第143話 クルスのパーフェクトせいさん計画 ~DP28から(似非)RP-46を作ってみよう~




「まず、実用化できそうな装備強化案でも考えてみるか……シュペーア君、確か前にイタリアにライセンス生産許可出した劣化版……いや、デチューン版のDB605の話しあったよな? あれってドイツで試作型作られたんだよな?」


 ああ、何故か”冬宮殿”が文字通りの根城にしている来栖だ。

 疑問は多々あるが、一先ずブン投げておくとして……とりあえず、フィンランド軍に供給できる装備をピックアップしておくことにした。

 ドイツが警戒すべきは兵力不足と装備不足、大きく言えば物資不足。

 前世の歴史では、需要と供給が全く釣り合っていなかった。

 

「ええ。ダイムラーベンツ社に開発データも治具もあるはずですが」

 

 まあ、それはそうだろうな。問題は……

 

「あのエンジンは大雑把に言えばDB601の中空クランクシャフトにシリンダーブロック、ボアアップしたシリンダーヘッドを組み合わせた物って認識で良かったんだよな? あと、過給機は同じ構造で大型化しただけだと思ったが」

 

 ドイツ仕様のDB605は中空ではないコンベショナルクランクシャフトを用いたり、一段無段変速から二段二速過給機にしたりとエンジンとしての性質がかなり違うんだが、イタリア版のDB605(向こうでの呼び名はフィアットRA.1050RC.58”ティフォーネ”だ)は言ってしまえばDB601と605のハイブリッドだ。

 前世の知識に照らし合わせると、概要も性能もDB605AS(M)と大体一緒だ。

 だから、確認すべきは、

 

「あれ、ドイツ仕様のDB605より安く、それなりの数を作れそうか? 在庫で抱えてるDB601のクランクケースとかシリンダーブロックを流用するってこと前提で。あと、どのぐらいDB605の生産に影響がでるかだな」


 例のメッサーシュミット・スキャンダルのせいもあり、ダイムラーベンツのDB601は保守部品としての使用分を差し引いても、それなりのストックはありそうなんだが。

 今後、ドイツの主力戦闘機用液冷エンジンが本国仕様のDB605が主力になるなら、尚更。

 

「調査は必要ですが……仮により本仕様のDB605より安く手っ取り早く作れるとしたら、どうします?」


 まあ、怪訝な顔はするよなぁ。

 現在、サンクトペテルブルグで開発してるイタリア発祥の機体3種は、ドイツ本国仕様のDB605の搭載を前提にしている。

 要するに乗っけられる機体が無いんだが、

 

「後でサンクトペテルブルグに来ているメッサーシュミット社の戦闘機開発チームにも聞いてほしいんだが……メッサーシュミット・スキャンダルの前にDB605搭載を前提としたBf109を開発してた筈だ。なんとなくどこかで資料を読んだ気がするんだが、量産一歩手前の試作機はもう完成して、DB601のチューンアップを搭載して、試験飛行を終えて、エンジンの実機納品待ちだったと思う」


 噓ぴょんだ。

 まあ、ぶっちゃけ史実のメッサーシュミット社がこの時期にDB605仕様のBf109、いわゆる”Bf109G”型の開発やら生産やらをやってたから、スキャンダルの有無にかかわらず開発ぐらいはやってただろうって予測だ。

 

「現状、メッサーシュミット社のBf109の生産工場は、国家管理になっててF型までの保守部品を生産してるはずだが、最盛期の生産数を考えればまだ生産力には余力があるだろう」

 

「つまり、接収したドイツ本国の工場を使うと?」

 

「余剰生産力があるなら、使うに越したことはないだろ?」


 性能的ランドマークとすべきは、俺の知ってる歴史の”Bf109G-6”あたりだろう。

 Me262以外の新型機の開発は禁じられているが、既存機、それも試作機まであるBf109のバリエーション・モデルなら「現行機の改良」の範疇だ。

 採決を下した総統閣下の機嫌を損ねることもないだろう。


「現状、ソヴィエトの戦闘機は性能劣悪だし、サンクトペテルブルグが陥落した以上、航空機の開発や生産に回す余力リソースはあまりないだろう」


 日本にいた頃から外交資料と睨めっこしながらソ連の”国家としてのアウトライン”を注視してきたが、俺の知っている歴史と大きな差がなかった。

 確認できる範囲では、史実と誤差の範囲……例えば、日本皇国のように「明確な転生者の足跡」は見受けられなかった。

 

