第189話 地面を這いずっていようが空を飛んでいようが、赤軍戦車である事に変わりなしっ!!
「砲弾もろとも、悉く爆ぜ飛ぶが良いっ!!」
ルーデルの裂帛の気合い元に放たれた2発の500kg集束爆弾は、空中で成形炸薬式の
さて、今回のミッションを簡単に説明しよう。
事の始まりは、ドイツの制空圏内を高高度で遊弋していたJu86P偵察機の光学観測型からの通報だった。
Ju86Pは、偵察機にジャンル分けされているが、敵地上空に高高度から侵入するU-2のような写真偵察型だけでなく、先にも登場した大型機載レーダーを搭載した早期警戒(AEW)型、そして、各種高性能大型光学望遠鏡やステレオ式測距儀、高出力無線機、あまり探知距離は長くないが赤外線関知装置などを搭載したのが光学観測型だ。
この時代、E-8”ジョイントスター”のような空対地レーダーはまだ実用段階にはなく、電波的探知手段ではなく光学的探知手段が主流だった。
つまり直線的な意味で、「高いところからの方が良く見える」を実践してるのだ。
実際、装甲車両が走ると発生する土埃、あるいは各種大砲の発砲炎や発砲煙は良く見える。
そして、発見したのは移動を終えて停車しようとした赤軍重砲連隊の姿だった。
これは偶然ではない。
実は、野戦砲兵陣地の構えられる場所と言うのは、砲の射程や大きさ重さ規模である程度限られている。
例えば、狭いところや起伏の激しい土地に陣地の展開は不可能だし、砲の重さや反動で沈み込むような軟弱な地盤も展開に適さない。
スモレンスクのドイツ軍は入念に候補になりそうな場所を調べ上げ、スモレンスク防衛用地雷原とはまた別に、行軍阻止用の地雷原を通り道になりそうな場所や砲兵陣地構築可能な場所に埋設していた。
そして、このJu86P光学観測型は、そのような場所を重点的に旋回しながら見張っていたのだ。
無線にてスモレンスク防衛司令部に伝えられた情報を元に飛び立ったのが、ルーデル大尉指揮する12機のスツーカ中隊であった。
腕利きが集められた……というのもあるが、実はこの世界線のJu87D/E、史実にはない特徴がある。
後部機銃手の後部座席が史実のように固定式ではなく、アメリカの艦上爆撃機のように回転式になっているのだ。
というのも、便宜上は機銃手になっているが、もはや別の機体と言ってよいD型は以降のスツーカは、後部座席に通信手と航法手の役割を持たせ、事実上の
つまり、前方、パイロットとの間に専用のコンソールが設けられているのだ。普段は前方の計器類に注意を払い、戦闘時には椅子を回転させて旋回機銃を構えながら後方を警戒するという忙しい役職になっていた。
また、Ju87D/Eも戦闘機同様、専属のコ・パイロットがいるからむしろより高精度に例のビーム・ライディング方式半自動指令誘導が可能になっているのだ。
今回の作戦もガーデルマンが電波高度計に注意をしながら低空を突進、ロケット弾投射、牽制の機銃掃射をしながら上昇、急降下爆撃という鉄板ルーチンだった。
芸が細かいのは、最初に投射したロケット弾に詰め込まれたいたのは、爆発と同時に鉛玉をまき散らす対人/対非装甲目標用の榴散弾弾頭と、テルミットを仕込んだ焼夷榴弾弾頭との二種類で行われたのだ。
明らかに牽引式重砲の非装甲部分や操作人員を狙い、あわよくば砲弾の誘爆を狙う攻撃であると同時に、対空射撃を妨害する気満々なのが手に取るように分かる。
そしてばら撒かれる500kg弾1個に200発近く仕込まれた成形炸薬子弾の集中豪雨……さて、鉛玉交じりの爆風で兵士を吹き飛ばされ、消火困難なテルミット火災で火を点けられ、トドメに数千度のメタルジェットが軽装甲を焼き穿つ攻撃を食らった連帯規模の赤色砲兵隊が難問発射できただろうか?
答えは神のみぞ知る。もっとも、神を信じぬ共産主義者に言っても無駄だろう。
では答えは?
