第47話 IV号戦車という名の軍馬のおはなし
さて、この世界線のIV号戦車を語る前に、史実におけるIV号戦車はどんな
史実におけるIV号戦車は”ベグライト・ヴァーゲン(略称:B.W)”という名称で開発され、直訳すると”随伴車両”という意味を持っていたそうだ。
これは「75㎜砲を搭載する20t級の車両で、歩兵に”
他国で言うと、歩兵戦車に近いコンセプトだったようだ。
そして、対戦闘装甲車両を行うのはより小型軽量な”ツークフューラー・ヴァーゲン(略称:Z.W)”、「37㎜砲搭載で15t級戦車」として開発されたⅢ号戦車の役割とされたのだった。
だが、戦史に詳しい方ならご存知の通り、50㎜砲の搭載が上限だったⅢ号戦車は、敵国戦車の重装甲高火力化の波についていけず、早々に主力戦車の座から脱落し、結局ドイツの戦線を支えたのは75㎜砲を搭載できるIV号戦車であった。
その後、V/VI号戦車の開発はされたが終戦のその日まで数的主力はIV号のままで、改良発展限界を迎えてもなお戦場を駆け抜けた戦車だった。
だが、お察しの通りこの世界線においては事情がかなり異なる。
Ⅲ号戦車が対装甲戦闘車両として開発された部分までは史実と同じだが、IV号戦車は「歩兵随伴戦車」として開発されたわけでは無い。
Ⅲ号戦車の改設計が不可能な段階に入り、「最も衝突する可能性の高い仮想敵国」であるフランスが恐るべき重戦車を開発していることをつかんだのだった。
これが、”ルノーB1(シャールB1)”重戦車や”ソミュアS35”騎兵戦車だったりするのだが、性能をやや過剰に見積もっていたせいもあり、予定されているⅢ号戦車の火力では撃破不可能と算出された。
そこで急遽計画が立ち上がったのが、後継となるフランス戦車を上回る重装甲高火力高機動を備えた「”Ⅲ号戦車”開発計画」だった。
コンセプトは明瞭で、
・砲塔/車体正面装甲は最低でも50㎜厚とすること。
・敵戦車をアウトレンジから撃破できる75㎜かそれ以上の戦車砲を装備すること
・重量30t級の戦車とすること
・30t級の車体を機動的に運用できるだけのサスペンション、トランスミッション、エンジンを用意すること
・即座に陳腐化せぬように発展的余地・余裕を持たせた車体設計とすること
であった。
当初は野戦架橋による渡河限界から25t級が限界と参謀本部から打診されたが、「25t級では50㎜装甲と75㎜砲の両立は不可能」と車両開発部は返し、「敵を撃破できず、敵に容易に破壊される戦車がお望みか?」と返した。
これを仲裁したのがヒトラーであり、双方の意見を聞いた後に「敵戦車の撃破不可能な戦車を開発する意味は無し」とし、野戦架橋や渡河方法・機材の改良や改善で対応ということで話がついた。
こうして30t級戦車として開発の始まったIV号戦車だが、さっそく様々な壁にぶつかった。
・30t級の車体を支える足回りをどうするか? → Ⅲ号戦車のトーションバー+トレーディングアーム方式を強化熟成して採用
・発展的余地は具体的にどうする? → 外観は重くなるのであまり大きくできないけど、内部容積をなるべく多くとれるようにレイアウトを工夫しよう。また、将来的に大きく重い砲塔を乗せる場合を考えて、砲塔リングは可能な限り大きめに作っておこう。ついでに砲塔バスケット方式と旋回動力の余力も忘れずに。
・30t級の車体を動かすエンジンがないんだけど? → 仕方ない。マイバッハには悪いが、エンジンは既存の航空機用エンジンを転用、陸上用に再セッティングして使おう。空気の綺麗な飛行場や上空と、砂埃舞う地上では環境が違うけど、そこは創意工夫で。(液冷V型12気筒のBMW VIdをベースにトルクと信頼性をあげでピークパワーを抑制する方向で開発された450馬力のエンジンを開発)
・30t級の戦車を行軍で公道を走らせると重さで道路がとんでもないことに → 従来より幅広の520㎜履帯(史実のティーガーIの輸送用履帯と同じ幅)を新たに採用し、接地圧を下げよう。
とまあ一つづつ技術的な課題を、なるべく独自開発/専用品開発を少なくし可能な限り既存の技術/機材の転用、あるいはその発展型や改良型を用いるようにしながら完成したのがIV号戦車だった。
その努力は涙ぐましいほどであった。
ただ、どうにも75㎜級の長砲身戦車砲の開発には難儀したようだ。
そこで、開発が終わるまで間に合わせとして元々は歩兵砲として設計されていた75㎜榴弾砲を転用・改設計して短砲身75㎜砲として一先ず完成させた。
実はフランス戦や北アフリカにⅢ号戦車共々投入されたIV号戦車は、この初期生産型だった。
基本的に短砲身型や初期型と呼ばれる、史実で言うA~F(F1)型のタイプはあくまで間に合わせであり、やはり威力不足(特に貫通力)は明白であり、本命は長砲身搭載型であった。
また、フランスでの戦訓を生かし、砲塔正面装甲の強化は必須と考えられそれを盛り込んだ形である程度の避弾経始が取り入れられた(おそらくソミュアS35あたりを参照したのだろう)正面装甲圧80㎜の新型砲塔と75㎜43口径長の新型長砲身砲を搭載したのが現行型のIV号戦車である。
蛇足ながら、なんとなくだが新型砲塔の形状は史実のV号戦車”パンター”に近い雰囲気がある。
総合的には、史実で言うF2ないしG型仕様のIV号戦車(の一部能力強化型)と考えてもらえばいい。
***
史実ではこの43口径長砲、”7.5cm KwK40 L/43”は、”7.5cm PaK40”という対戦車砲がベースとなっており、このPaK40の砲弾薬莢が狭い砲塔内で取りまわすには長すぎる(薬莢長714mm)ので、なるべく装薬(砲弾を飛ばすための火薬)量を減らさないように太く短い薬莢(薬莢長495㎜)を採用し、それに合わせて薬室や水平鎖栓式閉鎖機を交換したのがKwK40ということになっている。
ややこしいのは、この495㎜薬莢を用いたPaK39(なぜか後発なのに数字が戻ってたりしている)対戦車砲があったりするのだ。
だが、この世界のドイツはそんな面倒なことはしない。
単純にヒトラーが「戦車砲にも野砲にも最低限の変更で使える薬莢/薬室サイズの長砲身75㎜砲を作れ」と命じただけである。
なので、この世界線では714㎜薬莢もPaK40は存在せず、PaK39とKwK40は並行開発され、PaK39は1939年に、KwK40はそれぞれ1940年に実用化されている。
つまり、Ⅲ号突撃砲の主砲もヘッツァーのような駆逐戦車もSd.Kfz.251/22やマルダーのような対戦車自走砲も同じ薬莢であり、砲弾の共用ができるようになっているのだ。
これは製造/生産/管理/補給のロジスティックスの面において地味だが大きな意味を持つのだ。
特に史実のドイツ軍の事情を知っていれば、それを感じるのではないだろうか?
そして現在、IV号戦車の改良は現在進行形で続けられている。
トブルク攻略戦での日本人との本格的な機甲戦の経験を元に、戦車砲を現状のKwK40の設計では限界と言える長砲身化(43口径長→48口径長)を行い初速増大による威力増強に挑む開発中の新型砲”KwK40 L/48”への換装、車体や砲塔の側面にシュルツェンと呼ばれる成形炸薬弾や機銃弾などによる破損から守る増加装甲を追加した……いわゆる史実の”H型(一部J型)”準拠のモデルが開発されているのだった。
トーションバー式の足腰や450馬力を発生するガソリンエンジンは重量増加によく耐え、最高速度は少し低下したが十分実用的な数字に抑えているようだ。
さて、長々とIV号戦車に関して書いてしまったが、上に書き上げたような戦車が、「現在のドイツ軍主力戦車」であり、「今からロシアに攻め込む戦車」なのだ。
さて、問おう。
汝が私のマス……もとい。果たして、この世界線で”T-34ショック”は起きるのか? 起こせるのか?
率直に言えば……ソ連は泣いていいと思う。
先に言っておくが、今のソ連に史実と同じくトハチェフスキーはもういない。まるで史実をなぞるように拷問の末に粛清された。
NSRの仕事は完璧だった。
完璧過ぎた。
”大
”ホロドモール”も起きている。
ソビエト連邦建国以来の粛清を含む政策により殺されたり死なせられたりした累計死者数は、ロシア革命の時も含めれば既に5000万人に達してるとする推計もある。
またしても率直に言えば、この時期のソ連は史実と同等かそれ以上に内部がアレな状態だった。
そして、今からソ連に攻め込もうとしているドイツは、史実のドイツではない。
今までの発言からして、「T-34に対抗できるIV号戦車を”主力戦車として保有”」し、この時点でBf109ではなく「Fw190が主力として使える」程度には配備が進んでいる。
実はこの理由の一つが、政治的判断で「Fw190をバトル・オブ・ブリテンに参加させず温存した」という物があるのだが……
これは、当時の
無論、「史実よりズレが生じてる兵器」はこれだけではない。
いや、問題は兵器だけではない。
「これで、シチリア、ギリシャ、北アフリカの人員の撤兵が終われば後方戦力も問題なくなるではないか」
アウグスト・ヒトラーはそう満足げに微笑んだ。
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