 そうであるならば、俺の知ってる史実より明らかに状況が悪いソ連が優先するのは、ドクトリン的には戦車をはじめとする陸戦兵器になるはずだ。

 なぜなら、

 

「ゆえにアメリカ人の送るレンドリース品、その多くが航空機になるはずだ」


 英国がレンドリース先に入ってないのなら、尚更だ。

 史実では、英国は性能不足でヤンキーエアクラフトを受け取り拒否するケースが多々あったが、ソ連は「英国人が使い物にならない」と判断した航空機さえ喜んで受領し、むしろ「高性能」と評した。

 まあ、その高性能な理由の一つが「まともに動く」というハードルの低さがご愛嬌だが。

 

「シェレンベルク、NSRと三軍統合情報部アプヴェーアでレンドリース品の詳細は調査してると思うが、それをより慎重に。特にその内容によってソ連のドクトリンが決定される場合がある」


「Ja」


「話をアメリカ人の航空機に戻すが、正直、今の戦闘機なら頑丈なだけで性能はさほど高くない。もし、俺があげたDB605対応のBf109が実用化できれば、当面は対応にさほど苦労することはないだろう。問題は爆撃機や輸送機なんかの大型機だが、逆に図体が大きく必要人員が多く燃料をバカ食いする大型機は持ち込める数が限られるし、そもそもロシア人がその扱いに慣れていない」


 ソ連空軍は、その本質において戦術空軍だ。

 おそらく、この世界線でも同じらしい。

 ドイツ国防空軍ルフトバッフェもかつては(或いは史実では)人のことは言えなかったが、今生では徐々に戦術空軍から脱皮して戦略空軍の方向性に歩み出してる(例えば、ウラル爆撃機の最大の理解者は何を隠そうヒトラーらしい)ようだが、ソ連にはそういう兆候はない。

 何しろまともな性能の機体は、相変わらず双発の軽爆撃機までだ。

 

「だから、”ヴォログダ”を攻めるとなれば、”ロシア人が操るアメリカ製の航空機”に対応できればいい。ドイツ空軍の戦闘機なら、性能差とパイロットの技量差でそれができる。今の戦争、特に内陸部の戦争は”空陸一体機動戦エアランド・バトル”が基本だ。制空権を獲り、頭を押さえて空爆と短時間の集中的効力射で崩して装甲兵力で翻弄し、機動歩兵で占領する……いわゆる”ブリッツェン・クリーク(電撃戦)”だ。そういうのはむしろ、ドイツの方が造詣が深いだろ?」


 いや、シュタウフェンベルク君、なんでそこで首を傾げるのさ?

 そもそも機甲戦って概念その物が、グデーリアン将軍あたりが確立した戦法でしょーが。

 

「都市攻略戦の基本は、攻城戦と同じだ。事前の偵察を密にして、司令部/弾薬庫/食糧庫/燃料タンク/浄水施設なんかの急所を割り出し、頭を押さえて急所を刺して、火力で防御を崩して機動力で押し潰し、歩兵で押さえる。別に難しい話はしてないさ」


 相手がいる以上、事項段階では簡単じゃないかもしれないが、

 

「逆算してそれに必要な装備を揃えればいい。サンクトペテルブルグでもやれたんだ。ヴォログダでも上手くやれるさ」


 詳細な情報が集まるまで、この程度の認識で良いだろう。

 

「戦闘機の話はこれくらいで良いとして……シュペーア君、確かユンカース社からJu87DのE型への改修キット、空対地ロケット周りの開発と生産の発注来てたよな? 後で進捗状況聞かせてくれ」


「ヤー、フォン・クルス総督」


「Ju187はどう考えても間に合わんから、そっちを急がせよう。後は輸送トラックと牽引車トラクターか。いや、性能を気にしなければ何とかなるか?」


 フィンランド軍が使うことが前提なら、むしろソ連製(サンクトペテルブルグでも製造設備のある)ZIS-シリーズのトラックやSTZ-5砲兵トラクター、SHTZ-NATI汎用トラクターを集中生産した方が良いか。