諸元入力を済ませ砲撃を開始した、ドイツ軍の重砲のみが知っていた。
「フハハハハハッ! 見よガーデルマン! 砲も人も松明のように燃えておるわっ!!」
「いや、大尉。そんなんだから”空飛ぶ魔王”とか呼ばれるんですよ?」
***
そして、新たな赤色兵力を狩るべく、補給のため基地に帰投しようとするルーデルの前に新たな”
敵は戦闘機ではなく、Il-2M襲撃機7機。ソ連はロッテ戦法は使わないはずなので、密集を好む彼らの性質から考えて、数の中途半端さからどうやら味方機からはぐれた(Fw190あたりに追い散らされたか?)部隊のようだ。
翼の下に装備は無く、行き掛けの駄賃ならぬ帰り掛けの駄賃、固定脚の旧態依然とした急降下爆撃機なら自分達も鴨撃ちできるとでも思ったのだろう。
数的劣勢なのに仕掛けてくるとは、随分とルーデル達をナメた物だ。
いや、あるいは本業の対地攻撃に失敗し、少しでも失点を取り戻したいと
だが、以外に聞こえるかもしれないが、設計を根本から変更し洗練されたJu87Eは、過給機の変更などでJumo211系列最終型のJumo211Pを搭載し、その出力は1480馬力に達し、空虚重量は2810kg。
つまり、Il-2Mに比べて200馬力以上ローパワーだが、1500kg以上軽いのだ。
結果、外部に何も装備していない状態のJu87Eの最高速は410㎞/hに達していた。
Il-2Mの最高速は411㎞/hとされているので、差はない(むしろ計測方法の違いからJu87Eの方が優速まである)
だが、それを理解していないソ連パイロットは、何とも無謀なことに真っ直ぐルーデルへと突っ込んできたのだ!
「その心意気やよしっ!」
「あー、またこの魔王様は……ロシア人もそんなにルーデル喜ばしてどうすんだよ?」
なんか、ガーデルマンの口調が荒れていた。キャラ崩壊か?
一つだけ残念なお知らせをしよう。
Il-2系列は”空飛ぶ戦車”と呼ばれる防御用の重装甲をコックピット周りなどに備えていた。
また、ソ連機は
だが、地上攻撃が主任務のJu87DないしEの左右主翼に仕込まれたMG151/20㎜機関砲には、一般的な空対空弾である軽く貫通力の低い薄殻榴弾ではなく、「装甲車両を射貫くための」純粋な”
Il-2Mの防弾装甲は、最も分厚い部分で12㎜。確かに航空機として考えれば重装甲だが、ドイツ製の20㎜徹甲弾は300mで厚さ25㎜の装甲板を貫通できる性能があった。(41年型T-34の上面装甲厚は16㎜、42年型T-34は20㎜)
戦車の上面装甲を撃ち抜こうとしてるのだから、当然であろう。
まあ、ルーデルにとっては、地面を這いずっていようが空を飛んでいようが”「赤軍の戦車」であることには
(なら、破壊するまでの事っ!)
付け加えるならルーデルに限らずドイツのスツーカ乗りは、「戦闘機パイロット訓練から、事情がありスツーカ乗りに転向した者」も多い。
そう、チベスナのように諦観した表情のガーデルマンからの編隊内通信により、迎撃の命令が伝わったJu87隊12機は、綺麗に六つの
「己の未熟さも悟れぬまま、散るがよいっ!!」
この日、ルーデルは2機の「空対空戦闘での撃墜」を記録する。
地上での撃破も含め、華々しい”戯曲・大空の魔王伝説”の一幕であった。
またこの日の戦訓から、全て戦闘機のMG151/20㎜機銃に薄殻榴弾と徹甲弾が1:1の割合で装填されるようになったという。
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戦いとは時にじゃんけんのような物だ。
兵器にも相性というものがあり、同種の物同士をぶつける、それしか対抗手段がないのならいざ知らず、戦車に戦車をぶつけることが最適解とは限らない。
ドイツ軍もそれはよく心得ており、赤軍カチューシャ潰しにロケット弾を鈴なりに搭載したFw190を使い、重砲へのファーストストライクにJu87を用いた。
効果測定をしていた弾着観測機からの無線で、ドイツの重砲隊が行ったのは身動き取れずに半死半生、あるいは満身創痍となった赤軍重砲隊やロケット弾部隊にとどめを刺しただけだ。
そう、繰り返すが相性というものは確かに存在するのだ。
その日、赤軍大尉アンドレアノフ・オリョーコフには、人生最大の不幸が訪れていた。
なぜなら……
「なんで……」
隣を走っていた部下のT-34戦車がガクンと唐突に力尽きたように止まったのだから。
「何で飛行機に大砲が乗っかってるんだよっ!?」
”バグッ!!”
だが、オリョーコフ大尉に今以上の不幸が訪れることはない。
なぜなら飛来したHs129のMk103/30㎜機関砲から放たれた徹甲弾が彼の
彼が苦しむことは、二度となくなった。
正確には、苦しむことすらできなくなったのだが。
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