第141話 アメリカ良い国強い国! だから、レンドリースをクリスマス(政治)・イベントにしても問題ないよね? だってプレゼントするんだし♪




 アメリカよ、あめりかよ

 建国の理想はとうに失われ

 ”大きな森の小さな家”は、森林が伐採され、小さな家は摩天楼へ成り果てた

 

 子供たちの笑い声は、今は目をぎらつかせた大人の怒号に置換された

 

 資本主義の氾濫は、貧富の格差を更に拡大させ

 貧困層が恨みを込めた目で富裕層を睨むとき

 それは格好の共産主義者の付け入る隙となった

 

 そもそも、土壌はあったのだ

 誤解してはならない

 アメリカの建国とは、「英国からの独立」と同義であり

 王家・王族の否定だったのだ

 つまり、アメリカの独立もフランス革命もその本質は

 ロシア革命と同じ”左派運動”なのだ


 誤解してはならない

 ロックの唱えたアメリカ独立の理念は、

 

 《b》「全ての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている」《/b》


 どこかで聞いたことはないだろうか?

 共産主義には自由も神もないが、平等だけはある

 

 1928年第一次世界大戦の終結から10年で世界恐慌を迎え、街に失業者が溢れた。

 建国の理念は形骸化し、貧富の格差の拡大により平等は失われ、自由はあっても治安の悪化で生命も幸福も神でさえ保障できなくなった

 

 そこに放り込まれた貧富の差を是正し”真の公平と平等”を謳う共産主義は、実に甘美な毒だった事だろう

 神が成し遂げないなら、神を否定し、人間の手で成し遂げるというのもアメリカンの気質には合っていた

 

 そもそも、彼らは「神に選ばれ、祝福された王族」を否定しているのだ

 だから、”赤色の大感染と蔓延レッド・パンデミック”が広がったのだ

 そして、マスゴミを皮切りに次々に浸透され、ついには国家の根幹まで汚染され赤く染まった

 

 冷戦時代の、あるいは冷戦終結後の、あるいは現在のアメリカしか知らない親愛なる諸兄には実感わかないだろうが……

 つまるところ、これが我々の世界でもこの世界線でも”1930~1950年のアメリカ”なのだった。










******************************










 時節は、ムルマンスク侵攻作戦が本格化する少し前……

 

ワシントンDC、ホワイトハウス、大統領執務室




「つまり、”12月25日クリスマスの朝までにレンドリースをソヴィエトに届ける”のは不可能ということだな?」


 ”フランシス・テオドール・ルーズベルト”が不機嫌な様子で確認すると、

 

「イエス、プレジデント。不確定要素が多すぎますし、それを行おうとすると余りにもタイムスケジュールがタイト、かつシビアになってしまいます」


 ルーズベルトは本来、「メリークリスマス、愛すべき国民の皆様に素晴らしいクリスマスプレゼントを報告できます」とやりたかったのだ。

 だが、その目論見は頓挫してしまった。

 

 本来ならば、余裕のあるスケジュールで、レンドリースは送り出せる筈だったのだ。

 しかし、

 

「タフトにヴァンデンバーグ、共和党のクソ野郎どもめっ!!」


 ルーズベルトが言ってるのは共和党の旧保守派の首魁、”ロジャー・タフト”に孤立モンロー主義の急先鋒”アンドリュー・ヴァーデンバーグ”のことである。

 

 さて、ここで皆様に告げなければならないことがある。

 史実の1940年のアメリカ大統領選挙戦は、史実と大幅に異なる。

 民主党から寝返り、共和党の大統領として出馬しながら選挙戦の途中で民主党大統領候補のルーズベルトに迎合した”ウィルキー”が出馬しなかった、いや、できなかったのだ。

 理由は単純で共和党が寝返り者の「ウィルキーを受け入れなかった」のだ。

 

 そもそもこの時代の共和党は、我々の歴史でもこの世界線でもモンロー主義イチオシなのだ。

 だが、史実のウィルキーはニューディール政策を批判するばかりでなく、政権のヨーロッパでの戦争に対する中立政策や、軍事的な備えを欠いていることを非難し、ドイツに対する強硬姿勢及び”イギリスに対する・・・・・・・・広範な支援”、徴兵制を主張した。

 というより史実のルーズベルトは、この時は孤立主義を推していた。

 だから、ウィルキーは民主党から共和党に鞍替えし、共和党から大統領選に出馬。しかし、ルーズベルトが(主にチャイナロビーの活動で)参戦上等の強硬路線に変更した為に迎合したという経緯がある。