 

(そういや、何故かGAZ-MMトラックの製造設備もあったな)



「GAZ-MM、Zis-5は汎用トラックとして重点生産。Zis-6は、地対地ロケット搭載型の開発を急がせてくれ」


 この世界では”スターリンのオルガン”ならぬ”ヒトラーのオルガン”とでも呼ばれるのかねぇ。

 

「トラクターはSTZ-5を優先。機動砲は牽引してなんぼだし」


 あと、装備面では……


「そういえば、シモノフとデグレチャフの14.5㎜対装甲ライフルあったな? あれ、生産再開を本格化させると同時に超遠距離狙撃銃・・・・・・・として転用できるか、検証を頼む。具体的には、10倍程度の光学照準器くっつけて、1㎞先の人間の胴体に当てられるようになるかだな」


 14.5㎜なら、ヘッドショットやハートショット狙わなくても、どこに当たっても相手は死ぬし。

 

「そして、不本意ながら……TT-33トカレフ拳銃の再生産を行う。ただし、コック&ロックの安全装置付けて、ハンマーを大型化しトリガーを軽くした改良型を、だ。これはドイツの軍規に照らし合わせ、安全装置のない銃は正規装備にできないから必要な措置だ。設計図は既に引き終わったから、後で銃器開発チームに回す」


 いやさ、やっぱ”リガ・ミリティア”の装備テスト部門からも、仮称”SPMP-41短機関銃”(前に話したPPSh-1941の改良型な? あれから更にインジェクションポートの位置を真上から右にしたとか小変更したぞ)と同じ7.62㎜×25トカレフ弾を使う拳銃がやっぱ欲しいって要望が出ててな。

 一応、ドイツの7.63x25mmマウザー弾と互換の拳銃弾だから、モーゼルC96系列の拳銃で撃てなくはないが、あんなデカくて重くてクソ高い拳銃、兵士に広く行き渡らせるわけにもゆかないし、TT-33以外に適当な拳銃が無かったんだよ。

 なんか、安全装置セフティ付のトカレフって書くと、なんか反社ご用達拳銃ブラックスターっぽくて気乗りしないが、制に腹は変えられない。

 

「それとシュペーア君、製造・設計を問わず”DP28軽機関銃”に慣れたエンジニアをピックアップしてもらえるか?」

 

「それは構いませんが……何をするので?」


「DP28は、ストック分は組み立てられるだけ組み立てて、30リムド・ロシアン弾ごとまだ当面はロシアの弾薬に頼らね蹴ればならないウクライナやベラルーシの現地勢力に供給する予定だ。だが、サンクトペテルブルグが兵器工廠として求められてる手前、せっかく素体になりそうな軽機関銃があるんだ7.92㎜小銃弾用、いやMG34のベルトリンクやできればサドルマガジンなんかのオプションも使えるように仕上げたい……要するに”サンクトペテルブルグ産の汎用機関銃”を作れるようにしておきたいのさ」


 狙ってるのは、MG34の実包やオプションを使えるようにした、俺の知ってる歴史の《b》”RP-46軽機関銃”《/b》だ。

 現在、ソ連軍の主力軽機関銃のDP28は、本体の上にパンケーキみたいな円盤型弾倉マガジンを乗っける、イメージ的には1stガン○ムのザ○マシンガンのマガジンを連想してほしいんだが、実は結構その弾倉部分自体がが構造が複雑で繊細、重く嵩張りそれらの複合要因で給弾不良や故障などの比較的不具合が出やすい。

 また、重量物の弾倉を銃の上にちょこんと乗っける構造なので、トップヘビーでいまいちバランスが悪く、また接続部が強度的なウィークポイントになりやすい。

 銃自体は非常にシンプルな設計でソ連兵器らしく堅牢なんだがな。あと二脚の強度不足とかリコイルスプリングの位置が悪いとかはあるが、それは割と簡単に是正できる。

 

「DP28って排莢が下面なんだよ。構造的にMG34のサドルマガジンは取り付けられると思う。それにドイツのマウザー小銃弾はリムレスだからな。給弾も排莢もリムド・カートリッジの30ロシアンよりシンプルな構造にできるし、その設計変更でリコイル・スプリングの問題も是正できる」


