第166話 いや、それ言ったらダメな奴だから。日本に帰れなくなる奴だからな?




 |القرآن في اليد اليمنى《Al Quran Fi Alyad Alyumnaa》(右手にはコーランを)


 |بندقية في اليد اليسرى《Bunduqiat Fi Alyad Alyusraa》(左手には銃を)


 الشجاعة للرجالAlshujaeat Lilrijal(男には勇気を)


 حب المرأةHubu Almar'a(女には愛を)

 

 سلام لكبار السنSalam Likibar Alsini(老人に安らぎを)


 المستقبل للأطفالAlmustaqbal Lil'atfal(子供には未来を)

 

 باقات الشهداءBaqat Alshuhada'(殉教者には花束を)


 |ورصاص الرصاص على البلطجية《Warasas Alrasas Ealaa Albaltajia》(そして悪漢共には鉛の弾丸を)


 |أخيرًا سننضم إلى خط الحاج《Akhyran Sanandamu 'iilaa Khati Alhaji》(かくて我ら巡礼の列に加わらん)

 



 砂漠では日常茶飯、ラクダに乗ってのロングレンジパトロール中に、増強歩兵中隊規模の武装勢力を発見した下総兵四郎だ。

 唐突だが、俺が55ボーイズ弾(13.9㎜×99弾)仕様の二式長距離狙撃銃を要求書として提出したのには、理由がある。

 本来、この弾を使うボーイズライフルは、正式には”ボーイズ対戦車・・・ライフル”であり、初期型は初速が低く貫通力が物足りなかったが、弾丸の軽量化により銃口初速の増大に成功。

 そして、最終的には初速945m/sを発揮するタングステン弾芯を持つHVAPタイプの高速徹甲弾が開発された。

 こいつの威力は絶大で500ヤード(457.2m)で30度傾斜の厚さ23㎜の装甲版を貫通できた。

 

(そして、フランスの装輪装甲車の装甲は厚い部分でも20㎜程度……だから、こういう真似もできる!)


偉大なるアッラーの名に懸けてBism Allah Aleazim全ての不義に鉄槌をAdrib Kula Zulm! アッラーフ・アクバルAllahu Akbar!!」


”ボグッ!!”


 相対距離約800m、パナール型の装輪装甲車の装甲の一番薄い部分は1㎝以下。

 しかも、貫通力が最大限に出せる垂直部分だったり、高台から狙うと入射角の関係でちょうど”見かけ上の垂直”になる傾斜部分が多い。

 つまり、対戦車とまではいかないが、対装甲ならぬ対装甲車・・・ライフルとして、まともな戦車が配備されていないフランスの植民地軍相手なら十分使い物になるのだ。

 

「気分は”メロウリンク”だな」


「なんすか、それ?」


「ふと頭に思い浮かんだ単語だ。それより小鳥遊軍曹、俺はこのまま装甲車両片付けるから、近づいてくる敵兵の掃討を頼む。ナーディアちゃんも”自衛行動”を」


「アイ・サー! 大尉殿!」


نعم. عزيزي الزوجはい。愛しの旦那様


 一応、説明な?

 今回は軍事作戦ではなく、「武装反政府組織に不法占拠された土地での治安出動、警察行動の一環・・・・・・・」という建前だ。

 そして、ナーディアちゃんは”リビア三国連合から出向してきた公的な・・・現地協力者”という立ち位置だ。

 つまり、軍人でもないけど純粋な民間人ではなく”特殊公務員”という扱いで、であるからこそ「公的現地協力者に護身用の武装もなくテロリストの潜伏地域に同行させるのはどうよ?」という話になった。

 そこで、”正式にリビア公務員に対し、日本皇国の責任において装備を供与”という体裁が整えられ、晴れてナーディアちゃんも武装と武器使用の許可が「自衛行動の為」という建前で許可されたってわけ。

 政治って面倒臭いだろ?

 それにしても、便利だな警察行動。

 

 という訳でありまして、ナーディアちゃんの手にも九九式狙撃銃が握られているのですよ。

 なんか、俺の愛銃を欲しがったので謹んで進呈いたしました。

 代わりに俺には新しい九九式狙撃銃が、隊長の苦笑いと共にやってきましたがね。

 

 いやさ、ナーディアちゃんって”ザーフィラ”のコードネームでイタリア人相手の抵抗運動に身を投じてたせいか、銃の扱いが妙に様になっているんよ。

 どうやら自動式は使ったことなくてもボルトアクションは使い慣れてるらしく、子供の頃から狩りでも使ってたとか何とか。

 蛇足ながら、ナーディアちゃんにはサイドアームとして”ベレッタM1934”自動拳銃をホルスターごとあげました。

 いや、マカロニ野郎から分捕った戦利品、実は持て余しててね。勿論、程度の良い物……というか、数丁分解バラして程度の良い部品選んで組みなおしたぞ?

 PPK(マルセイユをふん捕まえた時の戦利品な?)でも良かったんだけど、北アフリカだと壊れた時の余剰パーツがね。

 ほら、俺の場合はガチのサイドアームは武35式自動拳銃国産ブローニングHPだし、PPKは撃つことのないだろう……強いて言うなら御守みたいなモンだから良いんだけどさ。

 実際に発砲する可能性を考えると、ちょっとな?

 かと言って武35式は、ちっちゃくて小柄で華奢で軽くて胸が平たいナーディアちゃんには、大きく重すぎる。

 

 という訳でM1934。これなら手元に保守部品あるし。

 ん? ナーディアちゃんに”ノワ○ル”の夕○霧香コスさせたかっただけだろ?って……それを言ったら戦争だろうがっ!!

