第132話 ロンメル殿とのシンパシー&イタリア戦闘機三種盛り(計画)




「これは……良い出来だなぁ」


 思わず感嘆してしまう。

 

「わかるかね?」


「ああ。”IV号H型・・”、その先行量産型か……」


 さて、話をまとめたグデーリアンはもうベルリンに「早速、とっかかるぜ」と帰ってしまった。

 だが、俺とロンメルには仕事が残っている。

 

 今回、ロンメルがサンクトペテルブルグに来たのは、ムルマンスク攻略の増援……駄目押しをするための部隊を指揮するためだ。

 その総数は1個軍団、約6万の兵力だ。

 それをコラ半島の先端に押し出すには一度に送るわけにはいかず、サンクトペテルブルグを中継点にし、鉄道でピストン輸送するって寸法だ。

 戦車とは見た目に反して繊細で壊れやすい部分があり、サンクトペテルブルグからムルマンスクまで自走させようものなら、ムルマンスクに辿り着くころには、故障やら履帯切れやらで確実に半分は脱落するだろう。

 だから、戦車をはじめ履帯を装備した重い戦闘車両は、実際に履帯で走り回らねばならない戦地までトランスポーターで運ぶのが最適解なのだ。

 

 ついでにここで補給とメンテナンスしてゆくというので、せっかくなので視察しに来たという訳だ。

 ちなみに本日の付き添いは、アインザッツ君。

 綺麗系の顔と切れ長の瞳、ヒトラーユーゲントの制服と相まって、凛とした雰囲気なのが軍人だらけのこの雰囲気に合っている。

 ツヴェルク君やドラッヘン君だとこうはいかない。

 ツヴェルク君は人懐っこさのせいかどこでも甘えてくるし、俺もついかまってしまい「親子でお出かけ」っぽくなってしまうし、ドラッヘン君はほんわかした空気が柔らかすぎて、緊張感を中和しかねない。

 流石にこれから戦地へ向かう軍人さんの前でそれはまずい。

 要は適材適所だ。

 しかし、出がけに「「ぐぬぬっ」」と何か言いたげなお留守番の二人に、「フフン♪」とドヤ顔するのはやめたげて。


 資料を読む限り、確か根本的な部分は主砲を75㎜43口径長から新型の48口径長に変更(砲弾自体は同じ)し初速を上げて貫通力アップ、重量増加に対応するために給排気系を見直し各部を煮詰める事で25馬力のパワーアップを果たした新型エンジン(サイズは同じ)。

 

(そして、何より特徴的なシュルツェンの装着か……)


「何を意図してるかわかるか?」


 ロンメル曰く「丁寧な言い回しは不要」との事なので、そうさせてもらおう。

 

「いっそ清々しいまでの”都市戦対応型”だな?」


 思わず”ドイツ版ガザ・スペシャル”とか呼びたくなる。

 

「シュルツェンの裏側にS-マインが左右連装2基で計8発、砲塔横の増加装甲内側に前方へ角度を付けた4発+発煙弾6発。砲塔正面/車体正面にも増加装甲。ステーを介して中空装甲風に取り付けか。流石にソ連にはまだ成形炸薬弾や粘着榴弾はないと思うが……油断しないのは、良いことだ。砲塔上面に防盾付きMG34機関銃1丁追加。砲爆撃で瓦礫の山になった街中で暴れまわる気満々じゃんか」

 

 するとロンメルは珍しくもフッと小さく笑い、

 

「例のKSP-34/42のプランを見る限り、お前の好みにも合うだろう?」


「俺の好みって訳じゃないぞ? ただ、嫌いではないが」


 好みは好みだが、どちらかと言えば、必然だ。

 独ソ戦はとにかく乱戦になりやすいイメージだ。

 

「戦場でお前が作る戦車を見る日を楽しみにしている」


「少なくとも、チェコ製の戦車・・・・・・・よりは使い出のあるものを作ってやるさ」


 史実のロンメルが好む好まざるに関わらずチェコ製の”38(t)戦車”を第7装甲師団に数的主力にしていたのは有名な話だ。

 

「なるほど。今度は38(t)ではなく、正真正銘”38tの戦車・・・・・・”を指揮することになるわけか。それは愉快だ」


 俺とロンメルはガッチリ握手する。

 それにしても、良い返しだ。それに互いに「転生者であること」を相互認識できた確証が持てた。

 

「幸運を」


「ダンケ。我々にはそれが大量に必要だ」










******************************










 ロンメルは配下と共に一路ムルマンスクを目指して旅立ち、サンクトペテルブルグはいよいよ冬を迎える。

 とはいえ、俺がやることは変わらない。

 

「42年早々に”MC.205”の製造開始できるようだな? 喜ばしい事に」


「メッサーシュミット組がリファインで良い仕事をしたようですね? 空力特性がBf109に似ていたのが幸いしたようです」


 史実のMC.205は、急旋回で制御不能に陥る性質と無線機の不具合に泣かされたというが、

 

「主翼を大型化しつつも軽量化した自動スラット付きの新型主翼に換装。胴体後方をストレッチして尾翼を大型化し空力特性を改善。キャノピーをより視界の良い物に変更。エンジン、無線機、照準器、機銃は当然のようにドイツ製。原型機が完成していたからこそですが、よくもまあこれだけの短時間で完成形を作れたものです」


 いや、絶対どっちの陣営か知らんが転生者いるだろ?

