転生しても戦争だった ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~
第173話 スモレンスク防衛戦計画(原案)のブレインストーミングをしよう! 議題:ロシア語の”танковый десант”と一般的なタンクデサントの違いについて
第173話 スモレンスク防衛戦計画(原案)のブレインストーミングをしよう! 議題:ロシア語の”танковый десант”と一般的なタンクデサントの違いについて
「ハイドリヒ、俺が上げたアイデアでも確かに効果はあるし、現状の防衛よりは楽できるだろうが……それでも、足りん。全く足りん」
時期的には、まだレンドリース品は前線まで行き渡っていないだろうが……それでも、赤色勢力の動員力はナメる訳にはいかない。
本気で動員すれば、100万の一次動員も可能だ。
ソ連の恐ろしいところは、「普通の国なら体制が崩壊するような無茶も無謀をしても、それをむしろ国民に対する結束だの団結だのにすり替えられる」事だと思う。
例えば、有名なのはタンクデサントだ。
とりあえず先に言っておくが、一般的な
だが、ロシア語で戦車跨乗を意味する”
おかげでソ連軍の
そりゃそうだ。装甲板代わりの肉壁として戦車にへばりつき、敵味方の銃弾やら砲弾やらが飛び交う戦場を突撃すればそうもなる。
他の国の軍隊ならクーデターが起こる話だ。
だが、ソ連では起きない。命じる側だって自分が粛清対象になりたくないだろうし、誰だって督戦隊に背中から撃たれたくはない。
NKVDや督戦隊は、”極め付きの共産党狂信者”の集まりだ。
連中は、「臆病風に吹かれ、革命に反するサボタージュ」を「敵前逃亡」という一般的な軍規に落とし込んで、現場判断で銃殺刑に処する権限が与えられている……そういうことだ。
連中は「それが自分の仕事」だと疑問を持たない。そう
(StGベースのカラシニコフモドキ作るなら、ドラグノフ半自動狙撃銃でも作りたくなってきたな)
ブルーノ社のZH-29半自動小銃ベースでイケないだろうか?
ツァスタバM76みたいな
まあ、それは今後の課題だ。
「おそらく、ドイツ中央軍集団でスモレンスクに展開できる戦力は50万あたりが上限だろ?」
単純な動員力の問題じゃない。
ソ連みたいに武器も食料も暖を取る方法もなく、とりあえず人だけ集めて「武器は2人に銃1丁だ。武器が欲しければ戦場に転がってる敵味方の死体のそばあるから拾って使え」だの、「食料は敵が持ってるから奪い取って喰え」、「怪我? 死んでないなら動けるはずだ」なんて言えるわけはない。
ドイツは現代軍だ。武器は定数装備させたいし、戦場で栄養失調なんて以ての外。士気が下がれば、単純な戦闘力だけでなく特に継戦能力が著しく低下する。
戦傷者は野戦病院で治療してやりたいし、寒い夜には温かいスープで歩哨を労ってやりたい。
攻めた時は100万越えの戦力でも、「常駐させられる戦力」はずっと少なくなるのは戦場の常だ。
そんなことを考えれば、スモレンスクの規模から逆算して常に張り付かせられる戦力は、都市の規模と物資の備蓄可能量や輸送量から考えて50万が良いとこだ。
(現在、スモレンスクに常駐してる守備兵力は良いところ30万ってところか)
ただ、助かるのは”ドイツ軍しか居ない”というところだ。
確認したが、民間人の退避は既に終わっている。(基本、残っているのは赤色ゲリコマだ)
希望者はベラルーシで保護しているが、基本的には住民には退避……つまり、持てるだけの家財を持たせて街の外に
何のことはない。またしても、ソ連で国内戦争難民が発生したという訳だ。
戦争をやる以上、要塞として使うスモレンスクに民間人を居住させる訳にはいかない。
しかし、「ソ連人でいたい」と言うのなら、それもドイツ人は止めはしない。
繰り返すが、ドイツ軍は現代軍だ。
前世の”
もしどこぞの「ナチズムに傾注し過ぎて、過激な行動をした部隊長や部隊」が
今生では逆に、抵抗の意志ないスモレンスクの住民たちに懇切丁寧に”法務士官”がロシア語で状況を説明し、家に帰り家財を持ち出す許可まで与え、「街から送り出す様子」をしっかりムービーカメラとオープンリールデッキで録画・録音しているのだ。
