第126話 ”ヒトラーユーゲント” ~助っ人は可愛い少女……と見間違うような少年達?~
時節は、日本皇国軍がリビアでベンガジを陥落させたところまで進む。
(航空機の開発や製造は、イタリア系戦闘機3機種に、スツーカの後継の合計4種か……)
エンジンやらなにやらのコンポーネンツ開発からなら無茶ぶりもよいとこだが、まあパーツ持ち込みなら何とかなるかもしれない。
しかも、設計自体はできてるというなら尚更だ。
一番、問題となりそうなエンジンも”メッサーシュミット・スキャンダル”の煽りでダブついた受注分、特にDB605(無論、通常クランクの本国仕様)を回してもらえることになった。
このあたりの抜け目の無さが流石、シュペーア君。
DB603は爆撃機や双発夜間戦闘機などで引く手あまたなので、当面は回ってこないだろう。
(ユンカースのスタッフから、Jumo213を持ち込むと通達はあったが……)
飛行機はとりあえずこれで良いとして、
「う~む」
俺は回収され、使用可能状態、もしくは軽度な修理で使えそうな製造機材のリストを見ながら、
「これ、なんか戦車の新規製造ができそうだな?」
数の多いT-34用になるべく絞ってはいるが……実は保守用戦車部品の製造再開は、できる部分から既に始めてはいるんだ。
というのも、やはりウクライナ解放軍とか、ソ連式装備を使うフィンランド軍、そしていわゆる”継続戦争”が始まるまで潜伏していた”カレリア解放戦線”からの発注が多いから。
ソ連戦車はやはり粗雑乱造で、故障しやすい。
その為、部品の需要は常にあり、需要があるなら供給せねばならない。
ああ、基本カレリア解放戦線ってのは、元々”冬戦争”でカレリアが取られるまであの地域に住んでいた本来のカレリア人、フィン人に白系ロシア人が合流した集団で、どんな手品を使ったか知らないが、”バルバロッサ作戦”までカレリア各地に息をひそめ潜伏していて、発動と同時に隠していた(主にドイツ製の)武器を手に一斉蜂起し、ソ連の装備を奪いながらフィンランド軍やドイツ軍と合流し、大暴れしている。
おそらくだが、ウクライナと同じくNSRあたりが何か仕込んでいたのだろう。
お陰様で戦車だけでなく製造再開したそばから”ZiS-3/76.2mm”野砲(この世界線ではF22野砲の攻撃はUSVではなくZiS-3)も”52-K/85mm”高射砲も”M-60/107mm”カノン砲も”M-30/122mm”榴弾砲も”ML-20/152mm”重榴弾砲も砲弾や保守部品ごと搬出されてる感じだ。
ああ、あと少し前に話したPPSh1941短機関銃の改良型、なんかアイデア出した1週間後にマガジンもこみで試作品が出来てた。
いや、設計変更点は最小限で済むように指示は出したけど……シュペーア君、マジ優秀。仕事はえーわ。
そんでソ連製の武器の扱いに慣れた”リガ・ミリティア”の皆さんに一通りテストしてもらったら、好反応だったんでシュペーア君とシュタウフェンベルク君に頼んで、軍需相と軍部に量産してフィンランド軍に供与して良いか問い合わせたら、
「了承。すぐに作り始めてくれ。出来たら即座にフィンランド軍に流してほしい。できればドイツ軍にも回してくれ」
と3時間後に、何故かハイドリヒとトート博士連名で電信が返ってきた。なんでよ?
まあ、上がどうなってるのか知らんが、作れと言われれば作るのが、哀しいかな日本人の
作ってはやるから、精々アカ共をハチの巣にしてくれ。
ああ、そうそう。ドイツの北方軍集団とフィンランド軍は、そして合流したカレリア解放戦線の紳士諸兄は、ペトロスコイ(ペトロザボーツクのフィンランド名)を陥落し前線基地化してから、セガジャを陥落させ、現在は空軍基地のあるケミを攻略中。
どうやら、このままコラ半島まで北上する様だ。
何やら鉄道も整備してるようだし、本気でコラ半島……”ムルマンスク”を分捕りにかかるらしい。
(これは時間との勝負だろうな……)
どうも外交ルートの情報によれば、12月中に最初の”レンドリース物資を載せた輸送船団”がアメリカ、大西洋方面から出航するらしい。
あの自己顕示欲の強い
12/25にムルマンスクに着くように出航するか、12/25にムルマンスクに向けて出航させるかだろう。
現在のところ、後者になるようだ。
理由は簡単。
人為的な原因でなく天候などにより船便が遅れることはよくある。
それに物資は、大西洋側だけでなく太平洋側からも行うだろうし、12/25に全てのレンドリース船団が申し合わせたように目的地に着くのは不可能に近い。
レンドリースを政治パフォーマンスに使うなら、25日の朝にアメリカ人が見送る中、汽笛を鳴らして楽団に見送られながら華々しく出航した方が演出効果が高いだろう。
それにアメリカ人はムルマンスクに関しては、「万が一ムルマンスクが陥落していても、アルハンゲリスクを目指せばよい」と彼ららしい柔軟かつ、楽観的思考で考えているのかもしれない。
だが、
(船団が無事にたどり着ける確証は何処にもない……)
アメリカ人は自分達は撃たれない、無事にたどり着けると信じているようだが……
(そう上手くいくかな?)
