転生しても戦争だった ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~
第188話 強さの秘密 ~独ソ戦闘機比較と昼夜兼用の発展型ヒンメルベッド、そしてツーゼ博士とフォン・ノイマン(皇国の国家機密を添えて)~
第188話 強さの秘密 ~独ソ戦闘機比較と昼夜兼用の発展型ヒンメルベッド、そしてツーゼ博士とフォン・ノイマン(皇国の国家機密を添えて)~
まず、大前提の話をしよう。あるいはおさらいになってしまうが……
ドイツの第二次世界大戦の目的は、独ソ戦前から終始変わらず”
史実に標榜されていたそれと大きく異なるのは、”アーリア人ではなく
これは広義な意味でのドイツ人、つまり
では、そのレーヴェンスラウム確立の為に「モスクワの早期攻略」は必要か?
答えは、”
占領して土地を確保したところで、内部を構築し名実共に生存圏としてきちんと機能させるようになるには、とても時間がかかる。
そして、レーヴェンスラウムは「ドイツ人によるドイツ人国家」だけでは構築できない。
国を存在させるのは資金が必要であり、そのためには(通商関係が結べる)友好的な外国が必要で、それは”広域なマルク経済圏”としてまとまるべきなのだ。
むしろ、ヒトラーにとり、上記の理由から逆にモスクワが早期に陥落しては不都合となる。
バルト三国や東ポーランド、ウクライナなどドイツが「ソ連に酷い目に合わされた国」を積極的に組み入れてるのは伊達や酔狂ではない。
後にレーヴェンスラウム=マルク経済圏を成立させる為の触媒、つまりは「分かりやすい共通の敵」として、ソ連は必要だった。
では、その前提からスモレンスクの現状を考えてみよう。
スモレンスクは現在、”モスクワに最も近いドイツの拠点”と言える。
元々、そういう赤軍が積極的に奪還を狙うだろう立地条件、地政学的背景がある以上、元々”前線の砦”として機能させるべく防御を固めてきた。
ロシア製の民間人を全て追い出したのも、それが理由だ。
そして、”セントバレンタインデーの喜劇”を呼び水にした”カティンの森の虐殺”を国連臨時総会でぶちまけることで、ソ連がいきり立ち攻め込んでくる事は予想できたので、更なる防衛強化に務めるのは必然だった。
それが、
《b》Festung ”Smolensk dir Stachelschwein”《/b》
”ヤマアラシ要塞スモレンスク”と後年呼ばれることになる、今のスモレンスクである。
***
『何故か、ドイツ機はいつも太陽を中から降って来るんだ。誰が一体情報を流してるのだと、スパイ狩りで部隊の中が険悪な雰囲気に包まれた』
これは、史実の独ソ戦中期のシュトゥルモヴィーク・パイロットの手記だとされている。
大祖国戦争(独ソ戦)初期~中期にかけては、ソ連ではほとんどの軍人がレーダーを知らず、前線のパイロットには認知されていなかった。
レーダーに限らず、無線機などの電波装備全般が酷く開発も生産も装備も遅れていたのだ。
例えば、戦争当初はソ連戦車やソ連軍用機に無線機が積まれていたのは隊長級だけであり、全車/全機に標準搭載だったドイツとは対照的だった。
また、肝心の無線機もソ連産のそれは真空管の加工精度が悪く雑音だらけで、顰蹙を買っていた。
一方、航空機に目を移してみよう。
1942年3月下旬のこの時期、ソ連で大規模に生産されている戦闘機は、史実準拠で以下の三つに集約される。
MiG-3
エンジン:ミクーリンAM-35A(1350馬力)
最高速:640km/h
航続距離:820km