 メッサーシュミットとの技術融合が的確過ぎる。

 

「武装は左右主翼にMG151/20㎜機関砲×2、機首にプロペラ同調のMG131/13㎜機銃×2。当面はこれでいけるだろう。シュペーア君、最高速は?」


「戦闘重量(燃料・機銃弾を搭載した実戦での重さ)、高度6,600mで640㎞/hを超えます。急降下速度は850㎞/h超を記録。その段階でも機体に不具合発生はありません。最高到達高度は12,000mを記録。ただし、その場合は与圧服と酸素マスクが必要です」


「十分だ」


 少なくともBf109Gの代打は十分以上に務まる。

 

「与圧コックピット、与圧機能付きGスーツの開発を急いでくれ。そのうち、嫌でも必要になる」


 ジェット時代はもう目の前だが、それ以前にレシプロ機の発展も著しい。

 MC.205の初期バージョンで計画機だったMC.207並みの性能だ。おそらくG.55は最低でも史実ではG.56級になるだろう。


「御意」


「Re.2005は艦上戦闘機としての路線に決定したんだっけ? He100Mの後継として」


 史実の”Bv155”は元々はメッサーシュミットが開発していた艦上戦闘機”Me155”を、ブローム・ウント・フォス社が計画を引き継いだ形になったのが史実だった。

 だが、今生では確かに一度、ブローム・ウント・フォス社に開発をチームごと引き継がれたが、やはり開発まで時間がかかり過ぎると判断され、軍需省や海軍省の連名でコンパクトで調査の結果、艦上機への改修が可能と判断されたRe.2005の艦上戦闘機化計画に合流。

 また、ブローム・ウント・フォスと加えて実績のあるハインケル社のHe100Mの開発チームが合流。

 こうして、ジェット艦上戦闘機が生まれるまでの間の艦上戦闘機が開発されることになったのだ。

 

「Ja. 公式に”Re.2005M”のコードが配されました」


「そして、本命のG.55だな」


 こっちは高高度戦闘機Bf109K枠になるはずだ。

 いや、もっと汎用機寄りの「高高度戦闘もできる重戦闘機」かな?

 MG151を最低4門積むし、なんと史実では雷撃(航空魚雷攻撃)をできるように改造した機体まであったというからな。

 今生では、相手が相手だけに流石にロケット弾とかになるだろうが……

 

(Bf109Kというより、ドイツ版のP-51Dみたいな機体の方向性が最適解かな?)

 

 実際、伝え聞いたところによると、Fw190シリーズは史実と同じヤーボ、戦闘攻撃機ヤークトボマーの方向性に発展させるようだが、その方向性は少し史実と違いそうだ。

 何でもジェットエンジン開発は、BMW003とJumo004が統合……というか、Jumo004にBMW003の開発チームが吸収される形で開発が一本化され、先行しているハインケル社との2系統の開発ツリーになるようだ。

 ジェットエンジンから事実上、撤退したBMWだが、以後は培った高温タービン技術を生かしてガソリンエンジン用の排気タービン型過給機ターボチャージャーを開発の主眼に置くらしい。

 そして、傾注しているのが主力商材のBMW801空冷星形14気筒エンジンへの排気タービンの装着だ。

 史実では高い高高度性能を発揮したが、コスト高で採用が見送られた経緯がある。

 

(だが、今生のドイツなら問題なく可能だろう)


 占領地政策が史実と全く違い(自国領土に取り込んだ地域以外は親独国家への早期再独立)、アフリカやギリシャ、ユーゴスラビアなど「イタリアやバルカン半島がらみの金のかかる戦争」からいち早く足抜けし、山場であるバルチック艦隊の撃滅とレニングラード陥落を泥沼化する前に火力を集中投入してつつがなく成し遂げた。

 おまけに我が祖国と英国の日英同盟とは事実上の無期限停戦状態で、リビアやイタリア領東アフリカを見る限り双方の戦争に干渉する気はないようだ。

 

(ドイツはソ連との戦争に全力投入したく、当面は日英との再戦予定はない。というより、スケジュールに入れてないなこりゃ)


 考えてみれば、お互いの生存圏があんまり重ならないから、少なくとも領土権/領海権を巡って積極的に戦争する理由ないんだよな。

 ドイツが欲する”レーヴェンスラウム”、西ユーラシア大陸に日英は領土的興味はなく、英国が権益を持つ(そして、日本が持ってしまいそうな)アフリカから中東、中近東、アジアにかけてはドイツは興味がない。

