第150話 終わったかと思ってたら終わってないとか、終わりは新たな始まりに過ぎないとか、多分そういう感じの話
資料によれば、”バルバロッサ作戦”、つまり独ソ戦開始前のムルマンスクの人口は、軍民合わせて15万人まで膨れていたらしい。
だが、”レニングラード防衛”の為に3万程の軍勢が装備と共に
そして、この極北の半島に立てこもるロシア人への凶報は続く。
ムルマンスク防衛隊司令部はカンダラクシャ攻防戦で少なくない被害を出し結局、火力に押される形で敗走したのだ。(ムルマンスクへの空爆によるダメージや物資不足が地味に響いていた)
また、ペツァモより時折、東進してくるドイツ人もいるため、ムルマンスクにも一定の防衛兵力を残す必要があったのも、戦力不足の一因となっていた。つまり、ディートル大将率いる山岳師団は、その陽動と言う役割を十全に果たしていた。
無論、カンダラクシャ防衛戦にはアルハンゲリスク方面からも戦力を抽出されたが、白海の沿岸部と言うのは行軍に向いておらず(西進できるまともな道がない)、なけなしの戦力を貴重な船に乗せて送り出し、ムルマンスクで降ろしてカンダラクシャに向かうという有様だった。
おまけにアルハンゲリスクに配備された兵力は元々がそう多くない。
そこでムルマンスク司令官と政治将校は、周辺住民を強制徴用し、街の防御陣地を構築するための労働力として用いた。
だが、コラ半島は人口密度が低い……というより、まともな人口がいる場所は、
そして、その鉄道を伝って制圧しながらドイツ軍は北上してくるのだ。
最早、なりふりは構っていられなかった。
そして結果的にチェックが甘くなり、まんまと工作員に入り込まれ、12月8日の朝に街のいたるところで火柱が上がったのはご存知の通りだ。
結局、どこか恣意的、あるいは泥縄的な兵力運用は、「ムルマンスク
そして現在は押さえるべき都市主要部の制圧は終わり、隠れ潜んでいる残敵掃討の段階に移っていた。
つまり、人がいそうな所に機関銃を構えながら手榴弾を投げ込んだり、燃えないか燃えても問題なさそうな場所に火炎放射器の口を突っ込んだりする作業だ。
現在、確認できているロシア人捕虜は、軍民合計で5万人弱という所。
無論、残りは全員が戦死した訳ではなく、おそらくはまだ市内に潜伏しているか、街から逃げ出したのだろうと思われている。
今、独芬連合軍が必死にやってるのは前者、ムルマンスク市内に潜伏して反撃の機会を伺い息を潜めてる輩だ。
極夜に紛れた赤色ゲリコマ相手の泥沼の戦いなんて冗談ではなかった。
だが同時に、街から逃げ出した者は今のところどうしようもなかった。
敵が待ち構えているのはわかりきっているので、まさかペツァモ方面へは逃げていないだろう。
いや、もし西へ向かったロシア人がいるとすれば、ずっと陽動と側面支援をやってくれていた山岳師団が対応する手筈になっていた。
それ以外の方向なら捜索や追撃に出す人的余裕はないし、極夜の中で追跡する手段もない。
何れムルマンスクに戻って来て破壊活動くらいするかもしれないが、今は打つ手がないのが現実だ。
それよりも、ムルマンスクの周辺まで含めた掃討と掌握、治安回復と復興が先だが、いずれも本格化するのは極夜のシーズンが終わってからだろう。
また、最終的な調査は同じく極夜が明けてからになるだろうが、ムルマンスクでの戦いのソ連側の死者は今のところ2万には届いていないようだ。
独芬側の戦死者は1000名を少し超える程度になるらしい。
結果的には大勝であろう。
しかし、フィンランド軍はともかく、如何に緯度からから考えればムルマンスクが暖かい(何せ北極圏が目と鼻の先なのに港が凍らない。北海道より冬場の気温が高い)とはいえ、慣れない極北の地と時折オーロラ輝く日の昇らぬ極夜の世界は、体力以上に精神力をドイツ人から削り取った。
ムルマンスクの完全制圧完了宣言まで、圧倒的な戦力差でありながら戦闘開始から二週間もかかった理由はそれかもしれない。
市街戦と呼べる規模の戦闘は、ムルマンスクに到達して一両日くらいだったが、散発的な戦闘はそこそこ続いたのだ。
だが、戦闘が終わったとしても、まだやることはごまんとあった。
ムルマンスクを含めコラ半島の管轄が、最終的にフィンランドに割譲される以上、ムルマンスクの捕虜は本来ならフィンランドで面倒見るべきではあったが、交通の便の関係上、一度鉄道でサンクトペテルブルグまで搬送し、フィンランド側の受け入れ体制が整うまでしばらく留め置く事になった。
それを聞いたニンゼブラウ・フォン・クルス・デア・サンクトペテルブルグ総督は、
『まあ、そうなるとは思っていたよ。予想より捕虜が少なかったのは助かったが』
と苦笑したという。
また預かった捕虜の何割かが捕虜ではなく”亡命”並びに「サンクトペテルブルグに移住」扱いになったのはご愛嬌。
