第185話 大砲鳥にはやっぱり30㎜より37㎜ がよく似合う。そして編み出される”ガーランドの機織り”というつよつよ戦術





「どうですか? フォン・クルス総督」


「正直、驚いた。なるほど、アメリカはこんな物を作っていたのか……」


 さて、1942年2月後半。

 ムルマンスクで拿捕された米国レンドリース船団(PQ1船団)に積まれていたいた荷物の一部が、技術資料としてサンクトペテルブルグの関係各所に届いていた。

 まあ、ムルマンスクでゲットされた人員も物品も、鉄道輸送するなら一度はサンクトペテルブルグを通るので、「重複する嵩張る余剰装備」は置いてっただけなのかもしれない。

 

 だが、そのお目通しに俺、フォン・クルスこと来栖任三郎が呼ばれたのは良いんだが……

 

(明らかに登場が少しばかり早い装備があるな……)


 例えば、ベルP-39”エアラコブラ”だ。

 俺の前世ではこの時期、レンドリースに回されたP-39は、初期型のP-39C相当の”エアラコブラI”だったはずだ。

 しかし、目の前ある機体は、どう見ても後期型のP-39Qだ。

 識別点は武装とエンジンが違う。

 エンジンは同じアリソンV1710系統だから、性能は実測してみないとわからないが、武装はかなりハッキリと後期型エアコブラだと主張していた。

 初期型はM4/37㎜機関砲×1(プロペラ軸)、M2/12.7㎜機銃×2(機首)、M1919/7.62㎜機銃×4(主翼)で、後期型は主翼の機銃が12.7㎜×2に変更されている。

 目の前にある機体がまさにそうだ。そして、M4/37㎜機関砲に装着されてる30連発の給弾装置も”M6エンドレスベルト弾倉”と呼ばれる「機関砲とは別に個別名称が与えられた」後期生産型の特徴的装備だ。

 

 加えて、短砲身の75㎜砲で湿式弾薬庫を搭載していない極めて初期のモデルとはいえ”M4シャーマン中戦車”がここにあるのは、明らかにおかしい。

 俺の知っている歴史なら、最も初期のシャーマンでも生産開始は1941年の10月だったはずだ。

 レンドリース船団の初出発が史実より遅い1941年12月25日だったから、スケジュール的に不可能かと言えば、そうでもないと答えるしかない。

 

 ここで考えられるパターンは二つ。

 アメリカでも微妙に技術加速しているか、あるいは……

 

(アメリカ軍でも配備していない最新鋭の兵器を、最優先にソ連に流しているか……)


 或いは、その両方か?

 いずれにせよ、面倒臭さが上がったのは事実だ。

 ただ、”M1ガーランド自動小銃”が無いのは、救いかもしれない。

 旧式のスプリングフィールドM1903小銃は荷物に入っていたというのに。

 

(となれば、第3の可能性もあるか……)


 軍部は「全軍に行き渡っていない最新装備」をソ連に譲渡するのを必ずしも賛成していない。

 そして、目の前にあるのはバトルプルーフの済んでいない、それこそ生産されたばかりの最新鋭兵器……

 

(米軍は、赤軍を使って新兵器の戦場での実戦テストや効果確認を行おうとしている?)


 むしろそれなら納得しかないな。

 ルーズベルトのクソ野郎やヤンキー赤色政治家の意図はともかく、米軍としては「自国の兵士を使わず戦場で新兵器の効果測定」ができるなら、メリットは大きい。

 俺がそんな風に思考を沈降させていると、

 

「フォン・クルス総督」


「ん? ああっ、ユンカース社の」


 サンクトペテルブルグに拠点を構えるユンカース社の”Ju187開発チーム”の技術主任だった。

 

「相談なんですが、このアメリカ戦闘機に搭載されている37㎜機関砲ってサンクトペテルブルグで量産可能になりますでしょうか?」


 妙なことを聞くな?

 

「出来る出来ないで言えば、出来るが……Ju187にはMk103/30㎜機関砲の搭載が決まっていたのではないのか?」


「いえ、そうなんですが。どうもMk103の需要があり過ぎて供給に不安があるのと、反動が大きすぎて銃身を通す中空クランクシャフトと軸受に負荷がかかり過ぎる可能性が出てきまして」


 なるほど。

 実は、M4に比べてMk103の方が口径は7㎜小さいが薬莢長は逆に4㎝ほども長くその分強力であり、また発射速度もM4の3倍近くある。

 サイズ的にはさほど変わらない(Mk103:2,335㎜、M4:2,273㎜)が、重量はMk103の方が1.5倍ほども重い。

 重い方が反動を押さえやすいという側面もあるが、例えば秒ごとの反動係数を考えれば、この程度の重量増で相殺できるような物ではないだろう。

 

 供給に関してってのも、Mk103は地対空機関砲、艦対空機関砲としても現状で引く手あまたってのもある。

 例えば、IV号戦車にMk103を連装砲塔にして搭載した”クーゲルブリッツ”なんて対空戦車も量産体制に入ってる。また航空機って分野でもHs129なんて双発対地攻撃機にも採用されている。

