第114話 嗚呼、皇国海軍陸戦隊 ~エル・アゲイラ陥落の真相~




 さて、海軍でありながら陸戦のスペシャリスト、文字通りの水陸両用部隊である皇国海軍陸戦隊は中々にユニークな軍事組織だ。

 

 まずは装備面だ。

 ある意味において、あきつ丸型強襲揚陸艦や神州丸型揚陸艦の主力艦載兵器とも言える兵や戦闘車両を揚陸させる大発(史実の特大発準拠。積載量25t)と小発(史実の大発D型準拠。積載量12t)は、この時代の揚陸艇にしては近代的な性能で使い勝手も良い。 

 

 

 

 しかし、何と言ってもユニークなのは水陸両用戦闘車両、”特式内火艇”シリーズだろう。

 まず史実と大きく違うのは、特○式内火艇の○に入る数字は、一式中戦車と同じく年式ではなく型番を入れる命名基準だ。

 つまり、特2式内火艇は、”タイプ2水陸両用戦闘車両”という意味になる。

 なぜこうなったかと言えば、特式内火艇は”水陸両用戦闘車両”という新しいカテゴリーの兵器の為にいくつものタイプが並行設計・制作されたからだ。

 

 特1式内火艇は全ての水陸両用車両の雛形になった原型で、故に様々な装備実験の為に少数が生産され、その後は訓練車両として追加生産されたようだ。

 何気に色々な種類の装備を簡単にできるようにモジュラー構造を持っており、実はかなり先進的な設計だった。

 しかし、実験や訓練ならまだしも、実戦となるとどうしてもこの時代の技術で製造されたものだけに専用設計型に劣ってしまい、また実戦を想定すると強度不足気味だったようだ。

 

 ・特2式内火艇:九八式装甲軽戦闘車のコンポーネントを利用した対装甲戦が可能なモデル。戦闘用の水陸両用車両としてはベーシックな車両で、”九八式改装甲軽戦闘車(41年式九八式装甲軽戦闘車)”と同じく一〇〇式37㎜戦車砲の改良型である”一式37㎜戦車砲”を搭載し、部品の見直や吸排気系の見直しなどで耐久性や信頼性を上げながら10馬力のパワーアップを果たした日野DB52Aエンジンを主機としている。

 

 ・特3式内火艇:九七式軽戦車のコンポーネントを用いた水陸両用車としては最強の存在。武装・エンジン共に九七式と同じ。正直、この時代のイタリアの中戦車となら正面から撃ち合いができる、揚陸部隊の盾にも槍にもなれる戦闘車両だ。

 

 ・特4式内火艇:兵員輸送車型水陸両用車。というか……どう考えても戦後のAAV7(LVTP7)水陸両用車を知ってる転生者が設計に携わったとしか思えない車両。エンジンを九七式と同じ280馬力の物としたために、機動力や防御力が史実より上がっている。武装はヴィッカース50口径機関銃×2。

 

 この水陸両用車集団の任務は、上陸の橋頭保を築く発動艇の更に前方。

 陸に乗り上げたら即戦闘どころか、下手すると海上にいる段階で砲撃を始めなければならない。

 

 まさに揚陸作戦の先鋒で、発動艇の上陸地点の火力を用いた掃除で敵の攻撃を黙らせ、同時に特4式に乗せていた歩兵で上陸地点を確保するのがその役目だ。

 

 そのような正面から上陸を阻止しようとする敵と対峙する任務には向かないが、他にも”スキ車”と呼ばれる水陸両用装甲トラックも生産されている。

 これ以外にも、大発に搭載され揚陸される九七式ベースの陸戦隊スペシャルの車両がある。

 以前、下総兵四郎が以前言っていた一式中戦車と同じ75㎜45口径長砲を、砲塔を廃して設けた傾斜前面装甲を持つ戦闘室に固定砲として搭載した”海兵九七式75㎜突撃砲”がそれであり、他にも英国のQF25ポンド砲(ライセンス生産品)を巨大な旋回砲塔に搭載し九七式の車体と組み合わせた日本製ビショップ自走砲のような火力支援車”海兵九七式88㎜自走砲”なども目新しいだろう。

 年式の前に”海兵”と付くのは、海軍陸戦隊仕様の意味で、英語表記だと”海兵隊仕様(マリーン・スペシャル)”となる。

 

 これにはちゃんとした意味がある。

 例えば、現在鋭意開発中の仮称”海兵九七式改戦車(軽はつかない)”は英国式の6ポンド砲(57㎜50口径長砲)を新型砲塔と共に搭載予定で、海兵九七式自走砲は同じく英国式の25ポンド砲(87.6㎜31口径長榴弾砲)を搭載し英国のビショップ自走砲に車体から上はよく似ている。