 

 つまり、結果として領土的理由でドイツと必然的な戦争になるのはソ連だけってことになる。

 

(実は、アメリカも領土的な理由で戦争はできないんだよなぁ~)


 そんな訳で、ドイツは無駄に戦線を広げず、イタリアを半ば切り捨てた(=日英の生贄に差し出した)おかげで史実と比べるのがバカバカしいほど余力がある。


(それに、どうも戦前からカレリアやポーランド、ウクライナにも仕込んでたみたいだし)


 加えて、第一次世界大戦以後もどこかに相当規模の資産隠しをしてた形跡がある。

 じゃないと、35年の再軍備宣言以降の膨大な軍事費の説明が難しい。

 

 

 

 一応、出所の一部ではあるが予想はつく。

 転生者がいることが前提だが……ダミーやらペーパーカンパニーやらトンネルやらの手段で米国株を中心に各国で第一次世界大戦中から戦後に戦勝国企業の株や国債などを中心に投資し、世界恐慌直前に動産/不動産を段階的に売り抜け、また銀行資産を回収し、例えば、有事に強い金などに替えておく。

 そして、世界恐慌で暴落した動産、不動産を買い込み、30年代前半の景気回復期に同じく段階的に換金する。

 例えば、米国は議会承認があれば「敵対国が持つ米ドルや米国債を紙くずにできる権限がある」としているが、手元になければどうということもないし、米ドルに関しては「ドイツ勢力圏以外で使うなら」問題は無い。

 それにこの手はあまり使えないんだ。

 

 「敵対したら米ドルや米国債が紙くずになる」前例を作れば、その資産的価値より保有リスクが高まり、買い手が以後つかなくなる。

 安全資産かと思ったら、敵対したら即座にハイリスクなど、怖くてなかなか手が出せなくなること請け合いだ。

 そうなれば、困るのは米国自身である。

 

(そういえば、今生だとTa152HってFw190Dとは無関係に開発されそうだな)


 史実なら空冷型のFw190の高度性能不足(史実のBMW801は高度7,000m以上だと性能が急速に低下した)を補う為に高度性能に優れるJumo213を搭載する”長っ鼻ドーラ”ことFw190Dが生み出されるのだが……

 

 今生では先に書いた通り、ドイツは資金力に余裕があるためBMWに排気タービン型過給機ターボチャージャーの開発を急がせてる。

 もし、まとまった数が前線に現れれば、

 

(まさに、使い勝手も役回りも”ドイツ版P-47”だろう)


 そうなれば、高高度性能は改善される見通しが大きい。

 だが、空冷型Fw190が高高度に最適化された機体かと言えば、そういう訳でもない。

 高高度には高高度に適したエンジンと”形”とがある。

 おそらく高高度ではG.55は空冷Fw190に勝り、Ta152HはG.55に勝るはずだ。


(まあ、今はそれは良い)

 

 どちらかと言えば、それはドイツの空軍省や軍需省の考えることだ。

 今は……

 

「ユンカース社もなんか色々ワイワイ、メッサーシュミットの連中と上手くやってるみたいだし」


 なんか、中空クランクのJumo213の特性を生かして、Mk103/30㎜機関砲をモーターカノンとして搭載するって話だ。

 主翼にもMG151を2門積む予定らしいし、かなりの重武装/重装甲機になりそうだな。後部座席の旋回機銃はMG131Z(ツヴァイリンク=連装型)を搭載するみたいだし。

 

「各部門とも予定通りか、あるいは予定以上の進捗だな? 重畳だ。これはボーナス弾んでやらんと」


 それが正しき資本主義というものだ。

 年末まで、あと1ヶ月ほど。少し査定を見直すか?

 

「それはそれは。来年も生産には期待できそうですな?」


 とシュペーア君。

 

「ああ。そうしないとな」


 日本皇国にとり、戦争の正念場はいつなのかは正直、わからない。

 俺が知ってる第二次世界大戦……太平洋戦争と何もかもが違い過ぎる。ならば、勝利条件も敗北条件も全く違うだろう。

 そもそも、そんな物があるのかも不明だ。


(だが、ドイツは……)


 1942年、独ソ戦は間違いなく激化する。

 

 まあ、その前に……

 

「もう冬も目の前だっていうのに、元気だよなぁ……”マンネルハイム”元帥」


 それも、ちょい北上すれば北極圏って場所の割とガチの厳冬だぞ?


 あの人、日露戦争にロシア側で参戦したって人なんだが……

 日露戦争ってとりあえず俺も生まれちゃいるが、物心ついたかどうか怪しい時期だ。

 俺が本物史実の来栖外交官より少し若いから、30歳は上だっつーのに極寒の中でも平気で前線視察で飛び回るし。

 

「何分、元気なご老体ですから」


 もう齢70を超えてるってのにホント、凄いバイタリティーの爺様だよなぁ。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る