第176話 20㎜弾談義とフォン・クルス被害者の会新規会員?(随時、新規会員募集中)
ニンゼブラウ・フォン・クルス・デア・サンクトペテルブルグ総督がスモレンスク防衛計画原案を完成させたのは、それから1週間後の事であった。
それを今か今かと待っていたNSR(国家保安情報部)の担当官が受け取り、”軍機”のスタンプが押された書類を如何にも頑丈そうなジュラルミンケースに詰めて空軍からNSRに払い下げられたらしいJu88(高速連絡機仕様。やっぱ塗装が派手)で飛んで行った。
「いや、普通にJu52の定期便使えよ」とフォン・クルス総督は思ったらしい。
まあ、この男に自分の作った案件の価値を問うのは無駄なことである。
***
「なあ、シェレンベルク……NSR保有の機体は派手にしなきゃならん決まりでもあるのか?」
なんかさっきのJu88、ベネトンB194のシューマッハカラーだったんだが?
「ありますよ? どう見たって軍用機に見えないカラーリングでしょ? 誤認されないように、あるいは誤認を理由に撃墜されないようにとの配慮です」
ああ、”ケース・バルボ”ね。納得。
「……カラーパターン選んでるの、ハイドリヒ長官だろ?」
「良くお分かりで」
こういうのお茶目で流していいのか?
いや、それはともかく……
「シュペーア君、MG151/20㎜の、そうだな弾頭開発部門とかにコネはあるかい?」
「探せば誰かは居ると思いますが……どうしたんです?」
「ドイツ自慢の”薄殻榴弾(Minengeschoss)”な、あれ今は良いけどそのうち通用しなくなるんだわ。少し延命しようかと思ってな」
「……詳しく聞いても?」
まあ、そう難しい話じゃないんだが……
「薄殻榴弾ってのは、軽量高速弾だろ? 初速は早いが弾殻が薄くて中身がほぼ炸薬だから軽い。だから空気抵抗とかで距離による失速率高いし、弾殻も特に硬い訳でもないから貫通力も低い。おまけに信管は触発だろ? 多分、もうサンプルあると思うんだが……シュタウフェンベルク君に確認してみ? Il-2みたいな頑丈な機体の装甲部分だと、表面で爆発して装甲板がちょっと凹んだだけで、内部までダメージが届いていないってケースあるはずだから」
あの弾殻って薄いだけで硬い訳じゃないんだよ。いや、あの薄さで通常の榴弾並みの弾殻強度を維持してるのは素直に凄いけど、軽さゆえに急速に失速する特性や精度の良い触発信管のせいで、硬かったり張力が高い装甲板相手だと表面爆発する事が多いんだ。
その逆が、ホ103の”マ弾”だ。
あれ、空気信管の採用で信管小さくして増やした内部容積の炸薬詰め込んでるけど、弾殻は普通の厚みがあり、重さは流石に重金属弾芯仕込んだ徹甲弾よりは軽いけど通常弾と比べて大差ない。
しかも、空気信管自体が当初から”僅かな遅延機能”を有するように設計されていて、つまり「命中して貫通後に爆発」するように設定されている。
だから、「相手が20㎜弾食らった」って誤認するようなダメージが出るわけだ。
「手はあるのですか?」
「弾速は落ちるが、重金属弾芯を貫通体として仕込むこと。そして、信管に遅延機能を入れて『貫通後に起爆』するようにセッティングする事。これで貫通力も上がるし、急激な弾速低下はある程度是正できるし、
そして、そろそろ配備が始まるだろう日本皇国の20㎜弾は更に徹底している。
基本的なデータとしてドイツのMG151/20の弾は20㎜×82、日本皇国の三軍共通20㎜弾はエリコンFFL規格の20㎜×101(参考までに言えば戦後アメリカM61バルカン砲の弾丸が20㎜×102とほぼ同じ)で薬莢の長さに約2㎝の開きがある。
にも関らず薄殻榴弾をMG151/20㎜から撃った場合の初速は785m/sと、日本の20㎜機関砲750m/sよりも速い(皇国軍の20㎜機関砲は標準弾で750m/s、発射速度750発/分が基準となっている)。そして薬莢だけでなく銃身長は日本の機関砲の方が長い。
薬莢の材質も確かに違うが、最大の違いは”弾頭重量”だ。
日本の20㎜弾の基本構成は、遅延機能付きの空気信管と重心安定化による弾道安定化と貫通力上昇を目的とした重金属弾芯を貫通体として封入。空力特性の改善による射程延伸を狙った尻が窄まるボートテイル型の弾殻を採用。内部の炸薬は高性能炸薬だけでなく、微量の焼夷炸薬も混入されているらしい。
ただ、その形状だと内部容積が減るので全長を伸ばして容積を稼ぎ、他国の銃弾に比べ細長くなった弾丸にジャイロ効果増強でより高い直進安定性を持たせる為にライフリングの
そして、このような強力な銃弾を発射するため、銃身などには硬化クロームメッキ処理が施されていた。
ちなみにこの上記の日本皇国の20㎜弾、”標準弾”扱いだ。
銃弾一つにここまで気合い入れて作ってるってこと、いわゆる徹甲榴弾を標準弾としている……これはもう、明らかに対ドイツを想定していない。
明確に「重装甲/重防御を誇る
前世では日本の機銃は威力不足で泣くことが多々あった。なんかその怨念が開発モチベーションになった臭いな。
一応、国家機密だか軍機だかに抵触する情報(俺には特例的に教えられた。おそらく外交情報戦の”切り札”に使えって事だろう)なのでまんまは話せないが、ヒントを出すくらいは良いだろう。
「要するに表面で爆発するんじゃなくて、貫通してから内部で爆発するような20㎜弾を作れば良いだけなんだけどさ」
「しかし、炸薬量を減らすのは惜しいですね……」
「何なら”空気信管”でも使ってみるか?」
「なんです、それ?」
「日本皇国の航空機用銃弾に使われてる信管さ。機械的な部品を使わず断熱圧縮を使って起爆させるタイプで、調整で遅延起爆も可能だ」
「なにその魔法の信管?」
「興味あるなら外務省を通じてスウェーデンの駐在武官、”小野寺”って大佐に接触してみ? MG151/20㎜と薄殻榴弾の現物と製造法を取引材料にすれば、空気信管……いや、やるならホ103機銃とマ弾の現物と製造法の等価交換を狙ってみようか?」
あっ、なんか久しぶりに外交官っぽいことしてるな、俺。
でも一応、皇国の利益にはなるぞ?
