第178話 ハルトマン「えっ? ドイツ空軍戦闘機乗りドリームチーム? (将来も含んだ)撃墜王クラブ?」
「”第1統合航空戦闘団(Kombiniertes Luftfahrt Kampfgruppen 1 略称:KLK1)”ですか?」
「ああ、とある大規模戦闘の為にガーランド閣下の肝いりで新設される、現状においては臨時編成の新機軸混成航空戦闘団……って話だ」
どうやら流石に”JV44”は、「この時期では意味わからん名前」とされるのがオチという事で採用されず、結局、新設の臨時編成航空団はまんま来栖が概要を説明する時に使った”統合航空戦闘団(Kombiniertes Luftfahrt Kampfgruppen)”の方がそのまま原案から採用され、正式名称として正規の計画書に記載された。
それを聞いた来栖が、一瞬、宇宙猫のような顔になったのはナイショだ。
さて、ハルトマンとロスマンは訓練基地のあるホッケンハイムから軍のバスで南東へ進みダイムラーベンツのお膝元大都市シュトゥットガルトを抜けて、更に70㎞、世界で最も高い尖塔を有する教会”ウルム大聖堂”があるのどかな地方都市、”ウルム”へやって来た。
ウルムは割とこのシリーズの登場人物にゆかりのある街で、史実のロンメルやシュタウフェンベルクの生まれ故郷がこことされている。
ちなみにアインシュタイン博士もウルムの出身らしい。
正確に言えば、バスが向かったのは観光地でもある市街ではなく、その郊外にある元々あった空軍基地を徹底的に拡張した巨大訓練場だった。
”第1統合航空戦闘団”の編成は、どうやらここで行われるようだ。
「詳細はさておき、集められる人員は選りすぐり、錚々たるメンツが集められたようだ。何しろ戦闘機部隊の全体指揮官は、”ロッテ戦術”の生みの親、”ヴィルヘルム・メルダース”大佐だ」
メルダースも大佐に昇進し41年9月より後方で「教官を養成する教官職」を務めていたが、この度、本人の強い希望もあり見事に戦闘機パイロットとして復帰した。
史実だと史上初の100機撃墜を果たし、全軍初の柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を受章した「国民的英雄の戦死」を恐れた空軍上層部が戦闘機隊総監に命じたが、正直、机に縛り付けるそれに比べれば優しい配慮だったと言えよう。
ちなみにメルダースの死亡フラグことウーデッドは自殺どころか、装備実験部隊で今日も元気に、そして楽しげに試作機を乗り回している事だろう。
人には適材適所というものがある。
「そ、それは流石に凄く豪華ですね……」
「戦闘機隊は大きく三つの基地に分かれて配備されるらしいが、一つはメルダース大佐直轄。残りは配置転換でごたついてたリュッツオウ中佐とヴィルケ少佐が受け持つらしい。他にもFw190乗りで最初のエースになったノヴォトニー中尉や後方で機種転換訓練を終えたばかりのバルクホルン大尉も引き抜かれたらしいぞ? 他に俺が知ってる限りだとアフリカ戦線から戻ってきて義務静養期間を終えて訓練に戻っていたマルセイユ大尉、戦傷して療養していたが快癒しリハビリの為の訓練に入っていたラル中尉、他にも若手って意味じゃ一段落した南方戦線から後方に戻っていた期待の新人クルピンスキー中尉、あと戦闘機乗りじゃないが”
「無駄に豪華すぎじゃないですかっ!?」
ちなみにこの世界線のルーデル、史実通りにクレタ島攻略ではお留守番をしていた(させられていた)が……彼の所属部隊は、日本海空軍の凄まじい反撃を食らって返り討ちにされ、彼に留守番を言い渡した反りの合わない部隊長は戦死、部隊は壊滅していた。
この世界のルーデルは、凄腕なだけでなく幸運な男でもあった。
1941年12月7日に史実と同じくドイツ黄金十字章を受章すると、空軍省の粋な計らいで特別ボーナスとしてクリスマス休暇を与えられたのだ。
そして、久しぶりに故郷の(再びドイツとなった)シレジア州コンラーツヴァルダウへと帰省し、待ち構えていた両親に促され、年下の幼馴染と史実より少し早く結婚。
流石、近い将来の魔王様はなんか格が違う。
ついでにベッドの上の
おそらく、今年の秋には第一子誕生が見れる事だろう。
その後、新婚と言うこともあり近場の空軍基地で急降下爆撃機隊の教官職と言う一種の休暇配置についていたが、ガーランド少将直々に声がかかった時に迷いは無かった。
何と言っても自分に回ってくるJu87は最新鋭のD型で、しかも準備が整い次第ロケット弾発射装置を追加したE型へ改修されるというのだ。
更に後部座席には、何かと世話になったガーデルマンもまでが座るという。
ルーデルは、『ふはははっ! これがこの世の春というものかっ!!』と笑いが止まらなかった。そんなんだから魔王とか呼ばれるんだぞ?
いや、視点をそろそろハルトマンとロスマンに戻そう。
「どうしたハルトマン? そんな大声を出して? 戦闘機乗りの心得は、頭は常時冷静沈着、目は全方位に動かし、心は熱くだぞ?」
「教官、大声も出したくなりますって! それ、なんてスーパーエース・クラブなんですかっ!?」
「いや、なんか戦闘機隊総監殿が気合入れてあちこちに声かけまくったらこうなってしまったらしくてな」
「明らかにやり過ぎな気が……」
「まあ、戦闘機乗りが暇を持て余すよりは健全だろう」
***
「久しい……と言うほどでもないか? ロスマン」
「そうですね。”教官”の顔をこうも早く再び見れるとは思っていませんでした」
「えっ? えっ?」
基地の受付窓口に到着を告げると、直ぐに戦闘機隊総隊長へ向かうように促される。
ノックして入ると、執務机で待っていたのは当然のようにメルダース大佐だった。
ロスマンに習い敬礼するハルトマンは、意外な言葉の応酬に目をキョロキョロさせるが、
「メルダース大佐は、『教官を養成する教官職』をしておられたんだよ。お前を受け持つ少し前に短気教練をして頂いた。自分の未熟さを知り、鍛えなおす良い機会になったよ」
「まあ、そうかしこまるな。お前は教え子の中では手のかからない方だったよ」
そしてメルダースはハルトマンへ向き
「君がハルトマンかね? ロスマンからの推薦状は読んだよ。少々ヤンチャではあるが、伸びしろは大きいと。随分、期待されてるじゃないか?」
「ハッ! そう言って頂き光栄でありますっ!!」
するとメルダースは意外そうな顔で、
「なんだ。ロスマン、全然ヤンチャじゃないじゃないか? マルセイユやクルピンスキーに比べたら、むしろ優等生だぞ?」
「……お言葉ですが、大佐。噂を聞く限り、その二人と比べたら、大半のパイロットは優等生になるかと思います」
「違いない」
するとメルダースは微笑みながら引き出しから真新しい少尉の階級章を取出し、
「フリードリヒ・ハルトマン
そしてハルトマンを傍に来るように促し、階級章を授与する。
「略式ではあるが、君を少尉に任官する。君がどれほどの才能を秘めていようとまだ半人前なのは承知の上だ。だが、状況が君を半人前として扱うことを許さない。今日からは士官として、何より一人の
少し声を上ずらせながら再び国防式敬礼をするハルトマン。まだスレてない、初々しさが滲み出ていた。
「謹んでお受けいたしますっ!!」
「うむ。祖国は君の奮闘に期待する」
***
「ふふっ。階級ではついに抜かれてしまったな? 感慨深くもあるが、少し寂しくもある」
「い、いえまだまだ教官には教えて頂きたい事がありっ!」
とまあ、ここまでなら綺麗に追われたのだが……
”バンッ”
何やら隊長室の扉が蹴破られるような勢いで開かれ、
「大佐ぁ、俺っちの
何やら見るからに”伊達男”という風貌の長身の男が執務室にドカドカと入ってくる。
「”マルセイユ”、せめてノックぐらいしろといつも言ってるだろうが?」
「へへっ。大佐、お堅いことは言いっこなしだぜ」
そして、無遠慮にハルトマンの顔を見て、
「悪くないじゃないか? なかなか可愛い”坊や”じゃねぇの♪」
一瞬で二度も坊やと呼ばれたハルトマンは、どう反応してよいか分からずフリーズしてしまったようだ。
この出会いこそが、「ハルトマンの相方」としてクルピンスキー共々必ず名が挙がるヨハン=ヨアヒム・マルセイユとフリードリヒ・ハルトマンの初邂逅であった。
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