これぞプロパガンダという奴であろう。
「俺やお前で考えられるのはこのあたりが限界だ。他の者の意見も聞きたい。お前の手下のシェレンベルク、シュペーア君、シュタウフェンベルク君の参加を認めろ。じゃなければ話はここまでだ。追加案は、後日出す。三人に確認しながらでないと、話が進められんし、アインザッツ君、ツヴェルク君、ドラッヘン君も
「……分かった。良いだろう」
話の分かる奴で助かった。
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場所を俺の応接室から会議室に使ってるリビングルームに変え、
「詳細は話せないが、早ければ2月の下旬、遅くとも4月の上旬にソ連が最大100万人規模でスモレンスク、グニェズドヴォ、カティンに攻め寄せる……簡単に言えばスモレンスクからドニエプル川にかけて大攻勢がある公算が高い。基本的な防御策の検討は行ったが、正直、スモレンスクに配備できるだろう戦力で対応するには心許ない。なので、今回はあえて思考的な制限を外し、取れるべきオプションプランの策定を行いたい」
所謂、ブレインストーミングの手法だな。
「とはいえ急に言われても困るだろうから、基本的なプランイングは俺がだす。ハイドリヒ長官にはスーパーバイザーの役割を、シェレンベルク、シュペーア君、シュタウフェンベルク君には質問の回答役を、アインザッツ君達にはアシスタントをやって欲しい。なお、これはあくまで可能性の確認であり、すぐさま作戦に反映されるわけでは無いので気軽に忌憚のない発言を望むよ」
そう俺は切り出した。
***
「つまりシュペーア君、Fw190は無理でも、Bf109の増産なら三交代制の24時間操業で生産可能という事で良いかね?」
「ええ。戦闘機開発チームはサンクトペテルブルグに釣り上げましたが、各製造グループは現地に残ってます。現在、通常操業で旧メッサーシュミット社の各種航空機保守部品を作っていますが、以前、一時的にBf109の製造ラインに他のメッサーシュミット機の工場から転属させ、短期間ですが24時間操業を行った事があります。バトル・オブ・ブリテンの頃です。その時のマニュアルも人員名簿も管理してる筈なので、現行のBf109F-4ならば緊急拡大量産が可能なはずです」
それは助かるな。
即ち、現在、(製造中止命令などで)ラインが動いてない旧メッサーシュミット社の人的資源をBf109F-4の生産に集中投入できるって意味だ。
「休眠中の製造ラインでBf109の量産に転用できそうな物があったら、ピックアップしておいてくれ。場合によっては凍結解除するようにかけあえる」
「Ja」
実は史実のBf109F-4に比べても、この世界線のBf109F-4は微妙に俺の知ってる前世のそれより強力だ。武装が
この時期の(米軍機を持たない)ソ連空軍機相手なら十分だろう。
「それと
史実には登場しないサブタイプ、E型のJu87だが……何のことはない。
D型にエンジンを前倒しでJumo211Jから強力なJumo211Pに変更し、大きなペイロードを生かせるように主翼の機銃をMG151/20㎜に、左右翼下に4000番台の耐熱アルミ製ロケット弾懸架/発射用のショートレール・ランチャー、ロケット弾用の照準機能が付いた新型照準器の搭載があげられる。
簡単に言えば、史実のJu87D-5に、Il-2のロケット弾発射機能を組み合わせた物と考えて良い。
それを俺は、開発元の「E型改修キット」というパッケージとして納品する事を提案し、賛同を受けている。
ユンカース社にしてみればJu187開発の副産物であり、また元々Ju187までのつなぎとして史実のD-5準拠の機体を空軍省に提案すべく試作していたので都合がよかったのだろう。
エンジンや照準器の製造は無理だが、レールランチャーやロケット弾本体などのロケット弾関連システムは、むしろサンクトペテルブルグでないと無理なので、ドイツ本国とサンクトペテルブルグの二本柱の生産体制が必要なのだが、ここはいっそ二か所で最終組み立てができるようにしてしまおうという腹だ。
