第203話 スオミ産の色んな意味で大御所登場!




わしがフィンランド国防軍最高司令官! カールハインツ・エミール・マンネルハイム元帥であるっ!!」


「アンタは江田○平八かいっ!?」


 いや、ちょっと待ってくれ。

 せめて言い訳させてくれ。

 ああ、来栖、じゃなかったフォン・クルスだ。

 ややこしいな。

 

 いや、俺は普通に夜会に出席したんだよ?

 でかいベンツの後部座席に揺られて、ベルリンの西南西、ポツダムにある”サンスーシ宮殿”入り。

 日本だと”無憂宮”として知られてるここは、この世界のドイツでは迎賓館としての機能を持たされている。

 

 つまり、各国の王侯貴族やお偉いさんがドイツ訪問した際のホテル兼ダンスホール&パーティー会場だ。

 今回、呼ばれたのはバルト海沿岸諸国の代表で、公的には特別行政区扱いの”サンクトペテルブルグ市総督”の就任だ。

 関係各国と呼べるのはそれくらいで、日英はそこに含まれていない。

 

 というか、たかが一地方行政区の総督就任に国外から要人が招かれる事が、本来なら異常事態だ。

 例えば、どこかの県知事が就任したからって、各国から要人はこないだろ?

 

 まあ、俺自身も少々派手に色々やった自覚はあるから、この処遇は納得してるが……

 

(しかし、イカツい軍服姿のマッチョ老人が、開口一番、日本語で・・・・で名乗りをあげるのは流石に反則だろうがっ!?)


 ちなみに衆人環視、それも各国お歴々がいるパーティーホールだぞ? ここ。

 俺の日本語の返しに、え~とマンネルハイム元帥(?)はニヤリと笑い、

 

「なるほど。やはり”同郷者”であったか。重畳重畳」


 ハメられたっ!?

 あー、くそ。この爺様、どう考えても転生者サクセサーだわ。

 

「若いのぅ。悔しさが顔に出とるぞ?」


「お戯れを。元帥閣下」


「閣下はいらん。同格の元帥であろう?」


 このクソジジイ!

 

「そうは言われましても、私は率いる規模や役職から”元帥待遇”なだけであり、閣下・・の様な正規軍人ではありませぬ」


「固いのぅ。元帥は元来、名誉称号じゃ。お前が腰に差しておるのが新たに元帥杖であることは、この場の誰もが承知しているというのに」


「何と言われても、人には譲れない一線というのがあるのですよ」


「レ○アースかね?」


「それは”ゆずれない○い”!」


 ハッ!? しまった。つい……

 どうもこの爺様と話してるとペースが崩される。

 

「クックックッ。存外にノリが良いことで結構結構」


「……閣下、流石に私をからかいに来たのではないですよね? だとしたら、少しは場所を弁えて……」


「なに。ただの顔見せよ。サンクトペテルブルグの行く前に、お前さんの為人ひととなりでも確認しておこうと思ってな?」


「来るのですか? サンクトペテルブルグに」


 むしろ、あんまり来てほしくないんだが?

 

「欲しいのだろう? ”オネガ湖南南東の分岐・・”が」


 チッ……まだ正式に作戦立案はしてないはずなんだが。

 

(こりゃ読まれてるって考えた方がいいな)


「……それをここで持ってきますか? 正確には私がというより、ドイツの都合ですが……委細承知しました。来るときは一声かけて下されば、用意と準備はしておきましょう」


 つまり、この爺様は俺の考えている”ボログダ攻略”を読んだ、あるいは勘づいた上で「現在、カレリアに展開しているフィンランド軍が協力してやってもよい」と言ってるのだ。


「プランにスオミを”正式”に組み込んで良いので?」


 誰が聞いていても良いように返すと、


「構わんよ。儂の権限が許す限り協力しよう。ただし、”対価”は用意して欲しいな」


「……なるほど。サンクトペテルブルグには”品定め”目的で?」


 つまり、サンクトペテルブルグで生産している、あるいは生産予定の「ソ連系譜の友好国向け装備」を自分の目でみたいってことか?


「どう解釈してもらって構わんよ」


 こりゃ、俺の一存だけって訳にはいかんだろう。

 

「ベルリンとの確認をとってからになりますが、それでよろしいでしょうか?」


「結構」


 だが、せめて一太刀くらいは返してくれよう。

 

「それで、お眼鏡には叶いましたか?」


わしはカラフルな人間を好む。退屈な人間は、悪人にも劣ると思ってるのだよ」


「は、はあ?」


 この爺様、いきなり何を言ってるんだ?

 

「お前さんは、様々な側面いろを持っている。しばらく退屈せんのは良いことだ」


 食えない爺様だ事で。

 吉田先輩と同じ匂いがしやがる。

 海千山千の古狸、腹の底が読めんタイプか……








「ところでフォン・クルス」


「なんです?」


「実は、礼服ではなく以前、日本を訪れた際に作らせた紋付羽織袴でパーティーに出ようとしたら部下に止められてしまったのだが……」


「当り前でしょうが!」


 この爺様、マジでキャラ特濃過ぎやしないか!?


「しかし、皇国では未だに正装だろう? 大和魂を体現した素晴らしい和服だと思うのだが?」


 いや、ノイエ・ジ○ルじゃねぇんだから。


「大和魂って、あんたスオミ人でしょうが……」


「ふん。くだらぬな」


 なんか元帥は(大胸筋的な意味で)分厚い胸を張り、

 

「世界をいくつ跨ごうと、”コメ食いてー”精神は失われんわい!」


 あんたの大和魂の源泉はそこかいっ!?

 いや、日本人的には間違ってないような……?















************************************










 その後、何やらお歴々と顔合わせをして、何やら何人かの娘さんを熱心に紹介されたが、正直、勘弁してほしい。

 こちとら本来、社交界なんてのとは程遠い世界に生きてた人間だ。

 ぶっちゃけ、良家のご令嬢とか絶対に空気が合わんぞ?

 

 つつがなくと表現するには少々濃い面々もいたが、大きなトラブルもなく夜会は終了した。

 

 一応、元外交官なんでレセプションやらパーティーに出席したときの為にマナーやらダンスやらの教練を受けたが、半ば錆びついていたり埃かぶってたそれらのスキルが役立つ日が来るとは思わなかったぜ。

 兎にも角にも、これで明日にはサンクトペテルブルグに帰れるかと思うとホッとする。

 

「サンクトペテルブルグに帰れる・・・、か」

 

 公的には俺はもう日本人の来栖任三郎ではない。

 ドイツ人でサンクトペテルブルグ在住の”ニンゼブラウ・フォン・クルス・デア・サンクトペテルブルグ”だ。

 

「サンクトペテルブルグが今の俺の故郷か……」


 日本皇国に対する望郷の念が0と言ったらウソになる。

 やはり、日本人として生きてきた時間に愛着はある。

 だが、

 

(これはこれで悪くない)

 

 外交官のまま、あるいは日本人のままだったら決して許されない行動をとる事が可能となった。

 

「合法的に赤色勢力を地上から殲滅できる立場というのは、実に悪くない」


 ”神の地上代行者”を気取る気は無い。

 救世主になるなんざ真っ平御免だ。

 

「だが、信仰は復活させてやる。信仰の自由も許す。だから、力を貸せ……」


 誰にでもなく呟いて、俺は眠りに落ちる。

 今日はひどく疲れた……

 よく眠れそう……だ……













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