第130話 グデーリアン機甲総監と戦車談義という贅沢なシチュエーション




「ふむ。何やら面白い戦車を作ると聞いてな。つい見に来てしまったのだよ」


 と開口一番、ドイツ国防陸軍機甲総監ハーラルト・グデーリアン上級・・大将。

 

(なんつーか、ガキ大将がそのまま大人になったような人だなぁ)


 それが俺のグデーリアンに対する第一印象だった。

 

「実はフォン・クルス総督、実は貴殿には前々から会ってみたいと思っていたのだよ」


 というか軍上層部も”総督”呼び定着かい。


「私とですか?」


 またなんで?

 

「マンシュタインの奴が、お前さんのことを滅茶苦茶褒めてたんだよ。”独創的ユニークな脳味噌の持ち主”だってな」


 あー、そういやマンシュタインに会った時、「グデーリアンと引き合わせたい」とか言ってたような……?


「……それ、本当に褒め言葉なんですか?」


 誉め言葉としちゃあ、微妙じゃね?

 

「最大限の誉め言葉さ。アイツは士官学校の頃から秀才……いや、天才でな。喋ってると相手の思考が大体読めちまうんだそうだ」


 そしてビシッと俺を指差し、

 

「だがな、総督……お前さんのことは読み切れなかったそうだ。なんでも予言じみた精度で”バルバロッサ作戦”の全貌を言い当てたんだって?」


 いや、そんな大したもんじゃないっす。

 いや、アインザッツ君、そんなキラキラした目で見ないでくれ。

 本気で大したことじゃないから。

 

「事前情報の獲得と最新の国際情勢、国際的な政治的力学を事前に持っていれば、誰でもできることですよ」


「噓だな」


 だ、断言されてしまった。

 

「当時、総督が得られた情報は把握している。それで、マンシュタインが語ってたような内容に辿り着けるなら……正直、異能・・だぞ?」


 異能者なんてとんでもねぇ。あたしゃ(おそらくこの世界なら)どこにでもいる、ただの転生者でがんすっと。

 

「真面目にその評価は過分すぎますよ」


 だが、グデーリアンは応接セット(今回はゲストルーム使ってる)の机に、見覚えのあるタイトルの書類束を置いた。


 

「仮称”KSP-34/42”……この戦車のメインコンセプト、ほぼ一人で完成させたの、総督なんだって?」

 

「基本的なアイデアを出しただけですよ」


 もしかして、俺、疑われている?

 

「それでも、だ。総督の経歴の中に戦車に係るような場面は無かったと思うが?」

 

「趣味……と言ったら信じてもらえますかね? 私は、いや俺は日本人でね。アカは無条件で敵だ。なら、なら共産主義者の兵器を研究し、どうすればそれを駆逐できるのか、自然と考えるんですよ」


 すると……

 

「ハァッーハッハッハッ! そうか! 趣味か! なるほど、ならば納得しよう。俺も戦車が好きだ! 趣味でもある!」


 あれ、この反応ってもしかして……

 

「気が合うな? 総督」


 これ、もしかして同好の士を見つけた喜びってやつか?




***




「KSP-34/42、ソ連のT-34が叩き台とはいえ、よく練られた良い戦車になると思うぞ?」


「そりゃ、ありがとうございます」


 なんかこのぐらい適当な返しで良いような気がしてきた。

 

「まず先に言いたいのは、新戦車開発・生産の全権は総督にくれてやる。こいつは陸軍大臣からの正式なお墨付きだ。そして、必要な資材なり部品になり人員なりがいたら、陸軍省の俺当てに送れ。手紙でも電話でも電信でも構わん。最優先で用意してやろう」


 やっぱ、気楽な態度の方がお望みのようだな。なんか機嫌がさらによくなってるし。

 

「ありがたい話ですが……見返りは?」

 

「お前さんが”これだ”って試作車両ができたら、その時点で陸軍省にも1台、いや2~3台送れ。量産や実戦を前提としたテストしてやる。なんなら、機甲部門が抱えてる全ての戦車との性能比較もしてやろう」


 あー、そういう。

 

(これってもしかしなくても、自分が乗りたいだけなんじゃ……)


 でも、テストを代行してくれるってのは実際にありがたい申し出だ。

 

「良いでしょう。その話、乗った」


「話が早くて助かるぜ。細かいところは俺の部下と、シュタウフェンベルク達に調整させりゃあいいさ」


 雑やな~。いや、これもグデーリアンの持ち味か。

 

「では、そういうことで」


 とガッチリ握手。

 なるほど、厚いグリップだ。少なくても、人を騙して喜ぶようなタイプじゃなさそうだな。

 

「ところで総督、あれだけの戦車のコンセプトデザインやったんだ。次が無いってわけじゃないんだろ?」


「そりゃまあ、無いと言えば嘘になりますね」

 

 とはいえ、まだ固まり切れてはないんだよな~。

 

「重量はKSP-34より10t重い45t前後、シャーシはKVをベーシックにして必要ならストレッチする溶接車体に鋳造砲塔の組み合わせ。エンジンは横置き、それを収められる全幅のある車体、サスペンションはKV系列の発展型で、大型転輪とトーションバーの組み合わせ。主砲は……イタリア人の”Da90/53”の高射砲開発チーム、来てましたよね?」


