第111話 屠龍とRP-3。時折、空は快晴なれどタチの悪い爆弾の雨が降るでしょう




「ほう。良い動きをするじゃないか……」


 日本皇国空軍を代表するエースの一角、篠原博道はスロットルを開け、

 

「最新鋭機に腕利きエース! 相手にとって不足無し! いざ尋常に勝負せよっ!!」


 ノリノリであった。

 制空戦は、どうやら皇国空軍がとったようだ。

 史実でMC.202ファルゴーレが最初に配備されたのは、北アフリカのエース部隊だったらしいが、どうやらこの世界線も同じような第一次世界大戦のイタリアン・エースの名前を継承した部隊だったらしい。

 

 

 

 篠原率いる飛燕隊も、流石にまったくの無傷という訳にはいかなかったようだが、何とか押し切りベンガジ周辺の制空権を確保。

 イタリア空軍の戦闘機も飛燕隊の迎撃を潜り抜け”吞龍”に接近しようとする猛者もいたが、それを待ち構えていたのが”隼”隊だ。

 速度に勝る飛燕に一番槍を任せ、爆撃機隊に張り付いていた隼は、待ってましたとばかりに飛燕との戦闘で消耗したファルゴーレに襲い掛かり、見事に残機を掃討してみせたのだった。

 速度の優位を生かせぬ、乱戦じみた巴戦において隼に勝てる機体はそうは無いだろう。

 

 

 

 次に待ち構えていたのは高射砲の出迎えのはずだっただったが……

 

「地上からの対空電探の反応なし。事前調査通り、敵高射砲はドイツ人のような電探連動ではありません」


 レーダー士官の報告に滋野清春はニヤリと笑い、

 

「イタリア高射砲部隊の諸君、そんなに上ばかり見てていいのかな?」




***




「敵機、急速に接近!」


「そんなもの見ればわかるっ!!」


 今のところ数門しかまだベンガジに配備されていない最新鋭高射砲”Da 90/53(90㎜53口径長)”を任されたボルッチオ大尉は双眼鏡で近づく日本人の爆撃機隊を睨みながら「まだ遠いか……」などと呟いていたが、

 

「大尉殿! 違います! 超低空から敵機急速接近ですっ!!」


「なにっ!?」


 だが、部下の指さす方向を見たその表情は更なる驚愕に染まった!

 

 低空を信じられないような高速でカッ飛んでくる双発機……その名を「試製(先行量産型)二式襲撃機”屠龍”」という。

 先の補給で到着した、完成したてホヤホヤの皇国空軍・・で最も新しい機体であり、エンジンは史実より強力なハ35”栄”を両翼に搭載し、後方の爆撃手兼航法士が操る高度な慣性航法装置・電波誘導装置・電波高度計を備えることにより従来の機体より遥かに安全に低空飛行が可能となっていた。

 機首には強力なホ203/37㎜機関砲と言いたいところだが、生憎と今アフリカの空に現れたのは先行量産型、史実で言う”甲型”準拠で、機首に搭載されているのは生憎と試製20㎜機関砲、後にホ5/二式20㎜機関砲と呼ばれるそれが2門と、対地操車用にホ103/12.7㎜機銃が2丁、またホ103旋回機銃が後部座席に備え付けられていた。

 本来、襲撃機(=対地攻撃機)は、陸上戦力直掩機で陸軍の管轄なのだが、双発複座の大型機は流石に現状のアフリカ部隊では整備や運用に手が余るということで、空軍の管轄となった。この世界線の日本の陸軍は、ちゃんと自分の身の丈という物を理解しているのだ。

 将来的には陸軍が運用予定(そのための訓練やら何やらは始められている)だが、現状とて任務自体は変わらない。

 特に激しくアピールされていたのは、主翼下に吊るされた無数の先が尖った筒状の細長い物体。

 巨大な機械仕掛けの蟇目矢ひきめやにも見えるそれは、盛大な炎と煙を吐きながら、翼より解き放たれる!!

 

 

 

ロケット弾・・・・・だとおっ!?」


 次の瞬間、高射砲陣地は亜音速で飛び込んできた”RP-3空対地ロケット弾”が炸裂したっ!!