どうやら、飯と給料と福利厚生など、時代背景から考えればホワイトな条件を出して懐柔したらしい。
いつの時代でも、都会生活に憧れる若者はいるものだ。まあ、若者だけだとは限らないが。
ただし、事前に覆面面接官との雑談に紛れさせて思想チェックを行い、合格者だけに声かけてるあたり意外と抜け目がない。
***
一通り捕虜を送り出したムルマンスク駐留部隊は、早速、計画通りにムルマンスクの復旧を行う事にした。
そして現在、対外的な意味での「勝利宣言」はドイツ軍からもフィンランド軍からも出ていない。
公的な理由は「(コラ半島全体の)制圧と掌握が終わっていない」から。
だが、米ソのスパイやら内通者やらが掴んだ情報が抜けていた。
本来、この報告はこうなされるべきなのだ。
『我ら、未だに”
だが、”銀狐作戦”自体にはムルマンスク攻略に加えて、コラ半島全体の掌握も作戦の副次的目標に含まれているから、北方軍集団からの報告も間違いではない。
きっと
あくまで第一優先目標にして最大の攻略目標がムルマンスクであっただけだ。
つまり、米ソが『ムルマンスクで未だに市街戦が行われており、赤軍は抵抗を続けており、陥落はしていない』と判断してもそれこそドイツは知った事ではないのだ。
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そして、1941年12月25日午前9時(アメリカ合衆国東部時間)……大統領の演説と楽団の演奏、そして星条旗と”赤地に鎌と槌が描かれた旗”を振る市民に見送られ最初のレンドリース物資を満載した船団が、盛大に汽笛を鳴らしながらニューヨーク港を出航した。
史実と違い英国は入港と領海航行を拒否してる為、アイルランドのゴールウェイに一度集結し、ノルウェー沖を通りバレンツ海へ向かう算段だった。
ちなみにではあるが、現在米国は不凍港レイキャビックを持つアイスランドにも現在米国がレンドリースの寄港地として、港と街のインフラ整備全額負担を条件に軍の駐留を認めさせる交渉中である。
またしても、アイルランドに続く英国ブチギレ案件である。
無論、この世界線の英国は、アイスランドに軍など駐留させていない。
そして、アメリカはドイツと英国の位置関係からすると、英国を盾にするような形でアイルランドとアイスランドに自軍の拠点を作ろうとしているのだ。これは、いずれ
ついでに、英国本土を巻き込む気も隠そうともしていない。
参考までに書いておくと、”
B-29でなくともB-24でさえ往復できる。
無論、英国はドイツとの停戦が破棄されない限り、米国陸軍爆撃機隊の領空の飛行を許すつもりはない。
史実の英国は、米ソにあまりに都合よく動き過ぎている
正直、国家への共産主義者の浸透度で言えば、史実の英国は米国を決して笑えない。彼らは英国の衰退を横目に見ながら、共産主義の躍進をサポートし続けたのだ。
はっきり言えば、史実の第二次世界大戦はコミンテルンの策略で米英が動き、共産主義者が書いた筋書き通り日独が潰されたという側面がある。
イタリア? ムッソリーニは元々は社会主義者であることを忘れてはならないし、ムッソリーニをリンチで殺して口封じをし、王国だった筈のイタリアの王室を他国に干渉される前に潰したのが誰だったのか忘れてはならない。
そして、この世界線の英国は……いや、英国に生きる転生者達は、二の
それを言うならドイツ人も同じだ。
レンドリース船団の主力であるリバティ船の速力はさほど速いものでは無く、巡航速度は10ノット程度であり、一日に進める距離は最良の条件でも精々400㎞。
ニューヨーク→ムルマンスク間の直線距離はおおよそ6,500㎞。しかし、アイルランドのゴールウェイ港を経由し、ノルウェー沖を回り込む航路なら、ニューヨーク港からゴールウェイまで約5,000㎞+スカンジナビア半島を迂回して回り込むなら+約4,000㎞の合計9,000㎞。
補給やら船員の休息やら何やらで、どんなに早くても1ヵ月以上はかかる。
つまり、1月の最終週後半か2月の初旬だ。
だが、これはアメリカ人にとり悪いことばかりではない。
この頃には極夜のシーズンは終わり、短い時間だが日が昇り昼間という時間ができる。
その間にムルマンスクに入港してしまえば良い。
そして、1ヵ月の時間があるのはドイツ人も同じことであり……
「1ヵ月もあるんだ。盛大な歓迎の準備をしてやらんとな……」
増援であるロンメルを連れて北方軍集団司令部へと戻ったレープ元帥からムルマンスク駐留ドイツ軍団の指揮権を引き継いだ”ニコラス・フォン・ファルケンホルスト”上級大将は、そう静かに微笑んだという。
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