 まあ、ウィルキーが共和党の大統領候補に選ばれた経緯に関しては、実はかなり不透明な部分が見え隠れしている(寝返り者より他の共和党候補者の方が人気があった)のだが……

 

 それはともかく、この世界線では政治的状況から「アメリカによるイギリス支援は”ありえない・・・・・”」。

 そして、共和党は保守であり、如何に赤色汚染が進んでいるとはいえ、積極的に共産主義者ソヴィエトを応援する気にもならない。

 そもそもアメリカにおける保守とは、

 

 「外がどんなに荒れようが、自国が豊かであればそれでよい。戦争なんて(自国の権益が侵されない限り)勝手にやらせておけばよい。アメリカ第一主義、万歳」


 なのだ。

 だからこそ、今生では……この世界線では、ウィルキーは共和党に受け入れられることはなく、40年の大統領選挙戦は順当にヴァーデンバーグが共和党より出馬した。

 そして、何度か話が出た通り40年の大統領選挙戦でルーズベルトは孤立主義の遵守から転じ、1941年3月に悪名高い”レンドリース法”を成立させた。

 レンドリース法の経緯や詳細は、”重なった転生者の足跡に、大西洋憲章は踏み潰される”に詳しい。

 だが、もう一度レンドリース法の理念を記しておこう。


 『その国の防衛が合衆国の防衛にとって重要であると大統領が考えるような国に対して、あらゆる軍需物資を、売却し、譲渡し、交換し、貸与し、賃貸し、あるいは処分する』


 共和党にしてみれば、あるいは孤立主義者にとっては、「ふざけんな!」であろう。

 だから、レンドリース法の成立後も徹底的に抵抗したのだ。

 つまり、大規模な「ルーズベルトとレンドリース法に対するネガティブキャンペーン」を展開したのだ。

 

 以前に出てきた、ルーズベルト大統領がプロパガンダラジオ番組”炉辺談話”で吹聴していた『民主主義の兵器廠』という発言に対し、

 

 ・レンドリース法の対象国は民主主義国家ではなく、対極にある”ソヴィエト社会主義・・・・共和国連邦”である。

 

 とやり返したことを皮切りに更にドイツにコネクションがある(とされている)ルーズベルトの政敵の一人、”ハルバートン・フィッシュ三世”共和党下院議員は、


『ドイツの報告で、ウクライナで1920年代から30年代にソ連共産党の主導で行われた”人工的な大飢饉ホロドモール”の実態が明らかになった。どんなに少なく見積もってもウクライナで400万人以上が餓死し、またソ連邦全体での死者は1000万人以上の餓死者を出し、反抗したために強制収容所で殺された人間を含めれば1500万人以上が独裁者スターリンの命令で”殺処分・・・”された可能性がある。ドイツは、必要であればホロドモールを生き延びたウクライナ人の生き証人やロシア語で書かれた内部資料も提供する準備がある』


 そして、

 

『愛すべきアメリカ合衆国民よ。君たちは虐殺者の片棒を担いだ民衆として歴史に名を残したいのかね?』


 とラジオで呼びかけた。

 無論、赤色の支配下にあった米国マスコミや、共産主義のシンパである大統領夫人まで前面に出て「全て捏造の噓っぱち」とカウンターキャンペーンを張ったが、意外なところから援軍が来たのだ。

 それは独芬の大使館だけでなく日英の駐米大使館から

 

『フィッシュ三世議員の発言は、事実である。アメリカのマスコミは共産主義者に牛耳られており、事実を握り潰し”報道しない自由”を敢行。また、箝口令をひいている。また、ルーズベルト大統領夫人は共産主義のシンパであり、ソヴィエトの優秀なスポークスウーマンである。また、米国政府内に300人以上の共産主義者がいることが判明している』


 と資料付きで相次いで発表。

 これは一つの事例に過ぎない。

 他にも、ルーズベルト大統領とチャイナロビーとの黒い繋がり、ルーズベルト大統領の母親の実家が、中国とのアヘンを含む貿易で莫大な利益を挙げており、それが大統領選の資金源になった等々……

 

 これだけのスキャンダルが出て、なお大統領を罷免されないのだから、アメリカが如何に赤色に染まっていたかよくわかる。

 当時のソ連、そしてスターリンにとってアメリカは、

 

 ”共産主義最大の守護者”

 

 であったのだ。

 はっきり言えば、この時代のアメリカは、

 

 ”国家は共産主義に汚染されソ連の傀儡と化し、大統領は中国人の言いなりだった”

