第177話 ちょっこっと日本皇国の法律の概念をかじりつつ、ハルトマンがアップを始める話




「これで筋道はできたな……」


 ”公式な駐独大使”の大島さんには悪いけど、ちょっと事情が事情なので秘密外交させてもらった……というか、やったのは俺じゃなくてNSR/軍情報部/独外務省と、吉田欧州・アフリカ方面外交統括本部長(という役職になったらしい。本人曰く、「やることは変わらん。いっつもチャーチルと飲んどるよ」とのこと)一派と皇国軍部……らしい。

 実際、どんな実務があったのか、俺には報告書回って来ぃへんのよ。


 まあ、だけどこれで日英独で技術交流が出来たらよいな~とか思う。

 今の日本皇国我が国は防諜にも気を使ってて、怪しい連中なら市民団体だろうが平和団体だろうが慈善団体だろうが宗教団体の皮をかぶっていようと例外も容赦なく踏み込んで捕縛。少しでも抵抗するなら現場処刑も辞さないって感じだ。

 

 おそらくその舵取りをしてるのは転生者。

 左派の反政府勢力がどういうところに潜り込んで、コソコソ活動してるのか知ってる人間じゃないとできない。また、僅かでも抵抗の意志を見せた時の容赦のなさは、実際に前世で酷い目に合わされたクチだろう。

 

 ”先進国の中で、最も日本皇国が死刑になりやすい国”という評判がある。

 なお、先進国の中に米ソとその取り巻きは含めない物とする。

 表に出ない処刑まで含める自信は無いが、表立った数なら確かにその通りだろう。

 日本皇国の現在の刑法は”併合罪”の原則(複数の罪を犯した場合、最も重い罪のみが問われる)ではなく、”併科主義”の原則(犯した罪の累計合算)が適応される。

 例えば、前世だと1人殺して2人に怪我を負わせた場合、語弊はあるが罪に問われるのは一番重い1人の殺人だけだ。だけど今生では1人の殺しと2人の傷害が合算されての求刑になる。また皇国には無期懲役の概念が無く、何万年だろうとキッチリ判決が出る。

 他にも色々あるが、これだけでも死刑判決が出やすいのがわかるだろう。

 また「慣例として」、どんな特赦や恩赦があっても塀の外へ出られないような刑期がついた場合は、死刑の判決が下る事が大半だ。

 また、累犯の概念も同じ系譜の罪で三度捕まれば、「更生の見込みなし」として死刑になるケースが多い。

 これは、日本国民だけでなく「日本皇国法治圏内に住む(国籍を問わず)全ての人間に適応」という原則になっている。

 無論、司法取引や犯人引き渡し条約の兼ね合いもあるから、あくまで原則だ。

 

 

 

 ぶっちゃけ基本的に日本皇国は、前世より輪をかけて「犯罪者の更生」に重きを置いていない。

 むしろ、社会不適合者をさっさと”処分”して、予算と時間を別のことに使いたいって意志すら感じる。

 その政府の方針を、皇国臣民も支持しているのが現実だ。

 要するに「犯罪者なんて害にしかならない危険人物の為に自分達の税金を使って欲しくない」っていうのが本音だろう。

 身も蓋もない話だが、戦時下の国家らしいと言えばらしい感覚だ。

 

 俺、来栖任三郎は特にそこに思うことはない。

 まあ、効率重視だなと思うだけだ。

 杉浦みたいな人権派ならともかく、俺は「国とは効率が全てではないが、効率よく運営するべきものだ」とは考えてる。

 多分、今の社会システムを構築した転生者も、おそらく似たようなことを考えていたんだと思う。

 「無駄金ばかりを使う(使わさされる)戦後日本」を見て育った世代なら当然の発想だった。

 人権は確かに大事だが、「人権だけが大事で、他は全てそれ以下のものでしかない」なんてのは現実的じゃない。

 マイナス要因しかない、”社会に不要な存在”ってのは確かに存在するんだ。


 思考の脱線だな。

 次は何を技術交換させるか?

 英国は、あっちの事情があるだろうし……

 

(日本に限定すれば、PPIスコープと軸流噴進機関技術あたりが無難か?)


 驚いたことにレーダー先進国の筈のドイツは、未だにAスコープ(オシロスコープの親戚)やBスコープから脱却していない。

 三角貿易じゃないが、ドイツから得た技術を日英の同盟間技術交流で開示するのは、別にルール違反でもなんでもなく、ドイツもそれは承知で技術を出すだろう。

 

(そして、日本皇国もジェットの基礎技術を貯めなばならん)


 現役のハインケル社のHeSシリーズやユンカース社のJumoシリーズは難しいだろうが、テストベッドの段階で開発が中止されたBMWの003なら可能かもしれないな。


「さて、今日も次の戦の準備でもするか」


 いずれにせよ、俺のやる事は変わらんわけだし。


(”ZH-29ベースの半自動狙撃銃ドラグノフモドキ”の共同開発計画はズブロヨフカ社と済ませた。ロケット弾は地対地BM空対地RSシステム。プラットフォーム共々増産は順調。14.5㎜狙撃銃は扱いに慣れるまで時間がかかるな)


