転生しても戦争だった ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~
第94話 The CLIMAX of Battle for Leningrad to Sankt Petersburg
第94話 The CLIMAX of Battle for Leningrad to Sankt Petersburg
ヴォロシーロフが絶命して終わり……という戦いではなかった。
胴体にタングステン弾芯を持つ特製狙撃弾で風穴を空けられたヴォロシーロフの肉体が地面に斃れる前に、次の罠が発動した。
ブランデンブルグの”工兵の振りをしていた偽装撤退部隊”は、別に何もしてなかった訳ではない。
「「「「「なっ!?」」」」」
資材などに偽装された後に米兵より”
このような攻撃は確率兵器となるために実際の殺傷数はそれほどではない。
だが、それで良いのだ。
これはヴォロシーロフを狙撃され、混乱するソ連
そして、次なる攻撃は間髪おかずに行われたロケット弾攻撃だった。
巧妙にカモフラージュされた7㎞彼方の簡易陣地より放たれた無数の
運良く遮蔽物の影に居た者を除き、”横殴りの鋼鉄の雨”は容赦なく赤色兵をなぎ倒した。
もはや満身創痍……レニングラードに逃げ帰るしかないと思った矢先、退路に随伴歩兵を引きつれたドイツの機甲部隊が現れた。
そう、彼らはヴォロシーロフが撃たれた瞬間より海軍歩兵の視界外より行動を開始し、Sマインとロケット弾の阿鼻叫喚を隠れ蓑に退路に回り込んでいたのだ。
ソ連海軍歩兵には確かにほぼこの時代のソ連軍唯一と言ってよい個人携行型対装甲装備である対戦車ライフルが配備されていた。
だが、その目立つ長竿を構えようとした途端、どこからともなく弾丸が飛んできて命を奪っていくのだ。
自分達が罠にはめられたことを悟った彼らは、勇敢にも(無謀にも)最後まで抵抗を続けようとして機銃弾や戦車砲の対人榴弾で新鮮なこま切れ肉にされた者を除き降伏するしか道は無かった。
こうしてヴォロシーロフと最精鋭の海軍歩兵は全滅したのだ。
幸いというべきか? バルチック艦隊と同じ意味ではなく軍事用語での全滅だった。
とは言え、彼らが生きて祖国の地を踏めたのは戦後であり、その数は著しく減っていたが。
***
翌日、レニングラードにもはや日常となった空襲警報が鳴り響いた。
だが、いつもと違うのは爆弾や焼夷弾が落ちてこなく、代わりに大量のビラが投下された事だった。
そのビラには、ロシア語でこう書かれていた。
”君たちの同志ヴォロシーロフはもういない”
それも、運良く遺体が残っていたために、切り取られた生首が台の上に乗せられた写真と共に。
ついでに親切なことに東側、シュリッセリブルク方向には退路がある事、赤色軍人には容赦しないが武器を捨て逃げ出す市民を背中から撃ちはしない事を書き添えて。
ドイツ人の仕事は早かった。
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ドイツが
なぜ、三日も待ったのか?
無論、慈悲などではない。更に総攻撃の事前通告はない。
最大の理由は、掃討した後、予定通りに作られた重砲陣地も含め、あらゆる火力を動員しレニングラードを廃墟立ち並ぶ市街戦ステージに変えるまでの時間が必要だったこと+焼夷弾の集中投下、特に燃料貯蔵施設への爆撃による大規模火災が鎮火するまでの時間が必要だったこと。
そして、”ヴォロシーロフが死んだという事実が確認され、恐怖が蔓延するまでの時間”が必要だったことだ。
また、三日ではソ連側で新たな総司令官が任命され赴任するのは難しいというのも判断材料だった。
レニングラードは軽い要所ではなく、スターリンの信任厚い者でしか務まらない。
そして、砲爆撃の嵐の中でレニングラードに辿り着けるか大いに疑問だ。
ドイツは悠長な包囲戦などやっていないのだから。
ドイツの見立てでは、副指令が司令代行を務めるのが精一杯という感じだった。
ヴォロシーロフが死んだというビラが撒かれ、その後にこれまでにない量と質と密度でで行われた砲爆撃は、いやがうえにもこの先に何が起こるかを想起させる。”突入前の準備攻撃”以外に有り得ない。
そして予想通り始まった西と南からのドイツ軍、それに呼応するように始まった北からのフィンランド軍の進軍……
もう、何が起こるか明白だった。
ドイツ軍戦車部隊が随伴歩兵を引き連れて市街に入る直前より、密集部や進撃路に行われる進撃ラッパ代わりの短時間のロケット弾と砲撃、急降下爆撃による集中豪雨のような火力の集中投射。
地ならしとして行われた炎の嵐の中を進む、鋼鉄の怪物の死神の群れ……
邪魔者が存在しない海からは、巨竜の如く38サンチ砲が47口径長の鎌首を
ヴォロシーロフ終焉の地となったクラスノエ・セロからの重砲の多重奏も見事であり、地上の着弾観測員と上空から弾着観測機による一種の三角測量の要領で的確に破壊と死をばら撒いていた。
上空から爆炎で出来た花を添えるのは、ドイツ語自慢の急降下爆撃機隊だ。