 

 質の悪い冗談にしか聞こえないだろうが、これはこの世界線だけでなく、妄想でもフィクションでもなく我々の歴史にも似たような資料がしっかりと残っている”史実・・”なのである。

 

 

 だが、この世界線、この世界の歴史において救いがあるとすれば、いかに政府やマスコミ、教育界や宗教界が事実を隠蔽しようとこびりついた不信感は中々拭えることは無いという事だろう。

 特にアメリカは、多民族国家だ。

 歴史的経緯から日系人はコミュニティを作れるほど米国に居ないが、英国系、ドイツ系、フィンランド系、そしてウクライナ系の移民のコミュニティは存在していたのだ。

 そして、ウクライナ系の住民には、実際にホロドモールから逃げ延び、アメリカに渡った”ウクライナ系一世”も居るのだ。

 彼らが草の根的に声を上げはじめたことにより、少しづつ影響が出てきたのだ。

 

 それが、史実よりもレンドリース品の出荷が遅れた理由でもあった。

 

「プレジデント、政治的な効果を最大限に狙うなら、12月25日にレンドリース船団をアメリカの東西の港から出航させるべきです。盛大なセレモニーを行い、記念すべきイベントとして。それでしたら、十分に時間はあります」


「……それまでムルマンスクは持つのかね?」


「持ちます」


 そう力強く答えたのは、”ハリソン・ホプキンス”。

 1940年まで商務長官を務め、レンドリース法成立に尽力し、計画の主導的立場に今なお居座る男であった。

 

 言うまでもなく、”赤い紐付き”であった。

 だからこそ、ホプキンスはソ連からの情報、

 

 ”ムルマンスク防衛は盤石なり。西部からの攻撃は全て撃退に成功している”

 

 を一切疑うことはなかった。

 フィンランドの”ペツァモ”方面からの陽動部隊・・・・ではなく、ドイツ人とスオミ人が手を組んだ本命が陸から、海から、空から現れるまで、もうしばしの時間が必要だった。

 

 


***




(それにしても、不愉快な現実だな……)


 ルーズベルトは、執務室で一人になったときそう独り言ちる。


「よりによって日英共にレンドリース船団の自国領海の通行禁止に、自国管轄下の港湾使用禁止だと……?」


 冷静を装っているが、ルーズベルトの腸はグツグツと煮えかえっていた。

 ドイツとの停戦が成立した以上、明らかにドイツの利敵行為になるレンドリース船団の受け入れを拒否するのは当然だが、それはアメリカの都合ではない・・・・・・・・・・・

 ルーズベルトには、それが明確にアメリカの、いや自分への裏切りに思えてならなかった。

 

「いつか目の物見せてくれる……!! ドイツの次は、お前らだっ!!」


 彼はそう決意を露にするのだった。











******************************










 後日、一部のマスコミにより

 

 ”ルーズベルトの新たな戦争計画”


 と銘打たれ、


『ドイツをソ連と共に駆逐した後、日英を叩き潰すべく戦争計画を練っている』


 という内容のセンセーショナルな素っ破抜きスクープ記事が発表された。

 だが、日英の反応は『知ってた。レインボー計画とか更新され続けてるし』と酷く冷淡だったという。


 例えば、日本の近衛首相は、

 

「あの共産主義者の奥方とよろしくやり過ぎて、キン○マの中身まで赤く染まった”アメリカ社会主義人民合衆国”の書記長・・・が、如何にも言いそうな事じゃねーか。あんなバカでも大統領になれんだから、アメリカってのはスゲーもんだ」


 と呆れ、英国のチャーチル首相曰く、

 

「あの下賤な男が品性を学ぶことは生涯できないのは当然としても、いい加減せめて取り繕うという物を学んだ方が良いな。アレでは大統領と言うより、飲んだくれてる下町のチンピラだ。白い宮殿より、大衆酒場で酒瓶抱えて寝転んでる方が似合うと思うがね」


 そしてドイツのヒトラー総統は……

 

「我が国を非難する以前に、かの国がコミュニストとチャイニーズ・マフィアに支配された赤色国家だという事がまたしても証明されただけだ。ドイツとアメリカ、どっちが世界にとり害悪だと思うかね?」


 とそれぞれコメントを残したのだった。

 共産主義者に実効支配を受けているアメリカの主要メディアマスゴミは、相変わらず報道しない自由を発動したようだが、カナダなどの国境線の向こう側から面白おかしい内容と共に飛んでくる、ラジオの電波までは止めることができなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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