 

 


 ”RP-3空対地ロケット弾”は、史実では大戦中に英軍が開発し1942年より大戦後半射かけて使用したが、この世界線では一刻も早く効果的な空対地(暫定的な空対艦)噴進兵器が欲しかった日本皇国軍が資金援助も含めた共同開発を持ち掛け、この度、ついにアフリカに先行量産品が回され実戦テストの段階までこぎ着けたのだ。

 

 実は現在使用されているRP-3、史実の戦中型RP-3より完成度が高い。

 実は試作型はドイツがポーランドに攻め込む頃には完成していたのだが、熟成を重ねて、例えば初期試作型に採用され重量や空気抵抗の悪化を招いた長い発射レールと防噴炎パネルは不要と判断された。

 また射爆照準器にもロケット弾用の調整機能が追加された照準器が並行開発された。

 

 また、RP-3を起点として、空対地型だけでなくもうすぐ実戦使用されるであろう地対地型が開発され(このあたりの経緯はソ連の空対地ロケット弾のRS-82 / RS-132とカチューシャで知られるM-8/M-13地対地ロケット弾の関係に酷似している)、またこれと並行して上陸作戦用に艦艇搭載型対地ロケット弾の開発が行われていた。

 つまり、RP-3ロケット弾とその派生型は、陸海空軍の全てに採用される運びとなる予定だ。

 史実の大日本帝国における噴進兵器の開発は、列強各国に比べ遅れていたので、これは大きなアドヴァンテージと言えよう。

 

 

 

 蛇足になるが、RP-3の原型となった”Z-バッテリー”地対空ロケット弾多連装発射機も日本皇国軍で量産が開始され、活躍の描写が無いだけで既に試験配備されていたりする。

 しかもこの対空ロケット弾、ジャイロ安定装置と光電式ではなくより動作が確実な電磁式・・・近接炸裂信管VTヒューズを内蔵しており、中々に実用性が高く、陸軍では固定式以外に機動式や車載(自走)式、海軍では艦載対空兵器としての開発が行われていた。

 

 RP-3のサイズは史実と同じく直径2インチの25ポンド(11kg)型と直径3インチの47ポンド型(21kg)があり、マルジュに設営された野戦飛行場から飛び立った20機の”屠龍”は、九九式襲撃機の倍の500kgのペイロードを見せつけるように47ポンド型を20発を左右の主翼に懸架していた。

 そして、イタリア人が目立つ上空の爆撃機隊に気を取られている間に、「双発機が高機動低空攻撃ができないと誰が決めた?」と言いたげにNOE(ノップ・オン・ジ・アース)と呼びたくなる墜落ぎりぎりの超低空飛行でイタリア人高射砲陣地に接近し、ほぼ水平発射でロケット弾を叩きこんだのだっ!!

 

 そして、フライパスする際の機銃掃射もきっちりしているあたりも抜け目がない。

 ちなみに弾頭は、通常の高性能炸薬を詰めた通常弾頭や対装甲用の成形炸薬弾頭ではなく、炸裂と同時に無数のベアリング球のような対人散弾をまき散らすタイプだった。

 つまり最初から、高射砲自体を破壊するのではなく、高射砲操作要員の殺傷を狙った殺意の高い攻撃だったのだ。

 









*******************************









 

 防空戦闘機が排除され、主だった高射砲陣地は甚大なダメージを受けた。

 悠々と上空の現れた吞龍隊は、偵察機で何度となく撮った航空写真で確認した重砲陣地へと投弾を開始する。

 

 いわゆる”絨毯爆撃”だ。

 幸いにしてというのも妙だが、イタリア軍の陣地は街中に住民を盾にするように置かれたわけではなかった。

 ただし、これは人道云々ではない。

 古式ゆかしい伝統的市場スークが広がるベンガジの市街に、重砲をまとめて配置できるような場所が無かったのと、日本人の攻撃に呼応したサヌーシー教徒に襲撃されるのを恐れたのだ。

 

 つまり、ベンガジ郊外に築かれた陣地に爆弾の雨が降り注いだのだ。

 ただし、この爆弾、爆弾自体は標準的な25番(250kg航空爆弾)なのだが、信管部分に少々面白い仕掛けがしてあった。

 爆弾は砂地に落ちた場合、衝撃が分散して接触信管が作動せず不発になる場合がままある。

 北アフリカに展開して1年、それを実戦で学んだ日本皇国軍は、接触信管以外に時限信管を組み込んだ爆弾の開発を依頼した。

 凄まじいGで発射される高射砲弾にも時限信管は組み込めるのだから、大した手間はかからなかった。

 むしろ爆弾の信管ユニットを交換するだけの改造キットが制作され、時限信管を組み込んだ爆弾は”砂漠戦特別仕様デザートスペシャル”と呼ばれた。

 地面に着弾した途端、爆発する。砂地に落ちて不発でも、撤去する前に爆発する。

 


「なんだ、我々の使う手榴弾あかいあくまのような爆弾はっ!?」


 そう恐怖したという。

 だが、彼らが日本人の落とした爆弾に感想を言っていられる時間は長くなかった。

 程なく、1発の威力よりも持続的な破壊が恐怖を誘う、日本皇国陸軍自慢の砲兵隊のアンサンブルが、連なる爆発音という戦場音楽を奏で始めたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

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