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やあ! 会いたかったぞ、諸君!
誰だテメェ?
よくぞ聞いてくれたね!
ボクこそが、日本皇国陸軍大佐にスウェーデン駐在武官の”
あっ、織○信奈の”信”じゃなくて”学校の日々”の方の”誠”で「まこと」な。
なんでよりによってそれを例に出したって?
いいだろう? わかりやすくて。
ところで諸君、スウェーデンと言ったら何を連想する?
真っ当な軍人ならボフォース社一択だろう。
だが、真っ当な軍人ではないボクとしては、
”バルサミコ酢 やっぱ要らへんで”
を推すね。特にオリジナルより”ずん○もん”の奴が良い。今生ではもう聞けないのが実に惜しい。
もう分かると思うけど転生者で元アニヲタ(だってこの時代、まだ好みのアニメないし)で前世継続で現役ミリオタの転生者さっ!!
その経歴を活かして、身分的には一応、諜報員なんだけど職務的には「スウェーデンのボフォース社製品を中心とした欧州系兵器の分析官兼バイヤー」なんて事になってる。
俺、属性大渋滞してね? いや、良い仕事なんだけどね? 色んな国の兵器見れて楽しいし。
ついでに言えば、オリジナル(?)より10歳くらい若いんだよね~。お陰で20世紀生まれです。謎なことにさ。
お陰様で、影佐さん(実はこの人も微妙に若い。ギリ19世紀生まれ)は中野学校の先輩で仲良しです。
というか、あの人今どこで何やってんだろ?
(さて、そろそろ現実逃避は止めるとしよう。なんか微妙にオペ○オー入ってたし)
「という訳で、我々はMG151/20と20㎜”薄殻榴弾(Minengeschoss)”の現物と製造法、仕様書を用意しております」
いや、なんで脈絡もなくこの世界線の”シェレンベルク”少将が大使館にいるんだろう?
SSやRSHAではなく、NSRなんて今は亡き2ストバイクみたいな組織に所属しているらしいが、
(いや、俺が君とつるむようになるの、もっと後でね?)
具体的には来年くらい。しかも停戦に向けた内容だったはずだし。
「わかりました。こちらからもご要望のあったホ103機銃とマ弾の現物と製造法、仕様書をお渡ししましょう」
事前にある程度交渉は済んでいたらしく、取引自体はスムーズだった。
というか、段取りはすでに終わっていて、
「良い取引ができて、幸いです」
差し出した手をシェレンベルクは強いグリップで握り返してきて、
「こちらこそ。では、大使館に運び込んでよろしいので?」
「ええ。構いません。一般の運送業者に偽装しているのでしょう? こちらの”物品”も用意してあります。こちらも内容物を確認しますので、そちらも確認が終わればそのままお持ち帰り下さり結構です。何か不備がありましたら何時でもご連絡を」
「ありがとうございます。時にオノデラ大佐」
「なんでしょう?」
「フォン・クルス総督をご存知ですか?」
「ええ、まあ話題に事欠かないというか……とにかく有名な人物ですから、知らないと言えば噓になりますな」
大使館詰めで友人になった外交官に言わせると、”日本皇国外務省始まって以来の最強最悪の問題児にして目下、外務省最大の頭痛の種”、”超弩級外交的特大爆弾”なのだそうな。
ナニソレコワイ……
なんでも、外交特使でドイツへ行ったら、紆余曲折もあったらしいがあれよあれよと言う間に分捕ったサンクトペテルブルグの復興委員長ポジに納まり、今やバルト沿岸諸国が連名で認めた(むしろ推挙した)サンクトペテルブルグの総督であらせられるらしい。
いやホント、マヂで何やったし? 俺の身分と階級だとそこまで詳細な情報入ってこないんだよね~。
そして余談ながら……紆余曲折の部分にあたる”数々のやらかし”だけで、外務省のお偉いさんが何人もストレス性の病気で病院送りになったらしい。
(なので、他にも”(外務省職員にとって)人の姿をした災厄”、”(国際政治的な)ヒューマノイド・タイフーン”なんて二つ名も……)
いやいや、特に二つ目はヴァ○シュ・ザ・スタンピ○ドかいっ!!
絶対、そのあだ名付けたの転生者だろ?
流石に月に穴開けないだろうし。穴を開けられるとしたら精々、外務省職員の胃壁くらいだ。
まあ、それでも十分に惨事だけど。
「いや、大した話ではないんだが……交渉窓口にオノデラ大佐を指名したのは、そのフォン・クルス総督でね」
ふわっ!!?
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