 まあ、RP-46の構造は大体頭の中に入ってるし。

 というか、史実でもDP28にDShK38重機関銃を参考に開発されたベルトリンク給弾機構組み込んで”RP-46”って生まれたんだわ。

 

「後は二脚の構造強化、いやいっそフレーム取り付けよう。銃身はキャリングハンドル付きでそれを使って簡単に交換できるように……いや、互換にしてZB軽機の銃身システム一式をそのまま使えるようにしよう。もう確立したシステムの方が良い。そこは交渉だな。後はガスレギュレーターで二段階切り替えにして発射速度は毎分600発/900発にしておけば良いか? 伝統的ライフルみたいなストックはストレート・リアストックとピストルグリップだな。MG34用の三脚取り付け具もいるな」


 そうすりゃ汎用機関銃としての名目も立つだろう。

 

「フォン・クルス総督、我が国ドイツでは既にMG34があり、来年には二種類の機関銃が制式化予定なのですが……」


 シュペーア君、鋭いな。

 だが、

 

「知ってるよ、まずMG34は製造に手間がかかり過ぎる。性能は良いんだが、コスパがあまり良くない、来年登場なのはMG42とFG42だろ? まずMG42なんだが、あれは発射速度レートが早すぎる。下手すりゃ秒間20発だ。時間当たり可能な限り多くの弾丸を叩きこんで殺傷力を上げるってコンセプトは理解するが、あれを戦力として使いこなすのはかなり難しい。これから前線にごまんと出てくるホヤホヤの新兵じゃ、無駄弾まき散らすだけになりかねん。FG42は空挺用の軽量機関銃が元々のコンセプトだから”解釈が違う”な」


 実際、発射速度を二段階切り替えにしようとしてるのも、普段は毎分600発(MG42の大体半分の発射速度)にし、瞬間最大火力が必要な場合にMG34並みの発射速度を出せるって感じで良いと思う。

 あと、高発射レートっていうのは同時に高ガス圧モードってことだから、銃が泥詰まりなどで汚れていてもメンテなしで強引に撃たねばならないときなんかに便利だ。

 ガスレギュレーター自体は構造簡単だし、まあ組み込めるだろう。。

 

(圧倒的な火力でなぎ倒すのも機関銃の役目なら、しつこいバースト射撃で相手の進軍を阻止し続けるのも機関銃の役目だ)


 思うに、ドイツは攻撃に趣を置きすぎていて、それが極端な形で兵器や装備に表れやすい。

 

(確かに攻めねば戦争には、勝てないかも知んねーけど……)


 攻めしか考えない軍隊も国も、守りが必要となったときに途端に脆いもんだ。

 前世の日本とドイツがまさにそうだ。


(残念ながら、攻めだけで終わる戦争ってのはないんだよな)


 攻めなきゃ勝てんかもしれないが、攻めだけで勝てるほど戦争は甘くない。

 それは歴史が証明している。

 それは何度も。


「それになシュペーア君、間違いなく需要は拡大の一歩だ。現行のMG34の大幅な増産は、製造の手間を考えれば難しく、後継のMG42はまず最優先でドイツ正規軍に流さねばならん……」


 というより、正規軍も戦線拡大で兵員だけでなく兵器の欠乏は戦争のあるあるだぞ?

 リアルチート国家のアメリカだって、予想外に拡大した需要の供給が追い付かないは、よくやらかすからな?

 

「フォン・クルス、貴方は……」


「赤色勢力と戦ってるのは、何もドイツ人だけじゃないだろ? ならば、そこを穴埋めしてゆくのがサンクトペテルブルグが求められる役割だと俺は思っている」


 というか、ソ連系の武器ってそもそも感じじゃん。

 国家、武装組織を問わずに友好的なところにのべつ幕無くばら撒くっていうかさ。


「結局、畑から生えてくるソ連兵を駆逐する装備なんて、いくらあっても足りるなんてことは無いのさ」


 連中は、ホントに強かでしぶといからな。


(とりあえず、装備面で今できる追加案はこんなところか?)


 戦車とかは、もう開発スタートさせてるしなぁ。

 

「問題は、兵員の確保とかだな……」
















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