 加えて、海軍陸戦隊の標準小銃は梨園改三式歩兵銃だが、これは陸軍がチ29式半自動歩兵銃を1930年より大量配備された為に(狙撃銃のベース分を抜いた)余剰分が回されたという経緯がある。(同時にMk7タイプの7.7㎜実包のストックも陸戦隊に回された)

 ちょうどこの時期、陸戦隊は拡張時期に入っていたため、陸海どっちにとっても都合の良いWin-Winの取引となったようだ。

 実際、可動部分も部品数も多い自動小銃より、海水がお友達の海軍陸戦隊としては信頼性の高さが戦場で保障された確実な動作のボルトアクションの手動連発式小銃の方が都合が良かった。

 実際、陸会共同での各種水陸両用車両や発動艇の開発は、この時期を境に大いに盛り上がるのだ。

 

 これだけなら、「海軍陸戦隊は陸軍のおさがりの小銃を貰った」という話だが、それだけで話は終わらない。

 何しろ、同じ7.7㎜弾を使う軽機関銃として英国の”ブレン機関銃”をライセンス生産して海軍陸戦隊配備しているのだ。

 

 もうお察しいただけたと思うが、海軍陸戦隊は英国系の装備比率が陸軍よりずっと高いのだ。

 無論、海軍は英国を師匠としている……という話とは全くの無関係という訳ではないが、本来の目的は英国との共同作戦を想定している事に他ならない。

 実際、完全編成師団規模の英国王立海兵隊に比べるなら、海軍陸戦隊はまだ規模も2個増強連隊級と小さく歴史も浅い。

 ならば単独作戦より共同作戦になると考えるのは妥当だろう。

 


 

 なので、逆に今回のように日本皇国海軍陸戦隊だけで強襲揚陸作戦を行うのは本来は規定外だったのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「噓だろ、ヲイ……」


 初めまして、だよな?

 俺の名は”舩坂ふなさか 弘之ひろゆき”だ。

 海軍陸戦隊の少尉で、小隊長なんぞをやってる。

 ああ、”誰か”に名前は似ている気はするが、気にするな。

 確かに出身は栃木県だが、あっちは陸軍で最終階級は軍曹だ。

 だから別人、いいな?

 

 いや、そんなことはどうでもいい。

 

「出迎えもなしとは……イタ公は戦争の礼儀も知らんのか?」


 とっくにうちの戦艦隊は見えてるはずだし、なんだったら空母航空隊の空爆や艦砲射撃も始まっている。

 当然、ターゲットは敵集積地”エル・アゲイラ”だ。

 

 エル・アゲイラはイタリア北アフリカ軍の本拠地トリポリと、主力港ベンガジを結ぶ中継地点。

 そして、ベンガジの後方にある重要補給拠点でもある。

 

 こりゃ激戦が期待できると期待してたんだが……

 

 なのに特4式内火艇から降りてみれば、上陸に格好の砂浜には敵影なし。

 それどころか、海岸線に見える範囲に敵兵なし。

 浜辺に隠蔽された機関銃陣地も無ければ、地雷原も有刺鉄線もない。

 ”ここから上陸してください”なんて立て看板が無いのが不思議なぐらいだ。

 

「小隊長殿、どうやらこりゃあ強襲揚陸ではなく”奇襲揚陸・・・・”になったみたいですよ?」


 と俺の年齢と同じぐらい間、軍隊で飯を食ってそうな小隊付き先任軍曹に、

 

「マジかぁ~」


 いくら何でも油断し過ぎだろうイタリアン……

 まさか、こっちが上陸してくるとか思ってなかったのか?

 

「いかがなさいますか?」


 そりゃお前、

 

「エル・アゲイラに行くしかあるまい? 集積地、目と鼻の先だし」


 それが目的なんだしなぁ。

 陸戦隊仕様の九九式改直掩・・艦爆は、原型と同じ250kgのペイロードは変わらないが、機首の7.7㎜機銃2丁がホ103/12.7㎜機銃に変更。防弾性能が少し強化されると同時に二式襲撃機”屠龍”と同じく陸戦隊直掩用に航空爆弾だけでなくRP-3空対地ロケット弾運用能力を付与されていた。だが、それが今回は使われることは無かった。

 むしろ、左右主翼下にロケット弾を吊るした九九式改は、同行している航空前線統制官の指示で先にある伊軍集積地の爆撃にターゲットを切り替えたようだ

 特式内火艇だけじゃなく、大発がもう海兵九七式とか降ろしてるし。

 まさか高みの見物って訳にはいかんじゃろ?

 

「それじゃあまあ小隊長殿、我らもピクニックと洒落こみましょうか」


 そう豪快に笑う軍曹だが、

 

(まさか本気でピクニックになりゃしないだろうな……)


 果たして俺の愛銃、小銃代わりに使ってるブレン機関銃ガンを使う機会が無いってのは、正直勘弁だぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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