 いや、確かに肌の色とか除けば、ちょっと雰囲気似てるかもしれないけど……肌や髪の色は、どちらかと言えばビターグラ○セだが。

 小柄でショートカットってところはナーディアちゃんと共通項。

 

 ただ、目つきだけはどっちとも違ってて……表現しづらいが、じっとりしてるというかねっとりしているというか、良く言えば潤んでるし悪く言えば湿度が高そう。まあ、体付きと反比例するように色気はあるのは確か。

 目繋がりで付け加えると、普通の意味で目が良い。

 狙撃手としての素養は、潜在的にはかなりありそうだ。

 

 

 

 まあ、無駄話はこれぐらいにして……

 標的が人間より遥かに図体がデカくてちょこまか動かない装甲車相手なら、特にスポッターは必要ない。

 そんな理由で、俺が鋼鉄の獣を仕留めてる間に、二人には側衛手フランカーの役割を担ってもらおうと思う。

 

 それにしても、狙撃任務でスナイパー、スポッター、フランカーの3マンセルとかかなり時代を先取りしてる感覚だ。

 何を言ってるかわからないなら、「スナイパー フランカー」で調べてみるといい。

 今の狙撃のトレンドが見れるぞ?

 

 さて、鉄獣が1匹、鉄獣が2匹と仕留めているが、純然たる狙撃任務ならとっくに移動してなきゃ不味いはず。

 なんせ、ちょっとした岩山から見える”自由フランス(軍という名称は旧仏領赤道アフリカでは使わない方針になったらしい)”部隊は250名ほど。

 彼我の距離は1㎞に満たず、間にある障害物は大したバリアにもならない岩だけ。狙撃点が割れたら途端に不利になるはずだが……

 

(だから、普通の狙撃じゃないんだよなぁ~)

 

 第一射をする前に、小鳥遊君が連絡を入れている。

 ほ~ら、空から爆音が聞こえてきた。

 

 

 

***




 という訳で、本日の来客は俺や小鳥遊君にはお馴染みの”九九式襲撃機”の4機編隊だ。

 アオゾウ地帯に設営された野戦飛行場から飛んできたみたいだ。

 毎度お世話になりまーす。

 

 落としていったのは、前に屠龍も使った250kg級の対人キャニスター弾。

 鋼鉄製のダーツを無数に散布するあれだ。

 

 そして、適当に主翼の50口径機銃で地上掃射して敵歩兵を散らし、なんか動けそうな装甲車や散らされた(逃げ出す)歩兵を的に俺達は狙撃を再開した。

 

 

 






******************************










 その後、捕縛部隊がやってきた。

 見た感じ、負傷兵を入れて生き残りは半分か少し下くらいだ。

 あれだけ撃たれたのに人間ってのは存外にしぶとい。

 

 まあ、最終的に何人が生きた状態でフランス本国まで移送されるかはわからない。

 それにしても、55口径ボーイズ弾で人間撃つもんじゃないな。別に条約違反って訳じゃないが明らかにオーバーキルだ。

 試製二式改特殊長距離狙撃銃の(弾倉)装弾数は、原型の二式長距離狙撃銃(いつの間にか試製が外れていた)より2発少ない5発。

 これを大体四つ消費した。

 

 ちなみに捕縛されたのは「武装犯罪者」扱いなので、フランス人だろうとチャド人だろうと、生きてさえいれば公平にアルジェリアのフランス軍に引き渡される。

 その後は、きっと楽しい裁判が待っているのだろう。

 

 東京裁判やマニラ裁判、ニュルンベルク裁判の例を出すまでもなく、戦争裁判にまともな司法判断を期待すんなよ。

 まあ、それ以前に何人が裁判所に辿り着けるかだが、そんなもんは知った事じゃない。

 

「ご苦労だったな」


 本日の戦果を書面にして隊長中佐に報告すると、労いの言葉が返ってくる。

 皇国陸軍はアットホームな職場ですっと。

 

「天気はいつもどおり快晴。砂嵐に会うともなく、良いハンティング日和でした」


「では、規定通り明日は完全休養に当てろ」

 

 皇国陸軍は、任務ローテーションがきっちり守られるホワイトな職場です。

 ラクダに揺られてロマンチックな砂漠の旅、貴方もどうですか?

 今ならサービスで装備一式が付いてきます。リクル○ト。

 

「果たしていつまでも続くんですかねぇ~」

 

「自由フランスを僭称する武装犯罪者全員を逮捕するか、全員殺せば嫌でも終わる」


「あながち不可能で無いのがなんとも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***




「お父様に伝えないと……!」

 

 私は耳も記憶力もいい。ちょっとした自慢だ。

 だから、旦那様がきっと無意識で呟いた祈りの言祝ことほぎを、聖句を聞き逃さなかった。

 一言一句も全て覚えている。

 

 だから、私にはわかってしまう。

 敬虔なサヌーシー教徒でも、あんな言葉は出てこない。

 あれはきっと旦那様が受けた啓示なんだ。

 旦那様はきっと、日本に生まれただけで、

 

「إنه تجسيد لمحارب مقدس قاتل من خلال الجهاد(ジハードを戦い抜いたイスラム聖戦士の生まれ変わりなのだから)!!」

 

 例え記憶を失っていても、魂が祈りを紡いだに違いないのだから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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