 

「ところで7㎜も口径のデカい弾を撃つ銃身、中空クランクシャフトを通るのか?」


「ご安心ください。銃身自体はMk103ほど肉厚ではありませんし、実際に試してみましたが、クランクシャフト周りの小変更くらいで十分に通せます」


 なるほど。そういうことなら、

 

「良いだろう。シュペーア君を通して、軍需省に申請を出しておこう。許可が出るなら、生産計画を練ろう」


 まあ、設計段階でインチスケールをセンチスケールに直すのをしくじらなければ、どうにかなるだろう。

 というか、アメリカ人がセンチスケールをインチスケールに直すときにしくじり過ぎな気がする。

 MG151とかMG42とかさ。

 

 付け加えるとアメリカ人の武器はどれもこれも絶対的な性能より量産性を優先した設計となるから、シンプルな構造の物が多い。

 何気にサンクトペテルブルグの製造スタイルには合致しているのだ。

 

(そういう意味じゃあM2ブローニングも良い機銃なんだよな)


 正直、完成度が高いから、DShK38の代わりに生産しても良いぐらいだ。

 弾の供給とかで混乱するだろうからやらんけど。あと、後でパテント問題とかでもめるのもやだし。

 そういう意味では、最初はなから『パテント? ナニソレ美味しいの?』状態のソ連兵器は楽だ。

 構造はアメリカ設計のそれよりシンプルなんだけど……何というか、時折、設計の粗さゆえの変な欠陥があったりするから注意が必要なんだけどな。

 具体的に言うなら、安全装置が付いてないトカレフ拳銃とか。

 

 他にも色々見てみますか。

 面白いアイデアに繋がるかもしれんし。

 とりあえず、

 

「”カノンフォーゲル”って名前なら、37㎜砲の方がしっくりくるしな」

 

 

 









******************************















 一方その頃、ウルムの訓練基地では……

 

 

 

「メルダース、ちょっと飛行小隊シュヴァルムの戦術機動についてアイデアがあるんだが、聞いてくれるか?」


 そう戦闘機総隊長であるメルダースの元へ来たのは、空軍士官学校の同期で友人、ちょっと前まで上官で、今は依願降格して部下に収まった副隊長のガーランドだった。


「かまわんよ。聞こうか?」


「いや、お前が編み出したロッテ戦術のその先にって話なんだが、」


 ドイツ空軍の基本戦術は、メルダースが考案した2機1組の飛行分隊ロッテ戦法だが、このロッテをペアで揃えた4機を1個飛行小隊シュヴァルムとするのが、編成の最小単位となっていた。

 

「基本的に今回の任務、Bf109は防空が主任務だろ? なんで、それに有益な空中機動は無いもんかと考えてな」


 ガーランドの意見をまとめると、

  ・ロッテが機織り・・・の糸のように互いにクロスするよう”三次元的なS字旋回”を繰り返す

  ・この運動は、互いのロッテが相互支援できるポジション取りをする為の運動である

  ・結果として、敵機に後方を取られてももう一つのがその敵機の後ろに付くことができる


「理屈も運動も単純だが、その分、新人にも理解させやすいだろ?」


 偶然かはたまた必然か、この防空機動戦術は米軍のサッチ少佐が考案した”Thach Weaveサッチ・ウィーブ”に酷似していた。

 戦時中の日本でも、いつまでも敵機が代わる代わる後ろから食らい付いてくるため”エンドレス戦法”などと呼ばれ警戒された戦術だ。

 強いてサッチ・ウィーブとの違いを上げるなら、より縦軸的な運動を重視しているところだろうか?

 いずれにせよ、一撃離脱戦法と相性の良い戦術機動だった。

 

「……変わったな、ガーランド。前のお前なら、”新人にも再現しやすい空中機動”など考えなかっただろう?」


 メルダースの言葉にガーランドはフンと鼻を鳴らして、

 

「誰かさんのお陰で戦闘機隊総監なんてやらされたからな。パイロットが有限だって事を理解しちまったのさ。加えて、どいつもこいつもハルトマンみたいな天才じゃねぇってこともな」


「その通りだ。パイロットは、戦闘機乗りは一人前になるまで普通は酷く時間がかかる」


「だが、今回の戦いは間違いなく消耗戦になる。多くの新人共が経験をつめるだろうが、生き残らなきゃ意味がない」


「ああ、その通りだ。ガーランド、この戦術は”ガーランドの機織りGalland-Webart”と名づけよう」


「ヲイヲイ。いきなりだな?」


 するとメルダースはスッと椅子から立ち上がり、


「さっそく暇そうな連中を集めて、実証するぞ。我々に残された時間はあまりない」


「はいよ。やれることは全部やっておくか」


 ”一人でも多く生き残らせるために”

 

 二人のベテラン戦闘機乗りは、言葉に出さずともそう互いに決意するのだった。

 















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