第46話 とある装甲指揮官から語られる日本皇国戦車の実像




「さて、”バルバロッサ作戦”の本題へと入る前に、本日は北アフリカで日本人と直に戦ってきた”彼”の話を聞いてみたくてね」


 ドイツ総統”アウグスト・ヒトラー”は、総統官邸の執務室(大)で行う「私的な非公開報告会」にて、アフリカから戻ってきたばかりのとある装甲将校を呼び出していた。

 

ロンメル・・・・君、日本軍、特に装甲部隊と戦った率直な感想を聞かせてくれたまえ」


 そう、久しぶりの登場の猛将、”エドヴィン・ロンメル”だった。

 ついでに中身は転生者(確定情報)。

 

 少しだけ彼の経歴を振り返ると、第一次世界大戦では歩兵部隊指揮官だったが、”ソンムの戦い”で戦車に魅了され装甲将校に転身。

 今となってはドイツ軍屈指の装甲指揮官の一人であり、北アフリカでもその手腕は遺憾なく発揮された。

 「コンパス作戦」で英国軍に攻め込まれたリビアのイタリア軍に救援に入るなり逆撃作戦である「ゾネンブルーメ作戦」を発動。

 瞬く間にイタリア人がしでかした失地を奪還し、その過程で英国陸軍中東軍の将軍、オコーナー中将を捕虜にするという大金星もあげている。

 だが、彼の快進撃に初めて土をつけたのが、前出の「トブルクに立てこもる日本皇国軍」であった。

 

「強いです。間違いなく」


 ロンメルは実直で硬質な口調で切り出した。

 

「日本人を”ド田舎から来た黄色い猿ウンターメッシュ”と侮る輩、”劣等人種に我々より優れた戦車が作れるわけはない。竹と紙でできた戦車など燃やし尽くしてやる”と大言壮語を息まいていた人間は、残らず日本人に殺されました。続けても?」


 流石にもう少しオブラートに包んだ方がよいかとも思ったが、総統閣下は気にした様子もなく目線で続きを促した。

 

「日本人の戦車は装甲は厚く硬く、威力が高い砲も積んでいました。速度はそこまでではありませんが、非常に小回りが利くのが印象に残っています」


 そして一呼吸置いてから、

 

「イタリア人の”中途半端な戦車モドキ(おそらくM11/39中戦車などのことか?)”だけでなく、我々の最新鋭戦車……Ⅲ号戦車もIV号戦車も正面から撃ちあうには厳しい相手です。大変口惜しい事実ですが」


 すでに報告書はこの場にいる全員が読んでいたが、改めて実際に戦った当事者の生々しい証言に、思わず沈黙する「報告会」の参加者達……

 だが、その沈黙を破ったのはヒトラーだった。

 

「ロンメル君、君には苦労を掛けてしまったようだね? そして、謝らねばならないことがある。それは日本人の戦車を撃破可能と思われる長砲身75㎜砲搭載のIV号戦車が完成していたのにも関わらず、北アフリカ戦線に回さなかったことだ。最新鋭機Fw190を回さなかったことも謝罪すべきだろうな」


 しかし、ロンメルは首を横に振り、

 

Nein. Der Führerいいえ。総統閣下. 英国人相手には短砲身のIV号戦車でも十分でした。また、戦車だけでなく全ての車両や航空機、内燃機関を使う全ての機材に砂塵対策用トロピカルフィルターが装着されていたことに感謝と敬服を捧げます」

 

 ヒトラーは苦笑しながら、

 

「礼には及ばないさ。将兵が戦う地形/気候/風土の情報を徹底的に調査し、最適な装備を算出するのもアプヴェーアの仕事の一つだ。そして、必要な装備を必要なら開発依頼を出し、必要な時までに調達するのが軍需省の仕事。そうだろう? カナリス君、トート君」


 話を向けられたヴォーダン・カナリスとフェルディナント・トートは同時に無言で頷いた。

 

