第5章:発動! バルバロッサ作戦!!

第61話 皆様、つよつよなドイツ軍はお好きですか?




 1941年6月22日、それはドイツとソヴィエト連邦という二つの国家にとってあまりにも多忙な日だった。

 

 それはそうだろう。

 北アフリカ、シチリア、ギリシャから引き上げた部隊を再編。それらを機甲予備とした軍団を含む、南方・北方・中央の三方向から総勢300万のドイツ軍が東進……ソ連領へと攻め入ったのだ。

 

 世にいう”バルバロッサ作戦”の発動である。

 

 

 

「これは良い。実に良い。大変結構だ」


 そう上機嫌だったのは、”ドイツ中央集団”司令官、”ヘルムート・ホト”上級大将だった。

 史実においてもロンメルやグーデリアンに並び称される「偉大な戦術家」として知られる彼は、その才覚を存分に発揮できるだけの機会を与えられた事に歓喜していた。

 

 先ずは大前提である制空権の確保だ。

 ”バトル・オブ・ブリテン”をスルーし、バルバロッサ作戦がデビュー戦となったFw190A”ヴェルガー”が大暴れしていた。

 デビューを遅らせた分、熟成度は上がり、例えばエンジンは史実と同じBMW801なのだが、その出力は史実のD型と遜色ない1700馬力級の出力を平然と絞り出している上、GM-1亜酸化窒素型強制冷却装置を早くも標準搭載し、短時間なら2000馬力を叩き出す。

 量産性に優れた頑強な機体は相変わらずで、最新鋭のMG-151/20㎜機関砲を左右主翼に4門+機首にMG131/13㎜機銃を2丁装備するという重装備。

 おまけに、戦闘爆撃機ヤーボとして使う場合も秀逸で、ペイロードは胴体下500kg+左右主翼下250kgずつの最大1,000kgを懸架可能となっていた。

 

 要するに初期のFw190だというのに、A7~A9並の性能と実力があったのだ。

 ついでに最初から装甲強化も機体構造強化も盛り込んであるので、F型の特製まで兼ね備えている、まさに万能機、もっとも初期のマルチロール・ファイターとも言える。

 ちなみにヤーボとして使う場合の対地攻撃メインウエポンは”空対地ロケット弾・・・・・”……もう、明らかに「シュトゥルモヴィークをよく知ってる技術者」が設計に関わっているとしか思えなかった。

 

 ちなみに、この時のソ連の航空機は有名どころの戦闘機だとYak-1もしくは辛うじてYak-7、LaGG-3、MiG-3とかだ。

 元祖シュトゥルモヴィークのIl-2襲撃機なども出現していたが、いずれも敵ではなかった。

 この時代のソ連戦闘機は操縦性と航続距離に難があり、また運動性は正直低かった。

 Il-2は頑強なのと武装やペイロードは良いのだが、いかんせん速度と運動性が悪すぎたのだ。

 加えて、いくらIl-2が航空機の割には重装甲と言ってもドイツ自慢の薄殻榴弾(Minengeschoss)を発射速度の速いMG151、それも4門から雨あられと浴びせられたらどうにもできなかった。

 しかもFw190は1門あたり200発以上、搭載しているのだ。

 

 

 加えて、これにクレタ島の戦いにも出てきた史実より幾分改良/強化されたBf(Me)109Fが、対戦闘機特化機として制空権を掌握すべく戦場の上空を飛び回っているのだ。

 この機体も中々に凶悪で、こちらもGM-1亜酸化窒素型強制冷却装置を取り付けたDB601E型エンジンを搭載し、モーターカノンとしてMG-151/20㎜機関砲を1門、機首にMG131/13㎜機銃を2丁を搭載。

 前に少しだけ触れたが、この世界線のBf109は、設計段階から空軍省(実はさらに上のヒトラー)から直々の命令で、降着脚をトレッドが広くとれる内側格納式に、胴体下にドロップタンクを懸架できるように設計を改められている。

 このF型は、まさにBf109系列の主力戦闘機としてのトリ・・を飾るに相応しいバランスの良い軽戦闘機と言えよう。

 

 無論、毎度お馴染みのJu87スツーカも最新鋭のD型(史実のG型相当性能。ただし、37㎜砲は非搭載でMG151である)が元気に飛び回ってタンクバスターをやっていた。

 

 だが、航空兵力もさることながらホトを喜ばせたのは、地上兵力……実は砲兵科だった。

 かの有名なⅢ号突撃砲(41年式は75㎜43口径長砲のF型仕様)はもちろんだが、短砲身75㎜を搭載した装輪装甲車タイプや10.5㎝級を搭載した高威力自走砲などが十分に揃っていたのだ。

 無論、牽引式の機動砲も十分な数が用意され、攻勢の短時間の効力射も、対砲兵用のカウンターバッテリーも思いのままだ。

 

 そして、史実より大規模に揃えた装備がある。

 そう、”地対地ロケット弾・・・・・”だ。言ってしまえば、ドイツ版の”カチューシャ・ロケット・システム”だ。

 

 元々、史実のカチューシャ・ロケット(M-8、M-13)の元ネタは、ドイツが30年代に開発した”ネーベルヴェルファー”だ。

 本来はロケット式毒ガス投射器として開発されたそうだが、特徴としては15㎝以上の大型のものが多かった。

 

 この世界線のドイツは、史実よりも注力しているようで史実のネーベルヴェルファーをより通常弾頭寄りに収斂させ、車載式や牽引式の投射器を揃えた。

 これに加えて、より使い勝手が良い88㎜(ソ連で言うM-8級)の多連装型をトラックなどの車両に搭載したモデルを大量生産していたのだ。

 

 また、ロケット弾つながりで言うならクレタ島で鹵獲された個人携行型対戦車ロケットランチャー”パンツァー・シュレック”も歩兵部隊に初期量産型が配備され、猛威を振るっているようだ。

 

 

 

***

 

 

 

 とにかくこの世界線のドイツは、「一に火力、二に火力、三四が無くて五に火力」とでも言うように火力で押し徹る戦術を金科玉条としているようだ。

 それを可能としているのも史実よりもずっと多い火砲やロケット弾もだが、当然のように戦車も強力だった。

 

 そう、以前にドイツ首脳陣の話題に出てきた「75㎜43口径長砲(7.5cm KwK40 L/43)を搭載したIV号戦車」が前線で主力を張っているのだ。

 史実の独ソ戦に詳しい方には言うまでもないだろうが、この意味はあまりにも大きい。

 何しろ41年型のT-34より火力・防御力・機動力全てで圧倒はしてないがドイツ戦車が上回っているのだ。

 

 つまり、”T-34ショックが発生しない・・・・・”のである。

 ちょっと想像してほしいのだが、「T-34やKV-1が出てくるたびに、ドイツ戦車の主砲では破壊できずアハトアハトの高射砲にお出まし願う」という史実の東部戦線にありがちな光景から、「戦車同士の撃ち合いで十分勝機がある。むしろT-34ならアウトレンジで余裕。KV-1とも正面から殴り合える(ただし、小回りの利かない相手に正面から殴り合う必要はない。側面突くの楽すぎ)」という状況に変わっているのだ。

 更にこの戦いには早いレートのローテーションで、北アフリカの日本皇国軍、一式戦車や一式改と戦い生還した歴戦の猛者たちが混じっていたのだ。

 彼らは言う。

 

『直線スピードは日本人の戦車よりあるが、小回りはきかず、砲力と防御力はさほどでもない。正直、短砲身のIV号で日本人の戦車と戦うことに比べれば大分マシ。何よりアウトレンジで撃破できるのが良いな』


 である。とりあえず、史実の日本戦車ではありえない評価なのは間違いない。

 大体わかったと思うが、アフリカ帰りの者達は既に「T-34ショックならぬ一式ショック」を経験済みだった。

 そして、繰り返しになるが短いサイクルのローテーションで可能な限り多くの装甲将兵達に「凶悪な火力と防御力を持つ戦車との戦闘」を経験させることに成功していた。

 日本人を劣等人種と蔑み、履帯で踏みつぶせば勝てると甘く考えていた者は、真っ先に死んだ。

 愚か者の末路をその目にして気を引き締めなおした者や、最初からナメてかからなかった者は相応に生き残り、ドイツ本国へ帰艦し、再びその経験を糧に欧州の戦場で今度は優位な状況で存分に戦っているのだ。

 

 これを言うとトブルクに立てこもる日本皇国陸軍の将官に怒られそうだが……日本人は、「強敵との実戦経験を積むには理想的な演習相手」だった。

 彼らは守勢メインでドイツがちょっかいかけない限り滅多に攻勢的作戦は取らず、攻め込んでも撤退時に追撃はしてくるが、決して深追いはしてこない。

 つまり、手ごわいのは間違いないが日本人の追撃圏外まで出れば生存率は跳ね上がるのだ。

 

 

 

 更に多少とはいえ戦車の個体性能に優位があるのに加えて、ソ連は例の大粛清の影響で練度が全体的に低い。

 操縦技能に始まり、部隊としての運用や戦術も拙い。

 はっきり言えば、地獄の北アフリカ戦線を生き延びてきたドイツ戦遮蔽に言わせれば、ソ連軍と対峙するどの戦場も”草刈り場”のようなものだろう。

 

 いや、それはドイツ空軍のパイロット達も同じかもしれない。

 ぶっちゃけ、機体の性能差もパイロットの技量差も地上より空中の方が大きいのだから。

 

 付け加えると、ソ連は史実と同じく41年では未だにレーダーを実用化できてないし、無線機の数も少ない。

 ある意味、電子装備の遅れはお家芸なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 とにもかくにもドイツは、ポーランドの東側を超えてバルト三国をベラルーシをウクライナの赤色勢力を蹂躙し始めた。

 兵力数は史実と大差ないかもしれないが、その火力は明らかに高い。

 それは着実に戦果として数字に計上されてゆく。

 

 そう、バルバロッサ作戦はまだ始まったばかりなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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