現在、空軍のJu87Dと海軍のJu87Mは並行開発された兄弟機の関係であり、レニングラード上空という最高の舞台で空と海の夢の兄弟共演だ。
嬉し気に楽しげにジェリコのラッパを響かせて、ピンポイントで敵の抵抗地点を破壊してゆく。
上空には、それを邪魔する赤い星を付けた敵機はいない。
全員、一足早く太陽に近づきすぎ羽を焼かれたイカロスと同じ目にあった。
ただ焼いたのが、太陽光か20㎜の薄殻榴弾かの差だ。
その中を、ドイツ製の戦闘用装甲車両が猛進してゆく。
75㎜43口径長砲だけでなく、車載型Sマインや7.92㎜機銃などあらゆる火力をばらまきながら。
撃ち殺し、打ち壊し、踏み潰し、射殺し、爆殺し、刺殺し、ドイツ軍は線所となった歴史ある街並みを死と破壊を撒き散らしながら進んでゆく。
敗北の影に覚えることもなく、ただ淡々と。
***
それでも職務に忠実な
無論、ドイツ人のばら撒いたビラは噓っぱちで、それを信じるものは非革命的な敗北主義者だと喚き散らしながら。
だが、そう命じた彼らが吹き飛ばされ物言わぬ肉塊に変わる度、一人また一人と東へ向かう人間が増えた。
つまり、より生存率が高い方に賭けたのだ。
どういう訳かドイツ人はコミッサールや督戦隊を撃つことに熱心で、武器を捨て逃げ出す市民には寛容だった。
ソ連がどういう国かを知っていて、尚且つレニングラード市民の半分も避難したら、それを支えられるだけの余力はすぐには無い。
レニングラードから脱出できた者が全員、生き延びるわけでは無い。そうであるが故の寛容さだった。
そして、○○が東への脱出に成功したという噂があっという間に広がった。
武器を捨て逃げ出す市民を、ドイツ軍は背中から撃たないという言葉が事実であるという噂と共に。
やがて、持ってる武器をドイツ人ではなく政治将校や督戦隊に向けて引き金を引き、東へ脱出する人間が出てきた。
降伏しようとしたら「敗北主義者には死の鉄槌を!」とわめく政治将校にスコップの鉄槌を物理的にくらわす者が出てきた。
機関銃を背中から射かけてきたきた督戦隊に野砲で応戦する兵士が出てきた。
市街まで攻め込んできたドイツ人と戦えば確実に殺されるが、政治将校ならあるいはという理にかなった判断だった。
督戦隊より数が上なら勝てるし、そもそも政治将校の飼い犬で味方殺しの督戦隊は、政治将校同様に一般将兵から恨みを買いすぎていた。
極限状態で、一気にそれが噴出した形だった。
誰もが生きること、生き延びることに必死になっていた。
言い方を変えよう。
ドイツ軍とフィンランド軍の火力が生存の危機という人間の根源的局面において、一時的にせよスターリンや共産党への忠誠心やら恐怖やらを上回ったのだ。
***
例えばこれは単純な話なのだ。
ドイツ人に殺されるか、政治将校に殺されるか。
政治将校を殺して、降伏するか逃げ出すか……
突き詰めれば、そういう話だった。
戦線があちこちで崩壊し、レニングラードから退却するソ連御赤軍相手にはドイツ軍は容赦ない追撃戦を、深追いになり過ぎない程度には続けた。
だが、武器を待たぬ、あるいは捨てた民間人を撃つことは極力自重した。
無論、プロパガンダに必要な行動だからだ。
降伏した人間は、市民ならば丁重に扱った。
まずは暖かいスープとパンを振舞った。勿論、その様子はバッチリ銀塩写真にもオープンリールテープにもムービーフィルムにも記録した。
当然、ソ連将校が主張するような毒なぞ入っていない。
いや、捕虜となった軍人さえも史実のように「車両が汚れるから」という理由で徒歩で収容所まで歩かされることはなかった。
確かに収容所には送られたが、捕虜は捕虜としての待遇を普通に受けられたのだ。
まあ、本音を言えば、捕虜の移送に手間も時間も人員も割きたくないドイツとしては効率と合理性を重んじ、最初から歩かせるなんて選択肢は無かったのだが。
また、軍服を脱ぎ捨て階級章を外し、市民に紛れ脱出する赤軍兵、あるいは”保護”されようとする赤軍兵をあえてドイツ軍は見て見ぬふりをした。
彼らの末路は想像に難くないからだ。
案の定、”保護”された赤軍兵は市民に「密告」され、捕虜収容所に送られた。
そして、民間人に扮して脱出に成功した赤色軍人は、まあ、言葉は濁すがこの世にいられなくなった者や、より待遇の悪い状態で戦場に戻された者が多くいたことは記しておくべきだろう。
ただ、占領した地域で生きた
降伏した捕虜曰く、政治将校と称して差し出される原型を留めぬ遺体というより残骸はよく見たそうだが。
ドイツがレニングラード市を完全制圧宣言をし、全域を掌握すると同時に公式名称を”サンクトペテルブルグ”市に戻すと宣言したのは、
”1941年9月13日”
であった。
奇しくも史実では、ゲオルギー・ジューコフがレニングラードに赴任した日であった。
無論、この世界線のジェーコフの姿は、”サンクトペテルブルグ”には無かった。
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