 半自動式も14.5㎜も残念ながら、今回の戦いには間に合わない。


「後は、”ツヴァイヘンダー”指向性対人地雷が間に合えば良いが……」


 こっちは構造は単純だし、地雷製造チームに概念図は渡したが……試作品でも、スモレンスク防衛戦が本格化前に間に合えば御の字だろう。

 ああ、”ツヴァイヘンダー”の由来? ほら、元ネタオリジナルの”クレイモア”もドイツとイギリスの違いだけで、どっちも両手剣だろ?


「後は、迫撃砲でも追加発注しておくか?」


 BM-37/82㎜迫撃砲は、一応ドイツ標準の81.4㎜迫撃弾を発射できるが、

 

「これは要相談か?」


 逆にドイツ軍の標準迫撃砲8cmsGrW34からはBM-37用の迫撃弾は発射できない。BM-37の方が僅かに口径がデカいからなんだが……

 

「いや、発想を逆転させよう。サンクトペテルブルグで製造される新規迫撃弾を81.4㎜のドイツ規格にしちまえばいいのか」


 どうせ砲弾のパーツは殆ど簡易鋳造だ。砲弾の一番太い部分だけ、僅かに細めの新規金型を用意すればいい。迫撃砲は元々、精密砲撃に使うような武器じゃない。0.6㎜細い砲弾を使うくらいじゃ、命中精度に実用上問題の出るほど(明後日の方向に砲弾が飛んでいくような)誤差は出ない。

 この方が迫撃砲自体を再設計するより楽だし、サンクトペテルブルグの施設でドイツ規格の迫撃弾を作れるようになる方が意義が大きい。

 

 まあ、PM-38/120㎜重迫撃砲とRM-38、RM-41/50㎜軽迫撃砲は送っておくか。

 これに該当する迫撃砲はドイツ軍には無かった筈だし。

 なんにしても、時間があまりないのは確か。

 

「StG-42の試作品、早く来ないもんかな……」

 

 世界情勢から考えて、アメリカの参戦は当面は無い。

 だが、レンドリース品が前線まで回ってくるようになると、戦争の難易度が跳ね上がる。

 そうなる前に、なるべく”間引き”しておきたい。

 

 一応、プランは考えているんだ。

 サンクトペテルブルグにもプレス加工技術はあるし、給金に色を付けてその技術を上げてもらってる。

 参考にするのはプレス加工レシーバーを持つAK-47の改良型”AKM”。これなら頭の中に設計図がある。

 ただし、レシーバーはオリジナルのAKMの1.5倍厚の金属板を使うRPK規格で作ろうと思う。

 ドイツの7.92㎜×33K弾は、オリジナルのAKMの7.62㎜×39に比べればロープレッシャーだが、まだまだプレス加工のノウハウ蓄積が十分じゃない。

 安全マージンは取っておくべきだ。

 当然、弾倉(と銃剣)はStG-42と共通にするから、その辺の改設計は上手くやらんとな。

 セレクターと照準器一式は、StG-42と同じ使い勝手にするのも重要だ。

 

(準備を怠るなよ……来栖)

 

 

 戦いはまだまだ続くのだから。












******************************










 来栖があれやこれやとフォン・クルス総督として思考を巡らせていた頃、ドイツのホッケンハイムにある空軍訓練学校では……

 

「ハルトマン候補生、いるか?」


「ロスマン教官!」


 休憩中、木陰で第一次世界大戦中のエースの一人、インメルマンの空中機動戦術の解説本を読んでいたフリードリヒ・ハルトマン少尉候補生は立上り、飛行教官であるエドバーグ・ロスマン上級兵曹長に敬礼をする。

 ハルトマンはあくまでまだ軍飛行士官学校の生徒であり、正規任官されるまでは”軍人の卵”に過ぎない。

 

「楽にして良い」


「Ja」


 敬礼を解くと、


「ハルトマン、私は実戦パイロットに復帰する事になったよ」


「……えっ? 教官が、教官を辞めるのですか?」


「ガーランド戦闘機隊総監から大号令がかかってね。私にも白羽の矢が立ったってわけさ。出来れば、もう少し若者が若鳥となって飛び立つのを見送りたかったが」


「教官……」


「ところでハルトマン、その招集号令の中には『実戦可能と判断される新人パイロット候補』の他薦も含まれる……私の今の教え子の中で、それに該当するのは君だけだ」


「教官、それって……」


「当然、お前はまだ正規任官してるわけでは無い。拒否する事もできる……どうする?」




 ハルトマンがなんと答えたか語る必要もないだろう。

 それは一人の”史上最強のファイターパイロット”が誕生する物語、その始まりプロローグだった。

 

 

















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