第74話 喧噪の舞台裏を覗き見てみませんか?
さて、元よりフランス系住人が多かったカナダのケベック州が独立し、”自由フランス(France Libre)”なるアメリカ人に媚びたようなパチモン臭い自称国家に生まれ変わった。
まあ、支持してるのは米ソと共産と民主の二つの中国、某半島の南部(北部はソ連邦の一員なので)や有象無象としか言いようがない、ドイツに蹂躙されて最終的に米国に逃げ込んだ欧州各国の亡命政府と言ったところだ。
少し立ち戻って、なぜ彼らが「ケベック州のカナダよりの独立、自由フランスの建国」という誰から見ても、あるいはどこからどう見ても強硬策を支持したのかを考えてみよう。
未だに国内の赤色勢力を排除も駆除も除染も済んでいない、むしろ日本人大嫌いをこじらせた大統領が「日本人の言うことなど信じられるかっ!!」と日本皇国の警告や注意喚起の逆張りばかりするアメリカ合衆国にとり、ケベック州の独立は実に都合の良い口実になりえた。
そもそも、ドイツがソ連に攻め込んだ途端に、
『共産主義者を殲滅したい? よろしい。好きにやり給え。邪魔はせんよ』
とでも言いたげに停戦に応じた日英は実に腹立たしい限りであった。
広大な領土を持つソ連が簡単に負けるとは思っていなかったが、万が一ということもある。
しかし、米国には”中立法”がある。”レンドリース法”が可決されたとはいえ武器や物資の供給先、つまり「(米国の利益のために)実際に戦ってくれる存在」が必要なのだった。
いや、自らが戦うのは必ずしも厭うわけではない。
実際、例えば中華人民共和国(共産党)としょっちゅう小競り合いを繰り広げている中華民主共和国(国民党)に対し直接、米軍を投入しているわけでは無い。
義勇兵団、有名どころを上げれば退役や予備役のパイロットや地上要員を高給を餌に集めた”フライング・タイガース”などの手段を用いているが、正規軍が投入できないのはどうにも戦力に限度があり過ぎる。
何より、義勇兵団では「ソ連の救難は困難」であろう。
史実では三国同盟の一角である大日本帝国を追い詰め挑発して戦端を開き”裏口参戦”を果たしたが、この世界線では日本皇国を挑発するメリットは少ない。
いや、むしろ下手に挑発するといきなりウラジオストクを焼き払いに来そうな部分があった。
米国もソ連も、日露戦争以来の日本皇国のロシアに対する警戒感と敵愾心を軽く見てはいない。無論、皇帝一族を血祭りにあげた結果、さらにその感情が増幅されていることも。
無論、英国を挑発する意味とてあまりない。
ケベック州を独立させたところで、英国が対独戦に積極的になるとは米ソも考えていない。
いや、むしろ逆効果だろうとさえ思っていた。
しかし、それと天秤にかけて”大義名分”を選んだのだ。
つまり、”ドイツに侵略された
アメリカは旧ヴィシー政府、現フランス共和国のペタン政権をフランスの正統政府とは認めていない。
自由フランスの独立を承認した全ての国がそうだ。
アメリカに言わせれば、「ペタン政権こそ、ドイツの威を借り、パリを不法占拠し続ける奸賊」なのだ。
パリの主は彼らの息がかかる対独強硬派のド・ゴールでなければならない。それが歴史に必然なのだ。
この際、フランス本土の住民の心情や国民感情は考えないものとする。
米ソにとって、それらは「自分たちにとって都合の良いフランス」より優先される物ではないのだから。
それこそ、後年にド・ゴールがどれほど統治に苦労しようが、後にド・ゴールに反発したフランス人の血が何万リットル流れようが、自分達の国民の血でないのなら、特段に問題にすべきではない。
アメリカは「フランスの祖国奪還を手伝う、正義の味方」である。
元来、フランス贔屓で”自由の女神”コンプレックスのアメリカ有権者には実に受けがよいではないのだろうか?
だが、主役はあくまで「正統なフランスの正規軍」でなければならない。
そうであるがゆえの独立だ。
フランスは、横暴極まるドイツ人から祖国を取り戻す為に戦い、ソビエトは暴虐極まるドイツ人から祖国を守るために戦う。
それを”レンドリース法”や援軍で全力で支援するアメリカ……なんと美しい構図!!
ああ、そうするためにはソ連とも話し合わねばならんな。
中国大陸の小競り合いは、ソ連を支援する太平洋ルートを開通するには少々都合が悪い。
日本は、自由フランスの一件で港を貸すことを渋るだろうが、あの国民性から考えて邪魔もしてこないだろう。
日本人はどうも中国とは関わりたく無い様だ。
まったく乳と蜜の出る土地を目の前にし、奇特なことだとも思う。
だが、中国の悠久の歴史や偉大さを理解できずに、交流を拒むような……所詮、島国に引きこもり2000年は頭脳が遅れた連中なのだと思えば納得もできる。
つまるところ、フランシス・ルーズベルトは、日本人というものも英国人というものもよくわかっていないのだった。
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さて、皆さんは英国の一連の挙動に不思議さを感じなかったろうか?
そもそも、ド・ゴールをロンドンから叩きだすとき、なぜわざわざ「フランス系住人が圧倒的多数派で、カナダで唯一フランス語が公用語になっている」という美味しすぎるケベック州などに放り込んだのだろうか?
しかも、ド・ゴールに対してはフランス系住人に限り、志願兵(義勇兵)募集の許可まで与えている。
まさか、「英国人の故郷を追われたフランス人に対する優しさ」なんて明らかに胡散臭い物を考える人はいないだろう。
当然だ。この世にない物を論ずる必要はないのだから。
となれば考えられることはただ一つ。
ケベック州の独立(カナダからの離反)は、”最初から考慮されていたシナリオ”だと。
ド・ゴールをケベックに放り入れ、ある程度の権限を亡命政府に与えた以上のことは手心は加えていない。
だが、それだけで十分以上に動いてくれたのが現状だ。
では、何の為に?
英国に何の得があって、自由フランスの成立(英国人は建国とは言わないと思われる)を許したのか?
「これで、アメリカ人に戦争を台無しにされないで済む」
ウェリントン・チャーチル首相はお気に入りのホテル、”
「アメリカ人が自由フランスを口実にドイツと戦うのなら、
「差し詰め、れっきとした英連邦の一角を不法占拠した
吉田滋がそう返せば、
「ヨシダ、例え我々はドイツと戦争状態にあろうとも、
「まあ、我々はこれでも真っ当な国家を自負しているからな」
「その通りだ。真っ当な国家としての道を踏み外してまでドイツに勝利したところで、いったい何の意味がある?」
「よく言う」
吉田は苦笑しながら、
「ベルリンどころかパリにも攻め込む気はないだろ?
残念ながら、この時チャーチルが何と答えたかは歴史から抹消されている。
だが、実に英国人らしい答えだったことは、笑みを深めた吉田の表情からうかがうことができた。
そう……第二次世界大戦は、新たな局面に既に突入していたのだ。
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