武装:12.7㎜機銃×1、7.62㎜機銃×2
空虚重量:2700kg
Yak-1
エンジン:クリーモフM-105PA(1050馬力)
最高速:569km/h
航続距離:650㎞
武装:20㎜機関砲×1、7.62㎜機銃×2
空虚重量:2445kg
LaGG-3
エンジン:クリーモフM-105PF(1180馬力)
最高速:560㎞/h
航続距離:650㎞
武装:20㎜機関砲×1、12.7㎜機銃×1
空虚重量:2620kg
ついでに生産数の関係でよく激突するIl-2についてのデータも挙げておこう
Il-2M
エンジン:ミクーリンAM-38F(1700馬力)
最高速:411km/h
航続距離:685㎞
武装:20㎜機関砲×2、7.62㎜機銃×2、12.7㎜旋回機銃×1
空虚重量:4425kg
ペイロード:600kg(最大)
対して、今生で生産されるドイツの主力戦闘機は、
Bf109F-4
エンジン:ダイムラーベンツDB601E(1450馬力)
最高速:635㎞/h(戦闘重量)
航続距離:1100㎞(増槽装備時)
武装:20㎜機関砲×1、13㎜機銃×2
空虚重量:2125kg
Fw190A-3
エンジン:BMW801E(1850馬力)
最高速:640㎞/h(戦闘重量)
航続距離:1500㎞(増槽装備時)
武装:20㎜機関砲×4、13㎜×2
空虚重量:3200kg
ペイロード:1000kg(最大)
参考までに急降下爆撃機も。
Ju87E
エンジン:ユンカースJumo211P(1480馬力)
最高速:410㎞/h(外部装備未装着時)
航続距離:1500㎞(増槽装備時)
武装:20㎜機関砲×2、連装7.92㎜旋回機銃×1
空虚重量:2810kg
ペイロード:1800kg(最大)
Fw190は
例えば、一番馬力のあるMiG-3でも、出力で100馬力劣り重量で500kg以上重い。
この理由は、今生のドイツ機が全金属製で、超ジュラルミンと言う高強度アルミ合金素材を惜しげもなく使っているのに対し、ソ連戦闘機は胴体や主翼を木製のモノコックあるいはセミモノコックフレームで作成している影響が露骨に出ている。
ソ連が航空機などに使う木製合板は”デルタ合板”と呼ばれる白樺素材のそれだが、耐火性は高いが強度を維持しようとするととにかく重くなる欠点があった。
車のようにパワーウエイト・レシオを出せば、おおよその性能差は察せられると思うが、Bf109F-4が2125kgで1450馬力の1,46kg/psなのに対し、MiG-3は2kg/ps、Yak-1で2.33kg/ps、LaGG-3で2.22kg/ps。
Fw190A-3で1.72kg/ps、Il-2Mで2.6kg/psだ。
これは「1馬力でどのぐらいの重量を支えるか?」という数値なので、値が小さいほど高速で運動性も高いのが一般論だ。
だが、その割にはMiG-3の方がBf109Fより優速な気がするが、これは計測状態の違いだ。
この時期の米ソの最高速の出し方は、弾薬を搭載せず燃料を飛べるギリギリまで減らした”
日独に限らず英もだが、特に戦闘機は「実際にパイロットが戦闘機で空中戦を開始する時、どのくらいの速度が出るか?」の実測値を重視していた。
ソ連と同じレコードコンディションで計測するなら、Bf109もFw190も最高速+30㎞/hは手堅いだろう。
他にも、カタログデータには現れないソ連機の弱点は多々あった。
中でもお国柄と呼べそうなものもいくつもある。
例えば、ガラスの透明度が低く、キャノピーや照準器の視界がドイツ機に比べてかなり”濁って”いたというのはどうだろう?