「ああ。たしかまだベルリンに居るはずだ。聞き覚えがある。サンクトペテルブルグに行けるよう手配しよう。その代わり、高射砲の改良と対戦車砲の開発も同時に頼む」


 ふむ、となると……


「心得ましたよ。高射砲はヒンメルベッド、レーダー制御野戦高射システムにFlak同様に連動できるように、戦車砲は高機動牽引可能な機動砲にするって路線では?」


「悪くないな。それでいこう」


「なら、そのチームを呼び寄せ、高射砲を戦車砲に設計変更でもしてみますか。イタリアの90㎜高射砲はあれで結構素性の良い大砲なんでね」


 実は88㎜FlaK36や37(史実のVI号戦車ティーガーの主砲の原型)よりわずかだけど初速が早くて、実はイタリア製の徹甲榴弾を用いても少しだけ貫通力に勝るんだ。更には同じ弾種を用いた後年に出てくる同じく高射砲転用の米国製90㎜戦車砲M3(M26パーシングの主砲)と同等かそれ以上にだ。

 

(これに比べるとソ連の85㎜は、1ランク落ちるんだよな)


 例えば、500m先の垂直装甲板を想定すると、同じ弾種なら3㎝以上貫通力に差が出る。

 たかが3㎝、されど3㎝。真面目に史実のイタリア人が終戦までに実用化できなかったHVAP弾(APCR弾)なんかの高速徹甲弾を開発すれば、差はさらに広がると思う。

 いや、それ以前にまともな性能のAPCBC(仮帽付被帽付徹甲弾)タイプの通常徹甲弾や鉄鋼榴弾の開発が先だろうな

 まあ、それを言うなら85㎜砲弾の方が先か。

 ただ、85㎜の方は試作はもうできてるし、実験と実射でプルーフして欠陥を洗い出し、それを修正して量産体制の確立だな。

 APDS(装弾筒付徹甲弾)も作りたいが、あれはサボットの分離タイミングが難しいんだ。実用化するには相応に時間がかかる。

 無論、開発は続けるが……すぐにどうこうできる代物じゃない。

 

 

 

「何というか良さげだな? 45t級ということは、V号戦車と同格か……」

 

「結果的に重量はどっこいになりそうですがね。V号をサラブレッドに例えると、脳内戦車(?)は荒っぽい使用にも耐えられる、操縦や整備がやりやすいワークホース的にしたい。多分、登場時期はV号の後継が出てくる頃だろうし」


 イメージ的には、”M26パーシング”戦車に近い感じかな?

 IS系列は、ちょっとバランスがなぁ~。

 

 操向・変速機はV号の奴(史実のVI号戦車の物)を流用してもいけるだろうし、V号からの乗り換え組がいるなら操縦系は同じに越したことはない。

 ただ、新規開発するなら使い方が簡単な奴がいい。

 

(やっぱり、高出力対応トルクコンバーターを開発してみるかねぇ。ついでにオルタネーターとかも)


 トルクコンバーターは流体継手の技術があれば作れるし、実際、ドイツでは軍用ではないが民生用で開発されていたはずだ。60年代に開発されたオルタネーターも実はダイナモより構造が簡単なんだよな。

 もし、これが作れるなら、M46/48”パットン”系のミッション……というか、パワーパックを作りたいもんだ。

 あれは変速段数は二段と少ないけど、その分、M26の三段の奴より耐久性・信頼性が高い。

 確か仕様は、4要素一段・多相型トルク・コンヴァーター付きの遊星歯車式パワーシフト型で、前進2段/後進1段。操向は三重差動の固定半径・再生式操向装置が装備で、操作方向はニュートラルの位置で超信地旋回、前進および後進位置で緩旋回ができたはずだ。


「そういえば、凍結されていたVI号戦車の開発、一旦開発を白紙に戻して再開するぞ? V号の生産の目途がついたのと、主砲のアテがついたんでな」


「試作中の新アハトアハト、88㎜71口径長砲ですか?」


「耳が早いな?」


 まあ、他にないだろうしな。流石に128㎜55口径長は重すぎる。

 重すぎると言えば、史実のティーガーⅡだ。

 

(70tオーバーはちょっと……)


「機動力や耐久性、故障率を考えるなら55t級、可能な限り60t以下に抑えた方が良いですよ? 火力や防御力が高くても重くて動けない戦車は移動トーチカくらいしか使い道がない」


 つまり、戦車としての運用は難しい。

 

「そいつに関しては俺も同意見だな。総督、悪いがお前さんも協力してくれないか?」


「全面協力っていうのは無理ですよ? これでも忙しい身で」


「ああ。必要な時にアイデアを出してくれりゃあそれでいい」


 ふ~ん。では早速、


「なら、とりあえずエンジンとミッションはアイデアがありますかね? エンジンと冷却系、トランスミッションを組み合わせたパワーパックなんてどうです?」


 確か、史実の未完の”E計画”の戦車ではパワーパックの概念が盛り込まれているし、M26パーシングでは実用型が搭載されている。

 

「良いな……小切手はコッチに回せ。パテントはそっちで管理しろ。くれぐれも米ソに感づかれるなよ? 目標は60t/800馬力級だ」


「りょーかい」


 おおっ、なんか開発できることになったみたいだな? 言ってみるもんだな。

 

「おい、ロンメル。置物じゃないんだから少しは喋れよ」


 とグデーリアン。いや、実は最初からずっとグデーリアンの横に座ってたんだけどね。ロンメル大将。

 ただ一言も喋らねーでやんの。

 というか……

 

(なんか、値踏みっていうか品定めされてる感じかな?)













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