第101話 このえじょう
「英国人がダメとなりゃあすぐにアメリカ人に股開く”
”ざわっ!!”
一瞬にして騒然となる会見場。
その中で一人の勇気ある特派員、記者が挙手した。
近衛はその派遣元を確認すると、
「なんだ? 言ってみろ」
と記者の母国語で返したのだ。
つまり、お前の喋ってる言葉くらいわかるというプレッシャーだ。
「その、コノエ首相のお言葉をストレートに解釈すると、フランス亡命政府やオランダ王室ならびに亡命政府は認めないと……?」
「お前は何を言ってるんだ? そもそも亡命政府ってのは何のことだ?」
近衛は一瞬呆れたように、
「”フランスやオランダに住む有権者”から選挙という民主主義に則った手法で信任を受けた
「し、しかし、貴国の皇室はオランダ王室とも……」
「我が国のやんごとなき御方に、国民を見捨てて真っ先に逃げ出し、命惜しさにアメリカ人にケツを振る卑しい女と交流を持ち続けろと言いたいのか?」
その眼力に勇気は擦り切れたようだった。
押し黙ったところで近衛は話を続ける。
「それと誤解のないように言っておくが、まず仏領インドシナは永続的に我が国の領土とする予定はない。これは決定事項だ」
再び会場がざわつくが、
「静まれ。幸い我が国には、”
”クォン”なる王子様、フランス人に支配された王宮から脱出し、越南維新会なる対仏抵抗組織を立ち上げ、それが厳しくなると活動の場を世界に移し、そして日本皇国でも祖国独立運動を起こすなど中々の傑物だった。
まだ首相になる前の犬養とも交友があり、その伝手もあり近衛も面識を持ったのだ。
ドイツから仏領インドシナ割譲の打診があったとき、真っ先に考えたのは「史実では叶わなかった」クォン皇帝の樹立を目指すつもりだった。
現在、仏領インドシナは正統なフランス政府に恭順する予定であるが、現在の”便宜上の皇帝(フランスの植民地であるため、一切の国主としての権限を止められている)”とされる”バオ・バブ”帝では、立て直しには少々力不足だ。
日本皇国外務省も「仏領インドシナを独立国として再出発させるには、行動力があり馬車馬のように民を引っ張るリーダーが必要」と意見を一致させていた。
そして、独立路線も大賛成だ。
日本皇国政府として、これ以上の領土の抱え込みは避けたかった。
大体、ユーラシア大陸の東岸に蓋をするように北は千島に樺太、南は台湾/海南島まで……南北に異様に長い約5,000㎞の領土。これだけで、お腹いっぱいだった。ぶっちゃけ、国土開発でやりたい事山積みだった。
「加えて、まだ具体案はできていないが、蘭領東インドも独立させる方向でゆくつもりだ。改めて宣言するが、現状、日本皇国は領土を拡張する予定はない」
近衛の言葉に、実は噓は無い。
日本は植民地の持ち過ぎによる国家の経営破綻や、管理できない海外領土に由来する厄介ごと・面倒ごとなど御免なのだ。
そんな物に割く国家リソースなど、どこにもない。
正直、海南島でさえ中国本土に近すぎるが、あそこが資源地帯であり海上交通の要所である以上、手放すわけにはいかない。
だが、近衛も気づいてないようだが……友好国という
現状で、最低でも仏蘭の元植民地の独立国が二つ、そして南欧州、あるいは地中海沿岸にも何となく。
まあ、戦後の事は今は良い。
「日本皇国が皇国として約定を結ぶのは、同格である”国”のみ。これは国と国の間での話だ。祖国を見限り、祖国に見限られた者など出る幕は無い」
そして近衛はニヤリと笑い、
「どうせそ奴らと繋がっている者もこの場にいるんだ。なら伝えておけ。フランスとオランダから託を預かっている。フランスは銃殺隊を常設し、オランダはそのフランスからギロチンをレンタルし帰国を待っているってな。それが見捨てられた側からの見捨てた裏切り者に対する回答だぜ」
そして再び挙手する者がいた。
なんとも勇気があるものだ。
「コノエ首相は、米ソの意見を……」
「知らんな。連中は同盟国でも友好国でも何でもない。先住民を
「あ、あなたなんてことを……」
「聞こえなかったのか? アカに好きなように荒らされて何もできない能無しのアメリカも、非革命的なんて意味不明の理由で民を殺して悦に至ってるような下種なソ連も、まともに話す相手じゃねぇって言ってんだよ」
***
その後、まあ控えめに言って阿鼻叫喚だった。
警備していた公安職員に取り押さえられ、本当に巣鴨拘置所に連行された者も出た。
そして、近衛は最後にこうしめた。
「可能な限り”ありのままの言葉”を自国の言葉に変えて伝えてくれや。妙に捻じ曲げたら、次に呼ばれることは無いと思え」
後年、日本皇国内で”許容範囲内(国家をまとめるために必要悪な内部の敵)”なため生きることを許されている左側の人間が怨嗟をこめて言う
”近衛の大暴言”
これにより日本皇国は、米ソや中国などの取り巻きと友好関係を結ぶ機会が永遠に失われたと。
ただし、洒落を好む者たちは、好んでこういう言い方をした。
『
”
と。無論、元ネタは歴史的檄文の”
まあ、喧嘩売ってるという意味では同じかもしれないが。
*******************************
ただ、これを聞いた各国の反応が意外と興味深い。
英国首相は珍しく声をあげて笑い、
「だが、彼は政治家としては素直に物を言いすぎるな。例えそれがゆるぎない事実としても」
『あんにゃろー、またやりやがった……』と言いたげに苦虫を嚙み潰したような顔でグラスを傾ける、日本産古狸な友人に語り掛けたという。
ドイツの総統は、
「正直だな。だが、人間としては好感が持てる」
とゲッベルスを呼び付け、”コノエの挑発”を全欧州に広めるように命じた。無論、一言一句、正しく各国の言語に翻訳するよう付け加えて。
ついでに現在のソ連支配地域にも、ビラにしてばら撒いたらしい。
無論、米国大統領は激怒した。
「あの若造の首、今すぐ落としてくれるっ!!」
と日本との即時全面戦争の計画を速やかに立てるように命じたが、流石にいま日本と戦うのは得策ではないと軍部と副大統領、国務長官に止められた。
なお、翌年2月の一般教書演説はとても愉快な内容になった。
そして、日本皇国首相はそれすら「論理性を著しく欠いた、感情だけで喋る脳ミソまでチャイナパウダー(漢方薬? 阿片?)に侵されてる疑いのある、いかにも女装癖のあるチャイニーズ・アメリカ
ちなみに幼いころのルーズベルトが女装している写真は実在する。まあ、一応女装の理由はあるが。
怒り過ぎて病状が悪化しなければよいが。今斃れられても、日本としては困りものだろう。
正直、反日フィルターを持ってる限り読み易い相手だし。
ソ連の書記長は激怒し、NKVD長官を呼びつけ、即刻日本皇国を内部から崩壊させるように命じた。
長官は頑張ったが、逆効果だった。
工作員が片っ端から”粛清”されたようだ。なんでも”
程なく長官自身がサボタージュの罪で、スターリンにより粛清された。
オランダの元女王と元フランス軍人は、書く必要すらないだろう。
憤死しなかったのが不思議なぐらいだ。
こうして、世界は混迷の度合いを深めてゆくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます