第103話 The TYPE-97 Family





 視点は再び、1941年の地中海へと戻る。

 ただし、ここは前線要塞のトブルクではなく、英領エジプトの軍港”アレクサンドリア”。

 

 

 

 話をまだレニングラード陥落前の時系列に戻そう。

 

 アフリカ英軍が総力をあげて東部沿岸、より細かく言うと紅海西岸のイタリア領東アフリカを元気いっぱいに攻めてるその頃、アレクサンドリアには、日本皇国海軍の艦隊が、インド洋を超えて押し寄せていた。

 

 目玉となるのは、やはり雲龍型正規空母の3.4番艦、”瑞龍””昇龍”のアフリカへの追加派遣だろう。

 これは39年の開戦と同時に建造が承認され同時建造が開始された同型5.6番艦”海龍”、”水龍”が竣工した事が要因だろう。

 現在、既に慣熟訓練が始まっており、ちゃんとした海軍戦列艦として艦籍名簿に名が記載されるのはもう少し先、おそらく来年だろうが、今回、海軍は”とある作戦”発動の為に急ぐ必要があった。

 

 だが、各国が紅海沿岸、あるいはスエズ運河に潜ませていた諜報員は、その艦隊をこう報告したはずだ。

 

”日本皇国海軍、4隻・・の正規空母をアレクサンドリアに向かえり。2隻は雲竜型正規空母、残る2隻はタイプ不明。隼鷹型軽空母の発展型の可能性あり。”

 

 そう誤認されるのも無理はない。

 一団となって進む艦隊の中には、雲龍型と比べても見劣りしない大きさの全通飛行甲板を持つ船が混じっていたのだ。

 ただし、艦上機の運用はできるように設計されてはいるが、その運用能力は船体の大きさから考えれば小さい。

 それは当然だった。

 一見すると空母に見えるこの姉妹艦の”主兵装”は、航空機ではないのだから。

 

 

 

***




 そして、港に入ったこの”空母とは似て非なる船”を見上げながら、日本皇国遣中東三軍統合司令官”今村 仁”大将は、感慨深げに呟いた。

 

「”あきつ丸”……もう実戦配備されていたのか」















*******************************










「絶景かな絶景かな」


 うっす。下総兵四郎だ。

 俺は今、トブルクを一望できる高台に居るんだが……

 

「こりゃ、上も張り切る訳だ」


 見渡す限り砂漠を埋め尽くすのは、日本皇国陸軍の軍用車両だ。

 

 やっぱり目立つのは、現行の主力戦車である”一式改中戦車”だ。

 なにせ重装甲で迫力がある。

 そして、標準の一式中戦車と、一線級ではないとはいえイタリアの戦闘車両には十分通じることを示した九七式軽戦車。

 他にも斥候には欠かせない斥候対ご用達の機動力特化(敵を見たらとりあえず逃げ出せ)の九八式装甲軽戦闘車、ボフォース系の対空機関砲を主砲代わりに車体に積んだ一式や九七式、九八式をベースにした対空戦車なども揃ってる。

 まあ、この辺りはクレタ島でも見慣れた面々だが……

 

(中々、珍しいというか本格的に集中運用されてるの初めて見たかも……)


 割と見る機会のなかった車両、九七式軽戦車のボディに全周囲射界を持つ砲塔に元は九四式山砲の75㎜28口径長榴弾砲を装備した”九九式砲戦車(史実の二式砲戦車相当)”に、同じく九七式の車体にオープントップのシールド式マウントに105㎜20口径長榴弾砲を搭載した”一式自走砲”と我が国で現在配備されている自走砲が揃い踏みだ。


 実は日本の自走砲開発の起源は、ようやく軍用トラックが出だした大正時代まで遡るが、流石に当時の工業力じゃあ性能的に満足できるものが出来ず、挫折を繰り返し、ようやく九七式軽戦車って使い勝手の良いシャーシが手に入り、実用化されたのはつい最近って感じだ。

 

(そう考えると九七式って発展性とか拡張性とか冗長性は良いよな~)


 オリジナルの重量は空虚で17.8t、正面装甲40㎜の全溶接構造の車体の上に乗っかるのは正面55㎜厚の避弾経始を意識した丸みのある鋳造砲塔に長砲身の47㎜48口径長砲を組み合わせる、史実の”一式中戦車”に近い戦車だ。

 

(砲塔とか、明らかにフランスのAPX砲塔意識してるよなぁ)

 

 前世では九七式は擬人化され”チハたん”なんて萌え戦車扱いされていたが、この世界じゃあ誰もそう思わないんじゃないだろうか?