「”PTAB”の方は?」
「既に原型だけでなく集束爆弾用、ロケット弾用のそれがもう量産可能一歩手前な段階に入ってますよ」
”PTAB”っていうのはロシア人が図面引いて試作していた段階の小型成形炸薬弾だ。
1.5kgタイプと2.5kgタイプがあり、48発入りの
開発が一気に進んだだけでなく、PTABが小型なのを活かして”モロトフのパン籠”のような爆弾型のキャニスターに充填して集束爆弾として急降下爆撃や水平爆撃に使うタイプ、地対地型のM-132/空対地型のRS-132のロケット弾の弾頭部分に複数仕込むタイプが開発され試験運用されていた。
「実に重畳だよシュペーア君。よくやってくれている。次の給与査定を楽しみにしててくれ」
「ありがとうございます」
こちらこそだ。いつも無理ではないが無茶な計画のマネージメント、本気で感謝を。
さて、お次は……
「待ってくれ、フォン・クルス総督。航空機の増産は目途が立つとして、パイロットはどうする?」
とはハイドリヒだ。
……そうだな。
「ハイドリヒ長官、空軍戦闘機隊総監はアーデルハイト・ガーランド少将のままか?」
「ああ」
最近、ドイツの人事には目を通して無かったからなぁ。
「じゃあ少し時期は早いが作ってみようか」
「何を……まて。ガーランドってまさか!?」
ガーランド将軍は、本当にパイロット達から人望あったみたいだからな。
「スモレンスク防空任務の為の臨時編成統合戦闘航空団”Jagdverband44”、《b》”JV44”《/b》をガーランド総監の肝いりで編成しよう」
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さて、少し余談をいいだろうか?
先の「スモレンスク制圧時の市民脱出の一部始終」を撮影した映像だが、他にも中々に”感動的なシーン”が映っている。
それは、「降伏した赤軍とは別に逃げ遅れた、あるいは自分の意思でスモレンスクに残った・否応なく残らざるえなかった」市民を集めたシーンであるが……
『我々は諸君らがスモレンスクに残りたい、残る理由がある事は知っている。だが、残念なことにスモレンスクは最前線の要塞となる。そこに民間人を居住させておくわけには行かない。護衛と監視はつけさせて貰うが、家財を取りに戻る時間は与える。早急に脱出してくれたまえ』
そして、ある老婆が叫ぶ。
『ナチの人殺し共めっ!! お前たちが来なければこんなことにはならなかったんだっ!!』
すると法務士官は頷き、
『その通りだな。だが、我々がこの街に来て制圧した以上、民間人としてこの街に残るのであれば、ソ連共産党より”ドイツ軍の協力者”と見做され、粛清対象になる可能性が高い』
『そ、そんなことはっ!!』
『何故、何を根拠にそう言い切れる? 我々はこれまでの戦いで多くの現場で
黙った老婆……心当たりが無い訳ではないのだろう。
老婆と言うことは、ロシア革命前の古き良き時代と、ロシア革命以降の血の粛清を知っているということだ。
『諸君らにとって最良なのは、我々に保護を申し出てベラルーシの抑留施設で一時保護を受けることだ。我々は軍服を着ずに反抗する”便衣兵”とならない限り、民間人を殺傷することはない。次善策は、”ドイツ軍に追い出された哀れなスモレンスク市民”としてソ連政府や赤軍に保護を求める事だ。普通は、国家や軍には国民を守る義務が発生する』
しかし、法務士官は一端言葉を切り、
『だが、残念ながらソ連がその義務を履行するかどうかまでは我々ドイツは保証できない。義務を放棄し、赤軍が守るべき市民に対し銃を向けた現場もまた多く目撃しているからだ。判断は諸君らに委ねる』
この模様も宣伝相ゲッベルス直々の指示で一部始終が撮影・録音されていた。
先の実際にスモレンスクから脱出するシーンも含め、記録映像としてだけでなく後に編集されプロパガンダ用の短編映画として世界中で公開されるようになるが……それはまた別の話である。
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