならご遠慮しますが。

 

「言える範囲で言えば、スモレンスクとクルスクに送る追加装備の確認だな」


 ん? となると……

 

「ソ連がまた性懲りもなく”カティンの森”を攻めてくるので? クルスクはまあ……ヴォロネジですか?」


「そういう兆候があるってことだな。ヴォロネジの詳細は俺も知らんよ」


 線引きはしっかりつけてくれるようで助かる。

 

「オノデラ大佐、”こっち側”の人間として聞きたいのだが、”レイジードッグ”と”ドラゴントゥース”はもうあるのか?」


 ”レイジードッグ”はダーツ型の対人子弾をばら撒くキャニスターや爆弾、”ドラゴントゥース”は同じく空中散布型の小型対人地雷だ。

 無論、どっちもベトナム戦争やアフガニスタン侵攻で使われた”戦後の兵器”だ。

 

「レイジードッグと似たようなのは試作兵器であったと思いますが、”PFM-1”は多分、まだの筈です」


 ちなみにPFM-1はドラゴントゥースのそっくりさんで、基本的にソ連製かアメリカ製かの違いと考えていい。

 

「日本からの輸出の可能性は?」


「まだ試験投入の段階ですから、当面は……」


 いや、まあ最先端兵器の輸出なんて、相手がドイツじゃなくてもホイホイと出せるもんじゃないけど?

 技術交換は、ある種の等価交換的な取引ではあるけど、兵器の輸出入となれば話は変わってくる。

 戦況に影響を与える程の兵器輸出は、明確な戦争幇助になっちまうし。

 俺に言わせると、レンドリースなんて意味不明な理屈で堂々と戦争幇助してるヤンキーが頭オカCのだ。

 普通に考えて、宣戦布告なしにドイツに戦争吹っ掛けてるようなおんだぞ?

 

「仕方ない。自前で開発する方向で考えるか……」


「作れるんですか……?」


 するとフォン・クルス提督は少し考えてから、

 

「今の技術でも再現できなくはないだろ? 幸い、設計図……なんて精密な物じゃないが、概念図や構造図くらいなら頭の中に入ってる」


 と自分の頭をツンツンとつつく。

 噓でしょ?

 

「小官はミリオタの自覚はありますが、兵器のアーキテクトまで脳内メモリーしていませんが?」


「いや、普通だろ? 例えば、陸軍が使っていた試製ロタ砲はまんま”M9A1”だろ? そういう風に頭の中に図面持ってる”ご同類”は結構いると思うぞ?」


 あっ、ちなみに現在、皇国陸軍は制式配備され始めた”零式三吋噴進砲”に変わる次世代対戦車ロケットランチャーとして”試製九糎噴進砲(三式90㎜ロケットランチャー)”ってのを試験開始してるけど、こっちはまんま自衛隊というか警察予備隊でもお馴染みの”M20改4型スーパーバズーカ”だ。

 そうなると、フォン・クルス総督の言う事もあながち間違いじゃない……のか?

 

「ところで、ここで対戦車兵器の話題を出すってことは、もしかして”RPG-7”の開発とか狙ってます?」


 いや、あれって構造的にはパンツァー・ファウストとパンツアー・シュレックの混合物みたいなもんだし。

 特に難しい電子部品とか使ってるわけでもなし。


「勘の良い漢は嫌いじゃないぞ?」


 いや、だから魔王スマイルはやめれー!

 なんかこう、心臓がキュッとなる。


「まあ、RPGに限らず簡単に使える対装甲装備は、ドイツ式以外にもある程度、生産できるようにしておきたい」


「……”赤軍大反攻バグラチオン作戦”」


 総督は無言でうなずき、

 

「米軍のレンドリースが本格化すれば、どこかの時点で連中は必ず企てるだろう? ドイツが無茶な攻めをしようがすまいが関係なく」


「まあ、あれは現代版のリアル敵対的地球外起源種や巨大昆虫のスタンピードみたいなもんですからね」


「だから、”人型戦術戦闘機”や”生体荷電粒子砲”は作れなくとも、阻止攻撃に使える装備は整えておきたいのさ。例えば、航空機による空中散布やロケット弾による投射が可能な対戦車地雷とか、作れそうな範囲でな」


「”阻止攻撃・・・・”……ですか?」


 するとフォン・クルス総督はニヤリと笑い、

 

「今生の総統閣下は、”マルク経済圏レーヴェンスラウム”に不必要な土地を耕すほど、お優しくはないのさ」













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