転生しても戦争だった ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~
第144話 ”Natürliches Rotes Raubtier” とりあえず、それがドイツ側からのニンゼブラウ・フォン・クルス・デア・サンクトペテルブルグの印象らしい
第144話 ”Natürliches Rotes Raubtier” とりあえず、それがドイツ側からのニンゼブラウ・フォン・クルス・デア・サンクトペテルブルグの印象らしい
「だから、”ヴォログダ”を攻めるとなれば、”ロシア人が操るアメリカ製の航空機”に対応できればいい。ドイツ空軍の戦闘機なら、性能差とパイロットの技量差でそれができる。今の戦争、特に内陸部の戦争は”
「戦闘機の話はこれくらいで良いとして……シュペーア君、確かユンカース社からJu87DのE型への改修キット、空対地ロケット周りの開発と生産の発注来てたよな? 後で進捗状況聞かせてくれ」
「Ju187はどう考えても間に合わんから、そっちを急がせよう。後は輸送トラックと
「GAZ-MM、Zis-5は汎用トラックとして重点生産。Zis-6は、地対地ロケット搭載型の開発を急がせてくれ」
「そして、不本意ながら……
***
(なるほど。これが正真正銘の”トランス”……聞きしに勝る”恐ろしさ”だな)
ああ、ヴァルタザール・シェレンベルクだ。
NSR(国家保安情報部)所属で、今はニンゼブラウ・フォン・クルス・デア・サンクトペテルブルグ総督の側近を務めている。
ハイドリヒ長官は言っていた。
『シェレンベルク、フォン・クルスの能力に疑念や疑問を持つことはあるだろう。時には恐怖を覚えるかもしれない。だが、疑うな。フォン・クルスは表面的には変人に見える。だが、本質的にはあれは”
確かにその通りだ。何せ、
「赤色勢力と戦ってるのは、何もドイツ人だけじゃないだろ? ならば、そこを穴埋めしてゆくのがサンクトペテルブルグが求められる役割だと俺は思っている」
「結局、畑から生えてくるソ連兵を駆逐する装備なんて、いくらあっても足りるなんてことは無いのさ」
(曰く”
「フォン・クルス総督、また銃器デザインをされたので? 相変わらず多彩ですな」
すると何故かバツが悪そうに、
「ただの改良だ。デザインってほどじゃない。それに一応、参考になるものはあったし」
私の主観で言わせてもらえば、フォン・クルス総督は、「アカを殺すあらゆる手段と方法を知識として持っており、それに全知全能をかける」習性がある。
おそらくそれは、人が呼吸するレベルの本能に刻まれた”ナニカ”のような気がする。
(やはり総督に立案してもらうしかないな……)
”ヴォログダ”攻略……確かに誰も考えていないと言えば、噓だろう。
少なくとも、北方戦線の参謀なら誰しも一度は考えるはずだ。
だが、
(普通は、優先度が他に比べて低いと考え、作戦立案までは思考が伸びない……)
正直に言えば、私もおそらくはシュタウフェンベルクもその重要性を完全には理解していなかった。
ごく自然に、ムルマンスクの次はアルハンゲリスク攻略を目指す。
そう考えるはずだ。
(ラドガ湖とオネガ湖、カレリアを掌握してる以上、ロシア人はアルハンゲリスクに戦力を送れないと考える)
NSR職員としては珍しく参謀資格を持つ私が言うのもアレだが、正規の参謀教育を受けた者ほどそう考えるだろう。
実は、ムルマンスク、アルハンゲリスクの重要性と危険性は、アメリカの生産能力とレンドリースの恐ろしさと共にバルバロッサ作戦首脳部には総統閣下直々に伝えられていた。
アメリカの生産力とソ連の動員力が結び付けば、我がドイツにとり致命傷になり兼ねない。
(だから、北方戦線が二線級扱いなど誰もしない)
そして、だからこそこの二つの港町を攻略する事を最優先に考えてしまう。
だが、
(確かに”ヴォログダ”を陥落すれば、アルハンゲリスクへの陸路も水路も補給路を断て、確かにかなり攻略も楽になるだろう)
残る大きな補給路は、総督の言う通りキーロフからの北ドヴィナ川を用いた水運だけになる。
付け加えるなら、
(ルイビンスク人造湖まで抑えられる、か……)
十中八九、そこまで地理を俯瞰して作戦を立てた参謀は居ないだろ。
人造湖が本格稼働していればその価値に気づく参謀も居ただろうが、多くの参謀は人造湖の工事が終わっていた事もまだ知るまい。
そして、水が溜まり本格的に機能するのは数年先だ。
(つまり、総督は数年先の支配領域と戦域まで予想しているということか……確かにこれは”異能”だ)
常人は、そこまで未来や歴史を見ることはできない。
それに、
「あとは戦力か……カレリア周辺に展開しているフィンランド軍って12万人位だっけ?」
「Ja」
「フィンランド軍の総兵力は約28万。かなり無理して出してもらってるが、戦域が広いから仕方がない。仮にムルマンスクを制圧してもコラ半島を掌握する主役はフィンランド軍になるから、そこから引き抜くのは不可能。加えて、北方軍集団も、米国やソ連の奪還作戦を警戒して半分近く残す必要はあるだろうし、アルハンゲリスクはドイツ軍が主力、フィンランド軍は補給路維持のバックアップとして割り切るとして……」
フォン・クルスは少し考えてから、
「カレリアに展開できるフィンランド軍の増援ははあと多くても精々2~3万。ヴォログダ攻略は、フィンランド軍を主力として考えて、展開できるのは6~8万ってところか」
我らドイツ人には、悪癖がある。
スオミ人には、どちらかと言えば親愛の情をもってはいるが、どうしても「弱小国」と見てしまうのだ。
だから、元々がフィンランド領で地の利があり、また”カレリア解放軍”として戦力を潜伏させていたラドガ湖、オネガ湖、カレリアは彼らの戦力を主力として捉えたが、他の地域ではどうしても「主力はドイツ人、他は予備戦力」という前提になってしまう。
つまり、他民族をどこか正面戦力として見れないのだ。
これはまあ、
他ならぬ、私がそうだからだ。
(しかし、フォン・クルス総督には”それ”がない……)
文字通り共産主義者を
であるならば、ここはNSRらしい仕事をしようじゃないか。
「フォン・クルス総督、実は私に予備兵力のアテがあります」
「ん? どれぐらいだ?」
「上手くすれば、旅団規模の歩兵戦力を来年には用意できるでしょう」
そう、こういう時に役に立ってもらわないと、NSRで”保護”し身柄を預かった意味が無い。
(期待してやろう。”カミンスキー”、”ヴォスコボイニク”)
喜べ。
(
ならば、お前たちの命も簡単に摺り潰されることはないだろう。
「ところで、フォン・クルス総督」
「ん?」
「兵にはどのような資質をお求めで?」
するとフォン・クルスは迷いなく。
「しぶとい兵。粘り強い兵」
「そのこころは?」
「戦争なんてのは古今東西、よほど圧倒的な実力差か相手が余程の、それこそ戦史に名を残すような
きっとフォン・クルス総督ならば、
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