何も船を沈める手段は潜水艦や魚雷だけじゃないんだぜ?
「戦車を製造するのですか?」
「まあ、できそうだなと思っただけだよ。シュペーア君」
具体的な事は考えてないし。
すると、
「
と入室してくるのは、ノックする礼儀はあるが、返事を待つ礼儀は無かったシェレンベルクだ。まあ、今更か。
「助っ人?」
「ええ。最近、業務も増えて来たし、雑用係でも人手があった方が良いでしょう? 入れ」
と入ってきたのは、半ズボンの似合う見目麗しい年端も行かぬ少年達……ぶっちゃけショタ枠だ。
「もしかしなくても、”ヒトラーユーゲント”?」
別名”ドイツ勤労青少年団”。
要は軍事色強めのドイツ版ボーイスカウト亜種だ。言っておくがボーイスカウトの始まりって、英国のパウエル男爵中将が南アフリカにおける従軍経験に着想を得て記した「少年向けの偵察・斥候術(=Scouting for Boys)」から端を発しているんだぜ?
元をただせば軍事教練、英語のScoutはまんま”斥候(偵察要員)”って意味だ。
建前的には、「軍隊式野外訓練を参考にした野外学習で心身を鍛える」ってことだが……パウエルがボーイスカウトの着想に至った体験の一つに、第二次ボーア戦争の南アフリカ・マフェキングで起きた戦いで、”マフェキング見習い兵士団”という組織化された少年兵が、伝令などの任務・軍務を行っていたのを見た。
この時にベーデン=パウエルはよく訓練された少年たちの有用性について認識したらしい。ちなみにこの少年兵部隊の紀章が”コンパスと槍を象った記章”であり、後にスカウト運動の国際的シンボルとなるフルール・ド・リスのモチーフとされている。
とはいえ、現実的な事を言えば、ユーゲントたちの勤め先は軍務などではなく、今となっては「兵役などで大人が引き抜かれ、不足気味になった労働力の穴埋め」として使われているという世知辛い部分があるが。
実際、ユーゲントが最も多く派遣されてる分野は、消防・郵便・ラジオとかだ。
「おや? 驚きはしないようで」
いや、普通にサンクトペテルブルグにもラジオとかで来てるし。
「職場体験とか?」
危険の少ない職場だから別に良いけど。
「いえいえ。雑務担当ですが、ちゃんと正規雇用ですよ? せめて仕事中くらいは、お忙しい総督閣下のお手伝いをさせようかと」
そりゃ何かと忙しいし助かるけどさ。
「ご安心下さい。事務一般からなんなら護衛まで、一通りの訓練は詰ませているので。ほれ、お前ら自己紹介しろ」
「”アインザッツ”と申します」
「”ツヴェルク”です」
「”ドラッヘン”です~」
と国防式の敬礼を綺麗に決める、小綺麗な三人の少年。
うわっ、全員、声変わりしてねーじゃん。
とはいえ、結構個性的だ。
アインザッツは一番の長身(でもちっちゃい)”しゃん”とした綺麗系を前面に押し出す感じ。
ツヴェルクは、ドイツ語で”小人”を表す言葉にふさわしく一番ちっこくて、女の子と見間違うような可愛い系。
ドラッヘンは、たれ目がそうさせるのか整っているけど、温厚そうなおっとり系美少年だ。
それにしても、
(アイン、ツヴァイ、ドライね……)
完全に偽名だな。こりゃ。
「シェレンベルク君、ユーゲントの中でもNSR(国家保安情報部)が特別な訓練を施した”紐付き”って認識で良い?」
「そりゃあ、私が連れて来たんですし」
こいつ、悪びれもしないし、隠す気もないな。
まあ、人手が欲しかったのは事実だし、良しとしておこう。
NSR管轄なら、無能では無いだろうしな。
「途中から聞こえたんですが……サンクトペテルブルグで戦車を製造するので?」
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