第84話 ドイツ海軍最強戦力は、この世界線でも例外なく潜水艦であるという揺るぎない現実
さて、皆さんは史実のドイツ潜水艦、Uボート・シリーズにおいて決定版とも言える艦型があった事をご存じだろうか?
飛び道具のような
そう、既存の技術を積み上げ、極限まで磨き上げた初の”
実は、日英同盟がこれまで確認できた(浮上降伏で確保できた)最も新しい型のUボートは、史実でもこの時期にはとっくに就役し猛威を振るっていたIX型だった。
これは第一次世界大戦から脈々と受け継がれてきた従来型Uボート、つまり本当の意味での潜水艦ではなく”潜水可能艦”と呼称すべき、「水中速度より水上航行速度の方が速い」Uボートであった。
それでも大量生産されていたのは、本来の計画通りに巡航用エンジンを標準搭載し、航続距離が長く広い大西洋での通商破壊作戦や長距離哨戒任務に向いたIXD/2型やIXD/42型だったので十分に脅威だ。
少なくとも、1941年前半まではこのタイプがドイツの主力潜水艦だった。
だが、これは軍機なのだが……史実よりも3年も早く、”XXI型”は存在していたのだ。
それも、既に30隻以上が同時建造されて。
***
「水上航行より水中速度の方が速い」水中高速型として建造されたXXI型は、建造された時代から考えれば驚異的な潜水艦だった。
IX型のUボートに比べ水中航行速度は倍以上であり、魚雷発射管に自動装填装置を備え、十分な航続距離を持っていた。
加えて開発された時代から考えられない性能を持つ音響雷撃統制(水中火器管制)装置を持ち、潜望鏡を用いず潜水したままの音響測量のみの雷撃でも十分な精度の攻撃が可能だった。
おまけにブロック建造方式を採用し、量産性すらも高かったのだ。
戦後に建造された世界各国のあらゆる通常動力型潜水艦の雛形となり、大戦を生き残った船は戦後も長く使われ続けたと書けば、その先進性と優秀さは伝わるだろうか?
しかもこの世界線では、”次世代潜水艦”としてナチ党政権奪取時には既に基礎設計が開始されていたので、コンセプトが最初からはっきり明示されていたのと開発に十分な時間をかけられたために、史実のような「性急な設計を要求されたゆえの構造的欠点や初期不良などの悪影響」がほぼ無くなっているいることが大きい。
例えば、
・急速潜行時間を短くする為に海水通水口を開けすぎて水中抵抗が大きく速度低下を招いた。
・初期の油圧システムが予定の性能を出さない上に構造が複雑高価だが時間的都合で採用せざる得なかった→後日、代用品に変更されている
・蓄電池から電動機の配線が拙く、また蓄電池自体にも無理がかかる設計なので過負荷で小さな爆発を起こす危険性があった。
・電動機が予定の最高出力を発揮出来ず、上記の開口部の問題と合わさり水中最高速力は17kt台に留まる(計画では5000馬力、実際には4200馬力)
・水中機動性は高いが推進器の角度が若干悪く、旋回半径は大きい。
・艦の電気配線は量産性が考慮されたものだが、過剰な磁場を生成し磁気探知手段に弱い。
これらの欠陥、欠点、短所は見事に実際に量産が始まる頃には是正されていたのだ。
海水通水口や推進部の角度、配線、蓄電池などは最適化され、油圧装置や電動機は技術的熟成が行われ予定通りの性能/出力を発揮でき、また信頼性も各段に高くなっていた。
このような細かい積み重ねにより、この世界線の”XXI型”の水中最高速は、20ノットに到達していたのだ。
また小さな変化ではあるが、象徴的な話として対空機関砲に計画通り量産が開始されたばかりのMk103/30㎜機関砲を連装で搭載していた。
言ってしまえば、”パーフェクトXXI”、額面通りの”奇跡の潜水艦”が完成したのだ。
そして、これを操る男たち、艦長たちもまた凄まじかった。
〇オリヴァー・クレッチマー
〇グスタフ・プリーン
〇ヨハン・シェプケ
〇ハインリッヒ・リーペ
〇ヴィルヘルム・リュート
〇アーダベルト・ブランディ
〇ウルリッヒ・トップ
〇アルベルト・ヴォールファールト
〇クルツ・ドブラッツ
〇エーベルハルト・ハーデガン
〇ハイネ=ルドルフ・レーズィンク
〇ハイドリヒ・レーマン=ヴィレンブロック
綺羅星のごとくUボート乗りのウルトラエース揃い踏みだが、この艦長たち全員に最新鋭の超機密兵器”XXI型”が与えられたのだ。
この意味を、皆さんは想像できるだろうか?
また40年後半から41年前半にかけて慣熟訓練を行っていたために史実と大きく運命が変わった者も多い。
例えば、史実ではクレッチマーは41年に捕虜になった。プリーンとシェプケは同じく41年に戦死している。
だが、この世界線では全員がピンピンしており、最新鋭の装備とそれを使いこなす訓練時間が与えられていたのだ。
船も艦長も極上。武将や軍馬は良くて肝心の”
当然、ドイツはそこも抜かりはなかった。むしろ、全力を傾注している。
これらの潜水艦に搭載されていたのは、史実でも有名な”G7魚雷”。
正確には、G7シリーズの中でも現在の主力は、”G7ut”。タイプコードは”Steinbarsch”……そう、高温式ヴァルター・タービンを主機に搭載し、雷速45ノットで射程8,000mを誇る、日本皇国の酸素魚雷に匹敵する凶悪な魚雷をドイツは史実のような試作ではなく、実戦用兵器として完成させていたのだ。
これは史実の同じ潜水艦用53㎝級酸素魚雷”九五式魚雷一型”の性能「49ノットで射程9,000m」に迫るものであり、史実の世界の標準的同級魚雷、例えば通常の圧縮空気機関型G7魚雷は「34ノットで射程3,400m」、従来型の中では戦時中最高峰とされた米国Mk14魚雷でも「46ノットで4,100m」という物だった。
蛇足ながら、後年には海水噴射機構が搭載された改良型の”Schildbutt”は「50ノットで射程20,000m」という圧倒的な性能を叩きだし、これは遥かに巨大な水上艦用の61㎝級酸素魚雷、史実の”九三式魚雷一型”の「48ノットで射程20,000m」と同等の射程を持ち、速度性能で上回る驚異的な物だった。
これは、ドイツが大型高出力ヴァルター機関の開発にはまだ技術熟成に時間がかかり、潜水艦用主機として採用するには時期尚早とし、基本的に使い捨ての魚雷主機として水中用ヴァルター機関の開発に傾注したからこそ間に合ったものだった。
しかもこの魚雷、接触だけでなく磁気信管も標準搭載している。それも史実でプリーンに”木銃”と酷評された動作が不安定な物ではなく、深度維持装置も含め”まるで戦後製品”のような動作確実性と精度を持っているようだ。
実は、磁気信管……正確にはその心臓部である磁気反応装置には史実と異なるからくりがある。
史実のドイツの磁気反応装置は、内蔵した磁石が磁気変化を感知して上下動し起爆する純然たる機械式だが、今生のドイツのそれはサーチコイルと真空管(メタル管)を組み合わせた電子式だ。
史実でもドイツはメタル管を含めた軍用真空管をテレフケン社を中心に多数製造しており、電子/電気の分野は国策としてさらに輪をかけて今生ドイツは資本強化している(性能もだが、生産数が1桁違う)為、その結果として誕生したのがこのシステムなのだろう。
追加で言うと、この軍用真空管は同じく深度維持装置にも電子回路として組み込まれている。
なので、この世界線では”魚雷クライシス”は発生していない。
難点を上げるとすれば、扱いに慣れがいることと製造コストが高いこと、そしてホーミング機能が付いていないことぐらいだろうか?
もっとも後年に有線誘導式が開発され、主に米国船舶相手に猛威を振るったりするのだが……
とにもかくにも、綺羅星艦長と鬼畜魚雷を乗せた合計30隻の最新版水中高速型潜水艦が、ヴィルヘルムスハーフェンやケーニヒスベルクのUボート用隠蔽ドックから、一路ソ連バルト海艦隊ひしめくタリンに向け出航したのだった……
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無論、殆どが小型艦艇ばかりとはいえ190隻のソ連バルチック艦隊を相手取るのに最新鋭とはいえ30隻のUボートで相手取る訳はない。
”バルバロッサ作戦”発動のあの日、既に準備は始まっていた。
ドイツ北方軍集団が越境を開始したとき、既にタリン沖合に待機していた複数の
それらのUボートは、”X型”。
Uボートの中でも機雷敷設に特化したタイプのUボートだった。
第一次世界大戦で機雷敷設型潜水艦として活躍したUボートUE型の真っ当な後継艦だった。
史実よりも数倍も多く建造されたそれらの
しかも、エストニアにドイツ軍が侵入し、本格的なタリン制圧に地上軍が動いたため慌ててバルチック艦隊が逃げ出すまでの間、二度もソ連の対潜警戒網を潜り抜けての敷設に成功している。
当時のソ連の対潜哨戒を含めた対潜戦術がお粗末で、レーダーもソナーも持っていないことを加味しても中々の快挙である。
ドイツと言えば磁気反応式機雷だが、この世界線は中々に厄介な機雷を用意していたようだ。
魚雷でも磁気式信管が史実と比べて高精度で信頼性も高いと書いたが、機雷もそれと同じなだけでなく、標準で水圧感応式起爆装置も備えてる複合信管型だ。
加えて磁気/水圧式だけでなくロッシェル塩(酒石酸カリウムナトリウム)を用いた音響起爆式も混ぜられていたのだ。
ちなみに史実でもロッシェル塩をクリスタルイヤホンやクリスタルマイクなどの圧電素子として使う技術をドイツは長けていて、実際、軍需物資として水中聴音機などに用いていた。
さて、都合3回行われた機雷敷設では、少ない時でも20隻のX型が活動していた。
つまり、合計3,000発近い機雷がタリン港の出入り口に敷設された事になる。
これが如何なる結果を生んだかと言えば……
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