 

 そもそも、今生での”チハ”、中戦車ハ型は一式中戦車系列だし、あんなT-34/75やM4やIV号と正面から撃ちあえるゴツそうな代物を、未来の絵師もちっちゃなガネっ娘としては描けないだろう。

 そして今生の日本だと20t以下は軽戦車って区分だが、実際は独ソとか一部を除けば普通に今でも中戦車扱いだ。

 実際、これから戦おうとしてるイタリアの中戦車、M13/40やいるかもわからん最新のM14/41でも数tは九七式より軽かったはずだ。


 現在の皇国陸軍では、主力戦車は一式系列だけどファミリー化って意味じゃあ九七式が幅を利かせてる。

 目に見える範囲にはないが、確か九七式ベースの戦車回収車や地雷撤去車もあったはずだ。多分、今回の作戦にも投入されるだろう。


(そういえば、ドイツ軍の影響かなんか知らないが、97式の砲塔を廃して代わりに分厚い傾斜装甲の戦闘室設けて、一式と同じ75㎜45口径長砲ぶちこんだ駆逐戦車だか突撃砲だかを作ったって話があったな)


 確か皇国版の海兵隊、”海軍陸戦隊”に優先配備されてるって話だ。

 きっと海岸陣地やら障害物をまとめて吹き飛ばす障害物除去装置ジャガーノートとかに使うんだろう。

 また、海軍主導で主砲を英国の6ポンド砲(57㎜50口径長砲)に換装した新型砲塔搭載型も製作中なんて噂話もある。

 海式海軍が現用で使ってる大発動艇(大発)は、史実の特大発動艇準拠で九七式は完全装備でも余裕で乗っけられるが、一式は微妙だったはずだ。

 噂じゃあ、次世代戦車乗っけられる特大発動艇を作ってるってことだがそう簡単にできることはないだろうから、大発のペイロード(確か25t以内だったと思った)から考えて、しばらく九七式を使いたいのかもしれない。

 

 


 

(九七式もむしろ、主力戦車じゃないからこそできる選択肢もあるってことか)


 敵戦車を正面から撃破できる一式系はやはり、中戦車に製造リソースが割かれるからな。

 次期主力戦車が出てくれば、一式のシャーシが今度はその役目を背負いそうだが。

 

 ちなみに砲戦車と自走砲の違いっていうのは、全方位が装甲化された全周囲射界を持つターレット式砲塔を持つのが砲戦車で、シールド式砲塔で野砲をそのまま車体に乗っけたような感じなのが自走砲というのが皇国陸軍区分らしい。

 正直、あまり意味のある分け方ではないので、その内”自走砲”に統一されるそうだ。

 まあ、砲戦車って区分自体、「装甲砲塔の中に砲身短くても大口径砲積むんだから対戦車戦できんじゃね? だから準戦車扱いってことで」というノリで決まったらしいが、ベースの九七式軽戦車が40年代の最先端戦車戦では明らかに力不足なのに「対戦車ライフルに耐えられるぎりぎりの装甲と、口径はでかいが砲身短くて貫通力の低い主砲」しか持たない砲戦車が対戦車戦なんかやれば自殺行為もいいとこなので、そりゃあ区分だって無くなるだろう。

 

 実際、前世で何となく聞いたことがある何やら長砲身の方をのっけた対戦車自走砲じみた砲戦車も計画されていたらしいが、「そんなものを作る暇があるなら1両でも多くまともな戦車作ろうぜ!」とどこぞの機甲総監の鶴の一声で立ち消えになったらしい。

 

(まあ、ごもっともな話だよな)

 

 そのおかげで戦車開発リソース全てが一式の後継戦車に向けられることになり、計画より早く登場しそうなのが何よりだ。

 

「もっとも、今回の戦いにはどう転んでも間に合わんけど」

 

 とりあえず、今回の戦いは今ある兵力で何とかしようってことだろう。

 まあ、不足は無いだろうし、防塵防砂トロピカルフィルターをはじめ砂漠対策も抜かりなく、何より実績がある装備が大半だ。

 

 

 

「中尉殿、隊長がそろそろ集まれってさ」


 いつものように気配を感じさせないまま、いつの間にか背後にいた小鳥遊君である。

 

(なんか、アサシンかなんかのスキル持ってそうだよなぁ。潜伏とかステルスとか)


 狙撃手としては羨ましい限りだ。

 

「まーたなんか、下らねーこと考えてるっしょ?」


「んなことないって」

 

 まあ、そろそろ俺たちも行かないとな。

 今回の作戦では、俺たち狙撃隊も西大佐率いる独立増強機甲旅団の一員となりハーフトラックで移動ってことになっている。

 

 要するに敵の側面やら後方、あるいは退路に回り込むって役割だ。

 

 それなりに吞気に過ごしていた時間は終わり、戦争は続くよ何処までもってな。


 そして、これで3代目となる相棒、”九九式狙撃銃”を手にする。

 今回のモデルは、真新しい試作品らしい8倍の固定倍率スコープが付いてるが、何やら初歩的な反射防止膜ARコーティング処理されてるっぽい。

 

(なんか地味にスコープ、というか光学機材の技術進歩が早い気がすんな……)


 その内、マルチコートの非球面レンズとかEDレンズとかのスコープが普通にしれっと出てきそうだ。

 あと不活性ガス注入した曇り防止機能付スコープとか。


「さて、そろそろ征くとしますか」


 俺はカチリと気分を切り替える。

 日常から戦場へ。

 それに慣れてしまった自分が、ほんの少しだけ嫌になる。
















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