「だが、成果はあった。日本人を侮らなかった者達……人種に関係なく強力な兵器を製造し、高い練度、高い戦闘力を誇る者も世界にはいるということを体で経験し学び生存した者達は、きっと良い装甲指揮官になるだろう」


 ヒトラーは碧が美しいマイセン焼きのコーヒーカップを手に取り、

 

「その者達は、ロシア人がどんな強力な戦車を持ち出してきたとしても、慌てることも焦ることも驚きで思考が空白化することもないだろう。きっとこう考える。『日本人が作れたのにロシア人に作れない道理はない』と」


 そして小さく笑い、

 

「ロンメル君、君には改めて感謝を。君の所に矢継ぎ早に送りこみ、次々に促成栽培させるように日本人と戦わさせ、短期間でドイツに戻させる……タイトなスケジュールの中、次々に人員を入れ替え”戦争を教育”する難行を、君は見事にそれを成し遂げた」


「身に余る光栄です。総統閣下」


 恭しく頭を下げるロンメルに、

 

「今回の成果を鑑み、君の大将昇進は決定事項だ。だが、他に欲しい物はあるかね?」


 とあけすけな様子でヒトラーが聞けば、ロンメルはしばし考え……

 

「V号戦車とVI号戦車の計画統合を。次期戦車の開発リソースを全てV号に回していただければ、その分、開発が早まります。また、前線指揮官として言わせていただければ、計画にあるVI号戦車のような55t超級の重戦車は、”移動できるトーチカ”防御にこそ真価を発揮する物であり、攻撃力と防御力は高くとも速度や燃費の悪さで長距離進軍には向かず、またその重量ゆえにサスペンションに負荷がかかり、長く動かせばそれだけ故障リスクが高まります。我々が欲するのは、故障が少なく使い勝手の良い戦車なのです」


 これがあるいは史実のヒトラーならば、例えお気に入りのロンメルの言葉だとしても激怒したかもしれない。

 だが、この世界線のヒトラーはニンマリ笑い、

 

「それは聞き入れられんな」


「やはり、駄目ですか……」


 落胆するロンメルに、ヒトラーは悪戯が成功した子供のように、

 

「今更、受け入れられんよ。既に君の言うV号とVI号の開発計画統合は現在進行形で行われているのだから」


「……は?」


「トート君、説明してくれたまえ」


「はっ!」


 話を振られたトートは胸を張り、

 

「現在、ドイツ陸軍はIV号戦車の後継を公式にV号戦車に決定し、また要求性能から重量的に45~50tとなる公算が大きいため、55t超となるVI号戦車開発計画と統合。またVI号戦車の開発は白紙に戻され、”バルバロッサ作戦”の戦訓をもとに新たに次世代戦車のコンセプト作成から再スタートする予定です」


「ということだよ、ロンメル君。安心したかね?」


「はっ! 感謝の極みであります!」


 綺麗な国防式敬礼を決めるロンメル。


「新型戦車が戦場に登場する日が楽しみであります!」


「中々使い勝手の良い戦車になると思うよ? 君が言う、使い勝手が良い、攻撃力、防御力、機動力のバランスが取れた戦車になる予定だ。IV号戦車の正常進化というところかな。もっとも私としては気になるのは、IV号戦車の現状もなのだがね」


「悪くはない仕上がりだと思います」


 そう答えたのは、機甲総監のグデーリアンだった。

 

「車体正面装甲は50㎜のままで厚くはないですが、20㎜程度の増加装甲を後付けで装着できるようにしました。長砲身75㎜砲の搭載に伴い設計された新型砲塔の正面装甲は80㎜に達します。それに限定的ではありますが、避弾経始を考慮した形状となっており、装甲厚以上の防御力が期待できます。また長砲身75㎜砲……75㎜43口径長砲は、現状では十分な威力があると思われます」




 実はこのIV号戦車、兵士達より頑丈で壊れにくくパワーも火力もあり、それ故に”軍馬”と呼ばれ愛されたこの戦車の存在や在り方こそが、何気なく今後のドイツの在り方を担っているのであるが……それは、次回以降に譲るとしよう。

 

 

 
















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