更に品質(特に加工精度)のばらつきが酷く、カタログスペックが出ないのは良い方で、かなりのパーセンテージの不良品が発生した。
実は、不良品3個のエンジンをバラして1個のまともなエンジンを組み上げるなんてザラにあったのだ。
また、整備不良も割と頻発し、配備された機体と実際に飛べる稼働機に大きな差があったなんて話もよく聞く。
結局、高確率の不良品の発生を生産数で補ってみせたのが史実のソ連であり、現在進行形でそうしようとしているのが今生のソ連だった。
***
さて、戦闘機という端末ハードウェアだけでもこれだけの技術差・性能差があるのに、加えて冒頭のレーダーの有無という圧倒的な技術差がある。
ドイツは、地上固定式のレーダーだけでなく、Ju86Pの機載レーダーや移動式の野戦レーダー(スモレンスク市内に隠蔽配置)まで用いて濃密なレーダー警戒網を形成。
それだけにとどまらず、昼夜兼用の《b》”発展型ヒンメルベッド”《/b》システムを導入。
情報伝達こそ通信機を通じた口頭でのやり取りだが、味方機の誘導に関してはビーム・ライディング方式のコマンドガイダンスの半自動指令誘導まで実現していた。
驚くべきは、地上の大規模なGCI設備だけでなく、戦闘機のような小型機にも電波高度計、半自動オートパイロット、誘導電波受信システム、トランスポンダ、敵味方識別装置(IFF)など最低限必要な装置を初歩的な物ながらコンパクトにパッケージングして搭載している点である。
真空管やリレー、歯車だけでそれを実現してるのだから、何ともドイツ的と言おうか……
以前、Fw190については書いたが、純粋戦闘機であるBf109にも当然、バッチリ搭載されているシステムだ。
そして驚くべくは、これらの装置を搭載していながら、史実のオリジナルの機体と”空虚重量が
つまり、カタログスペック的に大差がなくとも、見えない部分でしっかり史実より進歩しているのだ。
そう、電子装備の差は、もはや無線機搭載数の格差どころではない、圧倒的と言ってよい開きが独ソにあった。
因みにこの発展型ヒンメルベッドシステムと同等の半自動防空迎撃システムを構築できるのは、今のところ日英くらいしかいない。
アメリカは?と問われるかもしれないが……
少しだけ、本当に少しだけ機密……非公開情報を解除しよう。
実はこの世界線において、日本皇国はレーダーなどの電波技術・電気技術・電子技術は国家の最高機密であり基幹技術であると定めており、国家機密や軍規でガチガチに固め、最先端技術はほぼほぼ英国とのみ技術共有・共同開発している。
具体的な例をあげよう。
例えば、1927年に史実と同じくレーダーの根幹技術となるマイクロ波を発生させる「分割陽極型マグネトロン(いわゆる真空マグネトロン)」が改春されたが、これは即座に(転生者が裏で糸を引いて)軍事機密(軍機)となり、特許として出願され受理されたのはその概要のみだった。
つまり、真空マグネトロンの性質詳細や製造法を知っているのは日英だけで、共同開発で世界水準を飛び抜けた性能のレーダーを次々と(国防機密故の非公開で)開発できている理由でもあった。
また、レーダー高性能化の”ダミー情報”として八木式アンテナ(ダイポールアンテナ)を大々的に国策として宣伝しており、今やテレビ受信用アンテナとして民生品としても普及しつつあった。
無論、これだけではない。
国家最高機密ではあるが……実は日本皇国、好き者の転生者(なんでも、ギターフリークでエレキギターとトランジスタアンプを作りたかったとか。国に資金援助を求めてきたときにゲット。機密指定解除後に国が資金を含めた全面支援を約束)の手により、既に”半導体ダイオード”と”トランジスタ”の開発・実験室レベルでの評価試験が30年代に終わり、天文学的な予算を投じて量産体制の準備段階に入っている。
つまり、日本皇国は国際競争力のない真空管の時代から、やむにやまれぬ事情(荒っぽい軍用で使うには信頼性、耐久性、製造コスト、脆弱性が常に付きまとう)でソリッドステートの時代に一足先に入ろうとしていた。
これは後年、とてもとても大きな意味を持つことになる……
***
余談に聞こえてしまうかもしれないが、前話のラストに登場した、発展型ヒンメルベッド・システムに試験的に取り付けられた《b》”
まだ、生まれたばかりのアナログコンピューターで、何が可能なのかよくわかってない状態ではある。
だが、ドイツの未来はここにあるのだ。
ドイツ政府がパトロンとなりツーゼ博士は、今、土木技師ではなく電子工学の博士となっている。
そして、居場所は明かせないが彼と共同研究をしている男の名も記しておきたい。
その男の名は、《b》”フォン・ノイマン”《/b》。
そう、史実でも今生でも英国に居るチューリング博士と同じく、コンピューターという概念の生みの親であり、史実ではアメリカに亡命し”ノイマン型コンピューター”の概念を生み出した男だ。
彼は家族ともども手厚く保護され(同時に存在を秘匿され)、”
世界は、明らかに誰も知らない方向へと向かっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます