第179話 日常 ~例え戦乱の時代あっても、青春と呼べる時間は確かに存在していた~
「いいかハルトマン、まだ飛び始めたばかりの
「Ja!」
実はこれ、まだ覚醒前のハルトマンにとり、”最強へ至る最適解”だった。
マルセイユは全体的に優れたパイロットだが、特に下記の点が突出していた。
・敵編隊の急所を突くセンス:敵編隊のどこを崩せば一番混乱するのか、マルセイユは本能的に嗅ぎ分けていた。
・卓越した射撃センス:彼は本能的に”射撃タイミングの最適解”を見抜いていた。命中弾は高確率でエンジンとコックピット周辺に集中する。
そして、ハルトマンは抜群の「目の良さ、嗅覚の良さ」を天性の物として持っていた。広い空間認識能力と、その空間の中から「最も落としやすい敵を瞬時に識別するセンス」が飛び抜けていたのだ。
更に技巧派として知られるロスマンより基礎から徹底的に仕込まれたまだ粗削りで未熟だが、将来を期待させるセンスと技術があった。
つまり、「マルセイユが切り付け、ハルトマンがその傷口を広げる」戦い方だ。
「それができるようになったら、どんなポジションからでも撃てるようになれ。左右の旋回から、ロールの中から、背面飛行をしているとき…いつでもだ。そしてそれを命中させ墜とせるようになれば、”坊や”はあっという間にエースの仲間入りだ」
「あのマルセイユ大尉、さすがに”坊や”というのは」
「お前が一人前になったら、名前ぐらい呼んでやるさ」
なんてマルセイユの訓練は、真面目な時もあるのだが……
『おらおらおらっ! ”クルピンスキー”、ちんたら飛んでんじゃねぇよっ!! さっさと空をあけやがれっ!!』
『げっ! マルセイユ!テメェこそ出鱈目に飛びやがって邪魔だっつーのっ!!』
平然と訓練中のパイロットに喧嘩を売って、単純な空中機動訓練が、唐突な模擬戦にカリキュラム変更される事もしばしば。
確かに腕は磨けるのだが、Gとは別の意味で顔色がしばしば悪くなるハルトマンであった。
『そうだ。それでいい。Bf109にとり、一撃離脱やダイブ&ズームの縦軸運動は絶対に損のない運動だ。何せBf109こそが、この世で最も一撃離脱に特化した戦闘機なんだぜ? それを生かすためにも視界を狭めるな、常に周囲を警戒しろ。それが戦闘機乗りの命綱だ』
いや、指導自体は的確なのだが。
***
まあ、色々な意味で激しくも厳しい日々ではあったが、それだけハルトマンにとり充実した日々でもあった。
ただ、
「やあ”カワイ子ちゃん”、何を読んでるんだい?」
木陰でBf109F-4のマニュアルを読んでいると、”
「えっと、マニュアルです。クルピンスキー中尉。新鋭機なので、頭に性能を叩き込んでおこうかと」
蛇足ながら今生のハルトマン、史実よりもちょっと中性的というか……微妙に某ストパンの黒い悪魔要素が入っていて、ベビーフェイスと相まって、カワイ子ちゃん呼びもあんまり違和感はない。
勿論、本人そんな呼び方されても嬉しくないだろうし、間違っても部屋をゴミの山にはしない。
それに、
「ふ~ん。”雛鳥ちゃん”は真面目だねぇ。そういえばBf109F型のペットネームを知ってるかい?」
結構、真面目で正義感が強いのだ。
(どうもこの人は、変な色気があり過ぎるんだよなぁ……男色家ってわけじゃないんだけど。まあ、それはマルセイユ大尉も同じか)
少し戸惑いながらハルトマンは、
「”フリッツ”ですよね?」
「ノンノン。それ以外にも”フリードリヒ”っていうのもあるのさ。雛鳥ちゃんのファーストネームと同じだね?」
「は、はあ」
「それでさ、せっかくだからフリードリヒの空中特性を確認するために、マニュアルじゃなくて大空で……」
”がしっ”
「おうコラ、クルピンスキー。また性懲りもなく俺の相方に
「ちっ! 邪魔者が来やがったか」
男同士が男を取り合ってるが、これは別に”ほもぉ”な類のそれではない。
自分の背中に見どころのある若手を付けることは「優秀な新人を育てた」というステータスになり、軍の評価が上がり給与に反映されると同時に、「背中を優秀なパイロットに預けられる」事になり生存率に直結する。むしろ、給与よりこっちの方が重要、というか切実だった。
そして、ハルトマンは上位尉官のパイロットから人気がとてもあった。
新任少尉だから声がかけやすいというのもあるが、破天荒の代名詞のようなマルセイユの背中に張り付ける技量を新人ながらに持ち、おまけに性格は素直でベビーフェイス。言うならば「理想の後輩」だったのだ。
まあ、それ以前として……険悪だとか仄暗い感情があるわけではないが、マルセイユとクルピンスキーは同族嫌悪というか、どこか反りが合わないところがあり、ハルトマンが絡むと何故か顕在化しやすいのだった。
******************************
さて、これはまた別の日の事である。
本日の飛行訓練を終え、シャワーで汗を流した後、マルセイユはハルトマンにこう声をかけた。
「”坊や”、今から暇か? 暇だよな?」
「まあ、夕食ぐらいしかすることは無いですが」
「ならいい。夜の街に繰り出すぞ?」
「は?」
「なーに、外出許可なら取ってある。ちゃーんと二人分な」
「はい?」
なにやら状況の吞み込めてないハルトマンにマルセイユはニヤリと笑い、
「なに、”坊や”をそろそろ卒業させてやろうと思ってな。なに、金なら気にするな。ここは頼りになるセンパイが出してやろう♪」
なんて上機嫌でのたまっていると、
”がしっ”
強めのグリップで肩を掴まれ、
「期待の新人を、どこに連れて行こうというのかね? マルセイユ大尉」
「げっ……バルクホルン」
「バルクホルン大尉!」
敬礼するハルトマンに”
「それでマルセイユ中尉、質問に答えてもらおうか?」
「いや~、ちょっどベッドの上の空中戦の作法でも教えてやろうかと……」
するとバルクホルンは深々とため息を突き、
「まだ恋も知らないような若者の性癖を歪ませてどうする」
「ちょっと待て! 俺はどんな特殊性癖だと思われてるんだっ!?」
さて、参考までに史実のマルセイユの同僚たちのコメント、その一部を抜粋してみよう。
・マルセイユはとてもハンサムだ。そしてとても才能あるパイロットだったが、ただし信頼はできなかった。彼はいたるところにガールフレンドがいて、彼女たちと遊んだ結果彼にはパイロットに必要な休息の時間がなくなってしまい、飛行を許可するには疲れすぎている状態だった。
・腕の太さほどもある軍規違反履歴書を持っていた。マルセイユは軍規違反の常習者となるか、偉大な戦闘機パイロットになるか、二つに一つしかあり得なかった。
これ氷山の一角である。
他にも、こんな逸話がある。とある高官に「ナチスへ入党するのか?」と聞かれたマルセイユは、
『入党に値するかどうかは魅力的な女性がいれば考えます』
と返したという。そして、それを聞いていた史実の
なんせガーランドもそれを聞いていたのだから。
ちなみにこの世界線でのヒトラーとは、同じシチュエーションで中々
それは総統府主催のクレタ島
『入党に値するかどうかは魅力的な女性がいれば考えます』
すると今生の総統閣下はニヤリと笑い、
『ならば君は入党すべきではない。君に政治は不要。どこまでも広がる蒼空と、地上で花束を抱えて君の帰りを待つ少女たちがいれば十分だろう』
とやり返す。
『あの、総統閣下……なぜに少女に限定を?』
『ふむ。マルセイユ君、君にはよく晴れた空と痴情で待つ少女がよく似合う』
『それ絶対、遠回しにロリコンって言ってますよねっ!? それとなんか字が違うっ!?』
ちなみに”マルセイユ=ロリコン説”が一時期(ジョークとして)流行ったのも、それを真に受け「自分にも脈あり」と思った主にローティーンの少女たちから大量のラブレターが届くようになったのも紛れもない事実だ。
一説によれば、彼の女癖の悪さを聞きつけた総統閣下がぶっとい釘を刺したとかなんとか。
ともかく、
「お前の場合は癖の問題じゃなくて、数の問題だ。”あの手の店”をハシゴするのはお前ぐらいなもんだぞ? それを新人にヤらせるのは時期尚早だ。若くて体力はあるかもしれないが、消耗戦に耐えるには経験が足りない」
「おまっ、俺をなんだと……」
ちなみに史実でも今生でも、1940年にバルクホルンはマルセイユの僚機を務めた経験がある。
つまり、良く知っていた。
「???」
最後まで意味が解ってなさそうなハルトマンを「たまには一緒に食事でもどうかね?」と誘うバルクホルン。
機種の違いから今まであまり訓練で合うことのなかったスーパーエースの誘いを断るハルトマンでは無い。
結局、マルセイユはクルピンスキーに声をかけて、”夜間訓練”に出向いたらしい。
そこでも
実は仲が良いんじゃないだろうか? コイツら。
まあ、その後、バルクホルンから同じくFw190乗りのエース、”
なんにせよ、今生のハルトマンは史実に負けず劣らず、愛されキャラのようで何よりだ。
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